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『DIABOLOS』  作者: 神威
20/24

Chapter14

蒼一郎のまともな(?)初登場です。

どうしても、神威&蒼一郎の関係の強さ・現在はポーカーフェイスな神威の苦悩等などを表現したくて思いのままに書いてしまいました…

文章力がない上にダラダラ長くなって申し訳ないです…

最後まで読んでくださった方にとても感謝感謝です!

ありがとうございました!!


真神家の本邸でもある白虎邸。

今現在は住人はおらず、特別な行事の時のみ使用される。

毎日の様に通いの使用人達の手により掃除等の手入れはされているが、住人がいないせいか邸内は閑散としている。


真夜中。

神威は木製の廊下を一人、ある部屋に向かっていた。

古い板張りが歩く度にギシギシと乾いた音を立てる。


八年前まで、神威は家族と共にこの白虎邸で暮らしていた。

厳しく笑わなかった実母、綾乃。

穏やかで優しかった義父、宇月。

昔から平和主義だった、旬。

旬の実母で綾乃の実妹、静。

旬の実父、大河。

多くの住み込みの使用人達。


そして…

異父兄、蒼一郎…


廊下を歩きながら幾つもの部屋を通り過ぎていく。


あの頃は屋敷中に人が行き交い、いつも賑やかだった。

唯一、静かになるのは皆が寝静まった真夜中だけ。

短い沈黙と闇が支配する中、懐中電灯を片手に持った蒼一郎とよく邸内を歩き回った。

たくさんの部屋を二人で手を繋ぎ探索して行くのだ。

声を潜めて話していても蒼一郎の言葉が可笑しくて、ついつい笑い声を漏らしてしまう。

その度に誰かに発見され怒られ、それぞれの部屋に戻された。

それでも、私達は真夜中の探検を止めはしなかった。


この屋敷に来たばかりの頃は静寂とあまりの広さで夜が恐ろしかった。

だが、そんな時に決まって蒼一郎が部屋を訪ねてくれる。

お陰で次第に夜が好きな時間へと変わっていった。


「本当に静かだな…」

神威は目的の場所に着くと格子扉の錠前の鍵を外す。

格子扉の向こう側には白い襖が見える。

前に立ち一息つくと襖を開けた。

畳と微かな伽羅の香が混じった匂いが鼻を掠める。

戸口から部屋をぐるりと見渡し足を踏み入れた。

木製の低い机と座椅子、三つ並んだ大きな本棚、鍵の付いた引き出しのある箪笥。

目の前には今はもう使われていない家具が並べられている。

机に近付きスタンドの明かりを付けた。

橙の弱い灯りが薄っすらと部屋を照らす。

「蒼一郎…」

神威は小さく呟いた。


この部屋は白虎邸の一番奥にある、かつて蒼一郎が使っていた部屋だった。


神威は箪笥の引き出しの鍵を開ける。

中には古びたアルバムと古びた日記帳。

そして、伽羅の香と年代物のカメラ。

それらを取り出すと座椅子に腰掛ける。

机の上の灰皿に伽羅の香を置き火を点けた。

心地の良い香りが全身を包んでいく。


神威は少し躊躇した後、思い切ってアルバムを開いた。

最初のページには咲き乱れる桜の大木の下、無愛想な顔をした神威と笑顔の蒼一郎。

真神家に来て初めて撮った写真。

元々が写真嫌いで必死に拒んだのが、宇月がどうしてもと聞かず仕方なく撮った物だった。

そのせいか酷く無愛想な顔で写っている。

「子供だったな…」

微かに笑い次のページをめくる。

そこには両ページに一枚ずつ異なった写真が貼られていた。

左側は神威。シンプルな白いワンピースを着てこの部屋で立っている。

右側は蒼一郎。白いシャツを着て座椅子に座っている。

どちらも幸せそうに満面な笑顔を浮かべていた。


