STONE:9 炎禍の中で -black volkano-
「よぉっし、私がいっちばーん♪」
と調子をこきながらレルはオアシスに乗り込んだ。ところが……
「街が……燃えてる!?」
燃え盛る業火が街に燃え広がり、伊国の時以上に違和感を感じる。
炎が黒く染まっているのだ。
これも黒水晶の影響なのか………?
「ランの仕業?こんな物騒な真似して……!」
意を決し、彼女は炎の中に突っ込んでいく。
幸いボードの周りにバリアが張られている為熱さは感じなかったが、逃げ惑う人々で視界が遮られる。
クロスナイツの面々もどこに居るのか分からない。
一人でやるしかない……とレルが覚悟した時、聞き覚えのある声がした。
「皆さん、向こうへ逃げて下さい!」
確かこの声は……
「リュリちゃん!ミハイルに…誰?」
「あ、レルちゃん!!」
「先日ぶりだな」
二人と、見知らぬ少年が人々を避難させていた。
橙色の髪の少年は青色のジャージを身に纏い、紺色の眼鏡をかけている。
スポーツ系ともインテリ系ともとれる風貌だ。
「あぁ、俺はトーマ。よろしく。お前の事はミハイルから聞いてる。レル…だっけ?」
「そう。初めまして、こないだは居なかったよね…?」
「あぁ、今回は修行で来たんだそうだ。仲間だから安心しろ」
隣にやってきたミハイルが補足説明する。
「へぇ…とにかく良かった、みんな無事で。ところでナナちゃんは?」
「あぁ、ナナなら…」とミハイルは建物を指した。
そこには、屋上へ登り神の加護で雨を降らせようとしていたナナがいた。
「女神降臨!!」
彼女はひたすら叫んでいた。
神を召喚する魔術は聖魔術の中でも特に成功率が低く、何度も詠唱しないと神は現れない。
「私の炎の魔術じゃ逆効果だから、ナナちゃんに頼んで雨を降らせて貰おうとしてたんだ。だからその間に街の人達の避難だけでもと思って」
とリュリ。
「うぅ…ユキさえ居れば、水の魔術で鎮火出来たのに…」
「そういえば、あいつらは?」
ミハイルが一瞬砂漠の方を見た。
「ねぇ、何か悲鳴が聞こえない?」
砂漠の遥か彼方から人々の悲鳴が聞こえてくる。
「あぁ、聞こえた。シルビア、レーダーの反応は?」
シルビアが青ざめた顔で頷く。
「思った通りだ。あそこに赤い点が見える…」
「この先は確かオアシスだったな…もしかしたらレルが…」
「ボクが行く!」
「俺も行く!」
「なら俺も行くぜ!」
結局レースは中断せざるを得なかった。
「これで皆避難したよね!?」
「よし、消火活動に入るぞ!」
3人は近くにあった消火器を拾い、既に構えていた。
「消火開始っ!」
消火器が白い粉塵を撒き散らし
「旋風<ツイスター>!!!」
それをレルが魔術で拡散させる。
「聖なる力よ、我らに水の恵みを!」
遂にナナの詠唱が成功し、それに呼応するかの様に雨が降り出した。
黒い炎が見る見るうちに鎮火されていく。
その時、後方からユキ達がようやく追いついた。
「レル、大丈夫か!!」
「もう、みんな遅いよー!」
「悪かったな。じゃあ早速手伝うぞ、シルビア、フィル!」
「うん!!」
「おう!!」
3人が合流した所で、更に消火活動を進める。
合計8人で沢山粉塵を撒き散らし消火した結果、小一時間程度で火は消えた。
「ふぅ、皆ご苦労様だぜ」
一同が一息付いた時、ユキはようやくトーマの存在に気付いた。
「トーマ!戻ってきたなら連絡くらい入れとけよ!」
「今頃気付いたのかよ…」
彼らは無邪気な子供の様にはしゃいでいた。
「あれ?二人とも知り合いだったの?」
レルが目を丸くする。
「あぁ、この二人は親友なんだよ」
ナナがレルに説明した。
「へ?」
フィルが空腹を訴えたので、一行は中華料理店を探して歩いていた。
皆先程の騒ぎで疲れたのか、すんなり同意した。
やがて一軒の料理店を見つけ、中に入る。メニューを渡され、8人は料理を注文した。
「じゃ、から揚げ1人前」
「天心飯3つ」
「炒飯2人前」
「あいよーっ」
店主は気前良く返事し、料理をし始めた。
「で、改めて自己紹介だけど」
突然トーマが切り出した。
「俺の名はトーマ・ハウライト。よろしくな」
「で、俺の親友」ユキが割り込む。
「そーそー」
長年の付き合いからなのか、息がぴったり合っている。
「てっきりフィルが親友だと思ってたよ」
「俺の親友はミハイル。な?」
フィルはミハイルに同意を求めた。
「…そうだ」
「ふーん」レルは納得した。
「どうせだから話しといてやるよ。俺達の過去について」
そして彼らは顔を見合わせる。
強火で炒飯を炒める音がした。
