3つ目のキャラ
『筆記』スキルを80まで上げるのに、1週間かかった。
早速『反響定位』をスキル・スクロール化し、マリーさんに送りつけた。
スキル・ランクが8の『反響定位』をスクロール化するのには、かなりレアなアイテムも必要とされる(レアなインクにレアな紙)のだが、今回は4セット分をもらっている。
1つは、もちろんマリーさんと言うか「少女たちの狂おしき永遠」用。1つは、「まったり」用。1つは、オレ自身のエルフ・キャラの分。そして、もう1つは自由にしていいってことになっている。
売りに出してもいいし、好きな誰かに送ってもいいそうだ。
ケイチーの顔が浮かんだりもしたけど、個人的な恋愛感情を持たなさそうな昆虫人の彼女にあげても、きっとオレが期待するような反応は返ってこないだろう。
また出会うかも知れない誰かのために、キープしておくことにした。
ちなみに霧隠さんの『筆記』スキル上げは、遅々として進んでいないというウワサだ。
という訳で、1週間ぶりの狩りである。
サヤクたちと一緒にという手もあったけど、ここは1人で海狩りとする。ここの近くの海のモンスターとは、まだロクに戦っていないのだ。見たこともないモンスターが待っているに違いない。
ヨロウスィークから港まで歩き、そのまま海に飛び込んだ。
海底には見慣れない海草が生えている。やけに鮮やかな赤や青い色だ。色彩だけならサンゴを思わせるが、ヒラヒラしてるし、やはり海草らしい。
その中を泳ぐ小魚たちも派手な色合いだ。沖縄なんかにいる魚を思わせる。
「南国なんだなぁ」
キョロキョロしながら泳いでいると、いました、謎生物。
エイのような魚影だが、左右に刃のごときヒレが伸びている。刃を含めると、横幅は3メートル近い。見るからに、物騒なモンスターだ。
「これは、戦闘開始だよね」
試しに『ウォーター・ブレード』を撃つと、刃エイは身を翻して、刃のようなヒレで魔法を斬った。
「えぇっ!?」
吃驚だ。仰天だ。
刃エイがオレを敵と認定して、猛然と襲いかかってきた。
大きく開いた口には、ズラリと牙が並んでいる。これまた短剣のような牙だ。
リハビリ気分だったのに、予想外の難敵に当たっちゃったらしい。
慌てて刃エイのお腹側に回り込むと、すれ違い様に『ウォーター・ブレード』を放つ。
今度はちゃんと着弾し、海中に青い血煙が広がった。
いったん距離を取ってみると、刃エイはそのまま海底に沈んでいく。どうやら、致命傷らしい。
ホッと一息。
続いて、巨大ゲンゴロウ、キチン質で身を包んだ海蛇、やけに高速で泳ぐクラゲ、そして、大きな角を持った海牛。海牛は、ウミウシじゃなくてカイギュウね。四肢のかわりにヒレを生やしたオス牛といった風貌だ。そんな未知のモンスターを狩りまくった。
見たこともないアイテムもそれなりにドロップし、満足である。
のんびり泳いで港に戻ると、桟橋に腰かけて寛いだ。
実は、これからどうしようかと悩んでいたのだ。
当初の予定は、自力で泳いで、行ける所まで行く気であった。
が、チョコドでは船の建造が予想外に順調に進んでおり、早ければ2~3ヶ月のうちには我々だけの船が完成しそうな勢いなのだ。
もちろん船ができれば、オレも乗り込むことになる。
その時にリザードマンで乗るかエルフで乗るか・・・。
もちろん、リザードマンで乗った方が活躍できるだろう。が、そうすると、あまり遠くまで行く訳にはいかなくなる。このままヨロウスィークに留まって、船が来るのを待つのが最善だ。
だったらエルフで乗ればいいんだろうが、そうするとチョコドに誰もいなくなってしまう。
リザードマンとエルフとの間の荷物の受け渡しや、ギルドの会合を考えると、チョコドにどちらかのキャラは置いておきたいのだ。
「やっぱり、爬虫類キャラだと日向ぼっこが必要なの?」
ふいに声をかけられ、振り向くとクッキーさんが立っていた。
考え込むあまり、『反響定位』を切ってしまっていたのだ。
「あー、ちょっと考え事」