蒼一郎は年代物のカメラを手に『骨董屋で見つけて一目で気に入り買ってしまったのだ』と笑って言った。

『記念すべき第一号のモデルは雪乃しかいない!』

買ったばかりのカメラをこちらに向ける。

『大袈裟なのよ、蒼一郎は』

『そんな事ないよ!写真嫌いの雪乃の為に買ったんだし』

意地悪な含みを込めて蒼一郎を軽く睨む。

『何よ、それ?ただ一目惚れして買ったんじゃなかったの?』

『雪乃を撮る為に一目惚れして買ったんだよ』

『一目惚れして買ったから私を撮るんでしょ?』

『違うよ!』

『ふ〜ん、そうなの〜?』

『まあ、良いじゃないか。

 さあ、笑って笑って』

ファインダー越しに蒼一郎が笑う。

『あ!誤魔化してる〜』

つられて私も笑う。

『誤魔化してないよ。

 ほら、笑って。

 この前みたいに不機嫌な顔は可愛くないよ』

『分かったわよ』

レンズに顔を向けた瞬間、シャッター音が部屋に響いた。

フィルムの巻かれる音を確認すると蒼一郎の手からカメラを奪う。

『次は私の番。

 蒼一郎も笑って。

 この前よりも良い笑顔でね』

『雪乃…

 これから二人でたくさんの思い出を作ろう。

 そして、このカメラにその足跡を残していこう』

ファインダーの向こうの蒼一郎はとても優しい目をしていた。


写真を撮った時の状況がつい昨日の事の様に蘇る。

その映像があまりにリアルで、あれから何年も経っているのを忘れてしまいそうになる。

今思えば、今までの人生の中で一番幸せだったのかも知れない。


ほんの束の間の、至高の幸せ。


真神の当主になる為の修行はとても辛かった。

『当主として恥じない立派な振る舞いを』と周りからしつこく言われ、極端に行動を制限された。

どこにいても、何をしていても、誰かに監視された。

どんなに周りの者に丁重に扱われようと、自分の置かれた突然の状況に付いていけずにいた。

新しく家族となった者達が親切に接してくれようとしても、全く馴染めずにいた。

真神家での日々が続く内、私は本来の自分の姿が分からなくなっていた。

『逃げ出してしまおう』

自分で選べなかった自分の未来に絶望して、何度そう思った事か。

だが、そんな私を救ってくれた者がただ一人だけ存在した。


真神 蒼一郎。

父親は違っても、半分血の繋がった兄。

初めてこの家に来た日から私を守ってくれた。

どんな時でも傍に居てくれた。

何度も挫けそうになる私を必死で励ましてくれた。


『この世界にはどうしようもない、変えられない事がたくさんある。

 無理矢理に自分の持つ何かを奪われてしまう事もある。

 自分の意思じゃなく、誰かに押し付けられたモノから逃げられない時もある。

 だけど、雪乃の生きる時間は雪乃だけのモノ。

 それだけは誰にも変えられないし、奪えない。

 だから、絶望に囚われないで。

 前を向いて、笑っていて。

 僕がずっと傍に居るから…』


蒼一郎が居たから、逃げずに生きていられた。

自分の未来を受け入れられた。


蒼一郎が傍に居てくれたから、笑っていられた。

泣く事だって出来た。


私がこの世で初めて無条件で信じ、心を開く事の出来た人。

私がこの世で初めて、愛した人。


例え、半分血の繋がった兄妹でも構わない。

そんな事、関係ない。


あの頃。

彼だけが…

私の世界だった…

私の全てだった…


傍らのカメラに触れると指先に冷たい感触が伝わる。

現実が容赦なく戻ってくる。


アルバムは全て神威と蒼一郎、二人の写真だけで埋め尽くされていた。

他の者が写っている物は一枚もない。


神威がこの家に馴染めなかった様に、蒼一郎もまた馴染めてはいなかった。

