うちのギルメンも個性的
すみません。更新が滞り過ぎですね。
イチゴちゃんの掲げる盾から展開する光の壁に、大ザメの牙が食い込む。
己を喰らおうとする巨大な顎を前にして、しかしイチゴちゃんは一歩も退こうとしない。すさまじいプレッシャーと恐怖心が彼女を襲っているハズだ。
いつも控えめにニコニコしているだけのイメージだったのに、さすが勇者と言うべきか。
しかし、感心してばかりもいられない。
白銀色の軽鎧に包まれた彼女の身体が、ブルブルと震え、限界に達しかけているのが見てとれるからだ。
オレは何も考えずに、光の壁を迂回して大ザメに斬りかかった。
同時に胡麻豆腐さんが斬りかかる姿が、視界の隅に入る。
「十字斬り!!」
ガキーンという手応えとともに、オレの剣が弾かれた。
ぐわっ、またか。
いつもいつも、肝心なときにオレの攻撃は通じない。
胡麻豆腐さんの攻撃も、通じているようには見えない。もともと、彼女の攻撃は威力より速さが売りだ。それでも、何がしかの状態異常を相手に付与できればいいのだが、大ザメの巨体には、それも難しい。
「どっせぇ~~いぃっ!!」
イチゴちゃんの展開する光の壁が砕け散った瞬間、ヒヨコ丸さんの両手斧が正面から大ザメを迎え撃った。
重くて無骨な刃が、深々と大ザメの鼻面に食い込む。
サメの臭覚は恐ろしく鋭敏で、その鼻面は非常にデリケートな場所だ。そこに強烈な攻撃を喰らっては、さすがの大ザメもただでは済まない。痛みにのた打ち回る。
「ナパーム・ウェーブ!」
そこに襲いかかるアマガエルさんの火魔法。いつぞや、タブーがゴブリンの巣穴を焼き尽くした魔法である。ただの火炎じゃなく、可燃性の物質が対象に貼りつき、いつまでも燃え続けるという凶悪な代物だ。
大ザメの鼻面が炎に包まれる。
ヒヨコ丸さんのお尻にも火がついて、バタバタしているようにも見えるけど、気にしちゃダメだね。
のた打ち回る大ザメから距離を取ってから、片手剣から両手槍に装備を持ち換える。
「アクセル・ランス!」
槍の穂先が赤いエフェクト光を放ち、オレの身体が何の予備動作もなく大ザメに向かって加速された。
しかし、これだけでは終わらせない。
「衝角!!」
戦技の二重発動に、オレの身体は更に加速する。
視界がブレたと思った瞬間、とてつもない衝撃とともに自分の身体が弾き飛ばされたのが分かった。
「げはっ・・・!」
アクセル・ランス+衝角の合わせ技で突貫したオレは、大ザメのお腹を深く切り裂きながらも、その巨体を貫けなかったらしい。
その堅い体表を滑るように進路を捻じ曲げられ、海底に激突したようだ。
海底が砂地で良かった。岩場だったら、死亡していたかも知れない。
大ダメージに朦朧としているオレの身体を、柔らかな光が包む。
シャムさんのライト・ヒールだ。
途端に、身体が楽になる。
「シャムさん、ありがとう!」
両手槍を握り直すと、海底から離れる。
「・・・気をつけて」
背後でシャムさんがユラユラと手を振ってくれていた。緊張感のない人だなー。
「トカゲさんっ!」
シャムさんに気をとられた一瞬に、大ザメがオレに襲いかかってきた。
眼前に迫るサメの巨体に、身がすくむ。そこに躍り込んでくる華奢な後ろ姿。
白銀の軽鎧に、赤いミニスカート。
イチゴちゃんだ。
スカートの中身も見えた気がするけど、それどころじゃない。オレのかわりに彼女が噛み砕かれてしまう。
しかし、その背中は揺るがない。自分の身長ほどもある大顎に向けて、白銀の盾をかざす。
「サンガード・ミラクル!!」
太陽が現出した。
大ザメの巨体が光に呑み込まれる。光の中で、そのシルエットが解けていく。
勇者、すげぇ・・・。
帰りの船旅は、平穏無事なものだった。
ステルス・テントを作るのに必要なタコ素材も大量にゲットでき、今回の遠征は大成功だ。おまけに、大ザメからも希少な素材がドロップしたので、いいお土産ができた。「少女たちの狂おしき永遠」の職人部隊が、手ぐすね引いて待っているらしい。
ビーナスの町で素材を郵送するヒマがなかったので、あと1日待ってもらわないといけないのだ。
今回は、最後の最後に、勇者のスゴさを見せつけられてしまった。
大ザメを屠った『サンガード・ミラクル』は、勇者固有の戦技だそうだ。仲間をかばって受け続けたダメージを、溜めに溜めてから、一気に相手に返すものらしい。凶悪すぎる。
いつも静かにニコニコ笑ってるイメージの美少女としか認識していなかったけど、さすがの勇者様であった。ちょっと、惚れそうだわ。まあ、オッサンにそんなこと言われても、迷惑だろうが。