「何よ、話してみなさいよ」
どっこいしょと言いながら、隣に腰を下ろすクッキーさん。
細くて白い脚をプラプラさせるが、不思議と何も感じない。可愛いのに、変な人だ。
「なんで、こんなトコにいるの?もう、街は見ちゃったの?」
「んー、ここで船を見てた方が面白いからかな?」
「まあ確かに、でっかい魚を改造した船なんて聞いた事もないもんなー」
「それより、何か悩んでたんでしょ?おねーさんに話してみなさいよ」
こちらの中身がオッサンと分かっていないのか、クッキーさんがおねーさんぶる。
別に話してもかまわないやと思って、相談してみる。
「そんなの、もう1つキャラを作ればいいんじゃない?それだけ時間があれば、チョコドまで行けるでしょ?」
「あ・・・。そうか。3つまでキャラを作れるんだっけ?」
「そうよ~。あたしも、あとチョコドともう1つ内緒の場所に置いてるもん」
「内緒の場所?」
「それは国家機密」
「じゃあ、しょうがないねぇ」
冗談めかしたやり取りだけど、本当に国家機密なのかも知れないと思う。
「でも、サンキュー。話を聞いてもらって良かったよ。じゃ、早速・・・」
「ねえ、ちょっと!お礼言うなら、調査に付き合いなさいよ!!」
「だったら、いい人を紹介してやるよ」
オレは、こちらに向かって歩いてくるケイチーとチュマに手を振った。
「うおっ、なんか色っぽい」
「おお、ケイチーの色っぽさが分かるとは、クッキーさんもお目が高い。
ケイチーは日本語しゃべれるようになってるから、取材にちょうどいいだろ。それに船長さんでもあるから、うまくいったら船に乗れるかもよ?」
オレの言葉に、クッキーさんは目を輝かせる。
ケイチーにクッキーさんを紹介すると、あっさり受け容れてくれた。
昆虫人たちにしても、オレたちと交流を深めようと考えているのかも知れない。
そのまま近海に出るというケイチーたちにクッキーさんを押し付け、オレはヨロウスィークに飛んで帰った。
郵便屋に着くと、少なくない額のお金と素材アイテムのありったけを「青鬼」宛てに送りつける。こうしておけば、リザードマンだろうとエルフだろうと、全ての「青鬼」でアイテムを受け取れるのだ。そして、今から作ろうとしている3番目の「青鬼」でも、もちろん。
宿に戻ると、ログアウト。
いつもなら、そのままゲームを終えるところだが、今回はキャラ作成画面に移行した。
「3つ目のキャラクターを作成されますか?」
真っ白な部屋で、アシストAIの声が聞こえてくる。
リザードマンを作ったときに、超スパルタのチュートリアルをされたせいで、反射的に背筋が寒くなった。
「う・・・、は、はい。3つ目を作ります!」
「分かりました。名前、性別に変更はありませんか?」
「へ、変更ありません!」
「では、種族をお選び下さい」
オレが使用可能な種族が、ズラズラと並ぶ。
ゲーム開始時に比べると、ずいぶん使用できる種族が増えているようだ。
「ほほう。これがいいな」
ドラゴ・ニュート――――。
オレが使っている水棲のリザードマン――――ニュートの発展形のようだ。
竜人という感じか。竜ってところが男心をくすぐるわー。
身長は、もちろん最大。
武器は、両手槍を選んだ。ただ、これはファジマリーにいるハズのバルカンさんに素材アイテムを渡して、作成可能な武器に持ち替える予定である。
「特殊クラスは、使用されますか?」
「え?そんなの、あるの?」
「あなたの場合は、『海の戦士』が選択できます」
「海の戦士?どんな特徴?」
「水中における全ての能力値がアップされ、特殊スキル『水雷』が使用可能となります」
「それは、どんなスキル?」
「さあ、そこまでは」
ウフフとイタズラっぽく笑うアシストAIさん。本当に、ただのAIか?
「まあ、いいや。じゃあ、『海の戦士』を選びます」
「分かりました。チュトーリアルは、必要ですか?」
「いりません!」
そういう訳で、3つ目のキャラ始動します。




