STONE:1 始まりの予感 -first inspiration-
今までのことは全て忘れよう。
ここで居場所を見つけるんだ。
もう―――何も恐くない。
さぁ、仲間を信じて。
自分と剣を信じて。
黒水晶は、私が壊してみせる。
春のとある日、緑髪で眼鏡をかけた少女ことレイ・エメラルドは、私立エトワール学園の門の前に立っていた。
そもそもどうしてこんな流れになったのか。時は数日前に遡る。
それは彼女と両親が話をしていた時のこと。
彼女に対し、父親が言った。
「さ、お前一人で外国にホームステイだ」
「外国ぅ!?」
「今時留学なんてよくあるだろ」
「えー……」
「実はな、英国の学校からお前に案内状が来てるんだ。待遇も良いらしいし、損は無いと思う」
「お誘い?うーん……だったら行く」
「本当に行く気なの?レイちゃんまだ小学生…」
「行かせてやれ。もう6年生なんだし1年くらい大丈夫だろ」
「――本当に行くのね?」
「もちろん!」
彼女は元気良く答えた。
「いってきます!!」
荷造りを終え元気いっぱい家を出た彼女を、一人の女性が待ち構えていた。
「ソレイユ……貴方はもう来なくて良いんだよ」
ソレイユと呼ばれた桃髪の女性は彼女に言った。
「いいえ、今日は貴方を英国に送る為に此処に来たの」
「…送別のつもり?」
そうね、と返しソレイユは彼女と共に家を後にした。
あくる日、英国に建つ私立エトワール学園では、少年少女3人が話し合っていた。
「今日新しいメンバーが来るんだって」
「へぇ、どんなやつ?」
金髪の少女が手にした写真を赤髪の少年に見せる。
「ほら、これ見て。名前は…レイ・エメラルドだって」
(まさか……嘘だろ)
微かに、黒髪の少年がその名前に反応した。
そんな事には目もくれず赤髪の少年は呟いた。
「面白そうなヤツだと良いな」
「いや、そいつは――」
「ユキ?この子知ってるの?」
金髪の少女は写真から目を外し、ユキという黒髪の少年に問う。
「あ、いや…何でもない」
「そう…まぁ、どんな子かは会ってからのお楽しみだね、フィル」
少女にフィルと呼ばれた赤髪の少年が頷いた。
「っし――行くか!!シルビア、ユキ」
「はーいっ」
「それはオレの台詞だ」
シルビアという少女とユキがそれぞれ受け答えた。
キーン、コーン…
始業式の始まりを告げる鐘が鳴り響く。
3人は式が行われる講堂へと急いだ。
そして場面は冒頭に戻る。
学園にそびえる正門を見て一人驚く少女。
「でかっ!!さすが英国一の私立学園ってだけはあるなぁ…」
彼女が正門の高さに驚いていると、後ろから誰かが肩を叩いてきた。
「貴方……レ…いや、新しく来た転入生…さん?」
長い桃髪に帽子を被り、赤縁の眼鏡をかけた、柔和そうな女性が声をかける。
「あ、レイ・エメラルドって言います。レルって呼んでください。貴方は…?」
(この人、ソレイユと同一人物……?)
