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Royal Crystal  作者: 碧流
Ⅰ:JewelCrysis
13/18

STONE:13 神と天使と最後の願い -stepping stone-

そんな折、隣にいたトーマが口を開いた。

「つってもよー、ユキは俺達を心配してあんな事言ったんだろ?今更追っかけたって無駄だぜ」

「むぅ」

口を尖らせたレル。

「じゃあどうしろって言うのさ」

「なぁ、お前さ」

「何」

レルは不機嫌そうな顔で答えた。

「もしかして……好きなんじゃねぇの?」

瞬間、レルの顔にほんのり朱がさした。

「えっ?!」

思わず声を荒げる。

「仕草でバレバレだっての」

指摘され、レルはますます顔を赤らめた。彼女はテーブルに顔を伏せつつも、質問する。

「……一体、いつ気付いたの?」

「一緒に行動してりゃ気付くっての」


…そう、彼女は食料調達の際、数分に一回の割合でユキを見つめていたのだ。

無意識だったのか、彼女でさえ気付かなかったらしいが…。


「分かった、本当の事言うよ」

「ん?」

「私はユキが好き!…だと思う……」

レルの声が尻すぼみになる。

「―――へ?」

トーマが目を丸くして聞き返した。

「はい?」

レルは何故彼が聞き返してくるのか解らなかった。――何故?

「えぇぇぇぇぇ!?」

トーマが思わずのけ反った。

「お、おまっ、俺、今『ハンバーガー好きなんじゃねぇの?』って聞いたんだけど」

「は…えぇぇぇぇ!?」

二人の会話は噛み合っておらず、互いに驚いていた。

「ユキの事言ってるんじゃなかったの!?」

「全然違ぇよ…」

「ゆ…言っちゃったよぉぉぉ?!」

レルは完全に取り乱していた。しかし言った事は今更取り消せないのだった。



一方その頃。ユキはレル達より一足先に英国に到着していた。

英国は一年中霧や雨が多く、今日はその両方の天候に見舞われていた。

「霧雨か……」

彼は曇り空を見上げ、呟いた。ここから水晶塔まであと少し。

それほど急がなくても十分早く辿り着くだろうが、被害の拡大を考えるとそうも言っていられない。

(ここからは援軍無しの単独行動だ。気を引き締めないと)

