Chapter15
12月の上旬。
いつに間にか辺りはすっかり寒さに覆われていた。
蒼龍邸のリビングにはいつも通り、翔・旬・洋介・竜也・悠が顔を揃えていた。
「ねえ、神威は?」
雑誌を読んでいた洋介が、ノートパソコンの画面と睨み合いをしている翔に声を掛ける。
「玄武邸にいらっしゃるはずだ」
顔を上げずに答える。
玄武邸とは蒼龍邸の隣に位置したコンクリート作りの建物だ。
道場を始め、ジムやプールも併設されている。
いわゆる、身体を鍛える為の訓練施設といった所だ。
当初は道場のみの古い木造作りだったが【ある時】火事で焼失した為、神威が新しく建て直させたものだった。
「ふ〜ん、また鍛錬?」
「お前も少しは神威様を見習ったらどうだ?」
「翔こそね」
いじけた顔で翔を睨む。
「翔は今、お仕事してるんだよ。
サボってる訳じゃないよ」
旬がすかさずフォローを入れる。
「朝からつい先刻まで、神威に付き合って手合わせしてたしな」
竜也が後を続ける。
「それにしてもスゲえよな〜
神威とまともに手合わせ出来んのは今や翔と旬くらいだよな?」
悠が感心した様に翔と旬の顔を交互に見る。
「今の俺達なんて秒殺だもんね」
洋介が悠と竜也を見る。
「少なくてもお前よりはもつがな」
「だな」
竜也と悠は意地悪な笑みを浮かべた。
「ふ〜んだ。
どうせ、俺は弱々だよ〜だ」
更にいじけてそっぽを向く。
「いじけないの。
僕達だって最近は、相手するのはやっとなんだよ」
旬がちらりと翔を見る。
翔は旬の視線を避ける様にパソコンの画面を向けたまま、コーヒーを口にしていた。
「神威は日を追う毎に、ますます強くなっていく。
近い将来、僕達だって手合せの相手さえ出来なくなるよ」
少し寂しそうな表情を浮かべて旬が笑った。
「やっぱ、アマゾネスだな」
微妙な空気を感じたのか悠が軽口を叩く。
「だ〜か〜ら!
神威は…」
「か弱い女の子、だろ?」
「そうだよ!
女の子だよ!
で、でも…
か弱くはないかも…」
「何だそれ?」
悠は大げさに首を傾げた。
「ところでさ、洋介。
何の雑誌読んでたの?」
旬が洋介の前に置かれた雑誌を指差す。
「そういえば、この前もそれ読んでたよな?」
悠が雑誌を覗き込む。
「これ?
よくぞ!聞いてくれました!
じゃ〜ん!」
自慢気にあるページを開いて皆に見せる。
『気のない彼女をその気にさせる!クリスマス!必勝法!!』
赤い文字の大きな見出しが四人の目に飛び込んで来た。
皆があからさまに呆れた顔をする。
「…あのさ…洋介…
あえて、聞くけどさ…
それ…何?」
やっとの思いで旬が洋介に問い掛けた。
「何って!決まってんじゃん!」
洋介が胸を張る。
「皆で神威とクリスマスを!
神威の誕生日を!
祝うんだよ〜!」
威勢の良い声を張り上げ、いっぱいに両手を広げた。
「お前さ…
本当に!馬鹿だな!」
「いっその事、神威にやられてしまえ」
悠と竜也が呆れた声を上げた。
「何で!?
良いじゃん!」
「良い悪いじゃなくて…」
旬が困った顔をする。
「神威様が嫌がるに決まってるだろう」
翔が旬の後を続ける。
「神威が誕生日を祝われるのが嫌いって事、洋介も知ってるよね?」
「そうだ。
そんな事したら、それこそまた神威の逆鱗に触れるぞ」
「また張り倒されっぞ。
やめとけって…」
旬・竜也・悠が諭す様に言う。
「ほら!また!
みんな、諦めてる!」
「諦めているんじゃない。
神威様の嫌がる事をしたくないだけだ」
翔も洋介を諭す。
「昔は毎年、やってたじゃん!
