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VR世界での戦闘

 武器を替えた効果は、絶大だった。

 襲いかかって来た狼に横から盾をぶつけて攻撃をそらし、がら空きになった横っ腹にショートスピアーを突き刺す。そこに尻尾を叩きつけただけで、狼は力尽きた。

 このゲームでは、モンスターのHPバー等が存在しないので確かなことは言えないが、ショートスピアーの一撃だけで狼のHPを半分ぐらいは削れているようだ。

 これは、もうちょっと強い敵を相手にしても良さそうだ。

 オレは狼たちを蹴散らしながら、さらに草原を進む。

 草原の彼方に森が広がっているのが見えるので、とりあえず目指してみる。

 あいかわらず、他に狩りをしているプレイヤーはいない。以前からプレイしている人たちは、もっと先にいるんだろうな。

 森までもう少しってところで、新しいモンスターにめぐり会った。

 緑色の肌で、2足歩行をする小柄な影。ゴブリンってやつか?

 革の衣服を身に着け、粗末な剣を持っている。

「ゴフッ!」

 定番な鳴き声(?)とともに、こちらに向かって来た。

 身長2メートルを超えるリザードマンに対し、ゴブリンは1.2メートルぐらいしかない。明らかに足元を狙って、低い姿勢で突っ込んでくる。

 盾で防ぐには低すぎるので、ナントカの1つおぼえで尻尾を叩きつけた。あっさり吹っ飛ぶゴブリンくん。

 立ち上がる前に、上からザクザクとショートスピアーで突き刺しまくると、労せず倒せてしまった。

 ドロップアイテムは、革の胴丸。

 お、装備品か?

 さっそく装備してみる。

 上下とも布の衣服という初期装備だったのが、上半身のみ革製の胴鎧に変化した。

 身長1.2メートルのゴブリンから取り上げた装備を、身長2メートル超えのリザードマンが違和感なく身につけられるとはね。

 まあ、せっかく入手したのにサイズが小さすぎて装備できなかったら、悲しいもんな。

 と、ヒュンという風を切る音とともに、オレの肩に矢が突き立った。

「いたっ」

 予想してないところにダメージを受けたせいか、けっこうな痛みを感じる。

 見ると、30メートルぐらい向こうから、ゴブリンの一団が走り寄って来るところだった。その後方に弓を持ったヤツが1体。

 いけるか?

 弓を持ったヤツにウォーター・シュートを飛ばしてけん制すると、目の前まで迫っていたゴブリン3体をまとめて尻尾で吹き飛ばす。

「ぎゃふっ!」

 そのまま弓ゴブリンを目指して疾走。

 飛んできた矢を盾で防ぎ、慌てて逃げようとする背中にショートスピアーを突き刺し、尻尾の一撃をかました。

 振り返ると、立ち上がってきたゴブリンたちの中に躍り込む。

 槍を振り回し、盾を打ちつけ、尻尾で薙ぎ払う。

 3体はそれぞれ違った武器を持っていたみたいだが、ロクにダメージを受けずに倒せてしまった。ちょっと驚いたが、それだけリザードマンが近接戦に強いのだろう。

 



 

 しばらくゴブリンを狩り続けたせいで、全身の革鎧がそろってしまった。

 ますます、ミラーを身につけて、自分の姿を見たくなってしまう。

 武器も、何種類か手に入った。

 手に入った片手槍は、露店で買った物より性能が低かったから売るしかなかったが、初期装備の片手剣より攻撃力の高い鉄剣がゲット出来たので、予備用の武器として装備しておく。

 ステータスを見ると、片手槍のスキルがあっさりと片手剣を追い越していて、クラスが新人(ニュービー)から初級槍士に変化していた。

 一番高いスキルが尻尾なので、尻尾がどうしたこうしたなんて名前のクラスに変化しなかったのは、ありがたい。

 ちなみに、(うろこ)なんてスキルも上がってきていた。攻撃を受けたせいだろうか。このスキルが上がったら、防御力も上がるんなら嬉しいな。

 あ、『流星槍』と『テイル・ストンプ』なんて戦技が使えるようになってる。

 それに、ブレスが吐けるようになってるのが分かった。どうやったら吐けるのだろうと思っていたけど、どうやら戦闘中に溜まって行くテンションが一定量を越えると使えるものだったらしい。

 狼やスライムとの戦闘程度では、そこまでテンションが上がらなかったということなのだろう。

 とりあえずファジマリーに向かいながら、敵を探す。

 索敵関係のスキルもあると便利だな。

 どうやったら、そういうスキルが上げられるのか、タブーに会えたら、いろいろと教えてもらわないといけない。

 



