なりゆきのダンジョン攻略
レイさんとイチゴちゃんのドタバタな一幕を尻目に、戦利品の分配は終了した。
幸い、勇者イチゴちゃんが発する聖属性エネルギーに焼かれたルビーちゃん(子犬スケルトン、ゼロ才)は、時間を置いたら再召喚できるらしい。
レイさん自体がイチゴちゃんに触ると燃えちゃうんだから、子犬スケルトンがどうなるか想像がつくだろうに。イチゴちゃんが好き過ぎて、時々レイさんはバカになるようだ。
鷹爪くんが子猫スケルトンを心配して、イチゴちゃんに警戒の目を飛ばしている姿が妙に笑えてくる。鷹爪くんよ、もう1人の勇者のJが背後からキミの子猫を狙っているのに気付いているか?Jの瞳がキラキラしてるぞ。
ボス・スケルトンが持っていた錫丈は、火魔法の攻撃力を大幅にアップさせる効果があったらしく、魔法攻撃の得意なアマガエルさんの物になった。
ヒヨコ丸さんにも防御力のとんでもないフルプレートメイルが手渡され、さっそく黄色に塗る算段を立てている。どうしても、ヒヨコ・カラーははずせないみたいだ。
その他、武器や防具、アクセサリーが分配される。
なお、今回はアイテムが行き渡らなかった者にも、タブーやJたちが手に入れた物が配られるらしい。
レア程度のアイテムや金貨と宝石は、全て売り払われ、船を造るための資金に回される。ますますスモーカーの責任が大きくなっていくなぁ。ただの海賊好きだったのに、ご愁傷様なことだ。
「なお、入手できたアイテムの解析から、幽霊船に乗っていたというスケルトンは、また新たな種族ではないかという可能性が出てきました」
アイテムの分配が終わってから、マリーさんが新しい報告を始めた。
「我々、昆虫人、それに三つ目人か。しかし、どういう根拠で三つ目人たちが、ただのモンスターでないと判断した?」
タブーが、マリーさんに問う。
「それは、三つ目人からのドロップアイテムが、全て私たちの知らない文字で表示されていたからです」
「あ!」
オレと霧隠さんが顔を見合わせる。そう言えば、ドロップアイテムの多くが文字化けしていた。
「じゃあ、あれは文字化けじゃなくて、三つ目人の文字?」
「そうです。アイテムの鑑定はカエルとシャムに任せたんですが、鑑定を繰り返しているうちに『ハクター語』というスキルが習得されて、読めるようになったそうです」
「ハクターというのが、三つ目人の種族名か国の名前なのだろうな」
「そうでしょうね。ちなみに、昆虫人の使う言葉は『ナバン語』です。これは、霧隠が習得しています。おそらくトカゲさんも習得している筈です」
タブーが「そうなの?」って視線を送ってきたが、「たぶん・・・」という表情しか出来なかった。後で確認しておきます。
「三つ目人の言語スキルについては、カエルたちがスクロール化してくれます。そこで、この際ですので、霧隠とトカゲさんも『筆記』スキルを上げませんか?せめて『ナバン語』スキルのコピーが欲しいの」
「あー・・・、そうだね・・・」
霧隠を見ると、世にも情けない表情になっていた。きっと、オレも同じ表情になっていただろう。
「スキルを上げるのに必要な素材は、こちらで用意して送りつけます。ランク8までの分を」
「はちぃ!?」
悲鳴を上げる霧隠さん。
オレも悲鳴を上げたい。でも、もうすっかり諦め気分だ。この機会に『筆記』スキルを上げられるなら、ありがたいと思うしかない。しんどいのは確かだが、やって損はないハズだ。
鷹爪くんとレイさんが、オレたちに向かって合掌してくれた。
その日は、そのままエルフで活動することにした。
『筆記』スキルを上げるための素材が届くまでは、リザードマンでは動き様がない。
それに、せっかく手に入れた【聖剣士の剣】の斬れ味を確かめてみたかった。
ついでにポーションを作るためのアイテムも拾っておきたいし、チョコドの北にある死霊のダンジョンを訪れてみることにする。
死霊のダンジョンは、地下10階におよぶ墓地だ。出てくるモンスターは、ゾンビやグールなどのアンデッドばかり。暗くて狭い通路内に生えてあるキノコは、各種のポーションの材料になることで有名だ。しかし現実同様のこのゲームにおいて、好き好んでアンデッドの巣窟に乗り込もうとする猛者は数少ない。が、いかにも闇属性モンスターに強そうな【聖剣士の剣】のデビューには、最高の舞台になるだろう。
ミエコさんに巨大アリから分捕ったアイテムを渡して、新しい鎧の作成を依頼すると、オレは一目散にギルド・ホームを飛び出した。
1時間ほど駆け足をして、ダンジョンに到着。