母・綾乃が自分を置き去りにして別の男と失踪したせいで、心無い者達に陰口を言われていたせいだ。

似た孤独、似た苦悩。

それらが二人の絆を強め、繋いでいたのかもしれない。

【二人きりの世界】

それでも二人には何よりもかけがえのない、大切な物だった。

永遠に続いていくのだと信じていた。


手にしたアルバムを閉じると神威は再び部屋を見渡す。

「夢は夢…

 やがては消えて失くなってしまう…」

日記帳の表紙に書き殴られた文章を声に出して読む。

いつ書かれたのか神威は知らない。

ただ、幸せだったと思うあの頃でない事を祈る。

あんな風に感じていたのは自分だけではなかったと信じたい。


永遠など何処にも存在しなかった事を知った今。

あの頃、蒼一郎に抱いていた愛情が何よりも美しく思える。


「蒼一郎…どうして…」

目を閉じると優しく笑う蒼一郎が浮かぶ。

「どうして…あんな事に…」

神威は【最後のあの日】を思い返していた。


幸せな日々は少しずつ、でも確実に壊れ始めていた。

雪乃はその事に気付かない。

いや、本当は気付いていた。

認めたくなくて、現実を見ないでいた。

ひび割れて行く音に耳を塞いだ。


蒼一郎の心の深淵に確実に存在する、どす黒い狂気。

強く押さえ込んでいても時々不意に現れる、激しい衝動。

穏やかな顔の裏側にある、冷たい顔。

人の感情に敏感だった雪乃は早くから気付いていた。

だが、認める訳にはいかなかった。


認めれば唯一の大切な者を失ってしまう。

安らげる唯一の時間と場所を壊してしまう。


何よりも…

蒼一郎の狂気に呼応してしまいそうになる自分が怖い。

蒼一郎と同じ様に闇に囚われてしまうのが怖い。


そんな混乱する意識に支配されまいと、蒼一郎の【変化】から目を背けた。

やがて、雪乃のその行為が大きな事態を招いてしまう。



15歳の春。

私は正式に真神の当主の座に就いた。

【神威】という名は代々、強い力を持つ者だけが継ぐ事のできる名だ。

『歴代当主の中でも一・二を誇る力の持ち主だ』

そう周りに称えられた。

この日、私は戸籍上で【朽木 雪乃】のままだったそれまでの名を捨て【真神 神威】となった。

名が変わったせいで、それまでの自分が消されてしまった様な気がして酷く不快だった。

『本当にもう何処にも逃げられない』

そんな思いが心にまとわりつく。


それでも、蒼一郎だけは今まで通り【雪乃】と呼んでくれる筈。

他の全員が【神威】と呼んでも、蒼一郎だけが【雪乃】と呼んでくれれば…

今までの私は決して消えずに残る。

あの写真達の様に…


当主の継承式は両親のみしか出席出来ない仕来りだ。

そのせいで蒼一郎は池の桜の大木で式が終わるのを待ってくれている。

私は式用の白い袴姿のまま、池に向かって走って行く。

途中に擦れ違う者達に祝いの言葉を掛けられていたが、そんなものは全く耳に入らなかった。

ただ蒼一郎に本当の名で呼んで欲しくて夢中で走った。


やっと池に着くと、蒼一郎は桜の大木に寄り掛かり池を眺めている。

「蒼一郎!」

それ以上の言葉が出てこない。

たまらず足袋のままで地面に降り立つ。

私の声に反応して蒼一郎がこちらを向いた。

「式は終わった?」

立ち上がり、ゆっくりと私に歩み寄って来る。

「おめでとう」

蒼一郎が立ちすくむ私を抱き締める。

「これで、やっと…」

暖かな体温に堪えていた思いが溢れ出しそうになる。

「これでやっと、僕の願いが叶うよ…」

抱き締められた腕の力が徐々に増していく。

「蒼一郎?」

「君が僕の願いを叶えてくれるんだ」

言葉の意味が分からずに蒼一郎を見上げる。