 

 ザザザッという草を蹴散らす音に、反射的に振り向いた。

 黒っぽい小柄な人影が構える槍が、まっすぐにオレに突き刺さるところだ。

 必死に左手の盾を、槍に叩きつける。

 槍の穂先がわずかに軌道を変え、オレの脇腹を削りながら走り抜けた。

「流星槍!」

 攻撃をかわされて体勢を崩した人影に、おぼえたての戦技を発動する。

 右手に持った槍が赤い色のエフェクト光を発し、一直線に人影の背中に吸い込まれた。

 バカーン!という爆発音とともに人影が地面に叩きつけられる。

「グギャッ!」

 ここが使い処か。

「テイル・ストンプ!」

 尻尾が鞭のように波うち、倒れた人影の背中を打ち据える。

 これまでは、身体をひねって振り回した尻尾を敵にぶつけてただけだが、この技は尻尾自らが動いて地面を叩くものらしい。

 人影が地面に伏したまま、槍を振り回す。

 慌てて飛び退くオレ。

 ヨロヨロと立ち上がったソイツは、黒い金属鎧を着たゴブリンだった。手に持つ槍も、不相応に大きい。

 オレがゴブリンを狩りまくったせいで、ちょっと強いヤツが仕返しに来たのかも知れない。

「ゴフッ!」

 ユラリと黒ゴブリンが動く。

 腰だめに構えた槍が、一直線にオレの胴体に向いている。

「!!」

 真正面から、オレの吐いたブレスが黒ゴブリンを迎え撃った。

 超高圧の水流を上半身に受け、黒ゴブリンの身体が激しく後方に空中回転する。その手から、槍もすっ飛んでいく。

 ここぞとばかりにダッシュし、地面を転がる黒ゴブリンに追撃を仕掛ける。

「流星槍!」

 上段から放たれた槍が、黒ゴブリンを金属鎧ごと貫き、地面に串刺しにした。

「グゲァッ!!」

 それが致命傷となり、黒ゴブリンは動きを止める。

「ふぅ・・・」

 びびった。初撃をかわせなかったら、そのまま押し切られていたかも知れない。

 しかし、狙ったようにオレに襲いかかってくるとは、モンスターの行動もかなりユニークにできているようだ。

 ドロップアイテムを見ると、ブラック・ゴブリンズ・スピアーなるものを獲得していた。

 おぉ、これはラッキー。

 しかし、今はファジマリーに帰るのが先だ。




 ファジマリーに帰り着くまでは、かなりビクビクとした時間を過ごした。

 どこからか黒ゴブリンが追いかけてくるんじゃないかと、気が気じゃなかったのだ。

 やっぱり、索敵関係のスキルは必要だと痛感する。

 広場に戻ると、さっきお世話になった露店が、まだ開いていた。

「こんにちはー。また、来たよ」

「お。おかえり」

「申し訳ないけど、また毛皮の買取りをお願いしていいかな?」

「おお、どうぞどうぞ。やっと、『ミラー』が買えるね」

 オレは狼の毛皮をアイテムポーチから取り出し、露店のお兄さんに提示する。

「あと、ゴブリンの武器や革鎧があるんだけど」

「なるほど、着てる物がレザー装備に変わってると思ったら、もうゴブリンとやってたんだね。

 いいよ、仕立て直しの材料になるから買い取るよ」

「ありがたい。じゃ、これとこれと・・・」

「なんなら、今着てる分を仕立て直しするかい?防御力も少し上がるし、何より見た目がカッコよくなるよ」

「おー、で、値段は?」

「これだけ素材を売ってもらったから、それはサービスしとくよ」

「ホント?じゃ、頼むよ」

 また布の衣服を装備し直すと、着ていた革鎧も一緒に手渡す。

「『ミラー』を買いに行ってる間に仕立て直しとくから、買い物に行ってきたら?」

「そうだね。他にあったら便利そうな物ってあるかな?」

「魔法なら、野営にしろ生産にしろ『火魔法』があると便利だよ。あと『敵性感知』とか『隠蔽』とかが人気あるね。個人的には、『鑑定』や『探知』もおすすめだな」

「色んな魔法があるんだなぁ。『鑑定』なんかも魔法なのか」

「スキルが上がってきたら、いちいちMPを消費しなくてもレベルの低いアイテムの鑑定は出来るようになるけどね」

「了解。買えるだけ買ってみるよ。ありがとう」




 魔法屋は、広場に面した建物の中にあった。

「こんにちはー」

「いらっしゃいませ」

 シックな紫色のドレスをまとったお姉さんが出迎えてくれる。

 NPCと知りながら、変な気分になりそうな色気を発散しているのが怖い。

 種族はエルフなのかな。尖った耳に、金髪。瞳の色は、エメラルドグリーン。ドレスの胸元は大きく開いて、豊かな谷間をのぞかせている。はっきり言って、美しい。