そこは、木々に囲まれた古い教会だ。形はキリスト教っぽく見えるが、十字架はない。架空か、もしくはオレの知らない宗教の物らしい。
建物は打ち捨てられ、朽ち果てる寸前に見える。
道中は晴れていたのに、この教会に着いた途端に、どんよりと曇り出した。
辺りにはカラスの鳴き声が響き渡り、雰囲気は満点である。
ダンジョンの入り口は、教会の祭壇に隠されていると聞く。
「さて・・・」
さすがに気持ち悪いなぁと思いながら、オレは意を決して足を踏み出そうとした。
「なるほど。相手がアンデッドなら、ルビーちゃんを鍛えるのに向いてるかも知れないわねぇ」
「え――――?」
振り向くと、当たり前のようにレイさんと鷹爪くんが立っていた。
「じゃ、召喚!」
2人の足許に、子犬と子猫のスケルトンが姿を現す。
「2人とも、どうして・・・?」
「あ。イチゴたちもキャラ・チェンジして、すぐに来るから」
語尾にハート・マークがついてそうな声音で、レイさんがのたまう。
隣に立つ鷹爪くんは、すでにドクロのマスクで顔を隠しており、表情が見えない。こいつ、レイさんに魂を売り渡しおったな。
「鷹爪くん?」
「え、あ、いや・・・レイさんが子犬たちを鍛えたいって言うから・・・」
そこで、もらい立ての剣を抱えて飛び出していくオレの姿にピンと来て、あとを尾いてきたらしい。オレが1人で剣の試し斬りをする程度の相手なら、子犬たちを参加させても大丈夫だと考えたようだ。
アンデットを適当に倒して、キノコを採集したらさっさと帰る気だったのに、どうもそういう訳にいかなくなってきた感じがする。
さして待つこともなく3人のメンバーも到着。
1人は、天使のイチゴちゃん。ミエコさんにでも作ってもらったのか、真っ白な金属鎧が、そこだけ日が射してるかのように輝いている。
2人目は、忍者だ。目の覚めるような青い忍者着に、朱鞘の忍者刀を背負っている小柄な人影。霧隠さんが隠密性をとことん追求したタイプなのに対し、この忍者は恐ろしく目立っている。今も「にんにん」言いながらポーズを決めているのは――――。
「ヒヨコ丸さん!?」
「にんにん」
派手な忍者装束に身を固めているのは、ヒヨコ丸さんのセカンド・キャラらしい。顔も体型も、狂戦士の時と全く変わらない。いや、頭に角が2本ついてるな。
「なんか、角が生えてますけど?」
「種族がゴブリンだからね。にんにん」
「ゴブリンって――――」
そんなイメージの悪い種族を選ぶ人がいるなんて、ビックリだ。まして、それが女の子だっていうんだから。
そして、3人目が静かにオレの前に歩いてきた。小柄だがスラリとした体型で、真っ赤なチャイナ・ドレスを身にまとっている。白い肌に、真っ黒な長い髪。黒曜石のような瞳。赤い唇。少し伏し目がちに立つ姿が、異様に色っぽい。
が、オレは気づいてしまった。
「ア、アマガエル・・・さん?」
「サキュバスで付与士のアマガエルです。お願いします」
なぜか恥じらい気味のアマガエルさん。その振る舞いが、オレの何かを刺激する。
「出たー、エロガエル!」
なるほど、エロい。
ドワーフの時とはずいぶん雰囲気が違いますけど、どちらが本当のアマガエルさんなのかと聞きたくなるよ。
死霊のダンジョン、攻略。
いつの間にか、オレの試し斬り&キノコ採集の予定は、大幅に変更を加えられていた。
確かに、聖属性の塊である天使に、このゲームの中でも有数の攻撃力を持つレイさんがいれば、それも可能だろう。オレの【聖剣士の剣】だって、ちょっとは役に立ちそうだし。
それに、死霊のダンジョンに巣食うモンスターは、それほど強くはない。いやらしい状態異常攻撃は持っているが、みんな動きは遅いし、火や聖属性の攻撃には弱いとはっきり分かっている。
しかし、それでもこのダンジョンは、まだ完全攻略されていないのだ。地下10階にボスがいることは確認されているらしいが、倒したという報告はない。
なぜならば――――。
ダンジョンに入ってすぐに、オレはもう逃げ出したくなっていた。
真っ暗な闇の中から、腐乱死体たちが次から次へと襲いかかってくるのだ。特にお化け屋敷がダメな方ではないけれど、これは怖い。かなり怖い。
おかげで、通常はMPの消費を抑えるために1人か2人しか使わない照明系の魔法を、全員が使っているという有様だ。光魔法の『ライト』と火魔法の『トーチ』の灯りが、合計6個、オレたちの周囲を照らしている。通常なら十分過ぎる光量のハズなのに、それでも心もとない。
そして先頭を歩くのは、盾役のオレだ。
すぐ後ろにサブ盾の鷹爪くん。
その後ろでは、女性陣4人が身を寄せ合っている。そんなに怖いなら、誰か「帰ろう」って言ってくれんかね?
