死霊召喚
思いっきり眠いまま書き上げたので、ロクに推敲出来てません。頭がスッキリしたら、手直しするかも知れません(汗)
2つの魔法がぶつかり合った衝撃波をまともに受けながら、オレはボスっぽいスケルトンに突撃をかけた。
水王の槍の穂先は、一直線にスケルトンの顔面を向いている。
一気に勝負をつけてやる!
が、槍が届く寸前、ボス・スケルトンの足元から白い影が立ち上がった。
ザコのスケルトンだ。
水王の槍は、ザコの頭部を粉砕したものの、ボスには届かない。
「くそっ!」
現れたザコは1体ではなかった。
オレの視界を埋めるほどのスケルトンが、その身でオレの動きを封じている。ザコたちが爪や牙を持っていたら、たちまちオレの身体は傷だらけにされていたことだろう。
『両手槍』スキルの『風車』を使い、ザコたちを薙ぎ払う。
同時に尻尾を振り回し、背後から捕まれるのを防ぐ。
敵の狙いは分かっている。ザコたちにオレの動きを止めさせておいて、強力な魔法をぶつけて来る気だ。仲間ごと魔法攻撃に巻き込んできた島での戦闘を思えば、間違いないだろう。
「ぐぬぬぬぬ・・・!!」
ザコどもの拘束を振り解いてボスを叩きのめしたいのに、ザコの数が異常なほどに多すぎる。
狭い船橋の中を、ザコ・スケルトンがぎっしりと埋め尽くしているのだ。もう、槍を振り回すことも出来ない。オレは、スケルトンたちと押しくら饅頭をしてる気分になりかけていた。
ブレスを吐ければ、一気に形勢を逆転できそうだが、まだテンションがMaxになっていない。
水妖精の指輪も、ハズ島沖で使用してからまだ満月を越えていないので、反則級の力を呼び出せない。
それでも必死にホネの山を押しのけようとしていると、その向こうに巨大な炎が揺らめくのが分かった。
魔法攻撃が来る!それも、相当にやばいのが!!
オレは、とっさに天井に向けてアクセル・ランスを使用した。
スケルトンたちに拘束されていた身体が、引き抜かれるように天井に向けて飛び出す。
船底から甲板に飛び出せるまでに鍛えられてきたオレのアクセル・ランスは、軽々と船橋のの屋根を突き破り、リザードマンの巨躯を宙高く舞い上げた。
眼下で、船橋の一部を突き破って、激しい炎の渦が踊り狂う。
炎に焼かれながら、甲板に叩きつけられていくスケルトンたち。
オレもまた、その炎に焼かれる寸前だったのだ。
船橋の上空で、別の戦技を発動。
「衝角!」
その瞬間、オレの身体は一転して下方向に加速された。
兜から伸展された刃に引っぱられるように、再び船橋の中に飛び込んでいく。
ズガッシャーーーーーンンン!!!
激しい加速の中、凄まじい破砕音とともに、船橋が木っ端微塵に吹き飛んだのが分かった。全身が、凄まじい衝撃に翻弄される。オレの身体も粉みじんに消し飛んだかと思ったが、気付くと海底に四つん這いで着地していた。
頭上を振り仰ぐと、黒々とした水中を、幽霊船を形作っていた木材と仄白く光ったスケルトンたちが沈んでくる。その中で一際強い光をまとっているのが、ヤツだ。ボス・スケルトン。
今のアクセル・ランスと衝角の使用でテンション・バーがMaxになっているのを確認するや、全力でブレスを放つ。
海底で四肢を踏ん張るオレの口から放たれた水のブレスは、海水を巻き込み一瞬にして巨大な渦巻きと化し、ボスを、そしてザコのスケルトンたちを呑み込んだ。
しばらく、呆けていたらしい。
霧隠さんからの個人チャットが入って、戦闘が終了していることに気がついた。
「トカゲさん、大丈夫?急にホネホネたちが消えちゃったんだけどー」
「ああ、こっちで親玉をやっつけたから」
「やったじゃん!それで、トカゲさんはちゃんと生きてるのー?」
改めて自分のステータスを確認すると、HPもMPもレッドゾーンを割り込んでいた。全身がやけに重いのは、スタミナも切れている証拠だろう。
とりあえずポーションを飲んでHPを回復させてから、サンドイッチを頬張った。水中でも飲み食いは出来るのだ。
「なんとか大丈夫。今から戻るよ」
「らじゃー。待ってるよー」
まだ身体が重いが、霧隠さんたちの許へ泳ぎ始める。
しかし、これで沈めた船は何隻目だ?
幽霊船を沈め、ボス・スケルトンを倒し、無数のザコ・スケルトンたちを蹴散らしたせいで、オレと霧隠さんのパーティー用アイテム・ストレージには膨大なドロップ・アイテムが雪崩れ込んでいた。ざっと目を通したが、なぜか文字化けしたアイテムが多いようだ。面倒だから、一切合財タブーとマリーさんに送りつけてしまおう。
でも、目的のお宝って、まさかこれじゃないよな?
