STONE:7 遥かなる旅路 -god knows allover-
宿屋に着き、私達はヨシュアさんに質問攻めしていた。
「で、今までどこに行ってたんだ?」
「内緒」
「おじさんっっ!!!」
ユキがテーブルを叩きながら追求する。
余程ヨシュアさんの事が心配だったのだろう。
まぁ私は今日初めて会ったからこの人がどんな性格してるか知らないけど…
「ずっと帰りを待ってたのに、どうして連絡くれなかったんだ?先生も心配してたぞ」
「ちょっとばかし旅をしてたんだよ。息抜きにね」
「息抜きにね、って……」
みんなが呆れ果てた。
「とにかく、理事長は何か情報持ってないんですか?ランと黒水晶の居場所とか」
「それならレーダーがあるだろう?」
「黒水晶の能力とか」
「さっき見ただろう?」
「ランがどう出てくるか」
「秘密だよ」
「え?」
秘密って…知ってるってこと?
「どういう事ですか、理事長」
シルビアの顔つきが急に険しくなる。
(どうしてヨシュアさんがレーダーについて知ってるの…?)
どうやらヨシュアさんが言ってることは嘘じゃなさそうだし……
「僕は今回の件に関して、何でも知ってるよ。君達がどういう風にこの事件を解決するか、ラン君の出方も、結末も分かる。けどね」
「結末が分かるなら教えて下さい!万が一ボクらが負けるとしても、今なら対策が練れるんですから!」
ヨシュアさんの言葉を遮りシルビアが問い詰める。
「物語の全てが分かったら、それは『物語』ではなく『知識』になってしまう」
「知識?」
「そう、知識。読み終えた本の内容は知識として記憶される。よほど印象に残った物語でなければ一ヶ月程で記憶が消えてしまうんだ」
「それがどうしたんです?ボクらは物語の…え?」
「だから、物語の最後を知ってしまうのと同じことなんだ。結末が分かれば読者は飽きて本を放り出してしまう」
開いた口が塞がらないシルビア。
「という訳で、今僕から君達に告げられる事は何も無い。自分達で解決の糸口を見つけてくれ」
「そんな…」
「弱音を吐かない。それじゃテキストの問題を答えを見ながら解くような物だよ?」
「さっきより分かりやすいけど、納得行かないぜ…」
「という訳で僕は学園に戻るよ。ソレイユも心配してるだろうし」
「先生がどうかしたんですか?」
私は聞いてみた。
「あぁ、君には言ってなかったね。僕とソレイユは婚約してるんだよ」
「こ、婚約ぅぅぅ!!!???」
まさか、先生に彼氏が居たなんて!それも美形な!しかも理事長だって?!
「う、嘘でしょ……?」
「嘘じゃないよ、レル。ボクらも生徒の皆も知ってる事だよ」
「ほへぇ~…」
吃驚仰天だよ。信じられない。
「じゃ、皆頑張って…って言うまでも無いか」
「おじさんは全部知ってるからか」
「じゃあヒントを一つだけ。最後は『浄化』するんだ」
「は?」
「じゃあね、皆」
浄化するって……一体何を?何を浄化しろと?
そう聞こうとしたがヨシュアさんは既にこの場を去っていた。
僕は神だ。
それはこの物語を読む貴方も知っている。
しかし、僕は神だから、君でさえ知らない事も「知っている」
「……で、結局どうしようか」
「一応この後、中国辺りに行こうと思ってる。そこでナナ達と合流したい」
「ナナちゃん達?来てるの?」
「あぁ。俺が伝えておいた。今頃飛行機で先に向かってる頃だろ」
「そっか、また会えるんだ。ってそんなに経ってないけど」
「まぁね。ちょっとレーダーのグレードアップが必要だから」
「パソコンとか持ってくるんじゃねぇの?」
「という訳で、明日から出発するぞ」
「えー……」
もう出発?早いなぁ…
でも、世界を守る為なら、仕方ないか。
あの頃まではそう思ってた。
決戦の前までは。
「じゃ、食え」
ユキがテーブルの上の物をさす。
「え?これ全部良いの?」
「良いのよ、沢山余ってるから。おかずもどうぞ」
目の前に並ぶパスタの山、山、山!どれだけパスタが残ってるんだろう?
