ギルドメンバー、集結
島に戻ってから、ヒヨコ丸さんにちょっと怒られた。
「1人で突撃しちゃうから、焦ったわよ!」
「ごめんなさい。ボスをなめてました・・・」
うなだれるオレ。まさか自分の攻撃が全く通らないなんて、想像してなかったのだ。
「これからは気をつけてね。このゲーム、デスペナルティが大きいんだから」
「はい。重々、胆に命じます」
簡単にダンジョン探索までできたもんだから、完全に調子に乗ってましたね。彼女たちに話を持っていかずにソロでボスに挑んでいたら、せっかく手に入れた貴重な装備のいくつかをロストしていたことだろう。
「はーい。お小言はそれぐらいにしましょ」
「そうね。ボスドロップの分配を待ってるんだから~」
「しょうがないわねぇ」
渋々、オレを解放するヒヨコ丸さんであった。説教キャラだったのか、この人は。
ドロップ品は、以下の通り。すでにアマガエルさんの鑑定済みだ。
〇【水王の兜】ランク7(ユニーク):兜。防御力12。特殊スキル『衝角』。
〇【ウォーター・ブレード】ランク8(ユニーク):魔法スクロール。『ウォーター・ブレード』を覚える。
〇【水分身】ランク8(ユニーク):魔法スクロール。『水分身』を覚える。
その他に、【ミスリル鉱】【サハギンの鱗】が大量。
「この『衝角』って、頭の角で突き刺すわけ?」
「やだ~、そんなのヒヨコ丸さんか青鬼さんにしか無理じゃん」
「いやいや、あたしも無理だよ?」
「んじゃ、兜は青鬼さんねー」
「えー、オレ、全然ボス戦に貢献できてないけど」
「いいの、いいの。こんなの、あたしら美女には似合わないから!」
なんで霧隠さんたら、そんなに自信があるんだ?そりゃ、美女なのは否定できないけど。
「はい」
「あ、ありがとー」
アマガエルさんに渡された兜を、反射的に受け取ってしまう。なんか、水王シリーズで全身コーディネートされちゃったなぁ。
「これだけミスリルがあったら、また武器や防具が作れるね」
「サハギンの鱗も、何気にいい防具が作れそうじゃん?」
「なんか、オレばっかり装備をもらっちゃったけど、良かったの?」
「気にしなくていいよ。正直、この程度のランクの物なら、もう出回ってるからね。
今回ゲットした装備も、もともとギルドの子たちにあげる予定だったし」
「あら、そうなの?」
「あたしたちの装備って、だいたいランク8ぐらいなんだよ。さすがにユニークとかじゃないけど」
「ほえー、思った以上にスゴい人たちだったんですねぇ。どおりで、ボスをあっさり倒しちゃう訳だ」
「えへへへ」
ニッカリと笑うヒヨコ丸さんたち。ほんとに得意気だ。
「いいギルドなんですね」
「青鬼さんが女の子なら、喜んで誘うんだけどねー」
「ペット枠なんてのは?」
「カエル、却下」
「えーん」
「あはは。ありがとう。でも、もう友だちの作ったギルドに入ってるから」
「へー、お友だちもリザードマン?」
「いやいや、普通にヒューマンですよ。変人なだけで」
「じゃ、ギルド同士でも仲良くしましょ」
「うん。よろしく」
その後は、海中で獲り貯めたサカナやカニの肉を使っての宴会になった。
このゲーム、バーベキューなんかも出来るらしい。
砂浜で焚き火を燃やして、そこに網をかけて、適当に焼いて食べる。
未成年者が何人かいるそうで、アルコールはなかった。リアルのオレは、酒は飲めるけど好き好んで飲む方じゃないから、ジュースでも苦にならない。
ちなみに、このゲームで飲むと、ちゃんと酔うらしい。でも、ゲーム中でどんなに酔ってても、リアルには持ち越さないそうだ。リアルで飲む人が減りそうな話だよね。
