STONE:8 砂嵐 -race of dezzart-
砂漠の道は割と単調で平坦な道が続き、序盤は各自さほど差が大きくなる事は無かった。
だが………
「砂嵐だっ!!」
「何っ!?」
突如、4人の前方に巨大な砂嵐が現れた。
砂漠なので予想される事態ではあったが、このアクシデントがレースの勝敗を大きく左右するのだった。
全員砂嵐を避けて回り道する間に、順位が変動したのだ。
現在のトップはユキ、次にシルビア、続いてフィル、レルの順だった。
「食べ放題は俺がもらった!!」
「そうは行かないよ!絶対ボクの物っ!」
シルビアがユキを抜き、大きく引き離す。
「油断大敵だよー?」
「やるか?よし、受けて立つ!」
後部から二人の様子を伺うフィルとレル。
「かなり引き離されてる……」
「俺はシルビアから貰えば良いやぁ~…」
戦意喪失するフィル。フェザーボードも徐々に減速していく。
「そう?ならお店に着いた時に全部食べられてなきゃ良いね!」
減速すれば店に着くのも遅くなる事に気付いたレルは、フィルに忠告した。
しかし、それが命取りだった。
「うぉ、そりゃ困る!やっぱ前言撤回すっぜ!!」
フィルが再度加速する。
「あ~~~~~~っ!」
今更自らの過ちに気付いたレルだった。
「うそ、私ビリじゃん…」
とは言ったものの、ここで挫折すればますます差が広がってしまう。
のんきに弱音を吐いている暇も無いのだった。
「よし、今度こそ本気出してやるんだから!!!」
この暑い中砂漠を全速力で走り去るスピード狂が、そこに居た。
一方、エトワール学園理事長室にて。
「まぁ!一体何処ほっつき歩いてたのよ!?」
ソレイユがまるで母親の如くヨシュアを叱る。
「もう、どんなに心配したか……結婚式も挙げなきゃならないのに」
「ごめんよ、ソレイユ」
「ひっく、えく……」
大人気なく嘘泣きするソレイユだった。
「にしても、そんなに時間経ってたっけ?」
「そうよ、私がレルちゃんを日本からこっちに連れて来てから、いくら経ったと思ってるのよ?」
「いくら?」
「三週間よ三週間!分かる!?」
「なんだ、その程度か…春休み中には終わらせる予定だったんだけど、ちょっと急用が入ってね」
「急用って何よ!本気で心配してたのよ」
つくづく女って鬱陶しいよなーとか思うヨシュアだった。
「でも、無事にレル君を連れて来れたじゃないか」
「貴方に言われた事だもの。失敗する筈無いじゃない」
「ご苦労様。そうそう、僕は君の知らない間も見守ってたんだよ」
「いつの間に…ってそれストーカーって言うのよ?」
「違うよ、君じゃなくてレル君。フォーチュンソードの試練の時、彼女はことごとく運命を変えたんだ」
「そう…私には皆目見当もつかないわ。あんな小さな体で運命を変えてしまうなんて。ひょっとして貴方、何か知ってるんじゃないの?」
「ん?今は秘密にしておくよ」
「何よ、教えなさいよー!!」
「やだね。ふふふふ……」
二人は仲睦まじく追いかけっこをするのであった……。
「引き離されてからそんなに経ってないから、今ならまだ逆転出来るかも………」
レルはまだ希望を捨ててはいなかった。
アクセル全開で砂漠のど真ん中を猛スピードで突っ走る。
それは近くを通りかかったラクダも目を丸くするスピードだった。
「万が一負けたら悔しいし、そろそろ奥の手を使おうかな」
そう言うと彼女は右手に剣を召喚した後、空にかざし呪文を詠唱する。
「竜巻!!」
詠唱後剣の柄から竜巻が出て、彼女はフェザーボードごとその風の流れに乗った。
竜巻で滞空しながら進む戦法を取ったのだ。
「本当は魔力大量消費しちゃうからあんまり使いたくないんだけど…まぁ、この際しょうがないっ!」
上空から3人を追尾し、様子を伺いながら竜巻を進ませる。
「これなら…………勝てる!」
彼女は自身の勝利を確信した。
「そういえば貴方、婚約指輪はどうしたの?」
ソレイユがヨシュアに聞く。彼の指には何も嵌っていない。
「あぁ、それなら」と彼は机の引き出しから小さな宝石箱を取り出した。
「ほら」
「まぁ、そんな所に…」
「傷が付いたり、失くしたりしたら困るだろう?」
「そうね。流石に失くすことは無いと思うけど…」
それを聞き、彼女は安心した。
(本当は嵌めるの面倒臭いからだけど言わないでおこう………)
ヨシュアは心の中で呟いた。
「で、結婚式はいつにするの?」
突然ソレイユが聞く。
「そうだな……まずこの黒水晶の件が片付かないと……」
「あ!」
突然彼女が思い出した様にヨシュアの顔を見る。
「皆を手助けしに行きましょうよ。これでも一応世界の危機なのよ!!」
彼は一瞬呆れた様に嘆息してから、再度真面目な顔つきに戻った。
「それは出来ない。これはレル君達で解決しなきゃならないんだ。国連も警備隊も皆オーラに捕まっちゃったし」
「でも誰かが行かなきゃ、あの子達が……」
ソレイユも負けじと食い下がる。
「これは彼女達で解決すべき試練だ。僕らの手出しは無用なんだよ」
「え?」
「僕らが今出来る事は彼女達をゴールに導く事ぐらいなんだよ」
「そんな……」
そして二人は窓の外を見た。
レルが乗った竜巻は丁度ユキ達が居る地点を通過していた。
「お先にー」
「させるか!」
「えっ」
ユキが竜巻の目めがけて銃弾を撃つ。
縦断は見事に命中し、竜巻はやがて力を失いただの空気に戻った。
それ故に、レルは高速で地上に落下していく。
「わぁぁああぁぁ…」
「トップは俺だ!」
「いいや、ボクだ!」
「ちげぇよ、俺だぜ!」
真っ逆さまに落ちるレルを尻目に、3人が揉める。
そしてフィルは勝負に出ようと魔術を発動した。
「通行止!!」
呪文と共に、3人の目の前に地中から巨大な岩柱が姿を現した。
それは幾つも重なって強固な壁となり、3人の前に立ち塞がる。
「いっそココで道連れにしてやるぜ!」
「ここでそれ!?やり過ぎだよフィル…」
シルビアがぽかんとする。
「仕方無い、ドリフトだ!」
「待ちなよ…」
「ん?」
後方から恐ろしい殺気が立ち上る。
「食べ放題は私の物だよ!!」
「げっ」
3人の隣を高速で走り去り、いちはやく岩柱のカーブに突っ込んだのはレルだった。
その場の誰もが彼女は柱に激突すると思われたが…
「これがドリフトってやつだぁぁぁ!!!」
彼女は微妙にフェザーボードを浮かし、滑らかに重心移動させ、カーブを……曲がりきった。
「何ーーーーーーっ!?」
むしろ激突しかけたのは3人の方だった。
「がっ」
「ぐっ…」
「あ」
「食べ放題は美味しくいただくよ♪それじゃお先にー」
「く、くっそぉ………」
3人は走り去るレルの背中を見つめるしかなかった。