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第一話惰眠を邪魔せし事件

 惰眠(だみん)を貪(むさぼ)る、それは一般的には低俗とされる行為だ。

 不健康で、情けなく生産性が無いとされる。

 だが、本当にそうかな?

 何もしなくていい。何も考えなくていい。

 布団に潜り、温もりに包まれ、夢をみる…。

 おぉ…!なんと素晴らしいのだろう!

 夏休みは、惰眠を貪るために存在していると言っても過言では無い。

 宿題を明日の自分へ残し、クーラーを効かせて薄い毛布に潜り込む。

 そんな、いつもの夏休みを過ごしていた…。

 そう、いつもの夏休みのはずだった…!

 ところがギッチョン、目が覚めたら空には満天の星空。あら?布団と屋根は何処へ?

 あたりを見回す。

  草の匂い、高い空、おっかなそうな山の顔…。

  そう、知らぬ草原だった、…………。

「………えぇ…?」

 よし、まずは状況を整理しよう。

 俺は、いつものように眠りについた…。

 で?ここは?そもそも、植生が明らか日本じゃ無くない?……。

 うし!とりあえず、二度寝を…。

 ピコンッ!

  緑に溢(あふ)るるこの草原に不釣り合いな電子音が響いたかと思えば、視界の右側に何かが現れている。一体いつからそこに…。

「…なんだこれ……?ゲームの…ステータスウィンドウ?」

  触ってみようと手を伸ばす。

  ……実体は無いな。

 自分の意思でページ変更も自由自在、ねぇ…。

 駄菓子菓子!俺は気分を出すためにエアスワイプーー略してエアプだ。

  ステータス。

  魔法。

  剣術。

  それにレベルとスキル…。

  …如何にもゲームって感じだな…。

 よし、まぁいいか!今度こそ二度寝……。

「きゃあああああああ!!!」

 ……悲鳴だ、今のは紛れもなく悲鳴だ。

 無視するわけにゃ……。

  いかないよなぁ…。

 寝覚めが悪いしなぁ……。

 致し方無し昔話。

 なーんか少し面白そうだし、たまには運動したほうがよく眠れるもんな。

 さてと……、多分あっちから聞こえたな。

 ……と思ったら、走るまでもなく視界に映った、どんだけ近いねん。

 みるからにしょぼそうな……吸血鬼…?

 下級悪魔?まぁともかくバケモンに襲われている女の子がいた。

 とりあえず……魔法はどう出すんだ…?

 こういう時は、念じてイメージするってルー○ウス大先輩も言ってたし…。

 ………【初級(ビギナー)】火球(ファイアボール)!

 ………出ないやんけ!

 俺が遊んでる間も、吸血鬼は女の子を攫おうと必死こいている、ご苦労なこった。

「誰か助けてっ!」

 あぁ、もう!そんな叫ばなくたって助けてやるから一旦黙ってくれよ。

 ……とりあえず走るか…。

 久々の運動はやはりと言うべきか体に来る来る痛くてたまらん…。

 もう一度集中して……手のひらで照準を合わせて……。

 ……火、燃える、熱い、火球……。

 走りながら深く深く念じる、転ぶのが少し怖い…。

 赤く、丸く、弾丸のように……。

 すると、不思議な事に手のひらに熱が集まり出し発光した。

 その光景はまるで、マグネシウムリボンの燃焼反応……お天道様か?

 ………。

「あっちぃ!!」

 は?こういうのって使う側は、平気なもんだろ!?不親切が過ぎないか!?

 あちっ、あちち!もうやぶれかぶれだ!

【初級(ビギナー)】火球(ファイアボール)

 その手のひらに集まった、玉入れの紅玉のような物をまっすぐ飛ば……せなかった。

 ってことで、思い切り振りかぶりストレート!

 見事にバケモンの顔面に命中!完全にデッドボールだ。

 近くに流水ないかな……。

 やはり下級なのかさっきのでビビって逃げて行った……。

 やれやれ、今までの状況証拠からして異世界というのは、十中八九、九分九厘(くぶくりん)間違いないだろう……。

 だからなんだと言う話ではあるが…….

 せめて親にありがとう位言ってから来たかったが……。

 猶予(ゆうよ)はないもんかねぇ…….、融通(ゆうずう)が効かなくて困っちまうよ全く。

 ……あ、忘れてたあの女の子…….いた。

 あーあ、腰抜けちゃってるよ、助けてーって叫んでたのにいざ助けられたら腰抜けるんかいな。

「……大丈夫?」

 とりあえず、手を差し伸べ当たり障りのない言葉をかけておこう。

「え……っ、あ、はい……」

 ……その女の子は、素直に俺の手に導かれ起立した。

 ……ずいぶんと華奢だな、うすほそを現実で目にするとは……。割と癖だ。

 年齢は、15……16……辺りか?