「イチゴに色目使うと、レイさんが怖いですよー」
いつものようにオレのお腹に貼り付いているアマガエルさんが、見透かしたように、そう言った。
「いやいや、変なことは考えてないよ。
で、レイさん?」
「うちのギルドの二枚看板の1人ですよ。すごい美人なのに、イチゴを溺愛してる残念な人なんです」
「残念な人って、ずいぶんな言われ方だなぁ・・・」
ちなみに、二枚看板のもう1人はJだ。
「だって、光属性が苦手な死神のクセに、イチゴに会うと抱きつきに行って、いつも死にかけてるんですもん」
「死神って、種族?クラス?」
「クラスです。かなりレアなクラスなんですよ」
「だ、だろうね・・・」
だとしても、そんなクラスになりたくないけど。
聞くと、レイさんて人は真っ黒なフードに身を包み、身の丈を超える大鎌を振り回すという典型的な死神スタイルであるらしい。肌は雪のように白く、クセのない黒髪を長くのばしており、ゾッとするほどの美人だけど、目撃すると別の意味でゾッとしちゃうそうだ。本物の死神にしか見えないって意味で。
で、光耐性がマイナスのクセに、光の化身のようなイチゴちゃんに抱きついては、その身を灼かれながら悶えているって話だ。確かに、残念な人に思える。
まだ、そんな濃いキャラの人が残っていたとは、「少女たちの狂おしき永遠」おそるべし。
出会える日を楽しみにしていよう。
丸1日後、オレは久々にエルフのキャラでログインしていた。
リザードマンの方は、チョコドに着いたところでログアウトしたままだ。明日、ステルス・テントを受け取りに、「少女たちの狂おしき永遠」のギルド・ハウスを訪れることになっている。
今日は、海賊からゲットした銃用の弾丸を製作する気だ。
錬金術で作れることは分かっていたのだが、需要がないせいで市場には出回っていない。
弾丸と言っても、火縄銃みたいな先込め式のものだから、丸い鉛玉と火薬がセットになっているだけだ。薬きょうに入った、先の尖った弾丸を想像してはいけない。つまり、初歩的な『錬金』スキルで足りるのだ。
必要な材料も鉛と硝石、木炭、硫黄で、全てファジマリーの南の丘陵で採掘できる。
予備のツルハシを大量に大量に仕入れると、オレは意気揚々と町を出た。
見かけるイモムシたちは、華麗にスルー。
南に真っ直ぐ行くとパレオの町だが、途中で東にそれていく。
小さな丘陵をいくつか越えると、次第に植生がまばらになり、赤黒い岩肌が目立つようになった。
何かイモムシ以外のモンスターが出そうだなぁと思っていると、地面がモリモリと盛り上がる。
モグラか?
ボコッと地面を突き破り、岩場と同じ赤黒い身体が立ち上がった。
体長1メートルぐらいの・・・ミミズだ。うぇっ。
地面から垂直に立ったミミズが身をクネクネさせる姿は、かなりおぞましい。口は円形で、細かな歯がびっしり生えている。
キシャーッ!!
おまけに、鳴くのだ。
正直、近寄りたくない。
注意しながら迂回しようとすると、ミミズが身をくねらせながら、口から何かを吐き出す。慌てて回避すると、それは地面に落ちてジュッと音を立てた。
酸だ。
あぶねーっ。これは、ますます近寄りたくない。
「ライト・アロー!」
光の矢を飛ばし、ミミズの頭部を吹き飛ばす。
しかし、それだけではミミズは死んでくれない。原始的な生物は、しぶといのだ。
駆け寄って片手剣を振るいたいところだったが、剣が酸で傷むのもイヤだったので、『ライト・アロー』を連発してトドメを刺した。
「ふぅ。精神的にキツい相手だな・・・」
ミミズもスルーすると決め、先を急ぐ。
やがて、ツルハシを振るうプレイヤー(NPCも?)が目立つようになった。
ミミズに注意しながら、採掘場所を物色。他のプレイヤーやミミズから離れた所で、ツルハシを振るう。
『採掘』スキルはまだまだ低いが、今回必要な鉛・硝石・木炭・硫黄なら簡単に採れる。スキルが高くなれば、宝石やレアな金属が採れるようになるハズだ。
ツルハシを振るう度に、岩・鉄・銅に混じって、鉛・硝石・木炭・硫黄が直接アイテム・ストレージに流れ込んでくる。かなり節操のない鉱脈だなぁ。そもそも、鉛なんてそのまま採れるものなのか?まあ、そこはゲームってことで納得しとくかな。
30分もすると、アイテム・ストレージもいっぱいになった。
また、ミミズに注意しながら、帰路に着く。心なしか、身体が重い。いや、相当に鉱石を持ってるんだから、本当なら「重い」どころの話じゃないハズなんだけどね。
もしかして、船を造ったら、アイテム・ストレージに入れて運べたりするんだろうか?