「俺達は幼稚園の頃から仲良しで、学園に入学した時もエトワールとエターナルに離れはしたけどクラスはほぼ同じで、それが3年生の頃まで続いてたんだ」
「だけど、ある日トーマが魔術協会からスカウトされて、そこで研修…つまり修行をする事になったんだ」
「そこで修行すると大抵最強の魔術師になれる。けどそこに入るのが超難しくて、ほんの一握りの人間しか入れないんだとよ」
「その一握りが、トーマってこと?」
レルが尋ねると、トーマが頷いた。
「でも修行って言ったら何年もする物でしょ?どうして帰って来れたの?」
「俺もそれが聞きたかったんだ」
レルとユキの質問を受け、再度トーマは口を開いた。
から揚げの香ばしい香りがしてきた。
「俺は協会の元で修行を続けた。魔術の特性、魔力の応用による魔術効果の発展。それを4年生の頃からずっとだ。でも、ある日協会から通告を言い渡されたんだ―――」
トーマは一瞬黙って、言った。
「しばらく学園に戻って、実戦を積んで、自分に足りない物を見つけて来いってな」
「足りない物って?」
レルが首をかしげた。
「具体的に何なのかは解らないが、それを補えって言われた」
「じゃあその足りない物が、学園にあるって事なのか」
学園全体が巨大なエターナル学園。
確かにあそこならば何か見つかるかもしれない。
「で、結局まだ見つかってないの?」
トーマは少し考えてから言った。
「…俺はまだ見つかってないと思ってる。だからこいつら(クロスナイツ)と一緒に来た。そうすれば何か見つかると思って」
「成程…」
と、ユキは腕組みをしながら考え込んだ。
「あ、それとシルビア」
とミハイルが話題を変えた。
「レーダーのアップデート…」
言いながら彼はノートPCを取り出した。
「あぁ、お願いしてたやつね。よろしく」
シルビアはレーダーをミハイルに渡した。
「アップデートするとどうなるの?」
「通信回線で連絡が取れる様になる」
「ふーん」
レルがそう言う間に彼はレーダーとPCをケーブルでつなぎ、大量のデータをやりとりしていた。
数分かかった後にアップデートが終わったらしく、
「出来た」
「これで理事長とも連絡が取れるよ」
「やったね、有難う」
「どういたしまして」
皆はミハイルにお礼を言った。
すると、回転テーブルに料理がやってきた。
テーブルが中華料理で埋め尽くされ、辺りに美味しそうな匂いが漂う。
そして烏龍茶が配られた後、皆は手を合わせた。
「いただきまーす!」
皆は思い思いの品を皿に取り、食べ始めた。そんな中、怪しい行動をする者が一人。
「から揚げは私が独り占め…」
「させるかっ!!」
から揚げを独り占めしようとしたレルをユキが制する。
「わぁぁぁぁ!」
「独り占めなんて卑怯だぞ」
「何でさ!私が一位になったでしょ!」
「いや、あれは消火活動で忙しかったからノーカンだ」
「そんなぁ~」
「俺にもよこせ!」
「ボクもー」
4人が騒ぐ様を、ナナ達が白い目で見ていた。
「……君達、何やってんの?」
そこでレル達は何故から揚げを奪い合っているのか、レースの件と共に明かした。
「そうなんだ…なら追加注文すれば良いのに」
「駄目だ。予算は大切に扱わないと」
「とか言っときながらユキも食い意地張ってるよねー」
シルビアがジト目でユキを見る。
「なっ!!」顔を赤らめるユキ。
その間既にから揚げは最後の一つになっていた。
「レースに勝ったんだから、これは私の」
「んにゃ、俺んだぜ」
「違う、俺のだ」
「もう…みんなでジャンケンしたら?」
リュリの提案で、4人はジャンケンする事となった。
「しゃあねぇなぁ……行くぜ!!」
「最初はグー!ジャンケン…ポン!」
シルビアのみグー、残りはパーだった。
「ちぇっ」
そして再びジャンケン。
「ジャンケン、ポン!」
今度はフィルがチョキで一人負け。
「ちきしょー」
遂にレルとユキの一騎打ちになった。
ただのから揚げ争奪戦なのに、皆が固唾を呑んで見守る。
「最初はグー!ジャンケン…」
するとそこに、
「あ、おいしー」
何者かが現れ、最後のから揚げをつまみ食いしてしまった。
「あぁ?!最後の一つだったのに!!」
「誰だ!」
「あぁ…ごめんごめん。美味しそうだったからつい食べちゃった。じゃあね」
それは良く見ると先程まで探していたランだった。
「ランーーーー!?」
「追いかけるぞ!」
「ちょ、ま、待って!」
そして7人は会計するのも忘れ一目散に飛び出して行った。
一人だけそれに気付いたトーマは冷静に料金を払い、こう述べた。
「おいおい、追いかける前にまず金払おうぜ?」
しめて一万円だった。