「そりゃ、まぁ、お疲れ…?

 ところで、名前は?」

 ひとまずお互いの名前も知らないんじゃ話にならん……ここは自己紹介から始めるのが、ベストだ。多分。

「あ、申し遅れて申し訳ありません!

 私アカツキ・アリスと申します!」

 暁…有栖……?なんでんな日本人チックな名前なんだ……?

「そうか……アリスと呼べばいいかな?

 俺の名前は、表内真生だ。」

 あんまよろしくは、したく無いからな。

 面倒ごとは、ごめんだ。

「……え?オモウチ…マコト……?

 あなた、アカツキ出身なんですか?」

 ?何を言ってるんだこの子は。

 面倒だから遠くの国にしておこう。

「え、いや……ここからかなり離れた国から遥々とね……。」

 よし、早く切り上げて二度寝を……。

「姓が前に来る国が、他にもあったのですか!?」

「……ん?その口ぶりからその……アカツキ?という国出身なのか……?」

 あ、やべ。つい興味本位で聞いちゃった。

「えぇ!私は、アカツキ王国をまとめるアカツキ家……の分家の分家です。」

「分家の分家……?つまり……。」

「えぇ、一応これでも王族の血を継がせて貰ってます!」

 げっ……面倒くさいの塊じゃないか……。

 君子危うきに近寄らず……そろそろ退散しようか……。

「ところで貴方は、このトゥルー草原で何をされていたのですか?」

 ここトゥルー草原て言うんだ……。

「あー、いや……。俺はしがない風来坊でして……」

 よし、とっとと立ち去ろう。

「あの……フーライボー?がなんのことかは

 、存じませんが行く宛が無いのならぜひ私の屋敷に来てくれませんか?命の恩人ですもの。」

 ……これはどっちが正解だ……?

 確かに行く宛もツテも無い……、このままでは野宿だし飢え死にしかねない……。

 致し方無し昔話……。

「で、では……お世話に…なろうかな?」

 その答えを聞いたアリスの笑顔は、まるで天高く光り輝くお天道様のようだった。

 さてと、ただいま俺はこのアリスがスキップする後ろを着いて回る不審者を徹しているわけだが……。

 今のうちに、この謎のステータスウィンドウを調べておこう。

 どうやら他者からは見えないみたいだ。

 統失とかじゃ無いだろうな……。

 しかし、本当にゲームそのものだな。レベルは5、最初見たときと変わってないから倒さないと経験値は、貰えないようだな。

 ステータスはall15強いのか弱いのかわかりゃしない。

 ピコンッ!

(それでは、お話します)

「ファッ!?」

「?どうかしましたか?」

 俺にしか聞こえてないのか……。

(私はスキル『S.P.S』のチュートリアルの説明ガイドです。)

 このスキル『S.P.S』って名前なんだ。

 それと意外と親切なんだな。

(この世界の魔法は、属性と級がそれぞれ定められています)

 わぁ……すごい唐突、やっぱり不親切だ。

(主な属性は火、水、風、土、闇、光

 その他の属性は基本的に固有の属性となっています。)

 ふぅん。

(このスキルは経験値を稼ぎレベルを上げスキルポイントをためてそのスキルポイントで強化する。

 いわば経済活……。)

 それ以上は、言うなテンションが下がる。

(……ヘルプがあれば、いつでもお呼びください)

 ピチュンッ

 あ、逃げやがった。 

 お?何やら灯りが見えてきたな。

「そろそろ着きますよ、我がアカツキへ!」

 これは驚いた、中世の日本……つまり室町、戦国あたりを想像していたが……。

 街並みは明治の日本と遜色がない。

「どうです!我が国が誇るこの街並みは!」

 むふーっとしている。

「可愛いな。」

「ふぇっ!?」

「あ、済まない失礼だったか。」

「あ、いえ……そんなことは……。」

 顔あっか、初心だなぁ。

「それにしても本当に凄いな、産業革命が起きたとしか思えん。」

「サンギョーカクメーがなんのことかは知りませんが、もう知りません!」

 耳まで真っ赤で頬膨らませてら。

「……この国は、できた当時からこんな感じだったと伝えられてます。」

 妙だな、国の創設とともにこんな文明が築けるとは到底思えんな。

 ま、どうでもいいけど。

「へぇ、蒸気機関車……明治だと陸蒸気だったか?とか無いのか」

 アリスの顔をチラリと見ると、まんまるな目を更にまんまるに見開いている。

「貴方は本当に何でも知ってますね。

 えぇ、蒸気機関車ならあります。

 陸蒸気という呼び名は初めて聞きましたが。」

 ほぉ?さては昔迷い込んだ近代日本人が色々手を加えたな?