 ファン・クラブとか、すでにあるんじゃなかろうか。

「魔法が欲しいんですが、まだ新人なんで相談に乗っていただけますか?」

「あら、いいわよ」

「今は、最初から持ってた『水魔法』しかないんですけど、『火』とか『鑑定』とか色々すすめられちゃって」

「そうね。戦闘に関わりなく、『火魔法』があると便利ね。野営でも生産でも火を使うことは多いわ。灯りにもなるし。

 あとは、『敵性感知』『隠蔽』があれば、いいんじゃないかしら」

「それに、『ミラー』と『鑑定』『探知』も欲しいんですけど、おいくらになりますか?」

 値段を聞くと、まだ余裕があった。全てが初期魔法なので、思ったよりお安いらしい。

「他に、あったら便利そうなのってありますか?」

「そうね。じゃあ、『測量』なんていかが?」

「測量?」

「戦闘を行うにしろ採集にしろ、地図があるとないのとじゃ大違いでしょう?」

「あ、地図も自作しないといけないんだ・・・」

 メニューを確認しても、確かにマップがなかった。

 これじゃあ、町から離れたら迷子になるのが目に見えてるな。

「『測量』を使って自分だけの地図を作って、採集や戦闘に便利な情報を書き込んでいけば、すごく便利よ。それをアイテム化して、他人に渡すことも出来るしね」

「そんなことも出来るんですね」

「露店の中には、地図屋もあったハズよ。そうやって手に入れた地図を自分なりに修正するのにも、測量スキルは必要だわ」

「じゃあ、それも下さい」

 オレはスクロールという形で魔法を受け取り、それを読んで習得した。

「魔法やスキルは、習得が進むと進化したり、派生したりする物もあるけど、ここみたいな魔法屋でしか手に入らない物もあるわ。また、お金に余裕ができたら、いらっしゃいな」

「はい。ありがとう。

 とりあえず、これだけの魔法で頑張ってみます」




 露店に戻ると、もう装備の仕立て直しは終わっていた。

「やあ、待ってたよ。『ミラー』は買えた?」

「もう、ばっちり」

「じゃ、着てみて」

 渡された装備を次々と身につける。

 胴鎧、手甲、革ズボン。

 靴装備は、リザードマンには装備不可だ。

 ゴブリンから分捕った時には、茶色いだけだった革装備が、うっすらと青みを帯びた色に変わっていた。仕立て直したときに、水属性を付加してくれたらしい。

 さっそく、ミラーを使ってみる。

「ミラー」

 オレの声で『ミラー』が発動し、目の前の空間に、直径50センチぐらいの鏡が出現した。

 いや、出現と言うよりは、空間の一部が鏡に変化した感じだ。

 鏡は空間に固定されたまま、落ちる気配はない。

 のぞき込むと、青みががった革鎧を着た、イケメンリザードマンが映っている。

「おぉ、カッコいい」

「気に入ってもらえたんなら、良かったよ」

 露店のお兄さんが、さわやかに微笑んでくれた。

「また良さそうな素材がゲットできたら、装備を作ってもらえる?探知魔法も買ったから、鉱石とかも掘ってくるし」

「もちろん。それが俺の商売だからね」

「よっしゃ。やる気出てきた~」

「だったら名前教えてよ。俺もいつもインしてる訳じゃないし、フレンド登録してたら連絡も取りやすいから」

「オレは青鬼」

「俺はバルカン」

 そう言って、フレンド申請を飛ばしてくる。オレは申請を許可して、バルカンに送り返した。

「このゲーム、まだまだプレイしてる人が少ないからね。リザードマンの青鬼さんなら、他の人がたどり着けてない場所にも行けるかも知れないよ。期待してるから」

「了解。まだ見たことない素材を、ここに持ち込めるよう、頑張るよ」

「期待してる」

 更にいくつかバルカンからアドバイスをもらうと、オレはログアウトすることにした。

 VR技術を駆使したゲームを数時間ぶっ続けでプレイして、実はかなり精神が疲労していたのだ。リアルな戦闘には、本当に神経をすり減らされた。まあ、今日の場合はアシストAIおねーさんの地獄のシゴキが、一番の疲労原因だろうけど。

 ファジマリーの町の中は完全な安全エリアだそうで、広場の隅でオレはログアウトした。

 一休みしたら、次は採集と採掘をやってみよう。

 

 

 


 

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