「有難うございます!いただきます!」
私達は、道中ユキが黒水晶について聞きこんでいたおばさんのご厚意で、パスタをご馳走になっていた。
「……こんな形で良かったんですか?パスタ」
「ええ、うちの子達はパスタなんかもう飽きたって言って食べないから、助かるわ」
「こっちもお金が無いので、感謝します。では、いただきます」
「うふふ、有難うね」
「よっしゃ!食うぜ!」
「いただきまーす」
と言い皆食べ始めた。…その10分後。
「ちょ、量多くねぇか…?」
みんなで一皿食べ終わると、また新しいパスタがテーブルに運ばれてきた。
二皿目を食べ終わると、一皿。三皿目も同様。
(い、いつまで食べれば良いんだろ…)
そろそろ満腹になった頃、遂にシルビアが音を上げた。
「ご、ごちそうさま……」
「もう良いの?沢山食べないともたないんじゃない?」
「いえ、ボクはもう、十分です…」
「そう?子どもにはこの量は多すぎたかしら」
(多いの自覚してる!?)
「…と言いますと?」
「いやね、独立した息子達はこのくらいで平気で平らげてたから、久々でつい力入れちゃって…」
その常識は一般には通用しないと思います。
「ごめんなさい、おかずだけ食べる事にします」
「そう?ごめんねぇ」
「まぁ、お気になさらず…ごちそうさまでした」
良い頃合いだと思い、私もフォークを置いた。
「じゃあ、明日の朝はパスタじゃなくてピザにしとくわ。それなら食べれるでしょう?楽しみにしといて」
「ありがとうございます!!」
満面の笑みで私達は答えた。
シャワーを浴び、パジャマを借り、私達は床に就いた。
部屋は学園と変わらず、私とシルビアが同室、ユキとフィルが隣の部屋だった。
「ふぅ…もうおなかいっぱいだよぅ」
シルビアが声をかける。
「食べ過ぎじゃない?」
「あはは、もう大丈夫」
「そっか、なら心配無いね」
そんなことを話しながら、私達はいつの間にか寝ていた。
朝日が昇る頃、カーテンが開き、フライパンを叩く音が部屋中に鳴り響く。
「さぁ朝だよ!起きといで」
「はーい…レル、大丈夫?」
「ん?ふぁ…」
生憎私は朝に弱かった。
「よし、食堂行こ」
「ん」
持ってきた服に着替え、私達は食堂に出て行く。
おばさんの宣言通り、朝食はピザだった。
まともなので良かったよ本当。
「うし、今日は完食してやるぜ!」
フィルははりきっていた。
食事を食べ終え、私達はおばさんにお礼を言った。
「有難うございました」
「ピザ、おいしかったぜ!」
「美味しかったです」
「ごちそうさまでした」
「そりゃあ良かった。じゃあ世界平和の為に、頑張りなね?」
ん?世界平和の為?あ、ユキが伝えたのか。
「はい!」
そして私達は別れを告げた。
「さすがにこっからは飛行機を使わないと遠いな」
「やっと飛行機かぁ、疲れた~」
「お前それでも小学生か?年寄りみたいな事言って」
ユキがつついてくる。
「最近走ってないだけだもん!」
いや、これから暴れるから体力は付けとかないとダメか。
そんな事を思いながら私達は最寄りの空港行きの列車に乗り込んだ。
飛行機は順調に飛び、私達ロイヤルフォースの面々は快適な空の旅を楽しんでいた。
勿論予算が無いから安い席ではあるけど。
「現在、乱気流が発生しております。シートベルトをしっかりお締め下さい」
乗務員のアナウンスが入る。
「乱気流?それって危ねぇのか?」
飛行機初搭乗のフィルが質問する。
「うん。こういうときは席を立っちゃいけないんだ」
シルビアが説明する。
「そうか、分かった」
