STONE:2 彼女の試練 -girl is alone-
かつて私が日本で普通に暮らしていた頃。
小学4年生の時、ランという女の子が学校に転入してきた。
私はすぐに彼女と打ち解け、親友の様に仲良くなった。しかし……
それは忘れもしない、小5の冬、魔術発表会。
私は人より魔力を多く持つため、あまり魔力の制御が出来なかった。
そして発表会当日、私は本気を出そうと思って、魔力を制御する装置である眼鏡を外して発表をしようとした。
その時…………
「疾風!」
そう叫んだ瞬間、私の周りから放たれた風は幾重にも集まって嵐となり、近くに居たランが巻き添えにしてしまった。
その嵐の威力は本部のテントを跡形もなく破壊する程のものだった。
同時に、私は彼女のクリスタルも壊してしまった。
とんでもない失敗だと頭では理解していても、成す術が無く、ただ呆然と私は立ち尽くしていた。
すると、周りに居たクラスメイトの皆が、私の事を蔑んだ。「落ちこぼれ」と。
私は、自分の過ちを悔やんだ。
そして、家族に全てを打ち明けた。
母はこう言った。この件についてはなんとかするから、しばらく休みなさいと。
私は言われた通り数日間学校を休み、その後、学校がどうなっているか確かめに行った。
崩れ去った会場は元通りになり、先生達に話が付けられ、全てが元通りになった………筈だった。
しかし元通りになっていない物があった。それは――――――親友との友情、彼女の心。
今まで私に親しく接してくれたランや友達は、誰一人声をかけてくれなくなった。
それどころか私が近づいた途端、無視して私の周りから離れていくのである。
「ごめん」と私は謝った。
「今更何?」親友……だったランは答えた。
「壊したクリスタルはどうしてくれるの」
「それは…」
壊れたクリスタルは元には戻らない。
そこで初めて、彼女の心が二度と戻らない事を悟った。
――――もう、何を言っても聞いてはくれないだろう。
「何も出来ないんなら、あたしの前から消えて、レル」
「レル…?」
「あんたの新しい名前。『落ちこぼれる』からレルね」
それは、胸に突き刺さる、氷の言葉―――。
そこから先は何を話したか覚えていない。
かすかに覚えているのは、彼女に冷酷な言葉を浴びせられた事。
そして………彼女が、学校から姿を消した事。
話によると、彼女は英国に転校したらしい。
もうどうにも出来ない事とはいえ、出来れば彼女の心を取り戻してあげたかった……。
結局、話がついたはずの先生達は私を「クラスメイトのクリスタルを壊した」という事で問題児扱いし、私の周りの平穏は全て崩れ去った。
そんな時、私の家にある人が来る事になった。
彼女の名はソレイユ。
私が学校に行けない間勉強を見る為、そして私に魔術を制御できる力を与えるため、わざわざ外国から派遣されてきたのだという。
それから私の修行の日々は始まった。
まず彼女から新しい眼鏡を手渡された。
「これは?」
「ゼロ式眼鏡。貴方が魔術を調節できるように改良したものよ。毎日この眼鏡をかけて生活しなさい」
「え?でもこの眼鏡、度が……」
「初めてかけたときは度が合わない様になってるの。その内合ってくるから、今は我慢して」
「…………わかった」
結局彼女との修行はこうして私が転校するまでだったので、3か月弱で終わったという訳だ。
にしてもさっき会った「ソレイユ」という先生……外見があまりにもソレイユに似すぎていて、同一人物だと思うのだが。
単なる気のせいだろうか………
そして私がそんな事を思い出しながらランチを食べ終えた頃、シルビアが私の顔を覗き込んでいた。
「ねぇ!!聞いてる!?」
「あ?あぁ………」
「学園初日、どう?」
「うん、すっごく楽しい!みんな優しいし」
「そう?なら良かった」
「ところで………さっきユキが言ってたテストって何だろう」
「ああ…あれね、多分……ごにょごにょ」
「え?!何それ!!」
それを聞くなり私は驚いた。
何でも私は祭壇に赴いて勇者よろしく剣を引き抜くんだとか。
「簡単そうで結構辛いかもよ?」
「そんなの関係無いよ!!」
俄然やる気が出た私はユキ達との合流地点に足を運ぶのだった。
まずは、あいつが剣を扱うに相応しい資質を持つのかどうか、テストしないとな……
