STONE:11 決戦前夜 -contemplation-
受話器を置くと、近くにいたソレイユが問うた。
「『信じよ、さらば救われん』って……どういう事?」
ヨシュアは答えた。
「何事も信じれば救われる。要は自分を信じろって事だよ」
「良い言葉ね。誰の受け売りかしら」
「それはさておき、クロスナイツまでやられるとは…誤算だったな」
「どういう事?」
「僕がクロスナイツを結成させた理由。それは、ナナ君達がジュエルの原石を持ってるからだよ」
「原石…って磨けばジュエルにでもなる訳?ジュエルは選ばれた人しか持てないんでしょ?」
「それはあくまで仮説。君にはまだ話してなかったけど、レル君達以外にもジュエルは存在するんだ」
「黒水晶の事でしょ?それが何よ」
ソレイユは反論する。
「いや、他にもジュエルがあるんだ。さぁ誰のだろう?」
「ともかく、他のがあるならナナちゃん達もジュエルを手に入れる資格があるって事?」
「そうだね。でも彼女らはまだほんの一握りでしかない」
「他にも居るの?その原石とやらは」
「はっきり言えば、学園の生徒全員ってとこかな」
「えぇっ!?じゃあトーマ君は?他校から転校してきたんでしょ?」
「勿論、彼もその一人だよ」
彼は満足げに言いつつ、本棚からある一冊の本を取り出した。
表紙にも背表紙にも、題名は書かれていない。
「知らなかったわ!私にも教えといてよね……で、それは何の本?」
「それは神のみぞ知る、なんてね」
「あのねぇ…」
ソレイユが眉を吊り上げる。
「あはは、嘘だよ。…これは、この世界の全ての人々の運命の記録さ」
「それって、これからの事も分かるってこと?」
彼は本をめくりながら説明を始める。
「そう。この本はその人が生まれてから死ぬまで、もしくはその後の運命まで記されているんだ」
「ふぅん…人生の予定表って感じね」
「けれど………一つ確認したい事がある」
ヨシュアは真剣な顔で答えた。
「何?」
「レル君の……『運命』だ」
ヨシュアはレルのページを開き、内容を確認しようとした、が。
「何…記録が……消されてる…!?そんな筈は……」
「何ですって!?」
彼が開いたページには「レイ=エメラルド」という名前しか記されていなかった。
その1ページの殆どが白紙の状態である。
「有り得ない。この前確認した時は確かに、彼女がフォーチュンカウンターらしき人物って書いてあったのに……」
「運命を消せる人なんて居るの?」
「いや、そんなの全てを無に帰す存在くらいか神ぐらいだ。生憎僕の知り合いにそんな人は一人も…」
途端、彼は頭を抱えた。
「……一人居た」
顔が苦しそうに歪む。
「まさか……『あの子』なのか…」
「ひょっとしてヨシュア君、誰か心当たりが…?」
「―――認めたくないけどね。でも今は連絡がつかないんだ。どうしようもない」
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
「………とにかく、気を取り直して準備を始めよう。レル君達を導く為に」
「何するの?」
ヨシュアは部屋にある高級な調度品を見回しながら、言った。
「これを運ぶのを手伝ってもらいたいんだ」
彼は全ての調度品を一気に魔術で持ち上げる。
「こんなに一体、どこに運ぶのよ!?」
「内緒♪……でも、来ないと世界が崩壊するよ」
「はぁぁぁぁぁ!?」
こうしてソレイユは渋々調度品運びに協力するのだった。
果てしなく昏い闇の中。
シルビア達は、あの戦いの後、世界の狭間に囚われていた。
先程一瞬だけミハイルの小型通信機が通じたが、今となってはそれもただの機械と化している。
果てしない闇の中で、彼女はフィルやクロスナイツの面々と合流し、どうすればこの空間を抜け出せるか話し合っていた。
「脱出か…どうすればいいんだろ」
「通信機も使えないし…レル達との連絡も絶たれちゃった」
「誰か一人でも脱出できれば、応援を呼べるかもしれない…」
「一人だけなら、出来るよ」
「え?」
場の空気が凍りついた。
この場の誰でもない声だが、何処かで聞き覚えがある様な気がした。
シルビアが辺りを見回すと、声の主は居た。
まるで探偵の様な緑のケープと黒装束を纏い、鈍く光る眼鏡をかけた少女だ。
年齢は10代後半だろうか?少なくともシルビアらよりは年上だ。
その顔は何処かの誰かを彷彿とさせる風貌だった。
「貴方…誰?」
シルビアが警戒しつつ問う。
「……すごい、本当に居たんだ、シルビア」
「…どうしてボクの名前を知ってるの!?」
「あ、そっか…えっと、たまたま?」
「たまたまぁ?ってか、貴方何者?」
「あ、レ…いや、『ゼロ』って言うんだ」
「ゼロ?」
「そう、『0』で『ゼロ』」
「貴方、どうやったらここから脱出出来るか知ってるの?」
