語り部
この世界に生まれゆく命、そして死にゆく命…
それは途切れる事無く繋がるメビウスの輪と同じ。
前世の記憶がなくとも…魂は新たな躰へと受け継がれ、新たな刻を紡いでいく。
そうして、地球は『輪廻』という名の流れを作り上げる。
『輪廻』の中に存在する、人々の記憶の産物として生まれた『歴史』という名の物語。
例え、その『歴史』の中で語り継がれる事のない物語があったとしても…
そこに生きた者達の魂もまた確かに存在し、確実に受け継がれていく。
現代という刻の中に…
そして…
止まっていた運命の歯車が再び廻り始め、新たな物語の始まりの鐘が鳴る。
我ら、語り部は干渉を許されぬ者。
ただ静かに見守るしかないのだろう…
ならば、この眼に焼き付けよう。
形は違えとて『唯一』の大切なモノを守る為。
己の全てをかけ戦う者達の生き様を…
その流れた血と涙の軌跡を…
紅い満月が漆黒の闇を照らしている。
多くの生命が安らかな眠りに漂う夜。
『ソレ』は永き眠りの淵から目を覚ます。
静かな狂気を宿し、静かな夜の闇を浮遊する。
解き放たれた事への歓喜を抱き…
愛する『唯一』の者の元へ。
決して消せぬ愛の証の『烙印』を刻む為に…
紅い満月の光を全身に浴びながら『ソレ』は浮遊する。
語り部は静かに見守る。
これから始まる『悲劇』に悲しみと憂いの表情を浮かべながら…