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Royal Crystal  作者: 碧流
Ⅰ:JewelCrysis
16/18

STONE:16 雨の中の冷戦 -you are …-

一方、雨に濡れたトーマの元に、塔の窓から飛び出した氷のつぶてが降り注いでいた。

「これって、ひょう……いや、みぞれか?」

 上空の霧雨と混じった氷がみぞれとなって降ってきたのだ。彼はそのみぞれを一掴みし、塔を見上げた。

「嫌な予感がする………」


 フォーチュンソードが折れた。スノウは微笑を浮かべている。レルにこれを直す手段は無い。


(一体、どうすれば良いの……?)


 自問自答を繰り返し、レルはふと我に返った。スノウが手首に隠していたアイシクルダガーを突き出す。

「戦闘中に気が抜けるとは、我をかいかぶっているのか?」

 レルは右手にスターライトソードを構え、斬撃を受け止めた。同時に、心の中で呟いた。


(私にもっと、力があれば…!!)


「星のペンダント――」

 服に隠していたペンダントを握り締め、強く想いをこめる。するとそれに呼応するかの様に、ペンダントと、ランの持つ太陽のネックレスと、スノウ(ユキ)が持つ月のロケットが一斉に光りだし、レルの前に集う。

「この光は……あの時の…!」

 スノウは眩しさで目を細めたが、その瞳の奥には深い憎しみが見え隠れしていた。光はレルと折れたフォーチュンソードの破片を包み込み、さらに輝きを増していく。次の瞬間、レルは新たな衣装……星気体甲冑アストラルアーマーを纏っていた。

 手足に銀の籠手をはめ、青緑色のケープを羽織り、白いコートが夜風にはためく。先程受けた傷も癒え、フォーチュンソードはスターライトソードと融合し、新たな形に生まれ変わっていた。

