とある月曜日
放課後の教室は日差しが暖かくて、眠気がさらに増してくる。どうやら今日は、僕らが教室を占拠できたようだ。いつものメンバーの話し声が聞こえてくる。
「そういえば、朝から気になってたんだけど……それ、どうしたの?」
瑠菜が訊いた。
「あー、気づいたらケガしててさぁ。」
照れ笑いながらそう言った笛芽は、左腕が包帯でぐるぐる巻きにされ、がっちり固定されていた。
「ばかじゃないの?」
僕も同感、実にその通りだ。
「いや、さすがの俺でも変だと思うけど、本当のことなんだって!」
まあ、それも事実なんだけどな……。
「えぇ~~っ? ねえ勇玖、笛芽の話聞いてた? どう思う?」
「え?」
こっちに話を振るな。寝たいのに。
だらだらとふせていた体を起こし、正面を向いてやる。僕って優しいな!
「うん。まあ……お前がバカで良かったよ。」
「……は?」
「あはは……。でもさ、笛芽くんがバカなことは、もうみんな知ってるじゃん。」
さっきまで別のことをしていた美汲も話に加わってきた。助かった。ぼうっとした頭で、つい本音を言ってしまった。
「おーい、今日は何やるの?」
すでに手にトランプを持って、和輝がこっちに加わった。うたた寝して取り損ねたノートを、美汲から写させてもらっていたはずだが。
「もう終わったのかよ。」
「いや、飽きた。」
ちなみにこいつも、相当なバカである。
バカの友達はみんなバカ、似たもの同士が集まるんだよな。あっ、言っておくが僕は違うぞ。いたって真面目。うん。どう見たって、すばらしき一般人だ。あー、でも、笛芽のケガについて、とやかく聞きだすやつがいなくて良かった。いるとは思ってなかったけどさ。
「和輝らしいねー。」
「ありがとう。」
……褒めてないと思うぞ?
「で、どうするのさ?」
和輝はトランプを箱から出しながら言った。うーん。まだ誰もトランプでいいなんて言ってないはずだが?
「えー、またトランプ? たまには別のことしようよー。」
美汲の抗議の声。ほらね。
「じゃあどっか出かけない?」
瑠菜まで反対。
「いやいや、せっかく教室使えるんだし」
「僕も、出かけるのはちょっと」
というか、動きたくない。長時間歩くなんて、もっての外。
「笛芽、お前はどうしたいんだよ?」
「俺? ん――、どっちでも」
「あっ、でもケガしてるんだから、ここでなんかする方がいいかな?」
「あ、そっかあ。残念。お出かけは別のときにしよっか。」
どうやら、移動は免れたようだ。ありがたい。でも皆の衆、ケガの件を今思い出したように話さなかったか? 忘れるのも早すぎる。あ、だからバカなのか。そうかそうか。
「じゃあ、教室でできる、トランプ以外のものってなんかない?」
「えっとぉ、しりとり?」
「却下。歩きながらでもできるじゃん。」
「うーん。」
確かに、どうしよう。いつもは、トランプしたり、雑談したりで……ってか、僕は今、休みたい。トランプほど静かに、黙々とできるものも思いつかないし。必ずうるさくなるなあ。なんか疲労感がでてきた。
「はあ、僕、ちょっと疲れてるから、先に帰っても……?」
みんなの視線をいっきに感じた。
「そんなー。つまんなーい!」
瑠菜がぷくっと頬を膨らませた。
「いや、えっと、寝不足って言うか、その――」
「あ~、ピラミッド完成~~!」
奥の方から、和輝の阿呆な声がした。みんなの視線が一瞬でそれる。キッて音が聞こえてきそうだ。さっき僕に向けられていたものよりも、何倍も強い気がする。三人とも振り返って後ろを向いているから、僕からは見えないけど。
「……つまり、俺らがこれから何をするか真剣に考えていたときに、お前は一人遊んでいた、と?」
笛芽が、和輝のいる机を右手でバンッと叩いた。
「あ――――――――っ!」
ピラミッドだったトランプが、バラバラと崩れていく。さっきの睨みにはまったく怯まなかった和輝は、
「せっかく作ったのに……」
しょぼんとしてしまった。
「じゃ、じゃあ、僕、先に帰るから、ごめんね……バイバイ」
これからどうなるか見てもいたかったが、残念、疲れている方が勝った。この隙に帰ろう。
「あ、うん。じゃあね~。また明日!」
美汲だけが振り向いて答えてくれた。改めて、このバカ軍団の中で一番まともな子だと思う。ひらひらと手を振って教室を出た。
今日、また普通に月曜日が来たことを嬉しく思う。みんなの声が心地よかった。
そんなことを考えながら家路についた。
そう、それは、たった三日前のこと。
その日もまた、いつも通りの金曜日であるはずだった。
以前戸惑わせたので書いておきますが、タイトルは「じかん」と読みます。「じせき」ではありません!
誤字・脱字等ありましたらお手数ですがお知らせください。
よかったらコメントどうぞ!読みました、だけでもいいので!!