彼は笑っていた。

いつもの優しい笑みではなく、禍々しい笑み。

「ありがとう、神威」

背中を冷たい汗が伝う。

私は不意に湧き上がる強い恐怖に駆られ、力任せに蒼一郎を突き飛ばした。

「どうしたんだ?」

蒼一郎が私の行動に驚いた顔をする。

何も言えず、体が勝手に後退りしていた。

「一体、どうしたんだ?」

蒼一郎が再び禍々しい笑みを浮かべ、少しずつ近付いてくる。

「神威」

もう一度名を呼ばれた私は、踵を返しその場から走り去っていた。


とにかくあの場から立ち去りたかった。

蒼一郎の笑みが、全身から滲み出ていた狂気が、怖かった。

そして…

【雪乃】と呼んでくれなかった事が何よりも許せなかった。


気付けば私は客間の前に立っていた。

私の当主継承を祝う者達で宴が開かれ賑わっている。


「神威様?」

突然現れた私に翔がいち早く気付き近付いてくる。

息を切らし俯いた私の顔を心配そうに覗き込む。

「神威様?どうなされたのですか?」

翔の手が答えない私の肩に触れようと動く。

「私に触るな!」

手を振り払い叫ぶ。

その声に客間にいる皆が私を見る。

「…神威様?」

「私の名を呼ぶな!!」

激しい声に皆がざわめき出す。

翔はそれ以上は何も言えず、ただ私を見ている。

私を見る全ての好奇な視線が腹立たしかった。

「神威、何を騒いでいるのです?」

様子を見兼ねて、少し離れた場所から綾乃が割って入ってきた。

「何を騒いでいるのか聞いているんです。

 答えなさい」

強い口調で詰問される。

それが昂ぶる感情を更に煽る。

「お前は誰に口を利いている?」

感情を必死に押さえ、低い声で言い返す。

「神威、それはどういう意味です?」

負けじと綾乃が切り返してくる。

「そのままの意味だ。

 お前は誰に口を利いている?

 私は今日より真神の当主だ」

鋭く綾乃を睨みつける。

「例え、実の母親でも私にその様な口を利く事は許さない。

 真神の当主である私に。

 もう、偉そうに指図するな」

綾乃が一瞬、悲しい表情を浮かべた。

だが、すぐにいつもの厳しい顔に戻る。

「ならば、神威。

 この様な場で不様な真似はよしなさい。

 当主に有るまじき行いです」

「お前は私の言葉が理解できなかったのか?

 つい先程、私に指図するなと言ったはずだ」

互いに譲らず睨み合う。


久しぶりに交わされた会話はとても親子のモノではなかった。

皆が私達のやり取りに気まずさを感じ黙り込んでいる。


綾乃と話していると、次第に【ある感情】が大きく膨らんでいく。


『お前が自分の宿命から逃げたせいで、多くの者が苦しんでいる』


それは【怒り】が招く【憎しみ】だった。


「本当に不様ね」

綾乃が冷たく言い放つ。


その言葉に私の理性の箍が外れそうになる。


『この女の苦しむ顔が見てみたい』


私は衝動に身を任せ始めていた。


「誰のせいだ?」

冷静な表情を作る。

「何を言っているのです?」

綾乃が眉間に皺を寄せる。


「誰のせいだ?

 私が自分で生き方を選ぶ事が出来なかったのは」


自分でも驚くほど冷たい声だった。


「誰のせいだ?

 私の義父・宇月が強い絶望と恥を味わったのは」


厳しい綾乃の顔がみるみる苦しみに歪んで行く。

自分の目に闇が宿るのを感じる。


「誰のせいだ?

 私の実父・隼人が心労が祟り、若くして死んだのは」


もう止める事は出来なかった。


「誰のせいだ?

 蒼一郎が捨てられた悲しみや苦しみに耐え、生きているのは」


私の体から放たれる黒い狂気に誰もが圧倒されている。


「全部、お前のせいだろう?

