ミニスカ少女の取材
地味な話になっちゃったので、サブタイトルだけでも・・・(笑)
翌日からのオレは、ヨロウスィークのリザードマン・キャラに戻り、ただひたすら『筆記』スキル上げに没頭した。
むろん、蟲の悪夢から逃れるためだ。
笑うなら、笑うがいい。
あの光景のおぞましさは、実際に見た者にしか分からない。
正直、ゲームに入るのをやめて、しばらく外で遊ぶことも考えたけど、これまでゲーム三昧の日々を送ってきたヤツが、急にそうしようと思っても、遊び方も分からなければ、一緒に遊ぶ相手もいなかったのだ。
そういう訳で、オレはいつものようにゲームにログインし、宿屋の1室にこもっていた。
霧隠さんも同じように『筆記』スキル上げを行っているハズだが、一緒にやってはいない。
あのお色気姉さんと同じ部屋にこもっていて、理性を保てる自信がなかったからだ。
それに、あの人がおとなしく缶詰になってるとも思えないしな。
とにかくオレは、一刻も早く『筆記』スキルを上げて、また海に出る!
ふいに部屋のドアがノックされたのは、缶詰3日目の午後だった。
バンバン――――!
手の甲ではなく掌で叩くようなガサツなノックだ。
「はいはい」
霧隠さんだと信じて疑わずにドアを開けると、そこに立っていたのは見知らぬ人間の少女だった。
防御力なんか全然なさそうな超ミニのワンピース姿だ。
見せつけるように露出させているだけあって、脚は確かに美しい。
それに、顔だって可愛い。
だのに残念な印象がぬぐえないのは、その身にまとった疲れ切った雰囲気からだろうか。
「青鬼さんよね?」
「・・・そうだけど」
「はじめまして。クッキーよ。貴方に会いに来たの」
疲れ切って面倒くさいのか、用件だけをズバズバと口にしてくる。
「はじめまして。わざわざこんな遠い場所まで、ご苦労様としか・・・」
「本当にご苦労様だったわよ。5回も死に戻ったわ」
「うわぁ・・・」
目の前の少女が疲れ切っている理由が、よく理解できた。
立ち話をさせるのも悪いので、クッキーという少女を部屋に招き入れ、椅子に座らせた。
昆虫人用の椅子に、背もたれはない。尻尾(昆虫だと尻尾と言わない?)が邪魔で、背もたれが使えないからだ。おかげで椅子に座っても、クッキーはあまり楽になれてないようだった。
だからと言って、いきなりベッド(寝床と言った方が正しいが)に腰かけさせろと言うほど、あつかましくはないらしい。
「それで、クッキーさんがわざわざ海を越えてまで、オレに会いに来た理由というのは?」
「うーん。簡単に言うと取材?」
「取材?」
「ほら。このゲームって、色々と謎が多いじゃない?それで、色んな角度から調査をしてる人たちがいる訳なのよ」
「ほー。なるほど。言われてみれば、そういう人たちがいても不思議じゃないよなー」
地道な調査とか情報分析とかはオレには向かないけど、このゲームにまつわる謎の解明という点には、大いに興味を引かれるところだ。
「で、海の向こうに昆虫人が住む島があるという情報を聞きつけて、あたしが調査にやって来たの」
「泳いで?」
「泳いで」
「ホントに、ご苦労様です」
「いえいえ、どういたしまして」
ねぎらいの意味を込めて、蜂蜜酒を進呈する。
アルコール入りではあるが、酒と言うよりはジュースに近い飲み物だ。
クッキーは陶製のコップに入った蜂蜜酒を一気飲みすると、やっと生き返ったような表情になった。
「もしかして、この島に泳ぎ着いてから、休憩してないのか?」
「そんな余裕あるわけないでしょ。言葉も通じない昆虫人しかいないのに」
「ああ、そっか。でも、そのわりには、よくオレが見つけられたんだな」
「必要上、感知系のスキルは可能な限り上げてるからね」
リザードマンがいるのを外から感知したという訳か。何というスキルなんだろう?
