クラーケン
メインで書いてる作品の進行が停滞しているために、こちらもなかなか書けませんでした。
登場人物のモデルになった人物が「早く書け」「自分を活躍させろ」とうるさいので、頑張って書きました。
そのキャラが活躍できたかどうかは、不明ですが・・・。
クラーケン。
古来より伝わる海の魔物。
その正体は、ダイオウイカだとか言われている。ファンタジーにとっては、定番の存在だ。
このゲームではどんな存在なのかは分からないけど、かなりデカいヤツなのは確かだ。少なくとも、ダンジョン・ボスの巨大サハギンよりは大きい。
そんな巨大なモンスターが、この岩礁を目指して迫ってくる。
狙いは人魚の少女、レスフィーナだ。
霧隠さんは自信満々だけど、本当にこんな化け物を倒せるのか?
波の下に、黒々とした大きな影が浮かび上がってくる。
「じゃ、トカゲさん、頼んだわよ」
そう言うと、スウッと霧隠さんの姿が見えなくなった。
「おおぅ、消えた・・」
『反響定位』には、さすがにその姿が映っている。しかし、目では全く感知できない。あの自己主張の激しいボディが、こんなに見事に消え失せるとは!
なんてことに感心している場合ではない。
波を割って、クラーケンが姿を現したのだ。
「うわっ、オウムガイだ!」
それは、巨大な甲殻を背負った漆黒のイカだった。
20メートルはあろうかという触腕の先の鋭い爪と、口と思しきあたりにある巨大な牙が、おそろしく凶悪なオーラを振りまいている。
「げろげろっ」
怪獣としか言いようのない姿を前に、恐怖を通り越して笑えてくる。
きちんと白目と黒目に分かれた大きな瞳が、ギロリとオレをにらむ。知性を感じさせる目だ。その目が、オレを邪魔者として見ているのが分かる。
ゴウッ!
触腕が水面を切り裂いて、飛んでくる。
触腕とは、イカの足の中でも、獲物を捕まえるために発達した2本のことを言う。多くの種類のイカでは、10本の足のうち2本だけが長くなっているのだ。
「うひっ!」
『風車』を発動させて、その攻撃を弾く。
両手槍を握る両手が、激しく痺れた。丸太のような腕を、細い槍で弾いたのだ。ただで済む訳がない。
「こんなの長く保たないよ、霧隠さん!」
クラーケンの大きな目を狙って、『ウォーター・シュート』を撃つ。
イカの目ってのは、不相応に高性能だって話を聞いたことがある。そんな敏感な部分に水の塊をぶつけられたら、それなりにダメージもあるハズだ。
果たして、狙い違わずその目に『ウォーター・シュート』を喰らったクラーケンは、思いっきり怒り狂った。
「あれ?逆効果?」
もう、手がないよ!
(あっちは、10本もあるけど・・・)
2本の触腕が轟音とともに振り下ろされるのを、オレは必死になって避けた。
槍で弾こうなんて試す気にもなれないほどの威力に、岩礁そのものが砕けそうになる。
人魚の少女が岩礁の隅っこでブルブル震えているのが、視界に入った。まずい。下手すると、彼女の身が危ない。
オレは『アクセル・ランス』を発動させた。
触腕を掻い潜って加速されたオレの身体が、クラーケンの目に向かって、一直線に跳ぶ。
ぞぶり。
槍の穂先が、クラーケンの瞳に突き立つ。
巨大サハギンの瞳には傷一つつけられなかったのに、オレの『両手槍』スキルが上がったためか、サハギンよりは防御力が低かったのか、穂先は確かにクラーケンの瞳を貫いた。
ギャオオオオォォォォゥゥゥッッッ!!!