 新しい剣の刀身はミント色の結晶で象られ、アルファベットが刻まれていた。そこに書かれていたのは……。

「なにこれ……スター…ゲイザー?」

「貴様、まさか奇跡の主(ワンダーワーカー)か!!」

「ヨシュアさんが言ってたの……どうして貴方が知って」

「許さん!我の前に散れ!!」

 スノウは彼女の言葉を遮り、スターゲイザーを床に弾き飛ばした。

「わ、ちょっ!?」

 落ちたスターゲイザーがひとりでに光り出し、スノウが後ずさる。

「神の後光……!」

「あの、魔術を使った覚えなんて無……」

 レルがたじろぐ間、スノウが体裁を整えようとしていると、

『出て行け!!』

 彼の脳裏に凛とした声が響いた。

「貴様、我に刃向かうとは――強情な奴め!」

 スノウの中で二つの意識がぶつかり合う。

『ここでくたばる訳に行くか!』

 現実ではスノウが頭を抱え、呻き始めた。白髪が漆黒に染まっていく。

「ううぅ…ぐああああぁぁ!!」

 苦しそうに顔を歪めるスノウ。この隙にとレルはスターゲイザーを拾い、すかさずスノウへと切っ先を向けた。瞬間、彼女の目が見開かれる。

「ユ、キ……?」

「無事か?レル……」

 彼女の前に居たのは、いつもと変わらない――黒髪碧眼の――ユキだった。

「ほんとに…ユキなの……?」

「――今はな。けど、こうしてられるのも時間の問題だ……」

 胸に手を押し当てるユキ。まだスノウの意識とせめぎ合っているのかもしれない。

「スノウって何者なの?ユキとどういう関係なの……?」

「あぁ……手短に話すと、この身体は元々俺のじゃなくて、スノウの物なんだ」

「うん、さっきスノウが言ってた……」

「諸事情で、今までは俺がこの身体を受け継ぎ、スノウの意識は眠りについていた……はずだった。でも、スノウの封印をランの黒水晶に破られて、それが……」

「それが、スノウだったと……」

 レルの答えに頷き、ユキは己の胸を指差した。

「こいつはランに変わってマスタークリスタル共々世界を支配しようとしてる。……そこで、お前に頼みがあるんだ」

「………何?」

 ユキはレルの目を見据え、言った。


「マスタークリスタルを浄化しろ。そして俺を―――倒せ」


「―――え?」


 俺を倒せ。レルの脳内でユキの言葉が反芻される。言葉の意味が解らず、頭の中が真っ白になった。

「ちょ、待ってよ、どうして私がユキを……」

「こいつが完全に復活すればどの道俺は消える……だからその前にこいつを止めなくちゃいけない。もしもクリスタルがスノウの手に渡れば――取り返しのつかないことになる」

「だからって……!」

 想い人をこの手で倒せと言うのか。言いかけてレルは口をつぐんだ。

「一刻を争う事態なんだ!フィルもランも怪我してる。今動けるのはお前しか居ないんだ、レル!!」


 確かに今動けるのはレルだけ。しかも三種の神器の力で憑依武装の上位互換、星気体甲冑を纏っている。しかし、彼女の心は想い人を救うか世界を救うか……究極の選択を迫られ、その狭間で揺れていた。

 だが時間に限りがある以上、彼女は決断せねばならなかった。悩んだ末、彼女が導き出した結論は。


「わかった。……その代わり、最後は一緒に帰るんだよ……!」

「……あぁ」

 それが実現しそうにないことはレル自身が一番よく知っていた。その上で自分に言い聞かせるように、悲壮な決意で叫んだ。

「もちろん、だ……」

 そう答えるユキの顔は曇っていた。

「ぐうぅぅっっ……!!」

「ユキ!?」

 彼の澄んだ蒼色の瞳に紅色が混じり、混沌の紫に染まる。スノウが表出しかけているらしい。

「俺の事は気にするな、とにかくこれを……!」

 ユキは懐からアクアリボルバーを取り出し、震える手でレルに差し出した。

「武器が無いと魔術も使えないだろ……黒水晶を二つ共壊すには、同時に魔術を発動させるしかないんだ……」

同時魔術デュアルスクリプト――?」


 かつて学園の授業で習った「同時魔術デュアルスクリプト」。伝説の賢者にのみ発動する事が許された、「上位魔術を二つ同時に発動する」魔術。


「……正解だ。星気体甲冑を纏ったお前なら、同時魔術も使えるはずだ」

 レルは右手に剣を、左手に銃を装備した。ところが、それきり彼女は動かなくなってしまった。

「どうした?早くしないと、スノウが……」

「……きないよ」

「え?」

 レルの頬に、一筋の涙が零れる。

「できないよこんなの!どうして私達が戦わなくちゃいけないの!?やっぱりおかしいよ!!」

 声の限り叫んだ。この呪わしい運命に。

「どうして……どうしてっ!!」

「馬鹿、早くし……うっ!?」

 不意にユキの心臓が強く鼓動したその時、瞳が紫色から完全な紅色に染まった。

「レル、危ねぇっ!!!」

 不意に、フィルの声が響いた。

「えっ!?」


ガァン


 気付かぬ内に、レルの左腹が銃弾で貫かれていた。

「っ……あ……」

「戦闘中に余所見など言語道断」

 レルの前に居たのは、再び表出したスノウだった。レルの注意が逸れた隙に、彼女からユキのリボルバーを奪っていたのだ。

「くく、何処までも愚かな奴め!所詮貴様は自分自身を信じられぬ限り、何も出来ぬのだ!」

「信じなければ…何も……?」

 呆然自失のレル。その様子を見たスノウがアイシクルダガーから吹雪を発生させた。

猛吹雪ブリザード!!」

「うわあぁぁぁぁ!!」

 レル目掛けて襲い掛かる猛吹雪。彼女の身体を柱に叩き付け、そのまま手足を凍らせて拘束する。

(身体が……動かせない……)

