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『DIABOLOS』  作者: 神威
11/24

Chapter5

不覚にも風邪で寝込んでしまいました…Chapter4&5はその最中に書いたので、文章や構成などが乱れ?になってしまいました(/。\)読んでくださった方、「何だこりゃ?」と思いになるでしょうが…是非?ご容赦くださいませ<(_ _*)>

翌日。昼過ぎに私は目を覚ました。

窓からは明るい太陽の光が部屋を照らし、時折鳥の鳴き声が聞こえてくる。


布団に入ったまま、しばらく天井を見つめる。

まだ目覚めきれていない思考が段々とはっきりしていく。

【ここは一昨日まで住んでいた朽木の家じゃないんだ…】

ふと隣を見ると母の寝ていた布団は綺麗に畳まれている。

広い和室に一人。

すぐに起きる気はせず、私は昨日の出来事を思い返していた。


突然、家にやって来た黒スーツの来訪者。

突然、帰る事になった母の実家。

出迎えてくれた和服の女性と背の高い少年。

女性は静という名で母の実妹らしかった。

久しぶりに帰って来た生家、久しぶりに再会した妹。

なのに。素っ気ない態度で私を連れ、かつての自室に閉じこもってしまった母。


結局。昨夜は互いに何も話せず黙り込んだまま、部屋で夕食を取り床に着いた。

「訳が分からない事ばかりだ。説明くらいしろよ」

独り言を呟きながら、体を起こし布団から出る。

壁には洋服が掛けられていた。シンプルな白のワンピース。

母が用意してくれたのだろうか?そんな事を考えながら着替える。

室内にある洗面台に近付き身仕度を整えた。

布団を畳もうと屈み込むと同時に部屋の障子が開いた。

「雪乃様、お目覚めですか?あら!後片付けなんてなさらなくて良いんですよ」

元気の良い初老の女性が部屋に入ってくる。

不思議そうに見ている私に女性が言った。

「私は長年、この家で家政婦をしています。雪乃様とは初対面ですね。お会いできて光栄です」

上機嫌で私に笑いかける。

「綾乃様は宇月様達とお話中です。その間、退屈だろうから家を案内するようにと宇月様から仰せつかってます。あ!まずはお食事ですね。お腹すいたでしょう?さ、どうぞ」

女性は一方的に話すと私の背中を押し部屋の外に出す。

「ささ、食堂にご案内いたします」

あまりの勢いに私は何も言えず、されるがままに着いて行く事にした。


外観からある程度は想像できたが、この屋敷はとてつもなく広い。

家政婦だという女性が案内してくれなければ確実に迷っていただろう。

「綾乃様とそっくりで美人ですね」

「白がよくお似合いです」

食堂に向かう間、ずっと女性は話し掛けてきた。

しかし、今の状況がほとんど把握できず混乱している私は曖昧な返答しか出来なかった。


「食堂はここですよ」

女性が扉を開けると、中は他の部屋とは違い洋風の造りをしていた。

長いテーブルには白のクロスが掛けられ、背もたれの高い椅子が並んでいる。

開け放たれた窓に掛かるレースのカーテンがふわりと風に揺れている。

「おはよう。というよりは…こんにちは、かな?」

昨日の少年が窓際の席に座り私を見つめている。

「お腹、すいてるよね?一緒に食べよう」

家政婦の女性が黙って立っている私を少年の前の席に案内する。

俯いたまま席に着く。

「昨日はよく眠れた?」

運ばれてくる料理や飲み物を眺めながら、少年が再び声をかけてくる。

「雪乃は無口なんだね」

顔を上げると少年は笑っていた。


少年の事は初対面の昨日から無性に気になっていた。

吸い込まれそうな茶の瞳。

額にかかる茶の髪。

白く透き通る肌。

線の細い体。

歳はおそらく私より少し上だろう。まるでギリシャ神話の中から飛び出してきた神の様な、綺麗な少年だと思った。


「僕の顔に何か着いてる?」

少年の言葉に急に恥ずかしさが沸き再び俯く。

「ふふ、変なの」

少年が笑う。

顔が紅潮していくのが分かる。

「僕の名前は蒼一郎。これから宜しくね。さ、食べよう。食べ終わったら僕が家を案内するよ」

少年‐蒼一郎(そういちろう)‐は簡単な自己紹介をすると家政婦の女性に目配せする。

「では、私は失礼しますね」

女性は蒼一郎の視線の意味を理解したのか、にっこりと頷くと食堂から出て行ってしまった。


残された空間の中で緊張せいなのか、私は無言のまま運ばれた食事を食べ続けた。

