初PK遭遇と再びの悪夢
ホントに異世界に転生できないかなと思うぐらいに仕事がブラック化してきたせいで、投稿が遅れた上に、どんどん文字数も減ってきてしまいました。
おまけに、内容も今回はどうにかしてるかも知れません。想像力はOFFにしたまま読まれた方がいいと思われます。
ようやくに死霊のダンジョンから抜け出し、太陽のありがたさを味わえると思ったのに、外はもう夜だった。
「くぅ、もう暗いじゃない」
ベソをかくアマガエルさん。今回のダンジョン行は、彼女の神経をかなり傷めつけたようだ。いや、神経を傷められたという意味では、オレたちも同様だが。
「とりあえず、ホームに帰りましょうよ、にんにん」
「賛成~」
真っ暗な墓地の中を、重い足取りで歩き出す。
オレたち自身が、ゾンビみたいになっていたかも知れない。
実際、スケルトンの犬と猫、骨格標本みたいな鎧にドクロ・マスクを着けた鷹爪くん、レア・クラスである死神のレイさんがいる時点で、モンスターの集団にしか見えないだろう。
だからと言う訳ではないが、いつの間にか2匹と2人のモンスター軍団から、オレとヒヨコ丸さん、アマガエルさん、イチゴちゃんは遅れ始めていた。
鷹爪くんの隣を歩く幸せそうなレイさんを見ちゃったせいかも知れない。なんだか微笑ましくって、そっとしておいてあげようって気になっちゃったのだ。このままデート気分を楽しんで下さい。
そんなオレたちの弛緩した気持ちを狙ったかのように、1本の矢が飛んで来た。
射手は『隠蔽』でも使っていたのか、『敵性感知』スキルが反応したときには、矢はオレに命中する寸前だった。とっさに身体をひねり、背中に負った盾で矢をはね返す。
ヒュン――――!
続いて飛んで来た矢は、余裕を持って盾で受ける。
「待ってくれ、オレたちはモンスターじゃない!」
同時に、姿の見えない襲撃者に声をかけた。
モンスターと間違えられて、プレイヤーに狩られたなんて、笑えない笑い話になってしまう。
が。
カキン――――!
背後からも矢が飛んできて、イチゴちゃんが盾で受けた。
「やめて下さい!あたしたちはモンスターじゃありませんから!!」
ヒヨコ丸さんも叫ぶが、矢は次から次へと飛んでくる。
おかしい。
モンスターに間違えられたとしたら、真っ先に攻撃を受けるのは鷹爪くんのハズだ。ただのエルフであるオレに、攻撃が集中する意味が分からない。
だとしたら、PKか?
「魔法が来ます!」
アマガエルさんが逼迫した声で言う。
「魔法はオレが受けるから、みんなは散って!このままだと狙い撃ちされるだけだ」
「そんな・・・」
「分かりました。散開して、射手を潰すわ。ヒヨコ、あんたが頼りよ!」
オレの言葉にヒヨコ丸さんが抗しかけたが、アマガエルさんがそれを遮って、きっぱりと指示を出す。
次の瞬間、特大の炎の矢が3本、闇を貫いて飛来した。
「魔法盾!!」
オレの掲げた盾を中心に巨大な魔法陣が描き出され、3本の炎の矢を防ぎ止める。
ゴゥアッ!!
一瞬遅れて炎の矢が爆発し、激しい火炎と衝撃が撒き散らかされた。
「――――!!」
『魔法盾』で火炎からのダメージからは守られたが、衝撃波がオレの身体を揺さぶる。
必死に体勢を保とうとしていると、左右から2人のプレイヤーが走り寄ってきた。その手には、片手剣と片手斧。明らかにオレを狙っている。
「鉄壁!!」
とっさに、物理ダメージのみを30秒間無効に出来る戦技を発動する。『盾』スキル30で習得できる戦技だ。ちなみにリザードマンの方では、まだ習得できていない。
剣と斧が打ち込まれるのを完全に無視し、片手剣の男に『ウォーター・ブレード』を発射。もう1人の男の斧を盾で押さえながら、首筋に片手剣を叩き込む。
「がはっ!」
対人戦は初めてだが、急所を攻撃すると一撃死もあるらしい。片手斧の男は、棒のように倒れたまま動かなくなった。
振り向くと、片手剣の男の頭に、十字手裏剣が突き立っていた。
「え?」
男とオレが見合ったまま、間抜けな声を漏らす。
「きゃっは~!」
ド派手な忍者装束が疾走して来ると、男の背中に斬りつけた。ヒヨコ丸さんだ。ちゃんと炎の矢が飛んで来たときに、周囲に散っていたらしい。
片手剣の男も倒れ、動かなくなる。
そこに再び襲い来る炎の矢。
ドガァッ!!
