STONE:12 交錯する運命 -backdoor-
レルはその後も最高速度を落とさず、故郷に居る家族の元へと走り続けた。
一体どれ程経ったろうか、約1時間程度で到着した(ちなみにフェザーボードは自然の力で動く為、地形によっては飛行機以上の速度を出す事もある)。
自宅へ行くか祖母の家へ行くか一瞬迷ったが、この状況なら互いの安否確認の為祖母の家に集まってるだろうと思い立ち、急行した。
フェザーボードの速度を落とし、緩やかに地面に着地する。
辺りを見るとどこの窓も明かりが付いていない。
夜明け近いので全員就寝したのか、もしくは黒水晶にクリスタルを奪われたか、どちらかだろうと彼女は悟った。
最悪の事態にならなければそれで良い。レルは深呼吸した後、おそるおそる家の戸を開けた。
(皆居ると良いんだけど……)
抜き足、差し足、忍び足で居間に向かい、小さな灯りが居間の扉からもれている事に気付く。
レルはそっと居間の扉を開けてみた。
「ただいま…」
「レイちゃん!?」
居間を見渡し、夜明けなのに全員起きていて無事である事に胸を撫で下ろす。
と同時に彼女は誰かに抱きつかれた。
「良かった…本当に心配で…」
母だった。
「怪我は無いか」
「ママ、パパ…」
突然、目元から雫が垂れてきた。
皆口々に「大丈夫だった?」と質問し、レルは泣きながら大丈夫と頷き肯定した。
停電の為に机の上で揺らめく小さな蝋燭が、優しく瞬く。
レルは気持ちが落ち着いてから、転校してから今までの経緯を、ロイヤルフォースの活動も織り交ぜ、かいつまんで説明した。
従兄弟のリュウ、シアン、ルカらも顔を連ねており、それぞれレルに激励を送った。
ちなみに3年前の少年と再会した事をリュウに告げると、
「あーあいつか。へぇ、ユキって言うんか。俺ももう一度会ってみたかったな」と述べていた。
彼女はこの時間が永遠に続けば良いと望んだが、神が時を止めてくれる事も無く、そろそろ出発しなければならなかった。
「もう行くの?」
「うん、友達が待ってるから」
「そう…無理しないでね」
「大丈夫。だってもう一人じゃないもん」
「?」
「ちょっと待て」
父がレルを止める。
「……絶対諦めんなよ」
「もちろん!……じゃ、行ってきます」
皆に見送られて、彼女はレフュージアランドに向けフェザーボードで走り出した。
停電で通りの明かりは消えていたが、日の出が迫っていて辺りはだいぶ明るかった。
やがてレフュージアランドの正門が見え、その下に二人は待っていた。
「ごめん。待った?」
「ちょっとだけな」
「小一時間程度だ。気にはしてない」
「なら、このまま米国まで行こう」
「えっ、休憩はどうなったんだよ!?」
「今は一刻を争う事態なんだよ?休んでる暇なんか無いよ」
「ちっ…」
トーマは舌打ちした。
「何か言った?」
「何でもねーよ」
「じゃ、れっつらごー」
そんな二人のやりとりを、ユキは終始不安気な表情で見ていたのだった。
3人が米国に着いたのは日本時間で午前8時頃、現地時間だと午後2時頃だった。
流石に何時間も空腹状態だと体力がきつく、正に「腹が減っては戦が出来ぬ」状態であった。
とりあえず腹ごしらえする為に無人のスーパーに寄り、食べ物や飲み物を幾つか拝借した(とは言っても返さないが)。
そして3人は無人のカフェを訪れ、テーブルセットに腰を下ろした。
「こうして誰も居ないの見ると、何か寂しいなぁ」
「仕方無いだろ、ほとんどの人達がクリスタルを奪われた後なんだ。見ろ、そこら中倒れた人だらけじゃねーか」
レル達3人が居るカフェの周りには、何人もの人が道路上に横たわっていた。
そこには事件の爪跡がはっきり残されている。
「とにかく、早くランを捕まえてぶちのめさねーと」
トーマはハンバーガーを一つ食べ終え、二つ目にかぶりつきながら言った。
「ぶちのめすってゆーか…お仕置きじゃない?」
レルはコーラをぐいぐい飲み、一息つく。
「どうでもいいから早く食え。時間が勿体無い」
ユキはホットドッグを大口を開けてかぶりついた。
約10分で食事を終え、3人は近くに宿が無いか探した。
これから決戦の地に赴くと言う事で、万全な準備が必要だからだ。
丁度近くにビジネスホテルを見つけた3人は一角の部屋を無賃で借り、仮眠をとった。
約5時間後。すっかり暗くなった空に、一番星が瞬き始めた頃―――。
3人は身支度を整え、宿を飛び出した。正にその時だった。
「ちくしょー、急いでる時に限って」
