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Royal Crystal  作者: 碧流
Ⅰ:JewelCrysis
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FINALSTONE 五風十雨 -rainbow-

 しばらくすると病室のドアが開き、ヨシュアが訪ねて来た。

「お目覚めの様だね」

「ヨシュアさん……」

 レルは病室の入り口に向き直り、軽く目礼した。

「皆君達の事を心配していたよ。それに、病室も二人一緒にって院長にわざわざ進言してくれたんだ。皆には後で感謝しておいてね」

「そう……なんだ……ありがとうございます」

 ヨシュアは近くの椅子を引き寄せ、ベッド脇に腰掛けた。

「実はさっきまで皆と情報共有してたんだけどね」

 彼は話を先程の会合に切り替え、その旨を伝えた。

「え……ナナちゃん達とトーマとランが、ジュエル所有者に?」

「うん。だからラン君とトーマ君を学園に迎える事にしたんだ。ロイヤルフォースに加わるかどうかまでは分からないけどね」

「そうですか……楽しみだなぁ」

 レルは安堵の笑みを浮かべた。

「ところで、私途中で記憶が無くなってて…あの後何があったんですか?」

「それなんだけどね……君はユキ君と一緒にここに運ばれてきたんだ。二人とも損傷が激しくて集中治療室に回したけど、特に彼のジュエルは黒水晶との同化がかなり進んでて、分離するのに相当な時間を要したんだ。普通なら奇跡でも起きない限り後遺症は残るはずなんだけど……」

「もしかして」

「そう。……君の願いのお陰でね」

 レルはきょとんとした。

「君の魔術にはみんなの想いが込められていた。君達の、いや、君の信じる力が、黒水晶の侵蝕をほぼ食い止めてくれたんだ」

「………」

 レルは自身の手をみつめた。夢の中、現実でもユキと繋がれた右手。

「勿論、手術は大成功。ユキ君もこの通りさ」

 と、ヨシュアが真剣な顔つきになった。

「さて、ここからが本題だ。君に知っておいて欲しい事がある」

「スノウの事……ですか」

 レルは感づいた。

「そう。今から話すのはユキ君の『生前の』話―――」


***

 八年前、魔術のないとある世界に、蒼海そうみゆきという少年がいた。

 ごく普通に学校に通っていたが、ある時彼は「その世界には存在しないはずの力」を発動させてしまった。

 彼はその能力により世界を危険に追い込んだ。が、そこに「ある少女」が立ちはだかった。

 少女は少年への想いゆえ、彼の苦しみを癒す為に彼の命を摘んだ。

 そして世界は在るべき姿に返り、命を落とした少年は冥界に行く直前、現れた一人の神により魂だけ別世界に運ばれた。

 二人が辿り着いたのは「水晶世界」。かつて氷の帝王が世界を支配していたが、十色の光(ジュエル)と神の力によって封印され、少年の姿となり遺跡で眠りに就いていたのだ。

 神は肉体を失った魂を帝王の身体、すなわち器に宿し、帝王の心が目覚めぬよう術式の書かれた包帯「呪布」を彼の胸に施した。

 そして少年は転生した代償に、左目の視力を奪われたのだった――。

***


「それがこの話の顛末。少年ってのが君の隣に居るユキ君のことで、氷の帝王はスノウ、神は僕のこと」

「……?じゃあ『その世界に存在するはずのない力』って…」

「魔術の事だよ。彼が元々生きていた世界に魔術は存在しなかったからね。そうだ、彼は生前の事は覚えて無いからくれぐれも聞かないであげてね」

 ヨシュアは微笑み、そして

「あと、この件は僕と君とユキ君だけのひみつ。他言無用でお願いね」

「はあ……」

「じゃあ僕はおいとまするよ。レル君、どうか行をよろしく」

 立ち去る間際、二人の中のジュエルに黒い影がちらついたのを、ヨシュアは見逃さなかった。



 ふっくらしていてあどけなさの残る、小さな温かい手。

 彼はゆっくりと上体を起こし、その手の主――レルを観察した。

 つきっきりで看病してくれたのか、それとも疲れているのか、彼女はベッド脇ですうすうと寝息を立てていた。

 左手は何故か腹部を押さえている様子だったが……。

 時計の針は午後10時を回っていたが、日付までは分からない……一体どれくらいの間、意識を失っていたのだろうか。

 彼に残されていた最後の記憶は、レルがスノウを倒した直後まで。

 そこから先は、同化していたスノウの、氷の様に冷たく禍々しい意識に飲み込まれて……。

 ユキは頭を振った。思い出しただけで気が狂いそうだった。

 果てしない絶望、孤独、闇――。その全てを理解する事は、今の彼には到底不可能だった。

 周りはどうか。確かあの場にはランが居た筈だ。レルとランあいつらは仲直り出来たのか?……後でおじさんにでも聞いてみよう。

 ふと、胸に巻かれていた呪布を見てみる。いつの間にか新しい物に取り替えられていた。

次いでジュエルを取り出し確認するが、黒いもやが多少見えただけで特に外傷は無かった。そうこうしている内に、レルが目を覚ました。



「むっ――ん?」

 目が覚めた時、私の目の前にはユキが居た。……正直、夢かと思った。

「ユキ……?」

 ユキが目覚めた事をまず喜びたかったが、彼は意外な言葉を口にした。

「……あれは告白なのか?」


「へ!?」


 まさか、水晶塔の件――聞かれてた!?

「全部聞こえてたぞ」

「聞かれてた?!」

 知らない内に考えが言葉に出てしまったらしい。なんて事を………っ!