 中途半端なのは、戦争や現代日本化を避けたのか。

「本当に貴方は、アカツキ出身ではないのですか?名前といい知識といいアカツキ出身意外とは考えにくいのですが……。」

「あぁ、アカツキ王国なんてものは初めて聞いた。」

「そう……ですか。」

 おそらく街灯を見るに電灯は普及していないようだ。ガス灯止まり、電気の用意は流石に厳しかったのか?魔法でどうにかなりそうだけども。

「なぁ、電気……あー雷を出す魔法とか無いのか?」

「え?雷の魔法、ですか?一般的には無いですね。

 ですが!我が国には代々雷魔法を使える騎士がいるのです!」

 なるほど使える人が、限られているのか。

 騎士というからには使える人は民を守るのに忙しいってわけね、ご苦労なこった。

「あ、私の屋敷が見えてきましたよ!」

 おぉ、洋館かと思ったが和館じゃないか。

「古き良き木造建築かぁ、良いな」

 何より、洋館より寝心地がいい。

「そうでしょう!やっぱりこっちの方がいいですよね!

 わかってますね、流石マコトです!

 そもそも大半の民は、木造建築に住んでるんですから。

 民に合わせるのは、王族でも必要なことです!」

 好きなものが被ると饒舌になるタイプなんだな。

「……ふふっ。」

「あっ……初めて笑ってくれましたね。」

 アリスが正面に踊り出た。

「これからも……私が、貴方を笑顔にしてみせます!」

 そう言って笑ったアリスの顔は、お天道様……。

 いや、超新星爆発かのようなかがやきをはなっていたーー。

「……できる物なら。」

「ふふん、任せてください!私にかかれば、マコトは幸せいっぱいの毎日を過ごせますから!」

「なんだそりゃ、新手のプロポーズか?」

「プッ、プロポーズッ!?