そして彼は歩き出した。と同時に、行く先に二つの人影を見つけた。

「あれは……」



トーマは呆気にとられていた。

「それってホントに本当か?」

爆弾発言カミングアウト。レルは今更ごまかせず、涙目でトーマを睨んだ。

どうやら彼女はユキの事を思い詰めすぎたせいで、トーマの発言を聞き漏らしたらしい。

結局自業自得なのだが……

「にしてもお前がユキを……そーかそーか」

「むぅ……」

「で…どうするよ?追いかけるのか?」

「え?」

先程と意見が食い違っている。

「追うんなら追えよ。ただし俺もついてくぜ」

「トーマ…良いの?」

「偶然とはいえ聞いちまったからな。この際最後まで付き合ってやる」

その言葉に、レルの頬が赤くなった。

「けどその前に、腹ごしらえしとかなきゃな」

「『腹が減っては戦が出来ぬ』って?」

「ザッツライト」

そして二人はもう一度食料調達の為にスーパーに乗り込んだ。



その後、体勢を立てた二人は超特急でフェザーボードを飛ばしたので、正味1時間程度で英国に着いた。

そこには当然ユキの姿は無く、ただ寂れた街並みが広がるばかりだった。

今は日本時間で言えば午前10時、英国の現地時間は午前1時だ。

辺りは霧雨と闇夜が支配し、その暗闇が一層寂しさを際立たせる。

「だいぶ遅れを取ったな…このままとばすぞ。善は急げだ」

「うん」

そして二人はボードのアクセルを全開にし、広野を横切っていく。

しかしその近くに三人の人影があった事を、二人は知らない。



「やぁ、一人かい?」

「おじさん…それに先生まで」

ユキがそこで見た人影とは、ヨシュアとソレイユだった。

「一体何処ほっつき歩いてたのよ?遅かったじゃない」

「まぁ、そう責めないで」

ヨシュアがソレイユをなだめる。

「それに、レルちゃんとトーマ君は?一緒じゃなかったの?」

ユキの顔が僅かに俯く。

「ただでさえフィルやシルビア達がやられてるんだから、これ以上あいつらを巻き込む訳には行かないんです。だから―――」

そう言うユキの肩をヨシュアは優しく撫でた。

「おじさ――」

「ユキ君、君に昔話をしてあげよう」

「え?」

「何言ってるの?ヨシュアく――」

「良いから君は黙ってて」

真剣に言う彼の瞳は真っ直ぐに彼女を捕らえていた。

傍から見ればプロポーズをする男女の様にも見えたが、

「僕には彼に伝えなきゃならない事がある」

彼の瞳がそう訴えかけていた。

「…分かったわ」

ソレイユはそれ以上言うのを止めた。

「いいかい?これから僕の話をよく聞くんだよ」


―――もう二度と同じ過ちを繰り返さない為にも。

彼は心の中でそう呟いた。


ある川原に一人で寝そべっている少年がいました。彼の名はヨシュア。

生まれつき左目が視えず、眼帯をしています。しかし彼の視えない左目には秘密がありました。

それは…。


そしてそんな彼を見つめる羽の生えた一人の少女がいました。

しかし通行人は彼女に目もくれず通り過ぎていきます。何故なら彼女は天使だから。

彼女の名はソレイユ。太陽の名を冠した天使は少年に惹かれていました。

天使は一度だけ「世界を覆す願い」が使えるので、彼女は彼の為に願いを使おうと思っていたのです。

そんな二人の出会いは、唐突な物でした。


つまらないなぁ…


何か、世界が楽しくなるような事があったらなぁ……


少年はうんざりしていました。敷かれたレールをただ歩くだけの現実に嫌気が差していたのです。

そしてそんな彼を土手の上からひたすら見つめる視線がありました。

彼は気配に気付き、左目の眼帯をめくりました。

そう、彼の左目には「見えざるものを見る力」があったのです。

視線の持ち主は慌てて身を隠しましたが、

「出ておいで、何もしないから…」

少女はおずおずと出てきます。

「…天使?」

少女は顔を赤らめて頷きました。

「名前、聞いてもいいかい?」

「…ソレイユ・セレスタイト」

「ソレイユ…太陽って意味か。僕の名前はヨシュア。よろしく」

彼がさりげなく右手を差し出すと、彼女は戸惑いながらその手を取りました。

傍から見れば少年が手を上げているように見えますが、二人はちゃんと握手をしていました。

それがこの二人の「出会い」だったのです。


月日が経ち、二人は互いの事をよく知る関係となっていました。

ソレイユは魔術を使って人間ソレイユ・ローズクォーツの姿にになり、何処へ行くにもいつも一緒に居ました。

その内ヨシュアは、ソレイユのある悩みを解決しようとしていました。

天使の上位存在、神。彼女達天使はその神の絶対的な支配に悩まされていました。

神は天使に20年という短い寿命を与え、自らの為にこき使っていたのです。

寿命が尽きた天使は霊界へ送られてしまいます。

それに憤怒したヨシュアは、ある解決方法を思いつきました。


「そうだ、神を倒しに行こう」


彼は唐突にそんな事を言いました。当然、ソレイユがそれに返す言葉は一言。

「……え!?」

「そんなふざけた神、必要無いよ。だったら僕が神になる」

彼は立ち上がりました。

「ソレイユ、僕を神の所へ案内して欲しい」

「そ、そんな…貴方、神の座に就く事がどういう事か分かって」

「分からないよ。それでも僕は……君を、救いたい」

彼の瞳は彼女を真っ直ぐ捉えていました。

「…分かったわ、行きましょう。でもその前に聞いて欲しい事があるの」

「何だい?」

「神を倒せば新たな神になれるわ。すると一つだけ願いを叶えられるの。その権利を、私にくれないかしら」

「もちろんさ。君の望みなら尚更」

「有難う…じゃあ、神を倒す為の力を付けないとね」

ソレイユはウィンクしました。


…貴方に伝えるべき事は、もう一つあるんだけど。そう心の中で呟いて。


そして数ヵ月後、ヨシュアは元々魔力が強かった事もあり、神に匹敵する力を身に付けました。

そして二人は、神に挑みました。

神は堕落した生活を送っていた事もあり、いとも簡単に追い詰められました。

しかし、神は最後の切り札を残していたのです。

「ソレイユ、我に逆らう事は身に過ぎた罪と思い知れ」

「神…様……」

続け様に神はヨシュアを睨みました。

「お前が愛したこの男を、消してやろう。……淡白オフホワイト!」

彼の目前に白い闇が迫ります。

「ヨシュア君っっっ!!」

彼女は身を挺してヨシュアを庇いました。

白い闇をまともにくらい、彼の腕の中に倒れこんでしまいます。

「ソレイユ!……くそぉ…」

ヨシュアもまた神を睨みつけました。そしてありったけの魔力を神に叩き込みました。

滅亡カタストロフ!!」

「やはり我もここまでか…」

「え?」

次の瞬間、神は消え去りました。


「ソレイユ、目を開けて!!」

「ん……ヨシュア…君?」

「本当に…生きてて良かった……!」

「?…私達天使は一度だけ『願い』が使えるのよ」

「え?」

「その願いで私は蘇ったの…本当は貴方の為に使ってあげたかったんだけど」

(じゃあさっきの神の言葉は…)

彼は確信しました。

「分かった、とにかく行こう」



早速ヨシュアは神の玉座に座ります。すると、玉座が独りでに喋り始めました。

「そなたの願いを聞こう」

「じゃあ私が言わせて貰うわ」

「いや、僕が言う!」

「え?」

そしてヨシュアは一呼吸おいてから、叫びました。

「ソレイユの寿命を僕と同じくらいに延ばしてくれ!!」

一瞬、静寂が辺りを支配しました。

「ヨシュア君、貴方…」

「君は、僕の左目を心配してたんだろう?」

彼はおもむろに眼帯を外し、微笑みました。その下の紫色の左目が輝きます。

「大丈夫、僕はこの瞳で君を見つめていたいんだ」

「もう…しょうがないんだから」

ソレイユも微笑み返しました。



「…というのが僕の伝えたかった事さ」

「え?この壮大な話が?」

「そ。僕とソレイユが出会った経緯さ」


「単なる自慢に聞こえたのはオレだけか…?」

ユキは小声で呟いた。


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