確かに…アレからはやってないけどさ…」
皆の反対に合い、洋介が寂しそうに俯く。
12月24日。
クリスマスイブだと世間で騒がれるこの日は、神威の【誕生日】でもある。
洋介の言う通り。
確かに以前は毎年、蒼一郎・翔・旬・洋介・竜也・悠を始めとする幾人かのメンバーで祝っていた。
元々、神威は何故か自分の【誕生日】を極端に嫌っていた。
『神威が生まれた日があったからこそ、僕達は出逢えたんだ。
そんな日を祝わないでどうするんだよ』
そう蒼一郎が説得したお陰で、神威も祝われる事を喜んでいた。
しかし…
蒼一郎が他界した八年前からは祝う事を一切、許さなかった。
神威にとっては蒼一郎が居たからこその【誕生日】だったのだろう。
実際に翌年、『おめでとう』と言ってしまった洋介に『黙れ!』と神威の激しい罵声と鉄拳が容赦なく飛んできた。
以来、神威の誕生日は【何も言わない】【何もしない】というのが皆の中での暗黙のルールとなった。
それは現在まで守られている。
「だいたいさ。
何で嫌がってるか、みんな知らないじゃん!」
しばらく俯いていた洋介が反論の声を上げた。
「理由は良いんだ。
嫌がってる事には変わりない」
翔が切り返す。
「でも!
昔、蒼一郎も言ってたじゃん!
生まれた日を祝わないでどうするんだって!」
蒼一郎の名前に翔がぴくりと反応する。
「なら、お前は神威様の嫌がる事をあえてしたいのか?」
自然と眉間に皺が寄り、きつい口調になる。
「そういう訳じゃないよ!
でも!もう良いだろ?」
「どういう意味だ?」
洋介が真顔になって翔を見つめる。
「神威が誕生日を祝って欲しいと思っているのは蒼一郎にだけだって事ぐらい、俺にだって分かってるよ!
でももう、蒼一郎はいないんだ。
そして、俺だって神威の一年に一度しかない日を祝ってやりたい」
決意を込めた声で言う。
「それはみんなも同じ気持ちだろ?」
一息つく。
「八年も経つんだ。
もう良いだろ?」
今度は皆を見つめる。
「でも、洋介。
いくら僕達が祝ってあげたいと思ってても、それを神威が望まなければ意味がないよ…」
「そうだ。
本人が望まない事をやっても迷惑なだけだろ?」
旬と竜也が力なく答える。
「意味とか理屈とかはどうでも良い!
なんてやってみなくちゃ分かんないだろ!」
バンと両手でテーブルを叩く。
「このままじゃ神威は前に進めない。
俺達だって!
ずっとあの時で立ち止まったままだ!」
切ない叫びが部屋に響く。
「…確かにそうかもしんないな…」
悠がぼそりと呟く。
「神威は色んなモノを背負い過ぎてる。
特に過去って奴をな。
俺達はその事に気付いてるのに、神威が嫌がるからって事を理由にして触れようとしない」
悠は洋介を見て苦笑する。
「それってさ…
神威からも蒼一郎からも、逃げてるのと同じなのかもな…」
皆の間に沈黙が流れる。
「やってみなくちゃ分からない、か…」
旬が沈黙を破った。
「確かにそうだね…」
笑顔で洋介を見る。
「よし!やってみよう!」
立ち上がると洋介の肩を叩く。
「神威がもし激怒したら…
皆で仲良く張り倒されよう!」
「それもそうだな」
「赤信号、皆で渡れば怖くない!ってか?」
旬・竜也・悠が洋介に同意をする。
「翔、良いよね?」
旬が黙って煙草を吸っている翔に問い掛けた。
皆が注目する。
翔は溜息と共に紫煙を吐き出す。
「お前達がそこまで言うなら仕方ないな」
ノートパソコンを閉じると軽く笑う。
「しかし、洋介。
どうするつもりだ?」
喜んでいる洋介に翔が問う。
「普通にやっても駄目だろうな」
竜也が同意する。
「だから!
これだよ!」
雑誌を掲げる。
「それってさ、女を落とすってもんだろ?
