STONE:15 初夏に降る雪 -encount snow-
颯爽と現れたフィルの特撮ヒーロー染みたポーズを見たレルは、
「……格好悪い」
素直に評価した。
「別に格好つけてやった訳じゃないんだぜ!?」
「はいはい」
(いつもならシルビアがツッコむ所なんだけどな…)
なんだか調子が狂うと溜息をつくレル。
「どうでも良いけど、お遊びはここまで」
ランが再度槍を構え直す。
「二人まとめてかかってきなよ」
「望むとこ…」
「ちょーっと待ったぁ!」
二人の会話にフィルが割って入り、流石のランも苛立ちを募らせる。
「今度は何!?」
「その勝負、俺が受けて立つぜ」
「なんで!?」
レルが反論する。
「てめーは最終戦まで体力温存しとけっての。その間にシルビア達からの伝言、しっかり見とけよ!」
「ひゃ!?」
フィルはポケットから一台のデジカメを取り出し、レルに投げ渡した。何とかそれをキャッチする。
「あの……!」
「面倒臭い、さっさと片付けてあげる!」
「おうよ!!」
「もう!なにこれ……」
そう言いながらもデジカメに保存された動画を再生する。動画には各々の激励メッセージが入っていた。撮影者がフィルなのか、画像が激しくブレている。が、音声はきちんと記録されている様だ。
『レル、ボク達は大丈夫だから、全力で戦って!』
『レルちゃん、怪我とかしてない?辛かったらすぐに休んでね』
『こっちは私達で何とかするから、安心して』
『この状況を打開出来るのはお前だけだ。望みを託す』
(シルビア……リュリちゃんナナちゃん、ミハイルまで……)
そして、次の人物にレルが目を見開いた。
『初めまして、私はゼロ。レルちゃん、何があっても、自分を信じて……』
(あれ?この人って……)
レルは面識の無いはずのゼロという人物を見つめ、奇妙な感覚にとらわれた。
(初めて会った気がしない、何?この人…)
その間、フィルとランは互いに激しい攻防を繰り広げていた。
「激発!」
「破壊」
地面を砕くほどの爆発を黒い闇が包んで相殺する。
「傷害」
「地面破壊!」
黒い爪が床を這い、フィルの元へ突進するも地面ごと粉砕される。しかし、
「暗黒!!」
「アース……うああああぁぁぁっ!!」
とっさの判断が追いつかず、黒い刃がフィルを襲う。
「フィル?!」
彼の悲鳴を聞き、動画を見終えたレルが二人を見た。実力の差か、フィルが徐々に追い込まれている。
「っく…あと少しだってのに!」
「休憩おわり!あとは私に任せて!!」
見かねたレルが乱入する。その隙を逃さず、フィルが素早く退避する。
「やっとだよ……今度こそ、決着を付けようか」
「臨むところだ!!」
レルはスターライトソードを構えるなり、
「暴風!!」
巨大な暴風を巻き起こした。
「なっ」
突発的な攻撃に対処出来ず、呆気なく吹き飛ばされる。
「きゃあああぁぁぁ」
壁にぶつかり、ようやく動きが止まる。腰を抜かしたのか、立ち上がれないらしい。それを見たレルは、フィルを引きずりランの前まで連れて来た。
訳が解らないランはきょとんとしている。
「一緒に来てもらおうか、ラン」
「え?」
「二人でおぶってくよ、フィル」
「俺も!?」
「つべこべ言わない」
有無を言わさずレルはフィルと共にランを担ぎ上げ、ゆっくりと階段を上り始めた。途中、不意にランが尋ねる。
「とどめ……刺さないの?」
「友達だもん、とどめなんて最初から刺すつもりなかったよ。それに」
「それに?」
「ランには、この事態を最後まで見届ける義務がある」
「は?」
「全部終わったら、ランの心も絶対取り戻す。皆で一緒に帰るんだ」
レルの横顔には希望が満ち溢れていた。
「心…?」
それを見つめ、ランは口をつぐんだ。
「にしても長い階段だな…っと、そろそろ到着じゃねぇか?」
「着いた……」
