オレたちの船
ニュートのキャラで『ウォーター・ブレード』と『水中呼吸』のスクロールを作成してから、ドラゴ・ニュートに送りつけた。
これでサハギンのダンジョン攻略のための準備は完了である。
さて、巨大サハギンには通用するだろうか?
背中の大太刀を抜き放つと、ジャブジャブと海に入って行く。
近寄るサハギンたちは、躊躇なく斬り捨てる。
水中での戦闘に関するスキル上げもそこそこに、ダンジョンの入り口に直行だ。
海中の岩肌に穿たれた黒々とした洞窟の入り口―――。
『暗視』と『反響定位』のスキルがあるオレは、真っ暗な視界を物ともせずに飛び込んでいく。
通路の狭さを考慮して、武装は小太刀にチェンジした。
小太刀とは言え、ドラゴ・ニュートの身体サイズに合わせて作られたものだ。その大きさは通常の太刀と大差はない。ストレスなくサハギンを屠っていける。
道中で目についた宝箱は開いていくが、わざわざ探して回る気はない。
宝箱は最初に開いたときは確実にユニーク・アイテムが出るが、それ以降はレア・アイテムや金貨が出る程度だからだ。
小銭稼ぎが目的でなければ、時間と労力をかけてまで探す価値はない。
ニュートのキャラでやたらとユニーク・アイテムをゲット出来たのは、本当に奇跡だったと言える。
宝箱を2つ開けただけでボス部屋に到着。
ちなみに中身は、ポーションのセットとレア・クラスの短剣だった。
ボスの待つ広大な空間を外から覗き込む。
『反響定位』で探りを入れると、いました。馬鹿デカいサハギン―――。
自分に発せられた超音波を感じ取ったのか、巨大サハギンがもそりと身じろぎした。エコー映像越しに、ヤツがオレを見据えるのが分かる。
なし崩しに戦闘突入だ。心の準備ぐらいはしたかったが、こうなったら仕方がない。右手の小太刀を鞘に戻すと、再び背中の大太刀を抜き放つ。
ニュートで以前に戦ったときは槍を眼球にさえ突き立てられなかったが、今度は違うぜ・・・と、思いたい。
全速で巨大サハギンに近づくと、そのゆったりとした動きの腕をかいくぐって、脇腹に斬りつけた。
急所とかどうとか何も考えていない一撃だ。この刃がヤツの身体を傷つけられるか、それが目的。
果たして―――
大太刀の刃は、激しい手応えとともに、ざっくりとウロコに覆われた脇腹を切り裂いた。
海中に血煙が広がり、サハギンの苦しげな咆哮がビリビリととどろき渡る。
通じた!
巨大サハギンの背中側に回り込みながら、オレの口許が笑みの形にゆがむ。
なら、次は魔法だ。
「アイス・アロー!」
左の掌から発せられた氷の矢が、一直線に巨大サハギンの背中に突き刺さる。
あまりダメージは与えられなかった様だが、1メートル近い矢の半ば以上が青黒いウロコを貫いて、ヤツの身体に喰い込んでいた。大きな傷は与えられなくても、牽制ぐらいにはなりそうだ。
サハギンの巨体がゆっくりと振り向くと、両の腕がオレに向かって伸ばされる。
5本の指の間には水かきがついており、その指先には鋭い爪が光っていた。捕まれたら・・・いや、その指先に引っかけられでもしたら、オレには致命傷になるだろう。
しかし、そこは水中行動に特化したドラゴ・ニュート。するりと巨大な爪をかわす。ついでに、左手首を大太刀で薙いでおいた。
脇腹に続いて、左手首からも血煙を噴く巨大サハギン。
これが人間であったなら、勝負ありだ。
手首や首の大きな血管を傷つけてやれば、人間であれば出血の大きさのために行動力を失ってしまう。すぐに生命まで失うことになる。
が、相手はサハギンだし、何と言ってもゲームのキャラクターだ。手首を傷つけられたぐらいじゃ、大した痛手ではないらしい。
「つまり、分かりやすい攻撃を加えなきゃいけない訳ね」
再びサハギンの背中に回り込んだオレは、大きく息を吸った。
視界のすみにあるテンション・バーは、道中の戦闘のおかげでマックスになっている。
ゴォウッ―――!!