大人しくフィルがベルトを締める。
「でも……妙に揺れてない?」
シルビアが訝しんだ途端、突如機内が大きく揺れた。
「地震か!?」
フィルが突拍子も無い事を言い出す。
「いや、空で地震とか有り得ないって…」
的確にツッコむシルビア。
しばらくすると機内が激しく揺れだした。
「なぁ!これ地震だろぉ!?」
フィルが大声で叫ぶ。
「お客様、お静かに」
あぁ、乗務員さんがこっちに……。
それに呆れて、先程から喋らない左隣に居るユキを見ると……
寝てた。
この期に及んでよく寝れるね…って、ユキが一番先導してたんだっけ。
疲れてても別段不思議では無いかも。
なんか寝顔まで可愛く見えてきた。
―――――じゃなくて。
明らかにおかしいよ、この揺れ…
「どうなってるんですか?一体」
「すみません、さっきから機長が軌道修正しているのですが、制御が効かなくて」
「それってつまり……」
「このままだと、墜落します」
「はぁぁぁぁぁ!?」
すると乗務員は慌てて手元のマイクでアナウンスした。
「皆様、現在軌道修正が叶わず、このままではこの機は墜落します。皆様、座席上部の非常用ベストを着用して下さい」
ベスト?そんな物どこから……あ、何か降りてきた。これか。
「レルも早く着て!」
シルビアが急かす。
「分かった」
慌ててベストを着込む。
何か変だな。
「前後ろ反対だよ」
「あ、ホントだ」
シルビアが教えてくれたので慌てて直す。
そうこうしてる内に機内はジェットコースターの様に前のめりになり、前にあるテーブルに顔がぶつかる。
―――痛い。
しかしそんな不満を吐く暇も無く、突然起きたユキが注意を呼びかける。
「皆、テーブルに顔を伏せろ!!」
ゴォォォォォォォォォォ………
飛行機が陸に墜落し、凄まじい轟音が辺り一帯に鳴り響く。
飛行機が完全に止まった後、皆は飛行機後部の座席から伸びる滑り台を降り、陸の上に立っていた。
地平線を見渡す限り砂漠しか無い。
幸い乗客は全員無事だった。
一方飛行機は右翼が全焼し、黒焦げになっている。
「全員無事か?」ユキが確認する。
「とりあえず」
「大丈夫だよ」
「何とかな…」
「そうか。にしてもこんな所に不時着だなんて、一刻を争うってのに…」
そしてユキはずんずん歩き出し、乗務員と機長の元へ行き、今回の飛行機代を弁償しろと請求していた。
まるで取り立ての業者っぽい…
その間シルビアとフィルはお互いの無事を確認していた。
「何とかお金、返してもらえたぞ」
こいつ、何だか末恐ろしい…。
とりあえず、お金は取り返せた。
しかし此処で油を売ってても埒があかないので、近くのオアシスまで行く事にした。
また歩くのか……
「レーダーで確認する辺り、ここは中国近郊の砂漠みたい。あと3日も歩けば着くよ。黒水晶もそこだと思う」
3日もかぁ……すると、
「皆、フェザーボード持ってるか?」
ユキが妙案を提案した。
フェザーボードとは、チューニング次第で宇宙へ行く事も可能な、スケボーみたいな次世代の乗り物。
魔術で持ち運べて便利な為今では自転車同様に普及している。
「よし、それ使ってオアシスまで競争だ。一位はオアシスで料理食べ放題。それで良いな?」
「良いよ」
「良いぜ」
「えぇー!?」
やられた。よりにもよってこの暑い中レースなんて。
でも食べ放題かぁ…それならやっても良いかも。
すると、皆負けたくないのか、フェザーボードの整備を始めた。
そしてユキが引いた線に沿って皆が並ぶ。
「位置について……3、2、1、GO!」