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サハギンのダンジョン

 海には、バレオの船着場から直接入ることが出来た。

 ここから、どこかに向かう船が出ているのだろうか?

 ダンジョンを探すために沖の小島に渡ったというし、船が存在するのは確かだろう。そのうち、乗ってみたいものだ。

 桟橋からのぞき込むと、澄んだ水の中を小さなサカナたちが泳いでるのが見えた。

 ゲーム内の季節感は、初夏というところか。

 思い切って、水に入る。

 泳ぐのに邪魔そうなので、盾は外してアイテムポーチにしまってある。

 片手槍だけを持って、泳ぎ始めた。

 当たり前のことだが、水が冷たい。呼吸も出来ない。完璧なまでにリアルな水の圧力が、オレを包んでいる。

 あらためてスゴいね、このゲームは。

 水中で周りを見回すと、透明度は恐ろしいほど高いようで、予想以上に遠くまで見通せた。

 白い砂地が広がり、あちこちに海草が生え、いろんな種類のサカナたちが泳いでいる。遠くには、大きな魚影も見えた。

 ダイビングが好きな人間なら、大喜びじゃないだろうか。

 身体をくねらせ、水中を泳ぎだす。尻尾が、いい推進具になっている。

 これ、リアルでやったら脇腹が攣りそうだ。

 始めはゆっくりと、慣れると徐々にスピードを上げる。

 リアルで海辺育ちのオレは、泳ぐのは苦手じゃない。しかし、リザードマンのこの身体での泳ぎは、チート感いっぱいだった。

 驚くほどのスピードで水中を泳ぐことが出来る。

 息も、軽く5分以上は続く。

 試しに大きめのサカナを槍で突いてみると、見事に1発で獲れた。アイテムポーチに魚肉が入る。後で『鑑定』してみよう。

 どうやら泳ぐだけでなく、水中での戦闘も問題ないようだ。もっと練習が必要かと思ったが、最初から地上と変わりなく戦えてしまう。

「さすがに反則だよなー」

 迷わないように『測量』を働かせ、沖に向かう。

 途中で出会った大物に『流星槍』を使ってみる。イシダイっぽいサカナ、ゲットだ。

 よし、槍スキルもちゃんと使える。

 もしかして、ここはオレの独壇場?

 あとは、サハギンさんがやれるようなら・・・

 いきなり背中に痛みが走った。

 当てずっぽうに尻尾を振り回しながら、後方を向く。

 サハギンさんのサカナ顔がそこにあった。尻尾の一撃を食らったようで、痛そうな表情になっている。

 『敵性感知』を忘れてた。

 まだ全然役に立ってないから、ついつい使うのを忘れちゃう。ちゃんと使って、スキルを上げていかないとな。

 正面からサハギンに『流星槍』を叩き込む。

 そこから、乱戦だ。

 盾を持ってないので、敵の攻撃もバシバシ当たってくる。やっぱ、泳ぎの邪魔にならない程度に小さな盾を持った方がいいかもな。

 勝つには勝ったが、オレのHPも3割近く削れていた。最初に不意打ちを食らったせいもあるが、こんなんじゃダンジョンを見つけても、奥まで行けそうにない。

 試しに、アイテムポーチから盾を出して、装備してみる。

 やはり、盾が水の抵抗を受けて泳ぎにくい。

 仕方ない。しばらくスキル上げを行って、後で小さめの盾を手に入れよう。

 少しだけ沖に出て、サハギンを相手に戦闘を続けた。

 両足が地に着いてない状態でも、尻尾に力を入れると踏ん張りが効くのが不思議だ。エルフでは、こうはいかないだろう。

 『片手槍』スキルが20を突破したところで、『3連突き』という戦技を習得した。

 キリがいいので、パレオに戻って休憩することにする。

 



 船着場にはだと桟橋をよじ登らないといけないので、町の近くの砂浜に上陸。

 と、そこには天国が広がっていた。

「み、水着美女の集団・・・!!」

 なんと、ビキニ姿の美女たちが10人以上、日光浴をしていたのだ。

 海から現れたオレを見て、美女たちが身構える。

 が。

「あ、トカゲさーーーん(はぁと)」

 美女軍団の中から、白ビキニの小柄な女の子が飛びついてきた。

「!?」

 お腹にムニュッとした感触が・・・

 こ、これは!?

「トカゲさん、また会えた~」

「アマガエルさん!?」

「ぐふぐふ~」

 黒ビキニのヒヨコ丸さんが、「やれやれ」というポーズでこっちを見ていた。

「この桃源郷は何でしょう?」

 アマガエルさんにまともな返答を期待しても無駄そうなので、ヒヨコ丸さんに聞いてみる。

「みんな、あたしたちのギルド・メンバーよ」

「えぇっ、どんな天国ギルド?」

「少女たちの狂おしき永遠」

「え?」

「あたしたちのギルドの名前よ」

 ちょっと恥ずかしい名前だが・・・

「ほぉ。もしかして、女の子だけのギルドなの?」

「そうよ。こんな現実に近いキャラを使ってのゲームだと、人間関係も色々あるからね。リーダーが声をかけて集めてくれたの」

「それはそうと、なんで裸祭りを?」

「こんなステキなビーチがあるんだもの。泳がない手は、ないでしょう?」

 腰に手を当てて、ドヤ顔でポーズをとるヒヨコ丸さん。

 もうちょっと、出るとこ出てればなー。

 そのヒヨコ丸さんの隣に、金色ビキニの超絶グラマーな美女が立った。

「リザードマンじゃん。カッコいい~」

 うわっ、これぞ目の保養!