蒼一郎はあえて何も言わず、そんな私を微笑みながら見つめている。

ようやく食べ終わり食後の紅茶を飲み干すと、待っていたかの様に蒼一郎が席を立ち私の手を取る。

逆らえずに立ち上がると、そのまま二人で食堂を後にした。


広い家を蒼一郎に手を引かれ進んでいく。

「ここが僕のお薦めの場所だよ」

蒼一郎が歩みを止め私の顔を覗き込む。

そこは裏庭らしく、顔を上げると見事な風景が広がっていた。

大きな池が横たわり、周りは花を咲き誇らせた桜の大木に囲まれている。

池の水面は透明で色鮮やかな鯉達が優雅に泳いでいた。

「さ、座って」

蒼一郎は手を離すと中でも一際大きな桜の木の根元に座り込む。

促されるまま、私も隣に座る。

「綺麗だろ?僕はこの家の中でここが一番好きなんだ」

「ええ、確かに綺麗…」

不意に零れた私の言葉に蒼一郎がこちらを向く。

「やっと、喋ってくれたね」

照れ臭くなり私は再び俯いてしまう。

「そのワンピース、やっぱり凄く似合ってるよ。苦労して選んだ甲斐があったな」

驚いて顔を上げる。

「これ、あなたが?」

今度は蒼一郎が照れ臭そうに俯く。

「今まで女の子の服なんて買った事ないからさ。でも着てくれて嬉しいよ」

「ありがとう…」

私は何故だか湧いてくる意味不明な喜びでそう返すのが精一杯だった。

一瞬の沈黙。

沈黙を破り蒼一郎が口を開く。

「まあ、当然だよね?何にも知らされずに、いきなりこんな大きな家に連れてこられちゃ…誰だって混乱するよ」

優しい口調に昨日から自分がいつも以上に気を張らせていた事に気付く。

不意に緊張の糸が切れ、涙が零れそうになる。

「大丈夫だよ…」

蒼一郎の手が私の髪に触れる。

真っすぐに私を捕える茶の瞳。

「大丈夫だよ。何があっても雪乃は僕が守ってあげる…」

「……」

金縛りにかかった様に動かない体。

「これからは、ずっと、一緒だよ…」

ゆっくりと蒼一郎の顔が近付いてくる。

唇に触れる、冷たい唇の感触。

「離さないから…」

唇を放すと強く抱き締められた。

腕から伝わってくる体温、肌から伝わってくる鼓動。

はらはらと舞い落ちる桜の花びらをぼんやりと眺めながら、私は抵抗せずに蒼一郎に身を任せた。

まるで、二人の間の時間が停まってしまったかの様にさえ思える。

何故だか分からないが【このままでいたい】そんな感情が込み上げてくる。


「雪乃!雪乃!どこにいるの?!」

唐突に穏やかな静寂を破り、母のヒステリックな声が聞こえてきた。

蒼一郎は私から離れると困った様に笑う。

「お母さんが呼んでいるよ」

「……」

私の頭を優しく撫でる。

「これからはずっと一緒にいられるから。さあ、お母さんの所に行ってあげて」

立ち上がると私に手を差し伸べる。

立ち上がった私の背中を押す。

それでも進めずにいる私の頬に蒼一郎がキスをする。

「心配させちゃダメだ」

仕方なく屋敷に戻ろうとした所に母が現れた。

「…!雪乃!こっちへいらっしゃい!」

母は蒼一郎の姿を見た瞬間、血相を変えて私に走り寄って来た。

「早く!いらっしゃい!」

手を捕まれ強引に屋敷の中へと引きずられていく。

ちらりと後ろを振り返ると蒼一郎は昨日と同じ様に微笑みながら手を振っていた。


屋敷に戻ると私は大きな和屋へと連れて来られた。

正面には立派な甲冑と豪華な装飾を施された日本刀が何本か飾られている。

背後の壁には一面に広がる水墨画の掛軸。

その前に和服を来て腕組みをしている細身の男性が座っていた。

隣には哀しげな表情を浮かべた静がいる。

「そこに座りなさい」

促され男性の前に座る。

母は私の隣に座ると前を見据えている。

「初めて会うな。私は宇月という。お前の義父だ」

男性‐宇月(うづき)‐は唐突に自己紹介をした。

意味が分からず困惑しながら母を見ると前を見据えたまま黙っている。

「突然の事で意味が分からないでしょうね」

私の思いを察したのか、静が間に割って入る。

「あなたのお母様は私の姉であり、宇月様の戸籍上の妻なのですよ。だから、宇月様はあなたにとっては義父になるのです」

説明されたのは良いが、あまりに簡潔すぎてまだ理解できない。

宇月に更に疑問の視線を送ると宇月はゴホンと咳払いをした。

「私と綾乃の結婚は両家の親達が決めた。いわゆる政略結婚というものだ。それは分かるかね?」

静かに頷く。

「綾乃はそれが我慢できず、最初の長兄である蒼一郎を産んですぐにかつてからの恋人とこの家を捨て逃げ出した」

