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Royal Crystal  作者: 碧流
Ⅰ:JewelCrysis
14/18

STONE:14 奇跡の主 -wonderworker-

「だから君も、レル君を泣かせちゃ駄目だよ」

「もう、泣かせた…」

「なんですって!?」

 ソレイユが怒りの形相でユキを睨む。申し訳なさそうにフォーチュンソードを召喚するユキ。

「レルから……取り上げたんだ。おじさんが『切り札』って呼んでたから」

 黙って剣を見つめるヨシュア。

「そうか、君が持っていたのか……」

「やっぱり、返すべき……だよな」

「そのままでも大丈夫だよ」

「え?」

「……ただ、二度とレル君を悲しませないであげて」

 黙りこくるユキ。

「さ、オーラも濃くなってきたし、早く行って。今頃ラン君が水晶塔クリスタルタワーに着いてるはずだから」

「わかった」

 そう言うとユキはフェザーボードに乗り、走り去った。


「そういえば」

 思い出した様にヨシュアが切り出した。

「君、あの時『堕天使』になったんだろう?」

 ソレイユが静かに息を飲む。

「――いつ気が付いたの?」

「君が死を無効化したその瞬間にね。神には何でもお見通しさ」

 ヨシュアは彼女が被っている帽子に手をかけた。

「ちょっと……」

 外れた帽子の下に、桃色の二つのだんごが現れる。

「そのおだんご、本当は堕天使の角を隠してるんでしょ」

「……やれやれね」

 ヨシュアの言葉が図星だったのか、ソレイユは溜息交じりに苦笑し、帽子を被りなおした。



 所変わって、レルとトーマは市街地でオーラから生まれた魔物に足止めを食らっていた。

「急いでる時に限って……早く行かなきゃなのに!」

「とりあえず落ち着こうぜ?これも決戦前の腕慣らしと思えば……」

「早く!!」

「へーへー」

 トーマは右手にマイトを、左手にボムを用意しそれぞれ敵に投げつけた。時間差爆発で爆風が広範囲に広がる。

 レルが出る幕も無く、魔物は瞬時に消え去った。

「殲滅完了、っと」

「やれば出来るじゃん!!ほら、先行くよ!」

「おいおい、待てっての!!」

 駆けだしたその時、レルは一匹の黒猫が路上に現れたのを見逃さなかった。

(なんでこんな所に猫が………?)



 その頃、ユキは水晶塔の前に立っていた。空を見上げると最上階には黒いオーラが。

(あれさえ何とか出来れば…!)

 彼は目を閉じ、深呼吸した。

(この世界の救世主は俺だ。消された皆も必ず救い出す。絶対に!)

 揺るぎない決意を胸に、単身、塔へ突入する。入り口を抜け、螺旋階段を登っていく。一刻を争う事態でも、彼の足取りはしっかりとしていた。

(戻ったら真っ先にレルに謝らないとな…)

 しばらく登る内に、広い部屋へ出た。そこに現れた一人の少女。

「――ラン?」

「へえ、一人で来たんだ」

 姿を現した黒幕。その顔には自信が満ち溢れている。そんな彼女をキッと睨み返すユキ。

「お前みたいな相手、俺一人で十分だ」

「後で後悔しても知らないよ……そんなら早速」

「一騎討ちと行こうか!!」



 二人は市街地を抜け、ようやく塔に辿り着いた。が、

「遅かった…!!」

 最上階のマスタークリスタルは既に黒く染まっていた。

「どうしようトーマ!クリスタルが!」

「今ならまだ間に合うかもしれない。急げ!」

 レルが走り出そうとした時、不意にトーマが立ち止まった。

「どしたの?」

 トーマがレルを見据えた。

「俺の役目はお前をここまで連れてくることだ」

「え?一緒にユキを助けに行くんじゃ……」

「こっから先は一人で行け」

 トーマが強く言い放つ。

「お前が言い出した事だろ?有言不実行とは言わせねぇぞ」

「それは、そうだけど…」

 言葉を濁し俯くレルの左肩に、トーマは右手を置いた。

「お前ならやれる。……『信じよ、さらば救われん』だろ?行ってこい!」

 レルは一瞬沈黙し、顔を上げた。

「……分かった」

「無茶だけはすんなよ」

「もちろん!」

 そしてレルも単身、塔に乗り込んだ。


(お前が最後の希望なんだからな……)

