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宝の箱は、男の夢

 丘陵地を海側に下り始めると、一気にモンスターが強くなった。

 マスルに混じって、巨大な角を持ったシカのようなモンスターが出てきたのだ。

 そいつは、オレの気づかない所から走り寄ってきて、その巨大な角でオレを弾き飛ばした。2メートルオーバーのリザードマンをだ。

 完全に不意を衝かれ、地面を転がりながら、オレは悲鳴を上げていた。

 斜面を転がるオレに、さらに地響きを立てて大きな影が迫るのが分かる。これがゲームだということを忘れるほどの恐怖が湧き起こった。

 とにかく、このまま転がるのはマズい。

 転がりながら、テイル・ストンプを発動。

 尻尾が暴れたせいで、回転が止まる。

 大慌てで起き上がると、巨大なシカがオレに突っ込んで来るところだった。

「こいつか!」

 身体を無理矢理ひねって、シカの突撃をかわす。

 その後ろ足を狙って、苦しい体勢から『流星槍』を放った。

「ピーーーッ!」

 当たりは不十分だったものの、シカが苦痛に鳴き声を上げる。悲鳴を上げさせてくれたお返しだ。

 追いすがって攻撃を加えようとすると、機敏に方向転換して、また突撃してくるシカ。

 その顔面に『ウォーター・シュート』をぶつける。

 せいぜい500ccほどの水の塊とはいえ、高速で顔面に食らったシカの挙動が乱れた。

 その真横に走り込み、尻尾で足を薙ぎ払う。

 次の瞬間、シカの巨体が大きく宙に舞った。

 自分から飛んだんじゃない。オレに足を払われて、自分の勢いでぶっ飛んだのだ。

 ズーーーン!

 シカが地面に転がる。どれだけの重さがあるのか、地面が揺れたような気がした。

 しかし、チャンスだ。

 横たわったシカに飛び乗りながら、その横っ腹に『流星槍』を撃つ。

 シカに深々と刺さるブラック・ゴブリンズ・スピアー。それでも身を起こそうとするシカの足を自分の足で押さえながら、あとは滅多刺しにして、なんとか倒した。

 ぜえぜえと荒い息をつきながら思う。他のプレイヤーも、こんな泥臭い戦い方をしてるのか?

 少なくとも今の戦いは、ヒヨコ丸さんとアマガエルさんには見られなくて良かった。我ながら、残酷過ぎると思う。

 減った分のHPは、採集した薬草で回復させた。

 不意打ちを警戒して、『敵性感知』と『隠蔽』を使う。

 『敵性感知』は、危険度の高い敵を感知するスキルだ。まだまだ至近距離でないと働きそうにないが、少なくとも不意打ちを食らう前には気づけるだろう。

 『隠蔽』は、敵に見つかりにくくなるスキル。スキルレベルが低いうちは、気休めにしかならないかも知れない。

 とりあえずは、無事に海辺の町までたどり着かなくちゃいけない。

 また歩き出そうとしたオレは、ずいぶんと自分の身体が重いことに気がついた。力が出ないっていう感じだ。

「あれ?なんだ!?」

 ステータス異常にでもなってるのかとメニューを開き、状態を確認する。

 はたして。

「空腹だと?」

 ステータス欄には、HPバーとMPバーの他に、テンションバーと満腹バーというものが存在していた。

 テンションバーというのは、リザードマンの場合、これが満タンになるとブレスを吐けるようになる。他の種族でも、それぞれの特殊な技が使えるようになるものだろう。

 そして、問題の満腹バーだが、これがレッドゾーンにまで落ち込んでいた。つまり、空腹状態だ。

 この状態になると身体が重くなり、最後には身動きが取れなくなり、ついにはHPとMPが減り始めるという。攻略サイトに載っていたのに、完全に忘れていた。

 考えてみたら、このゲームの中では1度も食事を摂っていない。そりゃ、お腹も減るハズだ。

 そう思うと、急に空腹感に襲われた。

 アイテム・ポーチからマスルの肉を取り出し、実体化させる。

 あれだけデカい鳥の肉なのに、なぜか首と足を落として羽をむしった七面鳥って雰囲気の肉が現れた。どこの肉だよ?