クラーケンが吠える。
とんでもない爆音に、オレは頭を激しく殴られたようなダメージに襲われた。三半規管が麻痺し、上下の区別もつかなくなって、次の瞬間、海中に落下してしまう。
ゴボッ。
あ、死んじゃう。
必死に目を開こうとするが、視界がグルグル回って、何が何だか分からない。
今、クラーケンの攻撃を受けたら、確実にお終いだ。しかし、前後左右はおろか上下までグチャグチャになってる状態じゃ、どうしようもない。
頭の中で、グワングワン音が鳴っている。
オレは観念した。
旅に出て2日目で死に戻りなんて情けないけど、また準備を整えてからチャレンジすればいいさ。
が、攻撃は来なかった。
しかも誰かの手がオレを抱え、海面まで上昇させてくれたのだ。
「トカゲさん、大丈夫?」
霧隠さんだった。背中に、素敵なものが押し当てられている。
「クラーケンは?」
「あたしがヤッたよ。背中から急所を狙おうとしたら、貝殻背負ってるもんだから、手間取っちゃったよ。時間かかって、ごめんねー」
「おおう、そっか。倒したんだ。良かった」
見れば、絶命したクラーケンの身体がゆっくりと消滅していくところだった。
霧隠さんがどんな攻撃を加えたのか、この目で確認できなかったのは残念だ。
つか、瞬殺かよ。
どんな攻撃力してるんだ。
2人して、岩礁に泳ぎ着く。
レスフィーナが、ぽかーんとした表情でオレたちを迎えてくれた。
「おまたせ」
霧隠さんが、少女に笑いかける。
「ク、クラーケンを・・・?」
「あたしたちにかかれば、あんなデカいだけのウスノロ、敵じゃないわよ」
「ホ、ホントに・・・!?」
「そうよー。もう、クラーケンはいないわ」
「う・・、うっ・・」
レスフィーナは霧隠さんの胸に飛び込むと、大声で泣き始めた。
頼もしいぜ、お姉さん。
レスフィーナが泣き止むまで、5分ほどかかった。
「あ、ありがとうございます。ぐすん」
鼻の頭を真っ赤にしてベソをかいている顔が、かわいらしい。
「気にしないで。あたしたちが好きでやったことだから」
「でも、あの、お礼を・・・」
「およ?」
レスフィーナの手の中に、光とともにトランプ大のカードが現れた。魔法スクロールか?
「よろしければ、これを受け取って下さい」
そう言って、霧隠さんに手渡す。
「これは?あたし、『鑑定』スキル低いのよ」
「人魚変化です」
「えぇ~っ!?
もしかして、文字通り人魚に変身できるとか・・・??」
「はい、そうです。いつでも人魚に変身できるようになります」
「はぅっ!!」
霧隠さんが、変な声を出して悶えた。
それから、ハッと気づいたような顔で、オレを見る。
「いや、オレは人魚になれなくていいから・・・」
下半身が魚のリザードマンって、何か新しい生き物になってしまう。
「あ、貴方には、これを」
自分の指にはめていた指輪をはずし、オレに渡してくれるレスフィーナ。
「水妖精の守護指輪といって、月が満ちる毎に1度だけ水妖精を呼び出すことが出来ます。それと、身につけているだけで、水魔法の成長を助けてくれます」
「それは・・・かなり、とんでもない能力なんじゃ・・・?」
青く透き通った、しかしデザイン的にはシンプルな指輪を、オレはマジマジと見つめた。
「お2人とも、わたしの命の恩人です。これぐらいのお礼はさせて下さい」
「そ、そう?悪いわねー」
そう言う霧隠さんの表情は、ニヤニヤとゆるみ切っている。よほど、人魚に変身できるのが嬉しいらしい。
オレにしても、魔法を強化したいと思っていたところだから、この指輪の効果はとてもありがたい。水妖精を呼び出せるっていうのは、よく効果が分からないけれど、ソロ活動の助けになることは間違いないだろう。
「じゃ、早速使ってみてもいい?」
「はい。どうぞ、使ってみて下さい」
魔法スクロールをアイテム使用してから、おもむろに「変身・・・!」とつぶやく霧隠さん。
次の瞬間、そのグラマラスな身体が光に包まれ、下半身のシルエットが大きく変化していく。
「おおっ!?」
光がおさまると、そこには下半身が魚体に変化した霧隠さんの姿があった。
メタリックな光沢を放つ魚の下半身が、不思議とグロテスクさを感じさせず、むしろ艶めかしく見える。
そして、下半身はもちろんだが、上半身の装備も全てはずれてしまった為に、またも砲弾のようなオッパイが、バイーンと・・・
「きゃあああ~~~~~っ!!」
何をどうなったか、次の瞬間、オレは巨大な尾びれで張り倒されていた。