「へー、素直にスゴいな。驚いたよ。
じゃあ、どこかの店で食事でも摂りながら話すか?」
「ここの通貨、持ってないわよ?」
「それぐらいオゴってあげるよ」
「行くーーー!」
クッキー嬢は本気でスタミナ切れを起こしていたようで、しばらくはスゴい勢いで出される料理を食べ続けた。
から揚げやスープや、一見するとよくある料理ばかりだったが、得体の知れない虫やキノコが使われていることは、彼女には内緒にしておこう。正直、オレはあまり食べる気にはなれない。
こんな所まで泳いでくるのに食料を用意してなかったのかと思ったら、何度も死に戻ったせいで所持アイテムのほとんどを失ってしまったらしい。本当に苦労人だ。
「で、人間の女性も1人来てるけど、紹介しようか?」
「霧隠のこと?あの子なら、後で適当に合流するからいいや」
「なんだ。知り合いかいな」
「あそこのギルドは有名だからね、これまでも何度も取材に協力してもらったし」
「ああ、オレは新しいネタ元なわけね」
「ピンポーン。そういうわけだから、ヨロシクね」
そんなこんなで、しばらくの時間、クッキー嬢に根掘り葉掘り質問をされまくった。
オレがどうやってこのゲームを知ったかというところから始まって、どんな冒険を経て現在に至るか。ゲーム内にどんな友人がいるのか。
そして、このゲームは誰がどういう目的で作ったと思うか。
「それは、ずばり宇宙人が作った」
「宇宙人?まあ、そんな意見もあったけど、ほとんど冗談として言われていたことよね?」
「まあ、オレも本気でそう思い始めたのは、つい最近だけどね」
「じゃあ、冗談で言ってる訳じゃないと?」
真剣な表情でオレを見やるクッキー嬢。
「クッキーさんは、昆虫人たちを見てどう思った?」
「気持ち悪かった」
「また、身も蓋もない意見だな」
「でも、しょうがないでしょ?前もって知ってなきゃ、モンスターだって思うところよ」
「まあ、確かにね。でも、彼らがNPCばかりじゃなくてプレイヤーもいるって話は、聞いてるんだろ?」
「そう。そこが、よく分からないのよねー。誰が好き好んで、あんなキャラクターを使うんだか」
オレや霧隠さんが流した情報も伝わっているみたいだが、肝心の部分が抜けているらしい。
「そりゃ、あんなキャラクターを使っている人自身が、あんな人たちだからだろ?」
「え――――?」
きょとんとするクッキー嬢。
「つまり――――」
オレはあまり論理的でないながらも、昆虫人プレイヤーたちが感情らしい感情を持たないことから始まって、何語を使っているか分からないということまで、どう考えても地球人が操っているとは思えない考えを説明した。
「――――という訳で、昆虫人も宇宙人だと思ってる」
「ほえっ?」
「おそらく、他にも何種類かの宇宙人たちがこのゲームにログインしてて、当然、運営をやっているのも宇宙人である」
「まーた、突飛な意見だわねー」
クッキーさんがジト目になっている。
「もちろん、オレも半信半疑だけどね。昆虫人たちと接触したのはオレと霧隠さんだけだし、他の人ならもっと合理的な理屈を考えつくのかも知れない。
でも、オレには他に思いつけることが無いんだ」
「なるほどねぇ・・・。じゃあ、1ついいことを教えてあげるよ」
考えながら、クッキーさんが言う。その目が、いたずらっぽく光っている。
「ん?」
「このゲームをやるための専用デバイスは、まだ誰も解析できてないのよ。て言うか、分解さえ出来てないんだけどねー」
「え?それは・・・つまり・・・?」
「つまり、何も分かっていないってこと」
クッキーさんのもたらした情報は、このゲームの運営が地球人以上の科学力を持っていることの証明だ。つまり、宇宙人である可能性が高くなった。
が、ならばなぜ、宇宙人はこのゲームを用意したのか?
「なんでだと思うの?」
「そこまではなぁ・・・。ただの娯楽かも知れないし、何かの情報収集かも知れない」
「地球侵略のために?」
「いや。それにしては、あまり方法が迂遠だろう。案外、娯楽あたりが正解じゃないかなぁ。そうでなければ、異星人同士がめぐり合ったときの反応を見ようとしているか・・・」
「だとしたら、昆虫人に対して地球人が横暴な真似をしたら・・・?」
「まあ、地球人の評価は下がるだろうね。だからって、いきなり滅ぼされるかどうかは予想つかないけど」
「むぅ~。どうにかして運営と話がしたいわね」
絶対、この人って政府かそれに近い立場の人だよね。政府の人間だからって無闇に反発する気はないが、やはり警戒はしてしまう。
オレは、生温かい目でクッキーさんを眺めやった。