小さな船でも持ち運べるんなら、リザードマンでの旅に役に立つだろうけど、同時に興醒めでもあるなぁ。
ミミズを避け、イモムシを避け、ファジマリーに戻る。
正直、モンスターを見かけながら戦わずにスルーするのは、オレにとってかなり苦痛なことだ。危ないヤツと思われたくはないが、モンスターと戦うのが本当に好きなんだ。そのせいで、これまでのゲームじゃ、生産のスキルがなかなか上がらなかった訳だけど。
今回は、頑張れるかな?頑張れるといいな。
ファジマリーに着くと、銀行に行って、今回は使わない鉱石を倉庫に預けていく。
銀行と言いながら、お金だけじゃなくアイテムも預けることが出来るのだ。お金も預けられる倉庫と言った方が、しっくり来るかも知れない。
ファジマリーで預けたアイテムを、他の町でも引き出せることが出来るって意味では、やはり銀行なのかな。
荷物を預けてアイテム・ストレージを空けると、ロビーの隅に陣取って火薬を作る。
『錬金』は、専用のキットさえあれば、どこででも生産できるのが強みだ。『鍛冶』なんかだと、鍛冶場に行かないと作業出来ないからね。
没頭した。
無心になって生産し続けていたら、いつの間にか弾丸が1000発近くできていた。
材料もなくなって、よいしょっと立ち上がると、すぐ近くで鷹爪くんとスモーカーがニヤニヤ見ているのに気がつく。
「おわっ、いつから見てたんだよ?」
「5分ぐらい前からですかねー」
「もう、趣味悪いな」
「一緒に狩りに行こうと待ってたんじゃないですか」
「あ、ちょうどいいや。スモーカーにいいのがあるんだよ」
「お、なんですか?」
「見て驚け」
海賊から奪った銃を取り出す。
「え?」
鷹爪くんとスモーカーが、同時に氷りつく。
「正真正銘の【海賊のピストル】だー!」
「か、海賊の!?」
スモーカーの瞳がキラキラと輝く。
いいトシしたヤツが、なんでそんなに純粋な瞳が出来るんだ?
「そして、できたてホヤホヤの弾丸、約1000発もセットでプレゼントだー」
「おおっ!?」
銃と弾丸を受け取ると、謎の舞いを始めるスモーカー。
鷹爪くんが何か言いたげにしているが、こないだ【ノーチラス・サイズ】を作ってやったばかりだから、何も言わせない。
「じゃ、ピストルの試し撃ちもかねて、狩りに行きますかね」
狩り場所は、北の森になった。
スモーカーが『格闘』なんていう戦闘スタイルを貫いてるせいで、人型のモンスターが戦いやすいらしい。つまり、ゴブリンね。
森の中いるゴブリンは、みんな金属鎧をまとっているが、それをものともせず、スモーカーは拳を打ちつけていく。リアルなら、拳が砕けているだろ。
鷹爪くんは、扱い辛いと言われている両手鎌を器用に使いこなしていた。
色んなゲームで両手鎌を使ってたせいで、イメージ・トレーニングが出来ていたんだろうか。
自分の身長ほどもある両手鎌をブンブン振り回すと、スポンスポンとゴブリンの首が飛んでいく。スプラッターな光景だ。そして、ニタニタしている鷹爪くんが、本当に怖い。
ちなみに、銃はあまり役に立たなかった。
弾が当たれば、ゴブリンの金属鎧だって貫く威力があるんだけど、単発式なもんだから使い処が難しい。おまけに、1回1回銃の先から弾を込めないといけないのが煩わしい。
「まあ、奥の手ってことで」
苦笑するスモーカー。
なんだか、申し訳ない。誰かリボルバーを開発してくれ。
この日、盾役のハズのオレは、後方からライト・アローを撃つだけで終わってしまった。




