第二話
「…………ま、仕方ねえか」
驚愕の事実に落ち込んでいた龍だが、すぐに頭を上げた。すぐさま気持ちを切り替え、立ち上がる。
落ち込んでも仕方ない。ここで落ち込んだところで、元の世界に戻れるわけではない。ならば、元に戻る方法を探しながら、この世界で生きていくしかない。
辺りを見渡し、龍は考え込んだ。
(このままにしとくのは問題か)
ドラゴンの知識から、先ほどまで龍を苦しめていたもの、空中に漂う魔力の元である魔素について引っ張り出す。
この世界にはあらゆる場所に魔素が漂っている。世界には魔法と呼ばれる不思議な力が存在する。魔法を使うには自身の魔力と空中の魔素が必要である。
魔素自体はどこにでもあり、本来は人間に影響のあるものではない。
しかし、洞窟の中にはドラゴンから発生した高濃度の魔素が充満していた。あまりに濃度の高い魔素は人間に影響を及ぼす。
更に、龍はこれまで魔力とは無縁だった。その上で高濃度の魔素を浴びたのだ。動けなくなるほどの悪影響を受けた。
「こう、か?」
龍は自然体で意識を集中させる。すぐさま周囲の魔素が龍の身体に吸収された。
「さすがドラゴンの力。便利だな」
軽く身体を動かす。以前よりもはるかにキレが増している。
ドラゴンの心臓を食べた龍は、細胞レベルから組み換えられた。本来持ち合わせていなかった魔力を生み出す器官が創り出され、ドラゴンから生み出された高濃度の魔素を吸収できるようになった。
大量の魔力が身体を強化させ、あらゆる感覚が研ぎ澄まされた。
「とりあえず、移動するか」
最早この場所に用は無くなった。龍は洞窟の外へと歩いていった。
洞窟を出ると、そこは光のあまり入らない森が広がっていた。
右を見て、左を見て、再び右を見る。更には空を見上げて、地面を見下ろす。どれだけ確認しても、そこは森でしかなかった。
溜息をつくしかなかった。この場所が人里から離れていることは知識として理解していても、実際に目の前の光景を確認すると気が重くなった。
(ここから一番近い街は…………)
頭の中にこの世界の地図を思い浮かべる。色々な情報が含まれる地図だが、街に関する情報は見付からない。どうやら、ドラゴンにとっては人間が住む街など興味が無かったのだろう。
どうしようかと考えていると、鋭くなった耳に何かが聞こえてきた。
「…………悲鳴?」
聞こえてきたのは、女性の悲鳴だった。
「はあ、はあ、はあ!!」
「へっへ、逃げろ逃げろ!!」
「早く逃げないと、捕まっちゃうよ~!!」
深々とフードを被った女の子が深い森の中を走っていく。その後ろを下卑た笑みを浮かべながら男達が女の子を追いかけていく。
少女と呼んでも差し支えないほどの女の子が両手で巨大な剣を抱えていた。少女が持つには似つかわしくないほど無骨な大剣だ。
大剣の刀身は岩の様なもので固められ、まともに使うことも出来なさそうだ。
「おめぇら、遊んでないでさっさと捕まえろ」
男達の後ろをゆっくりと一人の男が歩いてくる。髭を生やし、腰には片手剣が差してある。
男達はこの森の近くに住む盗賊で、後ろの男は盗賊のリーダーだ。いつもは街や移動している商人を襲っているが、今日は森に動物を狩りに来たところで、目の前の少女を発見した。
戯れに追い回していたが、途中で少女の持っている剣に気付き、奪おうと迫ってきた。
「あっ!?」
懸命に森の中を走り抜けていた少女だったが、木の根に足を取られて転んでしまう。持っていた剣は宙を舞い、地面に転がっていく。
「へっへ。追いかけっこは終わりか」
「楽しませて貰おうぜ」
「あまりやり過ぎて壊すなよ」
「いやーーーー!!」
少女に迫る盗賊達。リーダーは倒れた木の幹に座りこみ、懐から煙草を取り出した。少女は悲鳴を上げるが、助ける者はいない。
それでも諦めることなく、少女は身体をばたつかせた。
男達は少女の服に手を伸ばす。これまで盗賊達は多くの女性を襲ってきた。こういった行為には手慣れていた。
もう駄目だ、少女が諦めかけてしまった時。
「ま、見捨てるのは可哀想か」
『ッ!?』
突然現れた龍に、盗賊達は全員驚いていた。声のした方に視線を向けると、頭を掻きながらぼさっと立ち尽くしている龍の姿があった。
男達が我を取り戻す前に、龍が動き出す。龍の身体がぶれて、盗賊達は龍の姿を見失った。
「がはっ!?」
「あぶし!?」
強化された動きで少女を襲おうとしていた男に近づき、しゃがみ込んでいた男の顔に右膝をぶち込む。
ドラゴンの力を手に入れた龍の攻撃力は劇的に跳ね上がっていた。龍にしてみれば軽く移動し、少し力を入れて攻撃したつもりだった。
しかし、結果は予想を大きく上回った。攻撃を受けた男は数メートルほど吹っ飛び、ぴくぴくと身体を震わしながら、意識を失いながら転がっていった。
普通の人間なら、あまりに強力な力に戸惑うだろう。
だが、龍は全く戸惑うことなく動いていく。自分自身でも不思議だが、動くことに問題なければ別に構わなかった。
「ッ!? 野郎!!」
我を取り戻し始めた盗賊達だが、そう簡単に対処できるわけがない。それぞれ武器を手にして龍に攻撃しようとする。
その僅かな隙に、龍は二人の男の顔を両手で鷲掴みする。腕の力だけで頭を地面に打ち付ける。男達は激しく頭を打ちつけられたことによって意識を失う。
「喰らえっ!!」
男達を地面に叩きつけた姿勢の龍に、背後から剣を振り上げた男が襲いかかる。その動きは洗練されたものではないが、これまで無抵抗の人間を襲ってきた盗賊にしてはなかなかの動きだ。
そんな動きも、今の龍には止まっているようにしか見えない。
振り下ろされる剣に向けて、振り向きざまに回し蹴りを入れる。龍の蹴りは刃を真っ二つにして、男の腹に拳を突き刺す。
男は苦悶の表情で崩れ落ち、盗賊はリーダーを除いて全て龍によって倒された。
「お前、なかなかやるじゃねえか」
振り向くと、腰の剣を抜いた盗賊のリーダーが立っていた。
昨日、鬼を狩るゲームを買ってしまいました。
発売日前に体験版をしたのですが、
これがかなり面白く、ついつい製品版を買ってきてしまいました。
読者の中には同じく狩りしている人もいると思いますが、
縁がありましたら、色々手伝ってやってください。
……僕とは分からないと思いますが(゜-゜)
それでは次をお楽しみに~!!