 確かにあの時二度と喋れない気がして、とにかく気持ちを伝えようと感情が先走って………。

「……悪いが、お前に対する恋愛感情はない」

 ――ほら、思った通りだ。

「でも……」

「え?」

「記憶は曖昧だけど……昔、お前に良く似た奴に世話になった気がするんだ。だからそいつに恩返しする為にも、パートナーとしてだったら」

「だったら……?」

 ユキは透き通った顔立ちに微笑を重ねた。

「いつか、そいつに会える時まで」

 一瞬、私の全思考が停止した。

「え……?ほんと……?嘘じゃなくて?」

「嘘なんかついてどうする。本気だ」

 するとユキは私の手をとり、


「一緒に居て欲しい」


 それから二人は肩を組み、互いに支え合う様にして窓際に近づく。相変わらず雨が降りこめていたが、夜空には朧月が輝いていた。


***


 翌日。前日と同じく、英国の空にはしとしとと雨が降っていた。そんな中部室では、

「レル――っ!ボクずーっと心配してたんだよーっ!!」

「ごめんごめん。でも、もう大丈夫」

シルビアをなだめながら、レルはユキを一瞥した。フィルがユキの首をしめている。

「全快祝いだぜ!!」

「痛い!痛いって……」

ユキは苦笑しながら、それでも嬉しそうだった。すると、ヨシュアが部室にやってきた。

「やぁ二人共。調子はどうだい?」

「バッチリです!!」

レルとユキがハモって答えた。

「それは良かった。今日は本物の運命を覆す者フォーチュンカウンターが誰か判ったから、それを伝えに来たんだ」

「誰なんですか?」

ユキが真っ先に質問した。

「君だよ」

「……え?」

ユキは戸惑った。

「レル君のお陰で特定に時間はかかったけど、今度こそ間違い無い。君こそが『運命を覆す者』だ」

「そっか……ユキが……!」

すると。

「にゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「わっ、ちょっ、待てぇぇぇ!」

突如黒猫が部室に駆け込み、後から来たランがそれを追いかけてきた。

猫はしなやかな動きでランのタックルをかわし、何故かヨシュアの腕に収まった。

ランは勢い余ってそのまま壁に激突した。

「痛っ!!」

「にゃあぁぁ……」

もう安心、と言った具合に欠伸をする猫。

「あいたた…先生!私のジュエルが黒猫に!!」

派手に打ち付けた頭をさすりながら、彼女は黒猫を指差した。

「???」

ヨシュア以外、一同困惑する。

「ごめん。聞き忘れてたけど、君…ひょっとして黒水晶を作る時に、黒猫を材料にしなかったかい?」

「しました。魔術書に書かれてたんで」

「多分それだ。黒水晶が浄化された時、黒猫ごとジュエル化したんだ」

「えぇぇぇ?!」

一同、ますます驚愕。

「という訳で、この子に名前を付けなきゃいけないね。首輪に黒のジュエルが付いてるから……そうだなぁ」

「『チョコ』なんてのは?」

レルがすかさず叫んだ。

「ちょっとイメージが違うかな…」

ランが思案する。

「面倒くせー!『クロ』で良いじゃねーか!」

フィルが自信満々に発言するも

「安易すぎ。却下」

フィル涙目。

「なら『ノワール』なんてどう?」

いつの間にかクロスナイツの3人と戸口に立っていたソレイユが提案した。

「や……仏国語で黒って……」

すると、唐突に

「宝石……『ジェム』とかは?」

トーマが入室するなり叫んだ。

「おぉ、それ良い!!」

彼のセンスが気に入ったのか、ランが目を輝かせている。

「よし、じゃあ今日からお前は『ジェム・ブラックフラッシュクリスタル』に決まりだな」

「よろしく、ジェム」

ランがジェムの頭を撫でた。

「みゃぉーん」

満足そうに鳴くジェム。

と、突然ジェムがヨシュアの腕を飛び出した。

ランが慌てて追いかける。

「ジェム?何処行くの?」

ジェムはベランダの外に出て、立ち止まった。

「ジェム、危な……」

「あ!!」

後ろから来たレルが、不意に空を指差した。


雨はいつの間にか止み、眼前には鮮やかな七色の橋が空に架かっていた。

中に居た全員がベランダに出て清々しい空を見上げ、美しい虹のアーチに見惚れた。


「………綺麗だね」

レルが思わず呟くと

「あぁ………そうだな」

ユキが同意した。


青く澄んだきらめきの空の下、二人はどちらからともなく、自然に手を繋いでいた。


ベランダの後方で、ヨシュアが一冊の本を開き、人知れず呟いた。

奇跡の主ワンダーワーカー、レイ・エメラルド。彼女は自分自身を信じた瞬間、奇跡を起こす。そして運命を覆す者フォーチュンカウンター、ユキ・サファイア。彼は極限の状況でのみ、その力を発揮する。か――」

そして、彼は微笑んだ。

「彼らがどんな運命を紡いでいくのか、これからが楽しみだ――」

彼もまた、青空の虹を見上げた。


JewelCrisis 了

ロイヤルクリスタル第一部、これにて完です。

この小説のプロットを書き上げたのが中学生の頃だったのでお見苦しい点も多々あったとは思いますが、それなりに楽しんでいただけたら幸いです。

しかし個人的にまだまだ追加したいエピソードなどもあったのでひょっとしたら加筆修正するやもしれませんので悪しからず。

現在は「帝国の月」がメインな為更新は亀並みに遅いと思いますが、次回も気長にお待ちいただけたらいいなという所存です。

ご精読ありがとうございました。

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