夜が明けたら、また潜らなきゃ。
夜が明けると、空が抜けるような快晴だった。
気のせいか、海の色も明るく見える。
あいかわらず潮の流れは速いが、オレと霧隠さんには大した問題ではない。
地図に示されていた場所は、まさに幽霊船が浮かんでいた辺りだった。海中に潜ると、朽ち果てた木造の大型の帆船が、半ば砂に埋もれている。
「多分だけど、これって幽霊船と同じ船だよな」
「幽霊船より、もっとボロボロだけどねー」
緊張しながら甲板に降り立ったが、スケルトンが現れる様子はない。
船橋をのぞくと巨大なウツボが巣食っていたが、霧隠さんが一瞬にして切り刻んでしまった。いつか、ウツボ丼を作ってみよう。
船橋には半壊した舵輪があるだけだ。もちろん、ボス・スケルトンもいない。
奥の壁にあるドアを開くと、船長室のようだった。長らく海中に沈んでいた割には、不思議なほどに傷んでいない。壁際には小さいながら質の良さそうな机があり、白骨となった船長が座っている。
スケルトンではない。本当の白骨だ。
「いきなり動いたりしないよね?」
「うーん。なぜか全然動きそうな気がしないな」
霧隠さんは恐れ気もなく、白骨死体を検分し始める。
「身長は2メートル、目は3つ。尻尾と小さな翼があって、手の指は4本。全体の骨格も微妙に人間と違うわねー」
「それより、問題のお宝があったよ」
床にあったハッチを開けると、そこに無雑作に財宝が詰め込まれていた。
「えー、どこどこ?
きゃー、金ぴかーーー!!」
何のためらいも見せずにハッチから飛び降りる霧隠さん。慌ててオレも後に続く。
そこは3メートル四方の狭苦しい部屋だった。
出入り口は、天井に開いたハッチ穴しかない。最初から、大事な物を収蔵するために作られた部屋なのだろうか。
床には金貨があふれ、部屋の中央には高価そうな武具や鎧、スクロールや宝石が入った箱が、いくつも積まれている。室内が薄明るいのは、灯りの魔法具が光っているかららしい。何十年、もしかしたら何百年も光り続けているとしたら、それだけでも相当な高値がつきそうだ。
「このコインに書かれてる字・・・」
「え?」
霧隠さんが手に取った金貨を見ると、アルファベットっぽい文字が刻まれていた。他の金貨を見ると、刻まれているのは、やはりギリシア文字とかの見覚えがある文字ばかりだ。
「人間のコインよね?」
「この三つ目たちが使ってたコインではないだろうなぁ」
「鎧とかも、人間の物っぽいしー」
「つまり、これらは人間の町から奪われた物か?」
「普通に商取引で手に入れた可能性もあるけど、なぜかそんな気がしないのよねー」
「奇遇だな。オレもそんな気がしない」
どうやら、この沈没船は異国の海賊船だったようだ。オレの前に現れる船は、海賊船ばかりか?
財宝を1つ残らずアイテム・ストレージに収めると、オレたちは沈没船から引き上げた。
他の積み荷や船の造りも調査したいところだったが、そんな時間も体力も残っていない。さっさとヨロウスィークまで戻りたい。
サヤクたちには、金貨と宝石を分けることにした。昆虫人たちにとっても、金や宝石は価値のある物らしい。霧隠さん調べである。
武具やスクロールは、オレたちの『鑑定』スキルでは歯が立たず、そのまま進呈する気にはなれなかった。まとめてアマガエルさんたちに見てもらおう。
サヤクたちは早く分け前を寄越せとも言わず、淡々と仕事をこなしている。その様子からは、財宝に興味を示したり、楽しみにしてるようにも見えない。やはり感情が無いのだろうか。こっそりケイチーに装飾品でもプレゼントしようかと思ったけど、この分では渡すだけ無駄そうなのでヤメにした。
案の定、港についてからサヤクやケイチーの前に金貨と宝石を大量に差し出したが、機械的に受け取るだけで嬉しそうな表情も見せない。何か物足りない気分だったが、オレたちの価値観を押し付ける訳にもいかない。そもそも、感情を持たない者に喜んでみせろという方が間違っている。むしろ、感情に発する問題が生じないだけありがたいのかも知れなかった。
数日ぶりに、オレはチョコドにいた。
もちろん、エルフのキャラである。リザードマンは、ヨロウスィークの宿屋でログアウトしたままだ。
今日は、オレと霧隠さんが手分けして送りつけた財宝の分配と、沈没船探索の報告会があるのだ。
場所は、例によって「少女たちの狂おしき永遠」のリビングルーム。