「ニュートの青鬼です。まだ初心者なんで、優しくしてね(はぁと)」

霧隠(きりがくれ)だよ。ヨロシクね!」

 ばっちーん!とウインクしてくれた。

 やばい。リアルだったら、鼻血出るか股間が変化してたとこだよ。

「青鬼さん、あたしたちのときと態度違わなくない?」

「そ、そんなことないよー」

 うろたえて下を向くと、お腹にへばりついたままのアマガエルさんが、じーっと見てた。

「霧隠さんはナイスバディだもんねー」

「そ、そうですね」

「あたしは許すよー。でも、トカゲさんは、あたしのものー」

「えー、そうなんですか?」

 いやー、アマガエルさんもメチャクチャ可愛いんだけどねぇ。

 明らかに変態だからなぁ。




 しばらく「少女たちの狂おしき永遠」のビキニ美女軍団に混じって日光浴を楽しんでから、パレオの町に入った。

 いつサハギンが出てくるか分からないような場所で日光浴してる神経もスゴいが、それだけの戦闘力を持った人たちらしい。

 サハギンのダンジョンを見つけるためにパレオに滞在しているという話だったが、海の中にあるんじゃという考えは黙っておいた。

 彼女たちに好意はあるものの、オレだってユニーク・アイテムは欲しいのだ。

 パレオの広場にも、けっこう露店が出ていた。

 小さめの盾がないか探してみる。

 プレイヤーの移動が大変なこのゲームじゃ、いい装備品を手に入れるのが大変そうだ。

 生産キャラは、出来るだけ買い手の集まる町にいようとするだろうし、そうやって生産キャラが集まれば、そこから戦闘キャラも離れたくなくなるだろう。

 そう考えると1人で冒険の旅に出ようというオレの望みは、無謀なものなのかも知れない。

 だとしたら、この世界の探索も案外進んでないのかもなぁ。

 露店を1つ1つのぞいてみたら、バックラーという名前の小さな盾が売ってあった。

 直径30センチほどの金属製の円形盾だ。真ん中あたりが膨らんでいて、長さ10センチほどのスパイクがついている。これで攻撃することも出来るっていう訳だ。

 皮肉なことに、今使っている安物の盾より防御力が高い。

 サハギンからのドロップアイテムを売りさばき、その代償のほとんどを注ぎ込んで、なんとか買うことができた。

 こりゃ、ホントにダンジョンを見つけないと、いつまで経ってもお金が貯まらない。

 



 それから後は、ひたすら海中でサハギンと戦い続けた。

 海底にも採集と採掘ポイントがあることに気づき、サハギンが見当たらないときには、黙々とピッケルを振るう。

 採集では【昆布】と【ワカメ】が、採掘では【貝殻】や【サンゴ】が採れた。

 海中での採集や採掘も、希少品狙いにはいいかも知れない。

 このゲームにビキニの水着があることは先ほど確認したばかりだが、貝殻ビキニも作れるのかなぁ。霧隠(きりがくれ)さん、着てくれないかなぁ。

 『水泳』と『潜水』のスキルが急激に上がり、クラスが「海人(うみんちゅ)」に変わった。

 レアなクラスのせいか、初級とか中級とかの区別はないようだ。

 しかし、なぜに沖縄風の読み方なのか。

 



 バックラーを装備してからは、サハギンとの戦いもだいぶ楽になっていた。

 被ダメージも減り、殲滅速度も上がったのだ。

 また、『ウォーター・シュート』が水中でも使えることを発見したのも、大いに役立った。

 水中で水の塊をぶつけているのに、きっちりダメージを与えられたのだ。いや、むしろ威力が上がっていたかも知れない。

 魔法で発生させた分の水だけでなく、まわりの水も巻き込んでいるのだろうか。

 サハギンの突進を止められるぐらいの威力は出ている。

 遠距離では『ウォーター・シュート』、中距離では片手槍、近距離になると尻尾での打撃と、サハギンも怖くなくなってしまった。




 そして、待望のダンジョンを発見。

 やはり、海中だった。沖にある小島でも最も大きな物の根の部分に、それはぽっかりと口を開けていた。

 いよいよ、オレの成金生活が始まるときだ。

 入り口付近にいたサハギン3体を一蹴し、中に侵入する。

 ちなみに、サハギンを狩りまくったせいで、サハギンの宝の鍵は7つもゲットできていた。ダンジョンの中にいくつの宝箱がポップするのか知らないが、7つまでなら開けられる訳だ。心が躍る。