後日、オレは貯め込んでいたアイテムを霧隠さんに送ってもらい、エルフのキャラで受け取った。
リザードマンはそのまま沖へと旅立ったので、町へ戻るという彼女に手持ちのアイテムの発送をお願いしたのだ。
ちなみにリザードマンのオレは、クラーケンの討伐アイテムとしてクラーケン・シールドというゴツい盾をゲットしていた。オレも霧隠さんも『鑑定』スキルが低いもんだから、性能は分からないけど、かなりの一品だと信じている。
クラーケン・シールドをエルフで使うことも考えたけど、結局そのままリザードマンで使うことにした。そのかわり、エルフではクラーケンがドロップしたクラーケンの甲殻という素材で盾を作ることにする。
という訳で、バルカンさんの出番である。
今回は、新しい素材が大量にあるから、盾以外にも何か作ってもらえるかも知れない。
「こんにちはー」
いつもの場所にバルカンさんが露店を出しているのを見つけ、あいさつをする。
「やあ、こんにちは」
「ちょっと色々素材を手に入れたんで、何か作ってちょうだいなー」
「お?どれどれ?」
オレは各素材を1個ずつアイテム化して、バルカンさんの前に並べていく。
「ほ~、大海蛇の素材か。珍しいのが手に入ったんだな」
「海の中専門でやってるからね」
「う、なんだ、それ?」
クラーケンからドロップした素材を見せると、バルカンさんの反応がガラリと変わった。
「クラーケンてのがドロップしたんだけど、オレの『鑑定』スキルが足らなくて、ちゃんとした価値が分かってないんだけど」
「やるやる、『鑑定』やるよ」
バルカンさんの『鑑定』結果は、以下の通り。
〇【クラーケンの皮】ランク4:クラーケンから採れる皮。強靭。
〇【クラーケンの甲殻】ランク5:クラーケンから採れる甲殻。ずば抜けた堅固さを持つ。
〇【クラーケンの爪】ランク5:クラーケンから採れる爪。硬さと鋭さを合わせ持つ。
かなり、いいんじゃない?
他にも、目玉とか牙とかレアっぽい素材もあったけど、それらは霧隠さんに引き取ってもらっていた。オレは、クラーケン・シールドをもらっているからね。
「この甲殻を使って、盾が作れないかな?」
「おう、いけると思うぞ。ミスリルやアダマンには負けるけど、かなり防御力の高いのが作れるんじゃないかな」
「いいねいいね。お願いするよ」
他の素材で作れる物もいくつかお願いし、残りの素材を報酬に当てた。
海のモンスターの素材は、やはり珍しいらしい。バルカンさんも、喜んで引き取ってくれる。
で、バルカンさんもノリノリで製作にかかってくれたので、『採集』と『採掘』で時間を潰す。
完成までに、約1時間しかかからなかった。
超特急で作ってくれたらしい。
〇【ノーチラス・シールド】ランク6:盾。防御力18。
レアでさえないから特殊な性能はついてないけど、防御力はずいぶん高い。序盤の装備としては、頼りになりそうだ。
そこへ鷹爪くんが、やって来た。
「ちぃーっす」
オレが呼びつけたのだ。
大剣を振り回してモンスターと遊んでた途中らしく、早くフィールドに戻りたがってるのが一目で分かる。
「はい、プレゼント」
「え?」
〇【ノーチラス・サイズ】ランク6:両手鎌。攻撃力58。
クラーケンの爪を使って作ってもらった武器だ。
鷹爪くんが、以前にやってたゲームで両手鎌を使うのが好きだったものだから、バルカンさんに無理を言って両手鎌に仕立ててもらったのだ。VRの環境では、両手鎌みたいなクセの強い武器を好き好んで使うプレイヤーは滅多にいないらしく、バルカンさんも作ったのは初めてだったという。
漆黒の長大な三日月形の刃を見て、鷹爪くんの鼻息が荒くなった。
「マジで、これ、もらっていいの!?」
「冗談抜きで使うのが難しいらしいけど、精進してくれたまえ」
「おおおおっ、このご恩は、どこかで必ず・・・!」
ノーチラス・サイズを手にすると、鷹爪くんはニタニタ笑いながら、またフィールドに戻って行った。
「あれだけ喜んでくれたら、悪い気はしないな」
「あはは。両手鎌フェチだからね」
「で、爪が余ったから、こいつも作っといた」
「ほよ?」
〇【ノーチラス・ソード】ランク6:片手剣。攻撃力30。
え。ブラック・ゴブリンズ・スピアーとあまり攻撃力かわらないじゃん。
「バルカンさん・・・、愛してるよ」
「しみじみと言うな。冗談に聞こえなくなるわっ」
リザードマンには負けるけど、エルフの装備もなかなか充実してきた。
こちらでの戦闘も楽しみになってきたぞ~っ!