「少女たちの狂おしき永遠」との楽しい時間も終わり、オレは本格的に旅に出ることにした。
もちろん、このゲームの中の話でね。
パレオ周辺で手に入れたアイテムは、ほぼエルフのオレに送りつけた。町にある郵便屋を使えば、アイテムだろうとお金だろうと簡単に送れるのだ。
これから、旅先で手に入れたアイテムはエルフに送り、食料やポーションなどの消耗品を逆に受け取ることになるだろう。
ファジマリーとパレオの周辺の地図は、すでに買ってある。
それによると、パレオの目の前の海は大きな内海で、その開口部はほぼ真南のようだ。
パレオから西に進むと荒れ野が広がっており、採掘ポイントが多くあるらしい。さらに進むと海に落ち込む断崖絶壁になっていて、事実上の行き止まりになってるという。
逆に、パレオから東に進むと巨大なジャングルがある。その全貌を見た者はなく、ジャングルに住む凶暴なモンスターたちにも行く手を阻まれ、踏査は進んでないそうだ。
東回りにしろ西回りにしろ、内海に沿って南に向かえば、やがて外海に突き当たる。
船を造って外海の探査に乗り出してるプレイヤーもいるらしいが、成果は上がってない。まだまだ大型の船が造れてないということもあるが、巨大なモンスターに襲われるとなす術もないからだ。
デスペナルティの大きいこのゲームじゃ、無謀な冒険行は難しい。巨大なモンスターを蹴散らせるような強力な戦船が造れるようになるまでは、探索は進まないかも知れない。
まずオレは、点在する小島をたどりながら、内海を探索することにした。
と。
視界の隅に、個人チャットの申請マークが点滅した。
タブーからだ。
「ほいほーい?」
「ああ、青さん?今、ファジマリーに来れるかい?ノイズたちがゲームに入って来たんだ」
「ホントに?すぐキャラチェンジするよ」
パレオにいるうちで良かった。
町の外でログアウトしようとすると、そこに30分~1時間キャラが置き去りになるのだ。その間は、モンスターには襲われ放題だし、他のプレイヤーからPKされ放題になる。
それを避けようと思えば、『隠蔽』スキルを上げるか、『隠蔽』の効果を持つステルス・テントを使わなければならない。
ただ、敵の『感知』スキルの方が高ければ、見破られちゃうんだけど。
オレは、サハギンを相手に稼いだ資金で、ステルス・テントを仕入れていた。『隠蔽』スキル80相当の良品である。おかげで、またスッカラカンだよ。
エルフにキャラを変えると、目の前にタブーがいた。
「むぉっ!?」
「この間、ここで落ちたのを覚えていたのだよ」
怖いな、この男。ちょっとしたストーカーになれるぞ。
その後ろに、やはりリアルでも顔を知っている2人の男が立っている。
「とりあえず、ギルド・チャットに入ってくれるかい」
おっと、チャットのモードにギルド用まであったのか。
視界内にメニューを呼び出し、ギルド・チャットを選択する。
「やっほ~ぃ」
猫型の獣人姿のノイズが、能天気に笑っている。
オレと同じにエルフなのは、鷹爪くんだ。
準備だけに15万円もかかっちゃうゲームに、あっさり4人もそろっちゃうとは、さすが独身社会人の強みだわ。この分だと、他のメンツも遠からず入ってくるだろう。
「よく来たねー。微妙にリアルの雰囲気が残ってるのが気持ち悪いよ」
「青さんもな」
ノイズは片手杖、鷹爪くんは両手剣を持っている。
「装備は、タブーに買ってもらえるよ」
「いや、待て」
「広場に露店が出てるから、タブーパパにお願いしな」
「こらこら」