この場合は違うだろ?」
「悠!その気のないってのは同じだよ!」
「そりゃそうだけどさ…」
雑誌を奪い取った悠が記事を読み始める。
「明確な計画はあるのか?」
竜也もつられて雑誌を覗き込む。
良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりに洋介が立ち上がる。
「神威も女の子なんだよ!
誰かが代表で普通の子がやるみたいなデートコースを回らせて…
和んだ所でここに連れ帰って…
サプライズなパーティーを開催!」
再び手を広げる。
「…あのさ…
それって、かなり無理なんじゃねえ?」
悠が顔を上げる。
「誕生日にあえて外に連れ出すのは難しいんじゃないのか?」
竜也も同意する。
「第一、誰がデートコースを回らせるんだよ?」
「洋介じゃ絶対無理だよ」
「即答で却下だな」
「何、言ってんの?
そりゃ俺がやりたいけど、無理なのは分かってるよ…
他に…
適任者がいるじゃん!」
四人が一斉に翔を見る。
「…もしや…
私にやれと言うのか?」
翔が露骨に不信感を浮かべる。
「私に神威様を連れ出せと言うのか?」
「だって!
このメンバーの中じゃ翔が一番ぴったりだよ!」
洋介は翔の背中に回り抱きついた。
「無理だ」
洋介の手を振り払う。
「翔だったら大丈夫だって!」
「確かに翔なら信用されるね」
旬が大きく頷いた。
「それなら。
旬の方が適任だろう」
翔が反論する。
「だめだめ。
僕はサプライズなパーティーの準備しないと。
洋介達だけだったら心配だしね」
「しっかりの者の旬には残ってもらわないとな」
「他の俺達の誰かが誘うと、わざとらしく見えてバレちまう可能性が高いしよ」
旬・竜也・悠が翔を取り囲む。
「そうそう。
翔なら自然に神威を誘い出せるよ」
「神威もお前相手なら怪しまないだろうしな」
「お前しかいないって!」
三人がにじり寄る。
「それとも、翔は神威の誕生日なんてどうでも良いの?」
旬が翔の顔をわざとらしく覗き込んだ。
「そんな訳ではないが…」
珍しく翔が口籠る。
「連れ出す計画は俺が立ててるからさ!」
洋介が止めを刺す。
「観念しろよ」
四人の声が揃う。
「分かった」
翔はついに観念したように大きな溜息を付いた。
「よし!決まり〜!」
翔の言葉に四人がガッツポーズを取る。
「で、洋介?
計画とやらを聞かせてもらおうか?」
新たな煙草に火を点けながら洋介を見る。
「簡単だよ!
ほら!」
ポケットから白い封筒を取り出す。
それを受け取ると中身を確認する。
「…クラシックのコンサートか?」
「そう!
神威は翔の弾くピアノを気に入ってんだろ?
で。
『好きな楽団がクリスマスイブにコンサートやるんですが。
たまたま知り合いにそのチケットを貰ったので一緒に行きませんか?』
って誘い出すんだよ」
「そんな簡単にいく訳がないだろう?」
「大丈夫!
実際にクラシックに興味あるのは翔と神威だけだし。
他の奴らは誘っても居眠りされるだけだって付け加えれば、もう完璧だよ!」
翔はチケットを眺めている。
「で。その後、イルミネーション輝く街を二人でしばらく歩いてさ。
良い感じになった頃合で竜也が神威に電話する。
『旬が階段から落ちて大怪我した!すぐに家に戻って来い!』ってね」
「何で、俺が電話するんだ?」
「だって、残ったメンバーの中で一番信じてもらえそうじゃん」
「何で、僕が階段から落ちるの?」
「だって、一番ありえそうじゃん」
「それを言うなら、洋介が落ちたって言う方がありえるよ」
「俺が落ちたって言っても『馬鹿だな、ほっとけ』って無視されそうじゃん…」
四人が洋介を見て頷く。
「…確かにそうだな」
「でも、僕って間抜けな役だね…
何かヤだな…」
旬が不服そうに呟く。
「まあ、たまには良いんじゃねえ?」
悠が笑って言う。
「ま、神威の為だから仕方ないね」
「神威の為だけじゃないがな」
竜也が悠と手を取り喜んでいる洋介を眺めて微笑んだ。
「洋介のあんなに喜んでる姿を見るのは久しぶりだね」
「七夕…以来だな」
旬と翔もつられて微笑みを浮かべる。
「でも、何で急に神威の誕生日を祝ってやりたいなんて言い出したんだろ?」
激怒される可能性が遥かに高いのにね」
「いつもの気まぐれ等ではなさそうだな」
二人が竜也を見る。
「あいつなりに考える事があるんだろう」
竜也が軽い溜息を付く。
「あいつには、あいつにしか見えないモノがあるんだ…」
寂し気に呟いた竜也を翔と旬がじっと見つめる。
「な〜にコソコソ話してんの?」
洋介が割り込んでくる。
「お前は筋金入りの馬鹿だと話していたんだ」
「何だよ、竜也。
馬鹿馬鹿、言うなよ!」
「事実だろ?」
「馬鹿のフリしてるだけだもん!」
「そうだったのか?