恐る恐る前進するオレたちの足許を、2匹のスケルトンがプルプルと震えながら尾いてくる。踏み潰しそうで、気を使う。つか、イチゴちゃんが魔法を使ったら、その余波で蒸発しちゃわないのか?
「来ます」
現実逃避しかけていたオレの意識を、レイさんの言葉が現実に引き戻す。
前方の暗がりから、数体のゾンビが姿を現したのだ。
吐き気をもよおす腐臭が鼻に衝く。
ゾンビが歩くたびに、ニチャニチャと粘液質の音がする。
そして、ゾンビの肌を這い回る無数の蟲。
その全てが、オレたちの精神を猛烈に蝕んでいく。
確かに、こんなダンジョン、誰も攻略出来ていなくて当然だ。気持ち悪すぎる。
「いやぁぁぁあああっ!!」
おとなしいはずのイチゴちゃんが悲鳴を上げながら、ライト・アローを撃ちまくる。狙いも何もない光の矢の嵐が一瞬にしてゾンビの群れを蹴散らし、燃え上がらせる。
オレが盾役をこなす必要もない。
さっきから、この繰り返しだ。あんな気持ちの悪いモノに近づきたくないのは分かるが、オレの剣の試し斬りさえ出来ていない。
「イチゴちゃん、気持ちは分かるけど、MPも勿体ないし、ちょっとはオレたちにも任せてよ?」
「あ。うん、そうだよ。あたしたちのスキル上げもしたいしさ、イチゴは回復と支援中心でいいんだよ。にんにん」
「うーん。分かったよ、ヒヨコちゃん。我慢する・・・」
ちょっと、しょげるイチゴちゃん。
「また来た」
「了解!」
現れたゾンビの群れに、今度はこちらから距離をつめる。
思った以上に、ヤツらの動きは鈍い。盾を使うまでもなく、次々と剣を一閃させるだけで、面白いように倒せてしまう。半分近くの相手には聖属性の追加攻撃が発動して、その腐乱した肉体を燃え上がらせた。
「ほら、トカゲさんだけでも大丈夫なぐらいでしょう?」
アマガエルさんの言葉に、イチゴちゃんがコクコクとうなずく。くそ。可愛いな。
「あ、ルビーちゃん、そんなの食べちゃダメよ」
見ると、聖属性の追加攻撃を免れて燃えずにすんだゾンビたちの死体(もともと死体だけどさ)に、2匹のスケルトンが噛りついていた。さっきまでのプルプルとした動きがウソのように、獰猛にゾンビに歯を立てている。
「うぇっ、ゾンビを食ってるの?」
「ちょっと、ルビーちゃん!」
そう言いながらも、子犬に手を出せないレイさん。そりゃ、子犬をなんとかしようと思ったら、ゾンビに近づかなきゃいけないからね。
2匹がある程度ゾンビを喰らったところで、その死体が輪郭を失い、黒い霧状になって2匹の身体に吸い込まれた。
「――――!!」
黒い霧を吸い込んだ2匹は、大きさこそそのままだがプルプルとした震えが止まり、その動きに少し力強さが加わる。
「ゾンビを食べて成長した?」
「うん。そう見えたね」
「すごいわぁ、ルビーちゃん!もっと、どんどんゾンビを食べましょう~!」
子犬を抱き上げ、急にノリノリになるレイさん。鷹爪くんも、嬉しそうに子猫の頭を撫でている。
レイさんがやる気になっちゃったおかげで、誰もが胸に抱いてたハズの「引き返す」という選択肢がなくなってしまった。
ヒヨコ丸さんとアマガエルさんが、涙を流して合掌している。
泣くくらいなら、もっと早く「帰ろう」って言ってくれたら良かったのに。
オレも、泣きたい。