ようやく階段を上りきった二人は入口付近にランを下ろした。フィルがその隣に座り込む。レルは周りを見渡し、自分の目を疑った。
部屋の中央に、ユキと似ても似つかぬ、白髪の少年が立っていたのだ。
「……ユキ………?」
血の様な紅色の双眸に、雪の様な白髪と透き通った白い肌。深紅色のタートルネックのシャツに白いローブを着崩し、禍々しいオーラを纏っている。そのオーラの色は、まるで黒水晶の様な…
「ユキ?人違いだ。我が名はスノウ・シルバー」
「……?ユキは何処に行ったの?」
すると、後方からランの声がした。
「馬鹿。そいつがユキ『本人』だよ」
「え?この人……が?」
ユキの面影は確かにあるものの、明らかにユキとは違う。そもそも、口調がユキですらない。まるで、古代の王様か何かのような。
「って、ランの黒水晶は?」
「マスタークリスタルを取り込んだ分と、ユキに刺した分の2つに分けたんだよ」
ランはマスタークリスタルのある屋上に到着した際、黒水晶を二つに割ったのである。片方をマスタークリスタルに、そしてもう片方を持ち歩き、ユキの胸に刺したのだ。
「ユキに刺…っ!?ユキが持ってるの?」
「正確には『取り込まれた』だけどね」
「どういうこったぁ?」
フィルが尋ねる。
「ユキと黒水晶が融合して、あの姿になったんだよ」
「何だってぇ…?」
レルは二人の話に聞き耳を立てながら、スターライトソードを握り直した。
「よくわかんないけど……スノウ、ユキは返してもらうからね!」
「ならん」
「どうして……」
「何故なら我は、この者と器を共にしているからだ」
「ユキと……?」
「元来この器は我の物だった。しかし、それをこの少年が奪ったのだ」
「器って……『身体』の事?」
「相違無い。この少年の心と器を返して欲しくば、我を屈服させてみよ!」
「じゃあ、力ずくで返してもらうまでだ!!」
レルはスターライトソードの切っ先を正面に向けたが、突如スノウに制止された。
「待て。その前に、貴様にはこちらの方が都合が良いだろう」
スノウが両手をかざすと、レルの左手にフォーチュンソードが現れた。
「これって……」
「貴様も使い慣れた武器が無いと話にならんだろう」
「ハンデ……なんだか見下されてる感じ……」
レルはむくれたが、相手は黒水晶の力を持ちユキの身体を乗っ取った正体不明の存在だ。油断は出来ない。
「仕方ない、お言葉に甘えて、本気で行きます!」
それからレルは剣を取替え後方の二人に目をやり、
「すぐ片付けるから、二人はそこで待ってて」
フィルが眉を吊り上げる。その横では、ランが真剣な表情でレルを見つめていた。
「先行は我が取らせてもらう!凍傷」
そう言うなり、彼の左手から氷のつぶてが辺りに散乱し、レルの頬をかすめた。
「くっ……まだまだ!!」
レルも応戦しようと呪文を唱える。
「旋風!」
二人の間に風が巻き起こり、氷の粒が巻き上げられ、崩壊した窓から外に吹き出される。
「支障をきたさぬ様処理したか…」
次いでレルは剣を頭上に振りかぶり、スノウ目掛けて振り下ろそうとした。が、
(そういえば、心は別人でもこの身体はユキなんだよね……?)
一瞬の戸惑いが致命的な隙となる。スノウはそれを見逃さなかった。ここぞとばかりに、魔術を発動する。
「凍結」
「なっ!」
冷気が剣に纏わりつき、握ったレルの手ごと凍らせてしまう。レルは剣を覆った氷を壊すために、その剣を地面に向けて振り下ろした。
(いけっ……!)
鈍い音が響く。
ゴッ
それは、剣の真ん中から先端が折れ、地面に落ちた音だった。
「え―――?」
レルが状況を把握するのに数秒かかった。
「この程度で折れる剣で戦うとは、我も見くびられたものだな」
「うそ……でしょ……?」
真っ二つに折れたフォーチュンソードを見つめたまま、レルはその場に立ち尽くした。