宇月は深い溜息をつく。

蒼一郎が半分血の繋がった兄であった事にショックを受けた。

私の落胆に気付く事無く宇月は続ける。

「真神家の者達は四方に手を尽くし、あらゆる手段を用い、ずっと君達を捜していた。そして、やっと見付けた」

そこまで黙って聞いていた私は浮かんできた疑問を迷わず口にする。

母と同様に宇月を真っすぐに見据える。

「どうしてですか?逃げた母や生まれた私をどうしてそこまでして捜していたんですか?跡取り問題が原因なら長兄がいらっしゃるじゃありませんか?」

私の言葉に母・宇月・静が驚いた様子を見せる。

ふと宇月が顔を(ほころ)ばせる。

「13歳というのに、なかなか肝の据わった子だな。それに賢い。これは下手に隠しても無駄な様だな」

静が何か言おうと口を開くのを宇月が制する。

「雪乃、陰陽師というものを知っているか?」

私は首を傾げながら答える。

「映画や本の中の知識しかありませんから、詳しくは知りません」

宇月はうんうんと頷きながら続ける。

「この真神家の生業はその陰陽師だ。それも日本に現存する陰陽師達の頂点に立ち統べる役目を持つ」

一息つくと更に続ける。

「私達が君達を捜していたのはな。真神家の当主は代々、最初に生まれた力を持つ女の子にしかなれないという掟があるからだ。綾乃は本来、真神の当主となるべき者だったのだ」

驚きで隣を見ると母は俯いている。

「だが綾乃はそれが嫌で逃げ出し、自分の持つ力を禁術により放棄してしまった。放棄された力はもう戻らない。しかし、現在は空席になっている当主の座には誰かが座らなければならない」

「次の当主となるのは…先代当主になるはずだった私の最初の娘…つまり雪乃、あなたよ…」

今まで無言だった母が宇月の次の言葉を代弁する。

確かに母の実家の事を知りたいと思った事はあるが…

想像を越えた展開に思わず絶句する。

「雪乃ちゃん?大丈夫?」

静が心配そうに声を掛けてくる。

「雪乃、これはあなたの避けられない宿命なのよ」

囁くように言う母の言葉に、混乱していた思考が一気に怒りに支配される。

【母が今まで生家の事を語ろうとしなかったのも、いつも何かに怯え気を張らせていたのも、私に厳しく当たっていたのも…全て自分の背負うはずだった重い宿命から逃げ続けるためだった。挙げ句の果てにはその宿命を私に押しつけようとしているんだ。しかも、ちゃんとした夫がいながら父さんと逃げただなんて…】

膝に置いていた拳に力を込める。

「私に選択や拒否する権利はないんですね?」

母に向かって問い掛ける。

「あなたの身勝手な行動の尻拭いを私にしろと言うんですね?」

自然と声に強い怒気が混じる。

その声に母は俯いてしまう。

「分かりました。あなた方の言う通りにします。ただし…」

思い切り母を睨み付ける。

「私はあなたを許さない!」

言い終えると私は部屋から飛び出した。


ただ夢中で廊下を走った。

何故だか分からないが、蒼一郎がいる筈の裏庭を目指して…

だがまだ慣れない家に迷い、私は途方にくれ廊下の端に座り込んだ。

「どうしたの?」

ふと頭上から声が聞こえる。

見上げると蒼一郎が心配そうに私を見ていた。

「何かあったの?父さん達に何か言われたの?」

目線を合わせるように屈み込む蒼一郎。

私は堪らず抱き付き、泣き出してしまった。まるで幼い子供の様に声を上げながら…

蒼一郎はそれ以上は何も言わず、私が泣き止むまで抱き締め髪を撫でていてくれた。

生まれて初めてだった。

誰かに泣き顔を見せたのも、ただ無防備に身を委ねてしまったのも…

この時から蒼一郎は私にとって異父兄というだけではなく、かけがえのない『大切な人』となっていった。


それから2年間。

私は母によって施された力の封印を解かれ、当主になるべく必要なあらゆる知識や方術を学ばされた。

辛く逃げ出したくなる事も数々だったが、常に蒼一郎が傍にいて励ましてくれたお陰で乗り越える事が出来た。

しかし母とはあれ以来、口を利く所かまともに顔さえ見ていない。

私の中の母への怒りは今だに完全には消えてはいなかった。


そして、15歳。

春を目前にした頃。

私は古来からの儀式に基づき、正式に真神家の当主となったのだ。

【これまでの登場人物】 ★Chapter4&5 ●真神 静→綾乃の実妹

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