今まで気付かなかったな。
意外だったな」
大袈裟に何度も頷く竜也に洋介がしがみ付く。
「あ!
やっぱ馬鹿扱いしてる!」
「だから、事実だろうが」
「馬鹿馬鹿言う竜也の方が馬鹿なんだよ!」
「耳元で喚くな」
竜也が洋介を振り払おうと体を動かす。
洋介は抵抗し尚も強くしがみ付く。
「離せ、洋介。
でないとシメるぞ」
「何か竜也って神威に似てきたよ〜」
悠が二人のやり取りに参加する。
「確かに似てきたな〜」
「そう言われてみれば似てるね。
話す口調とか怖い顔とか、特にね」
旬も参加する。
「いい加減に離れろ。
うっとうしい!
怖い顔なら翔の方がそっくりだろうが!」
皆を振り払い立ち上がった竜也は、翔に矛先を向けた。
「何で私に振るんだ?」
翔は再びノートパソコンを広げる。
「竜也の言う通り、怖い顔なら翔も負けてないね〜」
「悪かったな」
「そう思うなら笑ってよ」
翔の顔を旬が横から覗き込む。
「笑ってよ〜」
その隣で洋介が同じ仕草をする。
「ねえ、笑ってよ〜」
更に悠が加わる。
並んだ三人を翔は無視して画面を見ている。
無視された三人が顔を見合わせ笑った。
「何を騒いでいるんだ?」
声と共にリビングのドアが開く。
白の胴衣に紺の袴姿の神威が不思議そうにこちらを見ていた。
翔がすぐさま立ち上がり神威に歩み寄る。
「さっきの計画、神威には絶対に内緒だよ…」
洋介が声を潜めて言う。
「了解」
旬・竜也・悠が小さく頷いた。
「何だ?」
持っていたタオルを翔に渡しながら、神威が首を傾げる。
「何でもありません、神威様」
タオルを受け取ると優しく笑う。
「ああ!神威の前だと笑うんだよね〜」
洋介が翔を冷やかす。
「何の話だ?」
「神威、冷たいお茶でも入れようか?」
旬が困った顔をしている翔を助ける。
「ああ…頼む」
まだ不審そうに翔達を見ながらも神威は席に座った。
「洋介、何か企んでないか?」
「え?!
な、なんにも企んでないよ!」
神威にじっと睨まれた洋介が途端に慌て始めた。
「なら、何故そんなに慌てるんだ?」
「神威がそんな怖い顔して見てるからだよ」
旬がグラスを手渡す。
「そうか?」
グラスを受け取ると一気に飲み干した。
「神威はいっつも怖い顔してるからな〜
ていうか、ホント男らしいな…」
悠が神威の飲みっぷりを感動した様に見つめる。
「女らしくなくて悪かったな」
ちらりと悠を見返す。
咥えた煙草に翔がすかさず火を点ける。
「神威はれっきとした女の子だよ。
ね?洋介」
旬が話題が変わり神威の隣で安心していた洋介に同意を求める。
「あ!う、うん!」
しどろもどろになって答える。
「何か変だな…」
神威はわざと洋介に顔を近付けた。
あまりの近さに洋介が真っ赤になって俯く。
「何か隠してないか?