 お前の身勝手な行いが招いた結果だろう?」


【憎しみ】が【殺意】に変化する。


「なのに何故、お前は平気な顔でいる?」


綾乃の目から涙が溢れ出す。

反論できないのか、無言で顔を伏せその場に座り込んだ。


「何故、お前は、生きていられる?」


その姿を冷酷な眼差しで見下ろす。

自然と口元に笑みが刻まれる。


『殺せ』


心に誰かの声が響く。


無意識に上げられた左の掌に黒い球体が浮かぶ。


「お前など、死ねばいい」


『殺せ!』


球体は声に呼応し大きくなっていく。


『殺せ!!』


「その命で己の罪を償え」


言い終えるのと同時に綾乃に向かって球体を放つ。


「神威様!!」

「神威!止めろ!」

翔と宇月が同時に叫ぶ。


叫びを無視して球体は綾乃に向かっていく。

綾乃の顔が恐怖に彩られる。


「これで終わりだ」


「…!」


球体が綾乃の体を貫こうとした瞬間。

白い光が部屋を包んだ。

眩しさに目を瞑る。


「蒼一郎!」


綾乃の声に目を開ける。

そこには綾乃を守るように防御壁を張った蒼一郎が立っていた。

球体は防御壁に阻まれ無残にも砕け散る。


「止めるんだ、神威」


静かな声。


綾乃を庇った蒼一郎に【殺意】の矛先が変わる。


「邪魔をするな。

 そこを退け」


蒼一郎は真っ直ぐ私を見て微動だにしない。


「退く訳にはいかない」

「もう一度だけ言う。

 そこを、退け!」


視界が黒に染まっていく。


「退く訳にはいかない!」


再び左手に球体が浮かぶ。


「邪魔をするなら…

 お前も殺す!」


私の叫びと共に球体が蒼一郎を目掛けて飛んでいく。


「オン・ハンダラ・ウン!」


蒼一郎の真言に合わせ蒼い龍が姿を現す。

龍は球体を飲み込み、こちらに向かってくる。

咄嗟に防御壁を張るが間に合わない。

龍に貫かれ私の体が後方に弾かれる。


「!!」


壁に叩きつけられると覚悟し、目を閉じた。


「!?」


だが、私の体は強い腕に受け止められた。

驚いて目を開けると蒼一郎の顔が間近にある。


「もう良いんだ」

いつもと同じ笑顔で言う。

「もう良いんだよ」

その笑顔に暴走した意識が正常を取り戻す。

「今は憎しみに支配されないで…」

暖かい手が頬に触れる。

耳元で囁かれる言葉。

「今は、ゆっくりお眠り…」

子守唄の様な穏やかな声に意識が遠のいていく。

全身の力が抜け、私は深い眠りに落ちて行った。


『この女を殺すのはまだ早い…』


眠りに落ちる間際、私は確かに聞いた。


『もっと、強い苦痛を…

 もっと、深い絶望を…

 味合わせてやるんだ…』


心に直接語り掛けてくる、蒼一郎の低く淀んだ声を…


『殺すのはそれからだ』



この一件の直後、私は自分で自分に封印を施した。

左腕に付けた力を抑える銀製の腕輪。

幅広の内側には力を制御する真言が刻まれている。

私自身が本当に力が必要だと心から願わなければ、この腕輪は決して外れない。

例え、外れたとしても。

引き換えにこの世に存在する最も耐え難い、肉体的な痛みを味わう事になる。

二度と同じ暴走を繰り返さない為に。

二度と大切な者達を自らの手で危険に晒さない為に。

二度と…

蒼一郎の闇に触発され、自らの闇に囚われない為に。



それから、三年後。


【ある事件】によって綾乃・宇月・静・大河。

そして…

蒼一郎は、この世を去った。

二度と帰れない死の世界へと旅立ってしまった。


蒼一郎の命と共に私の全ても失われた…


同じ血を受け継ぐ家族は私と旬だけになった。


残された私は旬を本家の養子に入れ義弟にした。

敷地内に別の屋敷を建てさせ【蒼龍邸】と名付けた。

完成すると直ぐに旬と共にそちらに移り住んだ。


それと同時期から様々な幻覚に度々襲われる様になった。


そして…

蒼一郎の使っていた部屋に結界を張った。

私の過ちが眠る場所。

私の狂気が隠れる場所。

誰にも汚されない私だけの聖地。

私以外の人間が決して立ち入れない様、強力な結界を施した。

それだけでは不安で、部屋の前に格子扉を取り付け鍵を掛けた。


やがて…

行き交う人々は消え、白虎邸は通常は使われない廃墟同然になったのだ。



神威は窓に近付き、厚いカーテンを開ける。

白み始めた空が妙に眩しく感じた。

「あれからもう、八年も経つのか…」

ガラス越しに空を見上げた。

「蒼一郎…

 何故、私を…裏切ったんだ?」

そこには居ない蒼一郎に問い掛ける。

答える様に背中の傷跡が鈍く痛む。

「あれから、ずっと…考えていた

 裏切られた理由を…」

ガラスに触れると体温で白い手形が浮かび上がった。

「でも…私には分からない…」

部屋を振り返る。

静まり返った空気。

「答えてくれる訳ないな…」

自嘲気味に呟くと、出した物を引き出しにしまい始める。

引き出しに鍵を掛け、カーテンを閉じる。

「また来る」

部屋を後にし、格子扉に鍵を掛けた。


白虎邸の玄関へ向かう。

振り返る事無く、真っ直ぐに。



人気のなくなった蒼一郎の部屋に陽炎が浮かぶ。

神威の付けた窓の手形を見つめている。


窓越しに明け方の空を飛ぶカラスが甲高く鳴いた。

その鳴き声に陽炎は姿を消した。


















 






 



 





































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