 柱に縫い止められ、反撃不能になったレル。そんな彼女を見据えながら、スノウが彼女の元へ歩みを進め、彼女の頬のすぐ横にリボルバーの弾を撃ち込んだ。

「ぐ……」

「レル!?」「てめえ!!」

 フィルとランの叫びを無視し、レルの首に手をかけたスノウが彼女に告げる。

「奴はお前の存在を認識している間、我の意識を飲み込む程に情動が活性化する。少なからずお前に気があるらしいな」

「何を……言って……」

「ならば、お前の命を奪えば奴が覚醒することは無くなるだろう……そして、我が宿願は達成される……!」

首筋にスノウの指先がますます食い込む。

「か、は……っ」

(このままじゃ、みんな助けられなくなる……)

 スノウがリボルバーをダガーに持ち替え、身動きの取れないレルのケープを破り捨てる。ケープごと下の布地まで引き裂かれ、彼女の鎖骨の辺りが露わになった。

「たかだか十年そこらか……短い命だったな……その肉体の奥に息づく結晶、命の灯火もろとも、我が粉々に砕いてやろう……その器は我が然るべき在り方に戻してやる……」

 スノウの囁きと共に、レルの胸元にダガーの冷たい刃先が触れる。

(まだ、ちゃんとランに償えてないのに……)

 その様子を唇を噛み悔しそうに見つめるラン。

(みんなとの思い出も、なくなっちゃう……そんなのやだよ……)

 学園に来てから作った楽しい思い出、かけがえのない繋がり。

(いや、だ――)

 レルの脳裏を、ユキの横顔がかすめた。

(しにたく、な――)

 ダガーはそのままレルの身体を――貫くことはなかった。


「何故……だ……!?」


 スノウの眼前、レルの胸元から透明な光がまぶしく放たれる。

 彼女はまだ、諦めていない。

「ふざけないでよ!!!」

 光はレルの両手足の氷を融かし、彼女の身体を自由にした。手負いであるにも関わらず、スターゲイザーから幾千もの風が吹きすさぶ。

神風サウザンドサイクロン!!」

 風は一斉にスノウを迎え撃ち、正面に吹き飛ばす。同時に塔の天井をも半壊させ、壊れた天井の隙間から雨を降らす。

 レルは雨に濡れるのも構わず、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「他の人に信じて貰えない時、自分を信じられるのは自分だけだよ!駄目な時もあるかもしれない。けど、自分を信じなきゃ何も出来ないから……今ならやれるって、皆で無事に帰れるって……私は信じる!!」

「な、に……?」

 彼女は凄まじい風の中に、マスタークリスタルの中に消された仲間と、街で見た黒猫の幻を見た様な気がした。



 その頃次元の狭間では、シルビア達が引き続き脱出に四苦八苦していた。シルビアがナナに聞く。

「そういえばここってマスタークリスタルの中なのかな?」

「どうなんだろ……次元の狭間とは呼ばれてるけど」

「僕の予想だとここをマスタークリスタルの中だと仮定すれば、レル達の手助けが出来るかもしれない」

「本当!?」

 ミハイルの提案にリュリが反応する。

「だったら、私達の力をレルちゃん達に届ける事も出来るかもしれないよね!」

「そうなるな。なら、一か八か……」

 ミハイルが右手を突き出した。

「皆の手も重ねてくれ。この空間を突き抜けるイメージで魔力を届けるんだ」

「分かった!」

 橙、紫、桃、水色の光が合わさり、次元の果て――恐らくレル達に通じるだろう場所へ飛んでいった。


 ふと気がつくと、マスタークリスタルから4色の光がスターゲイザー目掛けて集まってきた。

「これって…!」

 レルの脳裏に4人の言葉が響く。


『何があっても挫けるな…!』

『レルちゃん、頑張って!』

『レルなら大丈夫だよ!』

『ボクらはいつだって、レルの味方だよ!!』


「皆………!!」

 レルの碧と黄のジュエルの力が加わり、剣は6色に輝いた。

「面倒だけど……私も手を貸すよ」

「うっし、俺のも渡すぜ!!」

 黒と赤の光も剣に吸い込まれた。

「ありがとう、ラン、フィル…!」


「必ず帰って来いよ、レル」

 塔の外では、トーマの祈りも白い光となり、空の上まで登っていた。


「トーマの白い光……これで9色。あとは――」

 レルは雨の中に立つスノウを見据えた。



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