 ダンジョンに入ると、一気に視界が暗くなってしまった。

 太陽の光が届かないのだから当然だろう。

 海底付近をウロウロしていたせいで『暗視』スキルも少しは上がっていたのか、完全に真っ暗にはならない。が、それでも戦いにくい事この上ない。と言うか、正直怖い。

 ほとんど視界が効かない水中洞窟に入っていくなんて、いくらゲームだからって恐怖満点だ。

 ダメもとで『火魔法』の『トーチ』を使ってみる。

 灯りとしての炎を、一定時間燃やし続ける魔法だ。水中で使えると思わなかったが、これが存外に使うことが出来た。

 身体の前方1メートルぐらいの距離で燃える炎の灯りを頼りに、ダンジョンを進み始める。

 もちろん『敵性感知』と『測量』も働かせてある。

 『トーチ』の炎はけん制にもなるようで、サハギンたちは狭い通路を炎をかわしながら近づいてきた。

 オレは、それを次々と洞窟の壁に串刺しにしていく。

 『片手槍』スキルも25に到達したせいか、狙い所によっては一撃でサハギンが倒せてしまう。

 調子に乗って、どんどん奥へ進んでいく。

 洞窟の天井部分のあちこちに空気溜まりがあり、呼吸を心配しないでいいのも助かった。

 ダンジョンというだけあって、洞窟は進むに連れて幾つにも枝分かれしていく。これは『測量』をし忘れると、外に出られなくなる可能性が大だ。方向音痴なオレが地図なしで外に出られる確立はほぼゼロなので、絶対に切らす訳にいかない。

 大量のサハギンを蹴散らしながら丹念に洞窟を探索していると、ついに1つ目の宝箱を発見した。その傍には、金属鎧を着たちょっと大きなサハギンの姿。武器は、両手槍だ。

 ザコたちはいなかったので、1対1で渡り合う。

 『トーチ』をそいつの顔面目がけて発動させるという目眩ましから、『3連突き』を顔面へ。

 身体を反転させて尻尾で薙ぎ払い、洞窟の壁面に叩きつけられたところを『流星槍』でトドメを刺した。

 どうも盾職を目指しているクセに、攻撃を受けない戦い方ばかりしている気がする。ソロなんだから、それが正解なんだろうけど。

 さあ、それより1つ目の宝箱だ。

 サハギンの宝の鍵を使い、宝箱を開ける。

 箱のフタが開くや、中から光とともに1振りの片手剣が姿を現し、オレのアイテムポーチに収納された。

 水王の剣という名前らしい。

 まずは片手剣だ。オレのドキドキは、否が応でも高まっていく。

 一応『鑑定』をかけてみるが、やはり失敗。まだ『鑑定』スキルは2しかないから、これは仕方ない。

 未鑑定ながら、予備武器にしていた鉄剣と入れ替えておく。攻撃力は段違いのハズだし、何か特殊効果がついていれば、装備しているだけで役に立ってくれる可能性もある。

 ブラック・ゴブリンズ・スピアーと比べても、おそらく水王の剣の方が強いだろうが、泳ぎながらでは使い勝手のいい片手槍を使い続ける。水王の剣は、この槍で苦戦するような相手のときだけ使えばいいだろう。

 さて、この調子でドンドン行こう。

 



 結局、7つの鍵を使い切ってしまった。

 ダンジョンの探索は、まだ2/3ほどしか済んでいない。

 成果は、最初に取れた水王の剣に、水王の槍(両手槍)、水王の軽鎧、水王の籠手、水王の杖、魔法スクロール、そして水王の首飾りだ。

 どれもこれも、オレの『鑑定』スキルでは歯が立たなかった。

 水王の杖はタブーに送るとして、残りのアイテムはアマガエルさんに鑑定してもらうしかないかなぁ。

 タブーも『鑑定』スキルを上げているとは思うが、パレオに来てもらうのは悪いし、こちらがファジマリーに戻るのもイヤだ。

 よし。ここの情報と引き換えに、アマガエルさんに鑑定してもらおう。

 まだ宝箱は残ってるハズだし、ボスにも遭遇していないから、あの人たちも気を悪くはしないだろう(たぶん)。その上で海中だから無理って話になるのなら、堂々と残りもオレがいただけばいい。

 そうと決まれば、帰るだけだ。

 未鑑定のまま水王シリーズの装備に身を固めたオレの帰り道は、ホントに楽勝だった。

 武器なんか全然スキルの上がってない両手槍に変えたのに、全てのサハギンが一撃で倒れてしまう。それだけ攻撃力が別格なのだろう。

 もう、サハギンたちに申し訳ない気分になったぐらいだ。

 そして、サハギンのダンジョンを探していた皆さんにも、かなり申し訳ない気分が湧き起こっていた。

 だからって、ゲットしたアイテムを手放す気はないけどね。

 さて、アマガエルさんはまだログイン中かな~?

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