スモーカーや花ちゃんたち造船班は、『造船』スキル上げに勤しんでいるので欠席だ。
「お疲れ様です。トカゲさんと霧隠による沈没船の探索が終了しましたので、その報告会とアイテムの分配を行います」
マリーさんの進行で、報告会は始まった。軽食をつまみながらの、くだけた雰囲気だ。
オレと子犬獣人姿の霧隠さんが交互に報告を行うが、さして言うほどのことはない。せいぜい三つ目のスケルトンと戦ったときの話ぐらいだ。沈没船自体の探索がロクに出来ていないので、あまり実のある話もない。
昆虫人のダユム船については、霧隠さんが引き続き情報を集めるとのことだった。ダユム船に装備されていた大砲の設計図も手に入れてみせると、やる気満々だ。色仕掛けなんて、やらなきゃいいけど。
そして、アイテムの分配だ。
オレと霧隠さんで手に入れてきたものとは言え、オレたちに独占しようなんて気はない。こんな膨大なアイテムや金貨をもらっても、宝の持ち腐れになってしまう。だったら、アイテムを一番有効に活用できる仲間に使ってもらった方がいい。
マリーさんがにっこり笑いながらオレに渡してくれたのは、1振りの片手剣だった。銀色の清冽な光を放つ優美な剣だ。もちろん、すでに『鑑定』は終わっている。
〇【聖剣士の剣】ランク8(ユニーク):片手剣。攻撃力68。高確率で聖属性の追加ダメージ。
「って、うおっ、何これ!?すごい性能ですけど、オレがもらっちゃっていいんですか??」
リザードマンでゲットした【水王の剣】より、更にランクが1つ高い。
「エルフに似合ってて、いいでしょう?今回の戦利品の中で、一番いい剣よ」
「今回の一番の功労者じゃないか。遠慮なく受け取ってほしいな」
マリーさんと東雲さんがそう言ってくれるなら、受け取らない訳にはいかない。
「品物が良すぎてビビっちゃいましたが、では、ありがたくいただきます」
「霧隠には、これね」
「おー、サンキュー!」
霧隠さんには、移動速度を上げるアンクレットが渡された。ますます彼女の忍者っぷりが強化されるようだ。はっきり言って、恐ろしい。
「レイと鷹爪さんに向いたものがあったわ」
「え、何?」
マリーさんの声に、レイさんがにこやかに答える。今日も、鷹爪くんの隣で世話を焼いていたらしい。
「それが『死霊召喚』ていうスキル・スクロールなんだけど」
「欲しい!欲しい、欲しい!!」
「あー、鷹爪さんも?」
「僕の分もあるなら、いただきたいです」
東雲さんがスキル・スクロールを2つ、レイさんと鷹爪くんに手渡した。早速、2人がスキルを身につける。
「・・・・・」
しばらくメニュー画面を確認していた2人が、顔を見合わせてニヤッと笑った。
「召喚!」
「え、おい・・・!」
東雲さんが止める間もなく、2人が『死霊召喚』を行ってしまう。
2人の座るテーブルの上に黒い光が生じ、小さな魔法陣を描き出される。
身構えるオレたち。
魔法陣から現れる影・・・。
「くぅ~ん」
「な!?」
レイさんの作った魔法陣から生まれ出たのは、子犬のスケルトンだった。
同様に、鷹爪くんの前の魔法陣からは、子猫のスケルトンが姿を現す。
「・・・・・・・・・・」
テーブルの上でプルプルと震えている2匹のスケルトン。
「え、えーと・・・?」
イケメン美女の東雲さんが混乱しまくっている。
「きゃーーー!可愛いーーーー!!」
子犬のスケルトンを抱き上げ、猛烈な勢いで頬ずりするレイさん。
「子犬ったって、ホネだよ?」
「自分だって、バッタの女の子に鼻の下のばしてたクセに」
ホネだけの子犬を抱いて感激してるレイさんに引いてると、遠くからアマガエルさんのツッコミが届いた。アマガエルさんに視線をやると、サッと目をそらす。
アンタだってトカゲ好きじゃんって言いたかったが、自分の首を絞めそうなので黙っておく。
「レイちゃん、可愛いね~」
勇者のイチゴちゃんが、ニコニコしながらレイさんに近づいた。
「イチゴ~、見て見てぇ。可愛いでしょう~!」
目の前に差し出されるままに、イチゴちゃんが子犬の頭を撫でる。
ジュッ!!
青白い炎を上げて、子犬が一瞬で燃えつきた。
「あ、ごめん」
「きゃーーーー!!ルビーーーーーーっ!!」
叫んで、レイさんは卒倒した。
つか、もうルビーって名前つけてたのね。
鷹爪くんが子猫のスケルトンをイチゴちゃんから遠ざけながら、慌ててレイさんを介抱し始めた。
南無。