 生肉には抵抗があるが、今は仕方ない。

 ガブリと噛み付く。

 お。意外とイケる。そう言えば、鳥肉の刺身ってのもあるもんな。よし、一気食いだ。

 満腹バーが8割ぐらいにまで回復し、グリーンゾーンになる。身体の重さも解消された。

 もちろん調理してから食べた方が効果は高いんだけど、あいにくオレは調理スキルを持っていない。それに、リザードマンや獣人は、生肉を食べてもそれなりに効果を得られる特質があるから、初心者のうちは問題ないだろう。

 再び『敵性感知』と『隠蔽』をかけ直し、オレは丘陵地を下り始めた。




 丘陵地を下り終わると、もう目の前は海岸だった。

 真っ白な砂浜が、ずっと左右に続いている。

 波と白い砂に、太陽の光がキラキラと反射してまぶしい。

 潮の香りもするよ。

 いいね。とても癒される。しばらく、ここでボーッとしていたいぐらいだ。

 目の前にモンスターがいなければ。

「台無しだよっ!」

 海からザバザハと上がってきたソイツは、まさに半魚人という風貌だった。

 手足や背中にヒレがついていて、顔もサカナっぽい。革っぽい簡素な鎧を着けて、先が三又になった両手槍を持っている。

 サハギンと見て、間違いないだろう。

 1体しかいないようだし、強さを確かめるにはちょうどいい。

 オレは片手槍と盾を構えた。

 生臭い匂いとともに、ソイツが近づいてくる。モンスターの匂いまで、リアルに作ってあるらしい。

 繰り出された両手槍を、盾で正面から受け止めてみる。

 ガキーン!という音がし、盾が押し込まれる。が、耐えられないほどじゃなかった。これなら、対等に戦えるだろう。

 サハギンの顔面に、火魔法の最初の技である『ヒート』をぶつける。

 物体を熱して発火させる目的の魔法だが、瞬間的でも顔面を熱せられ、サハギンがイヤがって顔を背けた。

 隙だらけになった首許に『流星槍』を叩き込む。

「ギャフッ!」

 よろめいたところを尻尾で薙ぎ払うと、その手から両手槍がすっ飛んだ。

 こうなると、もう攻めるだけだ。

 例によって、泥臭く槍を突き刺しまくって、無事サハギンを倒した。

 やっぱ、リザードマンは強くていいねー。

「あれ、変なアイテムが来たぞ」

 アイテムポーチに、サハギンの宝の鍵というドロップが入っていた。『鑑定』してみるが、やはりスキルが足りなくて失敗する。

「どこかに宝箱があるのかな?」

 楽しみだ。

 宝箱には、ロマンがある。




 タブーから電話がかかって来たのは、ちょうど海辺の町に着いたときだった。

 ファジマリーに比べると高さの低い城壁に囲まれた、小さな町だ。町と言うより砦と言った方が、しっくりくるかも知れない。

 何か店でもあるかと、うろついていると、視界の隅に電話の着信を示すマークが点滅した。その下に、「タブー」の名が表示されている。

「もしもーし?」

 電話モードで口を開いても、周りには声は聞こえないらしい。よくできたものだ。

「あ、青さん、ゲームに入ってるかい?」

「うん、入ってるよ。今、海辺の町に着いたとこ」

「お。もう、パレオなんだ?よく動いてるなー」

「途中から『隠蔽』を働かせて、コソコソやって来たんだけどね」

「フレンド登録しておきたかったんだが、しばらくパレオにいるかい?」

「そっちは、ファジマリー?」

「うむ」

「じゃあ、ファースト・キャラでログインし直すよ。ちょっと待っててくれるかな?」

「了解した」

 ログアウトし、ファースト・キャラであるエルフでログインし直す。

 ファースト・キャラなのに、こちらで入るのは初めてだ。

 チュートリアルもなく、直接ファジマリーの近くの草原に降り立つ。

「むー。やっぱり、リザードマンとは操作感が違うな」

 リアルとほぼ同じ体格の分、こちらの方が動きやすい。

 タブーに電話をかける。

「今、ファジマリーの北の草原にいるから、町に入るよ」

「いや、こちらから向かおう。城門で待っててくれるか?」

「了解」

 城門に向かって歩き出す。

 確かに、こちらの方が身体が軽い。リザードマンのパワフルな操作感も楽しいけど、こちらのシャープな感覚も悪くない。

 城門まで来ると、向こうからローブ姿の男が歩いてきた。ヒューマンだ。

 その顔が、リアルでも見知ったタブーの面影を宿している。ただし、そうとうに美化されているが。

「やー」

「よぉ」

 タブーからのフレンド申請を承認する。ついでに、ギルドの勧誘まで飛んで来た。

「およ?タブーが作ったギルド?」

「うむ。まだ俺しかいないがな」

「これはこれは、ありがたく」

 めでたく2人目のギルド・メンバーとなる。

 ギルド「まったり」の。

「いや、どんな名前だよ?」

「これぐらいの気分でやるのが、一番楽しいだろ?」

「いつも1人だけ戦闘も生産も突っ走っていく男のセリフとは思えんが」

「まあ、そう言うな。ホントに、このゲームではのんびり楽しみたいんだよ」

「じきに他のメンバーも入ってくるよ。一緒に楽しもうや」

