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『DIABOLOS』  作者: 神威
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Chapter2

『ウルトラ・ヴァイオレット』という映画を見てきました。女性が主人公のアクションものなのですが…その女性を演じるミラ・ジュボヴィッチ?がとっても強くて格好良くて綺麗でした(^O^)生まれ変わったら、あんな女性になりたいなって思うんですが…絶対無理!だなと痛感する今日この頃です…(-ω-;)

郊外にある高級住宅街。

その高台にある一際目立つ大邸宅に向かい車はなだらかな坂を上っていく。


窓の外に続く濃い緑の木々達を雨が濡らしている。

人間にとっては憂欝な雨の季節も、木々達にとってはすぐ先にある暑い夏に備える為の恵みの季節なのだろうか?

濡れる木々達は悦んでいる様に見える。


神威は煙草を(くゆ)らしながら、ぼんやりと外を眺めている。

吐き出された紫煙が車内に漂う。

「本格的に降り出したな」

視線を外に向けたまま、神威が運転している翔に声をかける。

「予報では今日一日は降り続くそうですよ」

「そうか…ま、雨は嫌いじゃないからな」

「でも彼らは嫌いな様ですからね。外に出ずに一日中、家にいるでしょうね」

「それは何よりも鬱陶(うっとう)しいな」

翔が(うなず)く。

「確かにそうですね」

「あまりにひどい様なら全員まとめて外に叩き出してやるさ」

神威は灰皿に煙草を押し付けた。


車は大きな門の前に到着し一旦停車する。

設置された4台の監視カメラが車を捕えると門が自動に開いていく。

「彼らがまだ寝ている事を祈るばかりですね」

翔は扉の開いた裏門から駐車場に向けて再び車を発進させた。

            高台に建つ大邸宅。

広大な敷地は四方を高い塀に囲まれており、至る所に監視カメラが設置されている。

正門からはまっすぐな道が続き、その向こうには『白虎邸』と呼ばれる大きな屋敷が見える。

道の両サイドに広がる手入れの行き届いた日本庭園が由緒正しい日本家屋を更に引き立てる。

屋敷の裏手には何本もの桜の木々に囲まれた広い池があり、中央に木造の橋がかけられている。

橋を渡ると正面の屋敷とは打って変わり、3つの洋風の建物が並んでいる。

中央が『蒼龍邸』と呼ばれる海外より移築された3階建ての洋館。右側には6階建てのマンション風の『朱雀邸』

左側には地下1階、地上2階のコンクリート建ての『玄武邸』

その先には何台もの車が収容できる駐車場と裏門がある。


‐真神家‐ 

遥か昔より続く日本有数の財閥でこの大邸宅の主である。

真神家の現当主である神威。そして翔は代々、真神家に遣える桜塚家の現当主である。

神威は25歳、翔は28歳。どちらも経営者としてはまだ若い方だが統率力・洞察力・行動力・先見の明等、巨大な財閥を支配するのに必要な数々の力を充分に備えている。


『ある事情』により神威は12歳まで別姓を名乗り、違う家で暮らしていた。

初めて真神家を訪れた神威を見た瞬間、翔はその美しさに眼を奪われた。


まだ13歳だというのに全身に威厳を持ったオーラを纏っている。

艶やかな黒い髪と白い肌、華奢な躰。

大きな瞳は強い力を放つが、その奥には暗い『何か』が隠されていた。


あれから12年。

桜塚家の代々からの掟に従い、翔はずっと神威の傍にいる。どんな時も自分を犠牲にしてでも彼女を守ってきた。

翔自身。その掟に不満を持つ事はなく、むしろ自ら進んで受け入れている。


【神威様の盾となり、傍に居続けたい…】


それが翔の唯一の願いであった。


車は駐車場に到着し停止する。

エンジンを切ると翔はすぐに降り、助手席のドアを開ける。

神威は車から降りると屋根付きの駐車場から出て空を見上げた。

髪や顔から全身へと雨粒が伝う。

「風邪をひきますよ」

後ろから翔が開いた傘を差しかける。

「構わない。この時期に雨に濡れたくらいで風邪はひかないさ」

「また、そんな事を…お体が弱いのですから、気を付けて頂かないと」

翔のさしかけた傘が神威を濡らす雨粒を完全に遮る。

「お前は本当に心配性だな。しかし…お前の方こそ濡れてしまうぞ」

「私はいいんですよ」

二人は蒼龍邸に向かい並んで歩き出す。


「おっかえりぃ〜!!」

玄関のドアを開けると大音量の明るい声が飛んできた。

「二人仲良く朝帰り〜?やらしぃ〜」

声の主はニヤニヤしながら二人を交互に見ている。

「祈りは届かなかったようですね」

呆れ顔の翔はうんざりした様な神威に小声で囁く。

「まったく朝から騒がしい奴だな」

「なになに?」

興味津々な声の主を無視し神威はリビングへ向かう。

「ねえねえ〜?」

神威の後ろ姿に尚もすがり着こうとする声の主を翔が止める。

「洋介、いい加減にしろ。あまりしつこいとまた鉄槌食らうぞ」

声の主‐洋介‐は不貞腐れ頬を膨らます。

「いいじゃん。帰ってくるまで起きて待ってたんだよ?何してたか聞いたってさ」

「生憎だがお前の期待してる様な事は何もない」

「でも、二人きりで居たんだろ?」

ちらりと翔を見る。溜息をつくと翔もリビングに向かった。

「ノーコメントですか〜?ますます怪しいですね〜」

レポーター口調で右手にマイクを持つ仕草をしながら洋介は翔の後を追う。


リビングに入ると既に神威は大きなテーブルの指定席に座り、経済新聞を広げていた。

「翔、コーヒーは?煎れたてだよ」

神威の向かい側の席にいる青年‐旬‐が声をかける。

「ああ、いただくよ」

翔は神威の隣の席に着く。

「ねえねえってば〜」

洋介は旬の隣に座り、まだ諦め切れずに身を乗り出して正面の二人を見ている。

「何にもなかったんですか〜?」

レポーター口調のまま見えないマイクを差し出す。

新聞から顔を上げた神威が洋介を睨み付ける。

「池に沈めてやるぞ」

どすの聞いた声を発するが洋介は(ひる)まない。

「脅しですか〜?恐いですね〜」

おどけた口調で返す。

「脅しかどうか試してみるか?」

神威は睨みながらもにっこりと笑う。

「まあまあ、お二人さん。朝から喧嘩はやめましょうね。でも洋介、池に沈められても僕は助けてあげないよ」

コーヒーをカップに注ぎながら旬が間に割って入る。

「私も助けてやらないぞ。むしろ手伝うな」

旬からカップを受け取り、翔もにっこりと笑う。

「ふん。何だよ、皆してさ。俺はひとりぼっちだなぁ〜」

洋介は椅子の上で体育座りをして再び頬を膨らませる。

「お前は本当にガキだな」

「うんうん。ガキだね」

翔と旬が互いに頷く。

「どうせガキですよ〜だ!」

洋介は舌を出しながら二人を睨む。

そんな三人のやり取りを神威は微笑みながら見ていた。


平穏に流れる時間。


外は重い雲が空を完全に支配し、雨は更に激しさを増していった。

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