相変わらずのったりと振り向いた巨体の顔面目がけ、オレの口腔から凍気のブレスがほとばしった。
キィン!!
キィン!!
キィン!!
ブレスの走った跡の海水が真っ白に凍りついていく。
ぎゃおおおぉぉぉぅっ―――!!
氷に鎖された視界の向こうに轟く巨大サハギンの雄叫び―――。
強烈だ。
水圧で敵を吹き飛ばすだけだったニュートのブレスと違い、ドラゴ・ニュートのブレスは全てを凍りつかせるものだった。
これだけの威力があれば、タイミング次第では100やそこらのサハギンを一瞬で殲滅できるかも知れない。
バキーン―――!!
眼前に作り出された巨大な氷のオブジェが崩れ去ると、そこには上半身を凍りつかせたボス・サハギンの姿。
好機!
オレは全速力で水中を進むと、その胸に大太刀を深々と突き立てた。
チョコドの沖合いに、オレはゆっくりと浮上した。
背には、未鑑定の大太刀がある。
水王の大太刀―――。
海のような青い色の鞘と柄。氷のように冷然とした輝きを放つ刀身。
またアマガエルさんに『鑑定』してもらう予定だが、おそらくユニーク・アイテムだろう。どうやら、巨大サハギンをソロで最初に撃破したための褒賞品らしい。
しかし今更だけど、このゲームでは入手者がちゃんと使えるアイテムしか出ないのだろうか?狙ったように大太刀がドロップするなんて、話がうますぎるもんね。
抜けるように青い空の下を、ゆっくりとチョコドに向けて泳ぎ始めた。
なだらかな稜線を持つ小山のような都市が、少しずつ近づいてくる。
海上には、以前には見られなかったプレイヤーの操る小船が少なからず浮かんでいる。スモーカーたちが『造船』スキルを上げるために量産した物かも知れない。
で、そんな小船でプレイヤーたちがやっているのは、なんと釣りだ。まったりとして楽しそうだなあ。機会があれば、今度やってみよう。
釣り人たちにギョっとされながら泳いでいると、チョコドの港に巨大な帆船が停泊しているのに気がついた。
ビーナスに行くのに乗った船や、その途上で出会った海賊船に比べても明らかにデカい。
3本のマスト。舷側には、大砲が収納されている窓がズラリと並んでいる。船尾付近には、精緻な意匠が凝らされた船橋。
しかし何より目をひくのは、船体が真っ白に塗られていることだ。
「キレイな船だな」
吸い寄せられるように、その船に向かって泳ぐオレ。
やがて、大勢の人たちが船の上や埠頭を行き来しているのが見えてきた。
そのうちの何人かは、見覚えのある者たちだ。
「え、あの船って、もしかして・・・」
オレが波間に浮かんだまま呆然としていると、船上にいたうちの1人が大きく手を振り始めた。
「トカゲさぁ~~~ん!!」
アマガエルさんだ。
ドラゴ・ニュートの姿ではまだ会ったことがないのに、一目でオレと分かってくれたらしい。
「こらー!早く来て、手伝いなさい!!」
うわっ、隣で怒ってるのはヒヨコ丸さんか。あいかわらず黄色い鎧姿だな。
変わらない2人の様子に、なんかニヤニヤしてしまう。
他にも、スモーカーや鷹爪くん、レイさんたちの姿も見える。
「て言うことは、あれがオレたちの船なんだな」
すっげぇー!
これは、すっげぇー!!
あんなキレイな船で、冒険に出られるのか!!
「りょうか~い!今、行くよ~~!!」
アマガエルさんたちに返事をしてから、オレは力強く泳ぎ始めた。
さあ、ここからが冒険の本番だ。
すいません。
唐突ですが、これでお終いです。
見知らぬ風景に出会う驚きを描きたいが為に主人公の一人称スタイルにしたのですが、キャラが増えすぎたせいで完全に破綻してしまいました。
もしかしたらスピンオフ的な話を書くことがあるかも知れませんが、この作品はこれで終わりとさせていただきます。
こんな話でも、読んでいただいてた皆様、本当にありがとうございました。
次は、きちっと構成を考えた新作か、中途で止まってる話の続きになるか・・・