「うん。それはね」と言いながらゼロは1本の棒を取りだした。
「何をするんですか?」
ナナが聞く。
「ここから一人、出る人を選ぶんだ」
すると彼女は皆に円形に並ぶ様に指示した。
がミハイルのみ「俺はパスで…」と通信機の調整をする為棄権した。
そしてゼロはその中央に棒を立ててから、自らは円の外で呪文を唱えた。
「選出!!」
呪文詠唱後、棒は空中にふわりと浮き上がり、高速で回転し始めた。
方位磁針の針が磁場の影響でくるくる回り出す様に回った後、棒はある者を指して動きを止めた。
棒が指したのは……フィルだった。
「よし、決まり。という訳でフィルだけ水晶世界に戻れるみたいだけど」
「お、おい、何で俺の名前まで知って」
「だって皆の事知ってるもん!」
ゼロは頬を膨らませながら言った。
「で、何か伝言とか無い?」
「皆、出来たぞ…!」
突然ミハイルが叫び、全員がそちらに注目した。彼の手にはデジカメらしき機械が握られている。
「俺の携帯と通信機の部品とを集めて簡単なデジカメを作った。伝言ならこれに入れてくれ」
普段は寡黙なのに珍しくよく喋るミハイルだった。
皆はデジカメに思い思いのメッセージを託すと、フィルに渡した。
「…お前に賭ける」
「レルちゃん達によろしく言っておいてね」
「幸運を祈るよ」
「フィル、くれぐれも無茶しないでね…?」
「あぁ、任せとけ!」
ミハイル、リュリ、ナナ、シルビアの順に激励を送り、フィルがそれに答えた。
フィル自身も満更では無さそうだ。
「じゃあ、そろそろ行こうか、フィル」
「にしてもこんな年上のねーちゃんに呼び捨てされると変な気分になるぜ」
「まぁまぁ、それじゃあ……次元移動!」
その瞬間、次元の狭間から光が漏れ出し、二人を包み込み―――消し去った。
どうか……フィルが、レル達に会えますように。
シルビアは心の底から願った。
一方公衆電話の前で立ち尽くすレルら3人。
受話器を本体に戻し、レルは呟いた。
「『信じよ、さらば救われん』って………?」
「恐らく…信じれば報われるって意味だろう」
「そうすれば道が開けるってのか…?」
「………」
「………ま、とりあえずランを追っかけよう。話はそれから」
「だな」
「何仕切ってんだよー」
トーマが口を尖らせる。
「これからは俺が司令塔だ。二人共俺に付いて来いって」
「えー!?」
「やれやれ…」
しかしまだ、彼女は気付いていなかったのだ。ヨシュアが残した言葉の真の意味に。
後に彼女はその真の意味を身を持って知る事になる――大切な物を失った瞬間に。
「もう日も暮れてきたし、一日泊まってから日本に行かねぇ?」
それを聞き、レルが一瞬間を置いて言った。
「トーマ、まさかとは思うけど」
「ん?」
そしてユキも口を挟む。
「お前この状況理解してるんだよな?」
「あぁ、世界の危機…」
「だったら休んでる暇なんて無いと思うんだけどな」
二人がジト目でトーマを見つめる。彼はその視線に悪寒を感じたのか、
「しょうがねぇなぁ!早いとこ出発すっぞぉ!!」
「そう来なくっちゃ」
慌ててフェザーボードを取り出したのだった。
誰が司令塔なのか分からなくなって来た所で、一行はフェザーボードを駆り、海上へと乗り込んだ。
「よし、日本に向けてしゅっぱーつ!!」
「だから司令塔は俺が」
「この際誰でも良いだろうが!!」
目指すは日本列島。三人は強い思いを胸に抱き、水上を走り出した。
その最中、レルは日本の家族が気になるので先を急ぐ、と言い出した。
二人共それを承諾し、ユキが場所案内出来る様、レフュージアランドで落ち合う事にした。
「それじゃあ、また後でねー!!」
全速力で走り去るレルを見送った後、二人は早いとも遅いともつかないスピードで走っていた。
「……なぁ」
「ん?」
「お前、何か変わった?」
「変わった、……って?」
「何かこう、昔と比べて丸くなったっていうか…」
「あ?」
「ひょっとして、誰か好きな奴でもいるのか?」
「はぁ!?何で」
「そうだな…レルとかさ」
「なっ?!」
「ほらほら、耳まで赤くなってる」
トーマはからかうような目でユキを凝視する。
「ばっ、違っ……!」
ユキは慌てて顔を背け、冷静になろうと努めるも
「そうなんだろ?早く認めろって」
「んなっ…だから…はぁぁ…」
諦めなのか肯定の意味なのかユキは大きな溜息をついた。
「本人には言わないでおいてやるから、安心しろよ」
彼は弱みを握れて嬉しいのか妙なニコニコ顔で約束した。
「にしても……何でよりにもよってあいつなんだ?」
「―――色々、助けてもらったからな」
ユキは小さく呟いた。
「は?」
「何でもない」
「とにかく、早く合流地点に行かないと…」
「だな」
夜の海に水しぶきの軌跡が描かれ、星屑が煌めく。
運命の刻まで、残りあと僅か―――。




