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第一話


 ドン!!


「ってぇ…………」


 上から落ちてきた龍はお尻を強かに叩きつけた。痛みが治まったところで、辺りを見渡す。


「…………洞窟?」


 そこは岩に囲まれた洞窟だった。天井は龍の身長の3倍ほどあり、広さもそこそこある。家具があれば、ここで生活することが出来るだろう。


 とりあえず辺りを見渡してみる。これといって特に目立つ物は無い。視線を下に向けると、何かの骨が転がっている。よく見てみると、おそらく人間のものではなさそうだ。


「何かの動物の……骨……か?」


 目の前がぼやけてくる。呂律が回らなくなり、思考が鈍くなっていく。身体が動かなくなっていき、地面に崩れ落ちた。


(どう…………なって…………)


 現状どうなっているのかを考えようとするが、その考えるということさえ困難になっていく。


 体の感覚が無くなっていく。まるで龍という存在が消えていく様な気がする。


 このまま何も考えることなく、死んでいくかと思われた時、ぼんやりとする頭にはっきりとした声が聞こえてきた。


《我を喰らえ》


(…………)


 聞こえてきた声に反応することさえできない。指一本動かない今の状況では声の指示を受けることなど出来ない。


 それでも頭の片隅で声の指示に従わなければならない様な気がした。


《我を喰らうのだ》


「…………ぁ」


 声に動かされるかのように、微かにだが身体が動いた。まるで声によって力を取り戻したかのように僅かでも意識を取り戻そうとしていた。


 未だにぼんやりとしているが、目の前の地面に何かがあるのが見える。


(…………心…………臓?)


 龍の視線の先にあったもの、それは真っ赤な心臓だった。


 まるで今取り出したかのように新鮮な状態で、微かにだが脈動している。地面から数センチほど浮かび、ゆったりと空中を漂っている。


 龍と心臓の距離はそれほど離れていなかった。おそらく手を伸ばせば届くほどだろう。


 少しずつ、少しずつ手を伸ばす。その動きはかなり遅いが、それでも龍の手は心臓に届こうとしていた。


《そうだ!! 我を喰うのだ!!》


 心臓を引き寄せ、龍は何も考えることなく心臓を喰らった。


 ドクン!!


「――――――――ッ!?」


 心臓を食べた途端、龍の意識ははっきりと戻った。白い靄に包まれるように混濁していた頭はスッキリと目覚め、身体の感覚がいつも以上に鋭くなった。


 そして――――――――身体に激痛が走った。


 身体のありとあらゆる個所が痛み出す。まるで引き裂かれる様な痛みは、龍の意識を再び真っ白にさせた。


 しかし、痛みで再度意識を取り戻す。その繰り返しが龍の精神を崩壊させようとしていた。


《くっくっく!! この身体、我が頂いてやろう》


 頭の中までも痛みで支配されているのに、声ははっきりと聞こえてきた。






「ぐああああああああ!!」


《安心して消えていけ。最強種である我が再び使用してやろう》


 意識の中では、龍が人型をした光の前で黒い雷に拘束されていた。まるで龍を磨り潰そうとどんどん拘束を強めていく。


 このまま消えれば、龍という人格は消えてなくなり、目の前の人型の光に取って代わられるだろう。


 だが、あまりに強力な拘束に抵抗できない。


「ぐ…………がぁ…………あ」


《…………ふん、なかなかしつこいな》


 人型の光は意外そうな声を出す。


 龍を拘束している雷は、人間が耐えられるものではない。たとえ耐えたとしても、数分で魂が消滅するはずだ。


 龍は今の時点で10分以上意識を微かに保っている。




《だが、所詮は最下級種。我の力に勝てるはずが――――――――》


「…………っざけんじゃ、ねえーーーー!!」


《!?》




 最下級種。その単語を聞いた龍は怒りに満ちた叫び声を上げた。


 全身に走る痛みを抱えながら、龍は身体に力を入れる。力を入れることによって更に痛みが増すが、それ以上に怒りが収まらない。


 バリ!! バリ!! バリ!!


《あ、ありえん!? このようなことは、ありえん!!》


 表情は見えないのに、人型の光が驚いているのが分かる。なぜなら、人間である龍が黒い雷を引き剥がそうとしているのだから。


 少しずつ、だが確実に、龍は拘束を外していく。


「うおおおお!!」


 そして、遂に雷の拘束は引き剥がされた。


「はあ…………はあ…………」


《馬鹿な…………》


 肩で息をする龍。その姿を人型の光は呆然と見つめていた。


 信じられなかったが、人型の光はすぐさま龍を再び拘束しようとした。だが、なぜか黒い雷が発生しない。


 何度も力を振るおうとするが、全く発動しない。


「ふう…………」


 息を整えた龍の身体に力が流れ込んでいく。その力は人型の光から流れ出ている。更に周りの空間からも流れ込む。


《な、なぜだ!?》


 力が流れていくごとに、人型の光が小さくなっていく。奪われていく感覚に疑問しか浮かんでこない。


「…………」


 龍が手を前に出すと、突然人型の光を黒い雷が拘束していく。その間も力が奪われていく。


《なぜ我が!!》


「これが最下級種の底力だ、最強種のドラゴンさん」


 信じられないものを見るかのように人型の光、ドラゴンの魂が叫ぶ。先ほどとは全く逆の光景だ。


「この力、俺が頂いてやるよ」


《おのれーーーーーーーー!!!!》


 何かを握りつぶす様に、龍は拳を握りしめた。その瞬間、黒い雷がドラゴンの魂を砕いた。






「ああああああああ!!」


 龍の口から叫び声が上がる。声は洞窟の中に反響し、すぐに消えていった。


「はあ、はあ、はあ…………くっ!?」


 息遣い荒く目覚める。その瞬間、ドラゴンの膨大な知識と強大な力が龍の中に溢れてくる。あまりにも膨大な為、龍は軽いめまいを覚えた。


 ドラゴンの膨大な知識の中には、どうして龍がここに来たのかという記憶があった。


 祖父から頼まれた荷物の中にあった何かを介して、ドラゴンが自分の素体として呼び寄せたことが分かった。


 この世界が異世界であり、基本的な世界の常識が知識の中にあった。ただし、ドラゴンとしての常識であるが。




 そして――――――――元の世界に戻れないことも理解した。




「嘘、だろ…………」


 ドラゴンの知識では、呼び寄せることは出来ても、送り返すことはできない。他に方法があるかもしれないが、ドラゴンの知識の中には無かった。


 手に入れた知識に、龍は愕然とした。




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