 タブーはこのゲームを始めて2ヶ月ほどらしく、上級黒魔道士というクラスになっていた。

 『火魔法』を得意とし、攻撃に特化した魔法使いらしい。

「もう、上級かよ。ずいぶん、まったりやったもんだなー」

「ワハハ。そう言うな」

「あ、そう言えば、さっきサハギンの宝の鍵っていうのを拾ったんだけど、どこかに宝箱でもあるのかな?」

「ああ、人型のモンスターが落とす鍵だな。その近くのダンジョンに宝箱がある」

「おお、やっぱり!」

「この近くなら、ゴブリンも鍵を落とすよ。で、ダンジョンは北側の森の中にある。

 ダンジョンの中には、さらに大量のゴブリンが住んでいて、そいつらはもっと鍵を落としやすい」

「ほうほう」

「しかし、サハギンのダンジョンは、まだ見つかっていない」

「へ?」

「あの付近は、沖の小島まで隈なく調べられたのに、なぜかダンジョンが見つからないのだ」

「えーっ」

「宝箱からは、かなり低い確率だがユニーク級のアイテムも出る。そして、これまで宝箱が最初に開けられたときは、100%ユニーク級アイテムだったらしい」

「ほほぉ?」

「もちろん、まだ探索が進んでいない地域には多くのダンジョンが残っているだろう。が、初心者エリアでユニーク級アイテムが手に入る可能性がある為、あの辺りで探索を続けている者も多い」

「そうかー。じゃ、オレも頑張って探してみるかな」

「いいんじゃないか。魔法の杖のユニークが出たら、ぜひとも恵んでくれ」

「杖が出たらな。そのかわり、先にちょいと小マシな片手剣と盾を恵んでくれ」

「あいかわらず、ナイト志望なのだな」

「そりゃ、そうでしょう」

「良かろう。そんないいモノでなくていいのだろう?」

「うん。あまり強い装備じゃ、スキル上げにならないだろうしね」

「さすが、よく分かってる」

 2人で広場まで移動し、露店を漁る。

 バルカンの露天がまだ出ていた。

「こんちはー。リザードマンの青鬼ですよ」

「ぬぁっ!?全然違うじゃないですかっ」

「こっちがファースト・キャラなんだよ。

 で、スポンサー連れて来たから、小マシな片手剣と盾をくださいなー」

「おお、まいどありー」

 【鋼の剣+2】と【鋼の盾】を買ってもらった。




 ついでだから、そのままスキル上げに出た。

 南のフィールドで、戦闘と採掘を合わせて行う。

 必要なスキルは、初期費用で買っておいた。ちなみに、エルフは最初から『光魔法』を持っている。『光魔法』は、攻撃と回復の両方に優れた魔法だ。

 それに、魔法が得意とは言えないリザードマンに比べると、エルフのMP量は格段に多かった。もちろん、HP量ではリザードマンに軍配が上がるのだが。

 イモムシを見つけては、遠距離から『ライト・アロー』を放つ。

 水の遠隔魔法はかわされまくったけど、さすがに速度の速い光はかわされない。

 怒って走り(?)寄って来たところを、鋼の剣+2で斬り刻む。攻撃は、鋼の盾で防ぐ。ダメージを受ければ、ライト・ヒールで回復する。

 装備が良いせいもあるけど、エルフは戦い安いような気がする。

 フレンド登録をしたタブーとは、距離が離れていても個人チャットを使って話せるので、分からないことは何でも聞けるので便利だ。

 ちなみに、タブーはファジマリーで生産をしている。『裁縫』スキルを上げているらしい。自分の装備は、自分で作っているようだ。

 オレは何の生産をやろうかなぁ?

 武器や防具は、バルカンさんに頼んだら良さそうだし。

 他の仲間たちとの兼ね合いもあるし、じっくり考えるかー。




 適当なところで、リザードマンにチェンジした。

 実は、サハギンのダンジョンのありそうな場所が、なんとなく分かったような気がしたのだ。もちろん、正確な場所が分かっている訳じゃない。でも、大事なヒントがつかめたような気がしていた。

 海だ。

 それも、海中。

 水中行動の得意なニュートに打って付けの場所じゃないか。

 イメージとしては、エサを得るために海中に潜るガラパゴス島のイグアナちゃんだ。

 と言っても、いきなり水中で戦える自身もないから、しばらくは町の近場の海で『水泳』と『潜水』のスキル上げをすることにした。

 冗談抜きで、いきなりユニーク級のアイテムが手に入っちゃうかも知れない。

 アイテムには、1から10のランクの違いがあると同時に、ノーマル、レア、エクストラ、ユニークという差別化もされている。

 オレの持つブラック・ゴブリンズ・スピアーはレア・アイテムだ。

 同じランクのアイテムであっても、ノーマルに比べるとレアには「貫通アップ」などの特殊効果がついてるだけ性能が良くなっている。

 これが、エクストラとかユニークともなれば、もっと強力な特殊効果が付いているのだろう。

 そんな物がオレの手に入るかもと思うだけで、オレのニヤニヤは止まらない。

 ニヤつくリザードマン・・・。

 きっと、気持ち悪い代物だったことだろう。

 

 

 

 


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