「おすすめは、バルカンさんの店かな」
「おーい」
バルカンさんの店まで移動し、ノイズは盾を(杖は扱ってなかった)、鷹爪くんは両手剣を買った。むろん、お金はタブーに出させた。
「まいどありー」
「バルカンさん、また今度サハギンからドロップした金属鎧を持ってくるから、打ち直してくれる?」
「お、いいよ。リザードマンの方で、もうパレオまで行ったんだね」
「うん。また色々、持ってくるよ」
「了解。いつでも、どうぞ」
そのまま4人でパーティーを組んで、町の外に出る。北側の門からだ。
「じゃあ、軽~くスキル上げをしようじゃないか」
「タブーは、こんなとこでスキル上げになるの?」
「これまで全然上げてなかった『水魔法』を上げることにした」
「ほう?火力重視のタブーさんが、どういった心境の変化で?」
「青さんが、これを送ってくれたからだろうに」
そう言って、手にした流麗なデザインの青い杖を見せつける。
「あ。もしかして、水王の杖?」
「自分で送ってくれといて、忘れてたんじゃあるまいな?」
忘れてました。美女たちに囲まれてたせいで・・・
「へー、どんな性能?」
ノイズも興味を示す。この獣人フェチは、回復職寄りでスキルを上げる気のようだ。
「『鑑定』情報は開示してるから、自分たちの目で確かめるのだな」
タブーの手の杖を注視すると、ポップアップ・ウインドウが浮かび上がり、そのデータが表示される。
〇【水王の杖】ランク7(ユニーク):両手杖。攻撃力8。水属性上昇。水中戦闘時、魔法攻撃力アップ。
「うおーっ、ユニーク・アイテムって!」
「ちょっと、ダンジョンの宝箱から、ね」
「両手剣は~?」
「すまん。両手剣は取れなんだ」
「ちぇ~っ」
むくれる鷹爪くん。
「また、いいのが手に入ったら送るから」
「うん。じゃあ、期待しとく」
と、至って呑気にスキル上げは開始された。
狙いは、狼にゴブリンだ。
盾役のオレが、まず『ライト・アロー』で初撃を入れ、盾で攻撃を受け止めている間に鷹爪くんが両手剣で敵をぶった切る。タブーは『ウォーター・シュート』を連発し、ノイズは、片手杖で戦闘に参加するとともに、オレと鷹爪くんに回復魔法を飛ばしてくれる。
ノイズが使う回復魔法は『ライト・ヒール』だ。オレも『ライト・ヒール』を使えるし、タブーは『アクア・ヒール』が使える。4人中3人も回復魔法が使える状態じゃ、まるで怖いものなしだった。
ソロで、黒いゴブリンにビクビクしてたのがウソみたいだ。
防具はまだ初期装備のままだったけど、少々ダメージを受けた方が、防御力を上昇させるようなスキルが上がるし、ノイズの回復魔法のスキル上げにもなる。1人でやる時は、雑魚サハギンたちがドロップした金属鎧を着ればいい。
「この狼の毛皮って、防具の材料?」
「うむ。だけど、ゴブリンが革鎧を落とすから、あんまり意味はないけどな」
「それに、サハギンからドロップした金属鎧があるから、鷹爪くんには、それをあげるよ」
「俺も欲しい~」
「ノイズは、殴れる回復職を目指すの?」
「イヤ、なんでもやりたいから、なんでも欲しい~」
「了解。2人ともに送っておくよ」
などと言いながら、ガンガン突き進んでいく。
現れるゴブリンもバーティー単位となったが、ソロで苦しめられたのは何だったのかと思うほどに、あっさりと殲滅させていった。
オレはひたすら、敵のターゲットを取っては盾で耐える役。
遠距離から攻撃してくるウザい弓矢持ちは、鷹爪くんが突撃して、大剣で叩き斬る。
オレに取り付いてる残りの2~3体は、後衛のタブーに攻撃が向かないように加減しながら、順番に片付けてしまう。