予測できていなかったオレは、あっさり吹き飛ばされた。
ヒヨコ丸さんも、ぶっ倒れている。
2人とも直撃を喰らわずに済んだようだ。もがきながら、立ち上がろうとする。
そこに殺到する見知らぬプレイヤーたち。3人だ。みんな、同じような革鎧に、口元を隠す覆面スタイル。
オレとヒヨコ丸さんは、あと2~3発でHPが尽きるだろう。
でも、心配することはない。
オレに圧し掛かろうとした男の身体に、横から伸びてきたムチが叩きつけられた。
「あたしの奴隷になりなさい!」
アマガエルさんだ。
激しく恥ずかしいセリフとともにムチ打たれた男の動きが止まり、頭上に魅了状態を示すアイコンが浮かぶ。
ヒヨコ丸さんに向かった男の胸には、別の方向から飛んで来た矢が突き立った。
「ぐっ・・・!」
続いて飛来した矢が、次々と男の身体に突き立つ。1本、2本、3本・・・。合計5本の矢が突き立ったところで、どうっと倒れる。
「ナイス、イチゴ!」
アマガエルさんの声に応えるように、暗がりからイチゴちゃんの白銀の鎧姿が現れた。
「お、おい、お前ら・・・!」
最後の男の前に、骨格を模した禍々しい鎧を着た男が立ちはだかる。鷹爪くんだ。異変を察して、舞い戻って来てくれたらしい。
無言で大鎌を振りかぶる鷹爪くん。
「こいつ、モンスターじゃないのか!?」
小剣二刀流の男は、スピードが売りらしい。右手の小剣を投げつけながら、素早く大鎌の攻撃範囲から逃れ出た。
「ちっ、分が悪い・・・。おい、お前ら、やられちまったのか!?」
距離をとって、仲間たちに声をかけるが返事はない。当然だ。視界内にいる仲間は死亡しているか魅了されているかだ。
あとは、遠距離から魔法を撃ち込んできたヤツがいるハズだが。
「ちなみに、魔法使いはもうアテに出来ないわよ」
背後の闇の中から現れる死神が1人。華奢な体型にかかわらず、男の死体を1つ軽々と引き摺っている。
「殺しちゃったけど、返すわね」
にっこり笑ったレイさんが、魔法使いの死体をこれまた軽々と投げてよこす。
「うわっ・・・!」
足許に死体を投げられた男は、そのまま逃走に移ろうとしたらしい。
そこに飛ばされる魔法。
「監獄!」
逃げようとした男の身体を、黒いエネルギーの格子が包み込む。
「――――!!」
男の動きが止まっていた。
闇魔法なのだろう。対象の周囲に檻を形成し、行動を阻害する魔法らしい。
鷹爪くんが、ゆっくりと男に近づく。その胸に刺さった小剣を引き抜きながら。
「ソウくん!?」
「大丈夫。鎧が守ってくれた」
小剣が刺さっていた場所には小さな穴が残ったが、刃は鎧を貫くには至らなかったようだ。死霊王の鎧に装備を替えて正解だったな。
が。
鷹爪くんの正面に立つ男が、何かに注意を引かれたように目を細めた。
「お、おい、何だ、それ?」
男の指は、鷹爪くんの胸に向けられていた。その指が、心なしか震えている。
とても、イヤな予感がした。
倒れたまま様子を見ていたオレは、そおっと立ち上がる。
ヒヨコ丸さんも同じ予感に捕らわれたのか、鷹爪くんの背中を見つめながら立ち上がった。その腰が引けて見えるのは、気のせいではあるまい。
「何か動いてるじゃねぇか!?」
男が檻の中でソワソワし始める。
男のさらに後ろにいるレイさんの表情が、ヒクッと引き攣った。
気がつくと、アマガエルさんとイチゴちゃんがオレの背後に隠れている。
「そ、それ以上近づくな!!」
明らかに脅えている男の様子を気にもせず、鷹爪くんが檻のそばにたどり着く。
「お、おい!?」
男の表情が、はっきりと恐怖のそれに変わった。
レイさんが泣き叫びながら、しゃがみ込む。
地に伏してお経を唱え始めるヒヨコ丸さん。
アマガエルさんとイチゴちゃんが、オレの背中にしがみついて何かを叫んでいた。
オレは・・・きっと、立ったまま失神していたに違いない。
あとに残っていたのは、何かに食い散らかされた男たちの死体だけだ。
全部で6人。すでに死亡していた者も、魅了されていた者も、檻に入っていた者も、等しく惨たらしい運命を迎え入れていた。
そう。
蟲に食われるという運命を。
傷ついた死霊王の鎧から、あの時と同じように蟲が湧き出したのだ。
それも無数に。
止める者のいない蟲の波は、まず檻の中にいた男に襲いかかる。
狭い檻の中では逃げることも出来ず、足のない白い蟲たちは、男の身体に取り付いた。
目に鼻に口に耳に。
ありとあらゆる穴から身体の中に入り込んだ蟲たちは、内部から・・・。
あの絶叫は、2度とオレの記憶から消えることはないだろう。
男たちの残骸も、無数の蟲たちも、やがて空気に溶けるように消え失せた。
オレたち5人は、いつまでも涙とヨダレと鼻水を垂れ流したまま、泣き叫んでいた。
鷹爪くんは、立ったまま白目を剥いている。彼がいつから意識を失っていたのかは、誰も知らない。
ホームに戻ってから鑑定してもらうと、死霊王の鎧には『蟲使い』という専用スキルが付いていたらしい。
鷹爪くんは、死霊王の鎧を封印したという。