ソレイユの身なりは、レルを英国に送り出した女性と全く同じ面影があった。
「私はソレイユ・ローズクォーツ、貴方のクラスの担任よ。あと、もう始業式始まってるわよ」
「わ!?急がなきゃ!!」
「ふふ、私が案内してあげる」
レルは時刻が9時を過ぎている事に気づき、ソレイユに連れられ講堂へと急いだ。
何とか式に間に合ったレルは、ほっと一息ついた。
そして始業式が終わった後、彼女はソレイユに呼び出された。
「えっと……私どこのクラスなんですか?ソレイユ……先生」
「その前に、貴方には一度来てほしい場所があるの」
「ちょ、クラスは…??」
「そんなの後、後!ほら、みんなが待ってるわ」
レルはソレイユに無理矢理ある教室の扉の前まで連れて来させられた。
扉には看板がかかっている。
「ロイヤル……フォースぅ…?」
「此処が今日から貴方が入る部活よ。クラスはまた後で教えてあげるわ。まずは皆にご挨拶」
「え?え?何がなんだか……」
「ほら、扉を開く!」
レルは言われるがまま扉を開いた。
すると、彼女の頭上に大量の紙吹雪が落下する。
「ようこそーーーーーーーーっっっっっ!!!」
金髪を二つに結んだ、元気一杯の少女が叫んだ。
少女はすかさずレルに近寄り、無理矢理手を取るなり、挨拶した。
「君がレイっていう子??初めまして!ボクはシルヴィ・E・カーネリアンって言うんだ。シルビアって呼んで?じゃあよろしく!!」
彼女のマシンガントークに気圧されたが、レルはとりあえず質問してみた。
「えっと…キミ男の子?」
「え?女だよ?てゆーかキミこそ男の子っぽいけど……」
確かにレルも半ズボンを履いており、中性的な格好をしていた。
「私も女だよー」
レルは変な汗をかき、質問した。
「ところでこの紙吹雪は一体…?」
さっきまでレルの顔を見つめていた黒髪の少年が彼女の前に立ちはだかり、答えた。
「……始めに言っておく。お前は今日からこのロイヤルフォースの一員だ。そしてオレがリーダーのユキ・サファイア。で、その紙吹雪はこれのせい」
彼は手に持っていたクラッカーを指差す。
どうやら、レルを歓迎するために3人で用意したらしい。
そして彼の顔を見るなり、レルは一瞬目を疑った。
(あれ?この人どっかで会ったことあるよーな気が……)
レルは小声で聞いた。
「あの…どこかで会った事とか、ない?」
「――その話はまた後で」
ユキは少し間を置き、返した。
(……???)
彼女の脳内はクエスチョンマークの嵐になった。
「…? ところで、どうして皆私の名前知ってるの??」
「それはこの写真に名前が載ってるから。あ、オレはフィリップ・ガーネット。フィルって呼んでくれ」
フィルが写真を差し出す。
レルはそれを見るなり驚いた。
「わぁっ!?ホントだ、ってかこんな写真いつの間に……??」
「まぁまぁ、ココも個性的な子達がたくさん居るから、直ぐに慣れるわよ」
ソレイユが割って話に入る。
「っていきなりそんな事言われても…一体、何をすれば良いんですか?」
「そうだな……まずはお前の力を見せてもらおうか」
「へ?」思わずレルが聞き返す。
「オレ達はこの後新しいクラスで話を聞かなきゃいけない。それが終わったらもう一度ココに集合。お前の力量をテストしてやる」
「ん…分かった……じゃあ私からも一つ言わせて貰って良いかな??」
「何?レイ?」
「皆さ、私の事『レイ』じゃなくて、『レル』って呼んでもらえる?」
レルはソレイユに連れられ、3人と共に6年Sクラスに入った。
「この学園は能力別にB、A、Sとクラスがあって、原則ロイヤルフォースはSクラスになる事が決まってるの」
「それってつまり…みんなと毎日一緒、って事??」
「そうなるな」
「よろしくね、レル♪」
「わぁ…すごい事になりそう…」
レルが呆れた。
「どういう意味の『すごい』だよ」
フィルが口の端を曲げる。
「ボク友達にも彼氏にも囲まれて幸せ♪」
「え…シルビアって彼氏とかいるの?」
レルが思わず聞いてみる。するとフィルが自ら名乗り出た。
「オレが彼氏。親公認の」
「学園中のみんなも知ってるよ♪」
「えーーーーーーーっ!?」
「うるせぇ!お前声でけぇな」
「っていうかそれ自慢していいの?」
思わずレルが突っ込む。
「いーのいーの!」彼女は笑った。
(なんだかとんでもない一年になりそう……だけど、今度は絶対あの時みたいな事にさせるもんか!!)
レルは「あの時」について思い出し、そう胸に誓ったのだった。