ユキがそんな風に思っていた頃。
「ようユキ」
「フィルか。二人はどうした」
「シルビア達?そろそろ来るんじゃね?」
「そうか…ならしばらく待つか……」
すると、文字通り窓から飛び出してレル達がやってきた。
「ちょ、お前ら!?一体どっから出てきて…」
「こ、こんな抜け道使って良いの……!?」
レルは驚きながら聞く。
「あぁ、遅れそうな時は大丈夫だよ。これからはそこ使いなよ」
シルビアは平然として答えた。
「『使いなよ』って…」
思わずふざけるな!……と言いたくなったがユキは諦めた。
「はぁ……もう良い。とりあえず全員揃った事だし、そろそろテストを始めるぞ」
「ボク達って此処にいる必要あるの?」
「俺は関係ねぇんだろ?」
シルビアとフィルが二人同時に言った。
「関係無いがロイヤルフォースのメンバーだしな…一応付いて来てくれ」
「ついてくって………どこに?」
「中庭の地下祭壇」
中庭にある隠し階段を使い、一行は地下への階段を下りた。
「一体此処に何があるんだ?」
「そうか……フィルはまだ知らないんだったな」
「で、テストってまだ?」レルが割り込む。
「まぁ待てって。案内も兼ねて見て回ろう」
ユキが先頭で歩き出す。
まず灯りがともされている書庫に辿り着く。
「ここが地下書庫。学園の中に置いてない禁帯出の本が入ってる」
「へぇ……学園の地下にこんなもんがあったのか」
フィルが感心する。
「ボクも一度ココまで本取りに来たんだよね」
(シルビアが?ココはオレと理事長のヨシュアさんしか知らないはずなのに)
ユキは思った。
「誰に聞いたんだ?この場所の事……」
「え…理事長だよ。行方不明になる前に教えてもらったんだ」
「えぇと……理事長って…誰?」
レルが質問した。
「そうか、お前は転入生だから知らなくて当然か。理事長ってのは今行方不明中の、学園の理事長ことヨシュアさん」
「ふーん……どこ行ったのかなぁ」
「それが分からないから行方不明なんだろ!」
「う……ごめん………」
その一言にレルは気圧されてしまった。
ユキは取り乱した事を反省する。
「いや…俺も言い過ぎた……すまん」
(確かにこいつにとってはおじさんは知らない人だけど、俺にとっては命の恩人だ。そのおじさんが居なくなってしまうなんて………)
彼はヨシュアに対し並々ならぬ恩義を感じていたらしいが、レルは知る由も無かった。
「まぁとにかく、もっと奥まで行こうよ」
「そうだな」
二人が空気を戻す。こんな時に居てくれる仲間は本当に助かる。ユキは思った。
それから彼らは更に進み、歴史的な工芸品などが飾られた展示室に来た。
「ここは?」
「展示室だ。学園内で保存してない物が飾ってある。……とは言っても誰も来ないけどな」
気付けば、フィルが鎧に触ろうとしていた。
「駄目だフィル!それに触ったら………」
「え?」
鎧兜の瞳が突然赤く輝きだし、突如動き出した。
「まずい!奥まで逃げるぞ!!」
全力疾走する4人。
しかし鎧も負けじと追ってくる。その差、約3メートル。
おまけにここは狭くて暗い一本道の通路なのでかなり逃げづらい。
ギリギリ次の部屋に入り、重い扉を何とか閉め、逃げ切った。
「ふぅ~、危なかったぁ……ちょっとフィル!」
シルビアがフィルに説教する。
「ああ、すまねぇ。次は気ぃつける」
「全く………」
呆れて言葉も出ない。
「ところで……鎧兜は扉の向こうに居るわけでしょ?帰れるの?」
「それなら心配いらない。この先にもう一つ裏口があるから、そこから旧校舎前に出られる」
「ふぅ……閉じ込められたままだったらどうしようかって思った」
レルが胸をそっと胸を撫で下ろす。
「さて、いい加減テストを始めるか……」
そう、彼らは既に地下祭壇の最深部に来ていたのだ。
「よし……準備オッケーだよ!」
レルが意気込んでいる。
「なら早速行くぞ。それはな……」
「うんうん」
「ここに刺さってる剣を、進化させる事だ」
「………今、何て言った?」
「だから、この剣を『進化』させるんだ」
「はい?」
「だから!!」
「え、引き抜くだけじゃないの!?」
極端に狭い部屋の中でレルが叫ぶ。彼女の声は全員の鼓膜によく響いた。