おかげで、面白いようにスキルが上がる。
片手剣の戦技『十字斬り』を覚えた。
盾の戦技『受け流し』を覚えた。
光属性の攻撃魔法『ストロボ』を覚えた。
そして、現れる黒ゴブリン。
「何か近づいてくるぞ!」
タブーが注意を促す。『敵性感知』スキルも、ずいぶんと上げているのだろう。
前方から走り寄る影が見えたところで、『ストロボ』をぶつける。名前からも分かるように、これは攻撃というより強烈な光で敵の目をくらませる魔法だ。
「グギャッ!」
叫んで足を止めた黒いゴブリンに、『十字斬り』。
あとは、盾を構えて耐えるだけだ。
そのゴブリンは、槍ではなく両手剣を持っていた。ぶんぶんと振り回される大剣を、時には正面から受け止め、時には受け流す。
楽しい。なぜか、敵の攻撃を受け切っている間が、とても楽しい。
オレが盾職をやめられない所以だ。
ちなみに、殴られるのが楽しいって言ってるんじゃないから、誤解しないようにな。
その楽しい時間も、あっさり終わる。
タブー、ノイズ、鷹爪くんの攻撃の前に、黒ゴブリンとて30秒と立ってはいられなかった。
「あ、両手剣のドロップだ」
「おお、どれどれ」
タブーがやって来て『鑑定』を使う。
〇【ブラック・ゴブリンズ・グレートソード】ランク4(レア):両手剣。攻撃力38。斬撃アップ。
「おぉ~」
「これで、鷹爪くんに両手剣を送らなくて良くなったね」
「いやいや、送れ」
「命令形かよっ」
そのまま、北の森に突入。
初めてのエリアだ。鬱蒼とした針葉樹の森だ。下生えはあまりなく、進むのに不自由はない。
そして、大量のゴブリンたち。
「うひょ~、金属鎧だらけ~」
ノイズが嬉しそうな悲鳴を上げる。
その言葉通り、ワラワラと姿を見せるゴブリンは、どいつも黒い金属鎧を着込んでいた。
とりあえず、『ストロボ』と『ライト・アロー』で片っ端からターゲットを取る。オレの仕事は、こいつらの攻撃を受け切ることだ。やばいかどうかは、タブーが判断するだろう。
同時に4体の黒ゴブリンの攻撃が、オレに叩きつけられた。
両手剣が1体、片手槍が1体、片手剣に盾持ちが2体だ。
盾越しとは言え、ガンガン殴られてるとHPも削られていく。すかさず『ライト・ヒール』を使い、自らを回復する。これが敵のヘイトを更に高め、他のメンバーに攻撃が向かいにくくなる。
ヘイトっていうのは、敵からの攻撃の優先順位の高さを表している。
敵に最初に攻撃を入れたり、味方のHPを回復したりすると、敵からのヘイトは高まっていく。
盾役の仕事は、出来るなら敵からのヘイトを独占して、他のパーティー・メンバーに攻撃の矛先が向かないようにすることなのだ。
その為、オレが自らに回復をかけたりしてヘイトを高めるまでは、鷹爪くんたちも全力の攻撃を行わない。
敵の防御力や攻撃力を下げるような地味な魔法を使うぐらいで、タイミングを見計らっているのだ。
そして、敵のヘイトをオレが完全に掴んだとみるや・・・
鷹爪くんの両手剣の戦技『唐竹割り』が、背後から1体の黒ゴブリンを真っ二つに切り裂く。
2体目は、オレの『十字斬り』とタブーの『ウォーター・ランス』で地を這わせ、残り2体も順番にボコって倒した。
さすがに、ノイズは攻撃に参加せずに、回復と補助に徹してくれていた。
ヘイトを集めてから耐えることしか考えていないオレと違って、他のメンツは状況に合わせて行動を変える頭脳を持っている。
「あ。鍵出た」
ゴブリンの宝の鍵。
これは、ゴブリンのダンジョンにも潜るっていうフラグなんでしょうね。