 トーマはそう胸の中で呟きながら、夜空を見つめた。



 ユキとラン、二人の力は互角で中々決着がつかず、戦いは熾烈を極めた。先に折れるのは果たしてどちらなのか―――。

洪水フルード!」

 大波が押し寄せ、辺りが水で飲み込まれる。

「拘束しようったって、そうは行かない!」

 ランの手中の黒水晶が輝き、周囲にバリアを張り巡らせた。

「だったら……激流弾ハイドロカノン!」

破壊ラベージ

 互いの魔術が相殺し、大きな水しぶきが上がる。

「なぁんだ、その程度?」

 黒水晶から黒い欠片が飛来し、対抗し損ねたユキの頬や手足を無慈悲に傷付けていく。服は破れ、所々がボロボロになっていた。

「ぐあっ!」

「もう終わり?まだ実力の半分も出してないのに」

「く……」

 彼が半ば諦めかけたその時、声が響いた。


「待たせたね!!」


「……お前………なんでここに……!?」

 ユキの瞳に、緑髪の少女の姿が映る。

「ふふ……絶対来ると思ってた」

 ランが不敵に笑う真向い、部屋の入口に立っていたのは……レルだった。

「もう、ランの好きにはさせない……!」

「お前、トーマと一緒に来たんじゃ……?」

「下で待ってる。私一人で行けって言われたから」

「そう、か。……悪いがお前は先に上に行っててくれ」

 ユキがランの後方の階段を指して言った。

「ちょ、助けに来たんだよ!?そんなボロボロなのに置いていけるわけ……」

「良いから行け!早く!」

 レルの顔を見ずに怒鳴るユキ。

「う……」

「頼む。……お前を巻き添えにしたくないんだよ」

「……わかったよ!!」

 そう言い、レルは二人の横を走り去った。



「あんた、あの子をここに引き止めたくない理由があるみたいだね?」

「……お前には関係の無い話だ」

「そ。……早速続きと行きたい所だけど」

 彼女は少し間を置いてから言った。

「私、ずうっとレルに対する憎しみだけで動いてきたんだ。あの子に、あの世に行くより辛い苦しみを与えてやる為に」

「あの世に行くより…?」

「そう、世界征服も全てはレルに復讐する為。だから今までレルの仲間から順番に消してきた」

「………」

「そして今、あの子が一番大切にしてる人と、こうして戦ってる」

「………?」

「私の本当の狙いはね、レルじゃなくて……」

「まさか――」

 ユキが身の危険を感じた時には、既に手遅れだった。ランが無言で彼の胸元に何かを突き刺す。


「――ッ!?」


 次の瞬間、ランの手に握られていた黒水晶がジャケットの布地を破り、彼の胸元を深々と抉っていた。黒水晶が体内に達したと同時に、視界が徐々に霞んでいく。

「……おま、え……!!」


ズクン


 鼓動と共に意識が朦朧とし、耳の奥で何者かに囁かれる。普段から聞き慣れているかのような、男の声。


(その肉体を寄越せ)


呼吸は荒くなり、手足が動かせない。全身から冷や汗が噴き出るばかりで、身体が言うことを聞かない。視界の隅には黒い靄がかかり、いつしか声を発することすら出来なくなっていた。


(それは我のものだ)


禍々しく響く黒水晶の脈動に、彼の中の蒼のジュエルが呼応する。やがて黒い文字のような呪詛がジュエルを蝕み、同化し始めた。記憶が、心が、真っ黒に塗りつぶされていく。


「れ……る……」


ジュエルが漆黒に染められたその瞬間、瞳は光を失い、意識は完全に飲み込まれ、そのままランの腕にもたれかかってしまう。彼が事切れたのを確認し、彼女は呟いた。


「今のあんたが現れたら――あの子はなんて思うだろうね?」





 螺旋階段を登る最中、妙な胸騒ぎに襲われたレルは、ふとある事に思い当たった。

「――そういえば、まだフォーチュンソード返してもらってなかったな」

 後ろへ向き直り道を引き返そうとしたが、足が止まった。

「でも……」

 ユキが自分の助けを頑なに拒む理由がどうしてもわからなかった。あれだけ拒絶されて引き返すのも気が引ける。どうすべきか考えあぐねていると、


『レル君、聞こえるかい?』


 彼女の脳裏に何者かの声が響いた。緊急の連絡だろうか。

「ヨシュアさん?」

『ちょっと聞いて欲しいことがあってね。君の持つ力の正体が掴めたんだ』

「え?私の力って……」

『良いかい?君の正体は運命を覆す者フォーチュンカウンターじゃなくて…奇跡の主(ワンダーワーカー)だ』

奇跡の(ワンダー)……(ワーカー)…?」

『そう。力の発動条件を教える事は出来ないけど、君は限られた条件下でなら奇跡を起こすことが出来る』

「よく分かんないけど……でも、何とかしてみます」

『?』

 そこでレルは一方的にテレパシーを断ち切り、階段を駆け下りた。たとえ彼に拒まれたとしても、何としてでも彼を救いたい。それが今の自分に出来る可能性があるのなら、後悔する前に動きたい。その想いが彼女の背中を押していた。



 先程の場所に降りた瞬間、彼女は違和感を覚えた。

「ユキ!!」

 辺りを見回すレル。ところが何処にも彼の姿は見当たらなかった。

「あれ……ユキは………?」

「さぁ、どこでしょうね」

 部屋の向かい側に立つランが答える。レルはある点に気がついた。

「ラン、黒水晶は……?」

 彼女が先程まで持っていた黒水晶が消えているのだ。

「さぁね」

 消えた黒水晶、姿が見えないユキ―――。レルはある結論を導き出した。

「さぁねって、ラン、まさかユキを……!」

 ランは冷徹な笑みを浮かべ、答えた。

「だから、何?」

 その言葉が引き金となり、レルの怒りが爆発した。

「ふざけないで!!」

 ランは笑みを張り付かせたまま、槍の切っ先をレルに向ける。

「でもあんた、剣も無いのに戦える訳?」

「ぐ……っ」

 そう、フォーチュンソードはユキが持ったまま。彼女が持つ武器はスターライトソードただ一つ。

 刃の短い剣なのでリーチが短く、上手く立ち回らなければ使いこなせない。だが、

「剣が無くても、魔術がある!!」

 レルは右手を突き出し、魔力を指先にこめた。すると、


ガシャアアアァァァン


 窓のステンドガラスが派手に割れ、破片が舞い散る中一人の少年が現れた。

「ようやく俺様の出番が来たぜ……!」

「あんた……シルビアの」

 ランが想定外といった風に目を見開く。

「フィリップ・ガーネット、参上!!……ってか?」

 特撮ヒーローよろしくポーズを決めるフィル。その瞬間――乾いた風が吹き去った。



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