洋介?」
吸い込んだ煙を洋介の横顔に吹き付ける。
洋介が軽く咳き込んだ。
「何も隠してないよ〜
ていうか…
神威…顔、近いよ…」
「何、赤くなってんだ?」
悠が洋介の横腹を突付く。
「赤くなってないよ!」
むきになって反論する。
「可愛い〜洋介〜」
「悠!うるさいよ!」
「ますます可愛い〜」
二人にやり取りに顔を離した神威は自然と微笑んでいた。
「本当に騒がしい奴らだな」
煙草を消すと立ち上がる。
「何処行くの?」
旬が神威の背中に声を掛ける。
「シャワーを浴びてくる」
「そう、いってらしゃい」
神威は旬の声に片手を挙げて部屋を出て行った。
「危なかった〜」
神威が部屋を出たのを確認すると、洋介はテーブルに突っ伏し情けない声を上げた。
「お前、慌て過ぎだって」
伸びをしながら悠が洋介を見下ろす。
「神威はただでさえ勘が良いんだからね」
旬が洋介の前に冷たい茶の入ったグラスを置く。
「だって〜
旬が変な事言い出すからだろ〜」
グラスを手にすると、先程の神威の様に一気に飲み干した。
「ったく、冷や冷やさせやがって」
悠がぼやきながら立ち上げる。
「俺、朱雀邸に戻るわ。
何かどっと疲れた〜」
手を振ると旬も悠の後を追う。
「僕も〜
とりあえず。
みんな、詳しい話はまた後日って事で」
全員が軽く頷く。
「私も戻るか。
ここじゃ仕事も進まないしな」
翔もパソコンを手にするとドアへ向かう。
「では、竜也に洋介。
後片付けを頼んだぞ」
翔はそう言い残すとドアを閉めて出て行った。
リビングには如月兄弟が残された。
幼い頃からずっと部屋が別々だった為、この兄弟が二人きりになる事は極めて少ない。
少し重たい空気と沈黙が部屋に漂う。
「それにしてもビビった〜」
気まずさに耐え切れず、テーブルの上の物を片付けながら洋介が声を発する。
それを竜也が呆れた顔で見た。
「情けない声を出すな」
「だってさ!
あんな近くで見られたらさ…」
「言い訳するな。
追求されても動揺するな」
微かに眉間に皺を寄せ、厳しい口調になる。
「動揺してもそれを表に出すな。
それでも先見の家の者か?」
「いきなり説教するなよ」
「たまには真面目に聞け。
そんな事では如月の未来も危ういな」
「何、言ってんの?
家は竜也が継ぐんだから。
大丈夫でしょ?」
カップを乱暴にトレイに載せる。
「もし、俺に何か遭った時はお前が継ぐ事になるんだぞ」
「縁起でもない事言うなよ。
俺は嫌だからな」
洋介がいじけてそっぽを向く。
「お前はいつまでも変わらないな…」
竜也はそんな洋介に少しだけ苦笑いを浮かべた。
「良いのか?
あいつら、二人きりにしてさ」
朱雀邸に向かいながら、悠が先を歩く翔に声を掛ける。
「たまには兄弟で話をするのも良いだろう。
こんな事でもなければ互いに距離を取るからな」
振り返らずに答える。
「確かに。
普段は会話の少ない兄弟だからね」
隣にいた旬が悠をちらりと見た。
「あいつらってさ、何か水と油みたいなもんだよな。
見た目も性格も正反対だしよ」
翔が立ち止まる。
「いや。あの二人はよく似ている」
「そうか?」
「僕も似てると思うよ。
でも、だから余計に避け合うんじゃない?」
ふーんと悠は大きく背伸びをする。
「まあ、俺らには分からない何かがあるってか?」
「血の繋がりがあるからって相手の全てが分かる訳じゃないよ。
僕だって神威の考えてる事は全然分かんないし」
小さく言った旬の肩を二人が左右から軽く叩く。
「私にだって神威様の事は全く分からないさ」
「だけど、それでも俺らは神威の傍に居る。
それだけちゃんと分かってりゃ十分でしょ?」
三人は互いに顔を見合わせ強く頷いた。