黒い影が次々と現れ、行く手を阻む。
「一気に片付けるぞ」
「勿論!」
「おうよ!」
3人は各自武器を構え、黒い影に挑む。しかし―――。
「物理攻撃が、効かない!?」
剣で斬り付け、銃で撃ち抜き、手榴弾で爆風を起こしても、相手はビクともしない。
「どういう事だ……?」
トーマは眉をひそめる。直後ユキは名案を思いついた。
「レル、憑依武装だ!」
「えっ?ちょっ」
「いいから行くぞ!」
レルが星のペンダントを、ユキが月のロケットを掲げ、二人の姿形が変わっていく。
トーマはその光景に見惚れ思わず「すげぇ」と感嘆していた。
レルがユキの光を纏い、騎士の様な格好に変身する。
彼女は右手に剣、左手に銃を召喚し、影に突っ込んだ。
「星屑弾!」
刃先と銃口から星の煌きを発射し、辺りを光で包み込み、影の這う隙さえ照らし出した。
居場所を失った影は見る見る内に消え去り、辺りはしんとなる。
「やるなぁ、二人共!」
トーマは感激し、レルの手を取った。
「や、それ程でも…」
レルは思わず照れたが、
「俺のお陰だろうが」
ユキに突っ込まれ、
「ぶー」
口を尖らせるのだった。
彼の曇った表情にも気付かず…
憑依武装を解き、早速先を急ごうとするとユキが突然二人を制した。
「ここから先は俺一人で行く」
「え!?」
「今の戦いで思ったが、この先も3人で行動するのは危険すぎる。せめてお前達だけでも避難するんだ」
「ちょっ、折角みんなでここまで来たのに?」
レルが必死に抗議する。
「大体お前は後先考えずに敵に突っ込んで、危なっかしいにも程がある。さっきもそうだったろ」
「だってー…」
「そりゃそうだけどよ、ユキ一人じゃ黒水晶は壊せねぇんじゃ…」
「レル」
「?」
ユキは突然レルの正面に右手を差し出した。
「…握手?」
レルが目を丸くする。
「……じゃなくて!!フォーチュンソードをよこせ」
「やだよ、これは私が」
「おじさんが切り札って言う位だから、それさえありゃ何とかなる」
「でも…!」
ユキの想いに観念したのか、トーマがレルを諭す。
「仕方無い、俺達はユキを見守ろう」
「何で!?」
「…決まりだな」
ユキはレルの手から剣を抜き取ると
「トーマ…レルを頼んだ」
そう言い、去っていった。
「…………諦めろ、もう遅い」
トーマが暗い顔をして呟く。それを聞いたレルは
「……ユキの、ユキの馬鹿ぁ!!」
行き場のない怒りを何処かにぶつけるように、叫んだ。
英国の辺境の土地に一人の少女が立っていた。彼女は自らを「ゼロ」と称した。
探偵の様な黒装束の出で立ちで緑色のケープを着用している。
そして黄緑色のフレームの眼鏡をかけていた。
つい先程まで彼女は異次元を一人の少年と共に彷徨っていたが、少年を時が満ちるまである場所に待機させ、自らはこの世界に舞い戻ってきた。
そして今、ここに居る。
彼女は行動を開始した。ある願いを果たす為に……。
ゼロが歩いていた所に、二人の男女がやってきた。
「はぁぁ…やっと終わったわ。なんて重い調度品なの……」
「お疲れ様…と、あれ?」
男は遠くのゼロに気付き、やがて彼女の元にやってきた。
「お久しぶりです、ヨシュアさん」
「……誰?」
男に付いて来た女が眉をひそめる。
「数ヶ月ぶりだね。じゃあ早速だけど」
彼はゼロにポケットの中のある物を託し、彼女に何か耳打ちし
「僕は君の味方だから」
と言い残し、去っていった。
そしてまたその近くの土地で、一人の少女が水晶塔に向かって歩を進めていた。
そんな少女の後ろに人影が現れる。少女は気配に気付き、その人影の背後をとった。
「あんた……誰?」
「私は……ゼロ」
「ゼロ?」
「そう、ゼロ。私は貴方に届けるべき物がある」
「何?」
彼女はポケットからある物を取り出し、彼女に渡した。
「…何これ?太陽のネックレス?……三種の神器……まさか」
少女が顔をあげた時、ゼロは去っていた。
「でもこれで、私の力は…!」
少女は再び歩を進めるのであった。
ユキと離れた後、レルとトーマはこの後どうするかについて話し合っていた。
「このまま黙って引き下がれって?納得行かないよ」
レルはそう言いつつ、今までのユキとの件に思いを巡らせていた。
ユキと別れて初めて気付いたが、ひょっとして自分は彼が居る事を当たり前の様に感じ、またそれを嬉しいと思っていたのではないか?
しかし彼女はまだ、自分の中に芽生えた彼に対する想いを認められずにいた。
何で、あいつの事なんか…。