 あ、いえ、私そんなつもりじゃ……っ。」

 うむ、揶揄い甲斐があって良き。

 と、そこで2人同時に腹がなった。

「……腹減ったな。」

「で、ですね……。

 よし!では、私が腕によりをかけて我がアカツキの伝統料理を作って差し上げましょう!」

 ここの伝統料理か……気になるな。

「おう、じゃ頼むわ。」

「はいっ!では、どうぞ我が家へ!」

  敷居を跨ぐとザ・和風な屋敷と言わんばかりの和館が松らしき木に囲われ佇んでいた。

 ヤクザの邸宅を想像するとわかりやすい。

 テンションが上がっているのかアリスは引き戸を力任せに開け草履を脱ぎ散らかし……たかと思ったらちゃと揃えた。

「ただいま帰りましたー!聞いてくださーい!お客様です!私の命の恩人です!」

「……お邪魔します。」

 おお、中も綺麗だな。ばあちゃんの家をそのままデカくしたような感じで、安心感がある。

 見たところこの家に住んでいるのは、アリスと若い女中とベテランっぽい女中が合わせて2人。

 それと、じいやとか呼ばれてそうな執事だ。

 両親が住んでいるような雰囲気と痕跡が見られない。

 そんなことを考えてると、その執事が近づいてきた。

「……あなたが、アリス様の命を救ってくださったマコト様ですね。」

「あー、いや別に自分のためですよ。」

 真面目に。

「なんと謙虚な……。

 失礼私の名はタカマツ・ヤマトでございます。」

 これまた日本人みたいな名前。

「どうもご丁寧に……。」

「我が姓、タカマツは私の先祖が初代国王より授かった由緒正しい姓でございます。」

 なんか語り出したぞ、この爺さん。

「じい!ちょっと!マコトが困ってるじゃない!姓についての長話は、よしてといつも言ってるでしょう!」

「これは失礼、アリス様。」

 なるほど、この屋敷のパワーバランスはヒエラルキーの最高場がブッチで人間様のようにアリスが頂点のようだ。

 そろそろとタカマツ爺さんが、耳元へ口を寄せてきた。

「アリス様は、ご両親をなくされてから『一人で生きていけるように』『私がこの家をまとめないと』……という具合に、ずっと一人で努力してこられたのです。

 ですから、こんなにも楽しそうで生き生きとしたアリス様を見られて私は大変嬉しいのです。

 助けていただいたのに加えて、心より感謝申し上げます。」

「……言ったはずだ自分のためだって。」

 そうか、やっぱり親はいないのか。

 アリスはそんな様子は、微塵も見せずタカマツ爺さんを叱っている。

 ……人間皆大変なんだな。

「では、私は腕によりをかけて食事を作ってきます。

 マコト!心して待っててくださいね!」

 そう言うとアリスは、ルンルンで女中を引き連れ台所と思われし場所へ向かった。

 いや、タカマツ爺さんと2人きりにするなよ気まずいって。

 その後、俺はタカマツ爺さんに案内され居間へ通され様々なことを根掘り葉掘り聞かれた。

「何故何も無いトゥルー草原なんて所にいたのか。」「何故そんな奇怪な格好をしているのか。」などなどだ。

 俺も寝巻きであることをすっかり忘れていた。何故あんなところにいたかの説明は旅の途中黄昏たくなったと誤魔化したら勝手に深く納得してくれて助かった。

 その他の問はテキトーに流した。

 質問マシンガンが終わったかと思えば今度は、アリスの可愛いさのガトリングトークが始まった。

 同意できる所はあるが、この手の人は反応するとさらに勢いが増すから何も言わん。

 火に油を注いでたまるか、テキトーに相槌を打っておこう。

 そんなこんなで時間は、マグロのように留まることを知らず進み続け、そのうち良い匂いが居間まで届いて来た。

「……そろそろできたみたいだな。」

 俺が立ちあがろうとすると、後ろから声が降って来た。

「マコト様如何なさいましたか?」

「いや、もう時期飯ができるだろうから手伝って取ってくるんだ。」

「な、なんと!?お客様にそのようなことはさせれません!」

「あのなぁ……俺はただ飯を食ってダラダラして他人をこき使うほど落ちた覚えはない。」

 それにはよ食いたい、俺も手伝って運んだ方が早く食えるだろ。

「な、な、なんという人格者……!

 あなた様こそアリス様に相応しいお方……!

 私は心を打たれましたぞ……っ!」

 何泣き出してんだこの爺さん……。

 咽び泣くタカマツ爺さんをほっとき、匂いと音を頼りに台所へ向かうとそれはそれは豪勢な料理の数々が並んでいた。

 アリスは俺に気がつくと、とてとてと駆け寄って来た。

「マコト!お客様なんだから座ってて良いのに。」

 そう言いながらもアリスは、どうしようもなく嬉しそうだった。

「もー、仕方ないなぁ。

 じゃあ私お米盛るからさ、マコトはそのお椀を盆に乗せてくれる?」

「わーった」

 それくらいなら労力は少ないからな。

 アリスは非常に手際が良かった。

 アリスがご飯を盛り俺が盆に乗せる、ただそれだけなのに女中はやたらと微笑ましい目でこちらを見てくる。

「……なんだか、夫婦(めおと)みたいですね。」

「……そだな。」

 …………。

「…………。」

「にぇっ!?ひ、否定待ちだったんですけど!?」

「あー、そうだったの済まない察せなかった。」

 アリスさん、そんなに握りしめたらしゃもじさん苦しそうだぞ。

 あと女中がJKみたくキャーキャー騒いでいる、飢えてるのかこの手の話に。

「全く……。マコトは全然同じてくれないんだから。」

 ブツクサ言いながらも手際は変わらず、あっという間に全ての料理が均等に盆に乗った。

 泣き止んだタカマツ爺さんも現れ、皆で自分の分を運び居間へ着いた。

 ……何故かみんな席につかない。

「何故座らないんだ?」

「え?だって、お客様第一って……。」

 あー、おもてなしね、そこまで残ってるのな。

「あー、そういうのどうでも良い。

 一緒に食った方がいい、冷めるぞ。」

 4人は、顔を見合わせた後素直に席に座った。

 なんか一人だけやたらと近いけど……まぁ良いか。

「では、いただきます。」

「「「「いただきます。」」」」

 自分で言っておいてなんだけど、いただきますもあるんだな。

「……マコトはいただきますも知ってるんですね、流石です!」

 さっきからやたらと近いアリスが至近距離でニコニコしている、何がそんなに楽しいのだか。

 さてと、まずはこのきのこ?の炊き込みご飯からいただこう。

「うん、美味い!」

 出汁のバランスがよく、それでいて米は甘みがある。

 日本でいう鶏肉のような物とのマリアージュが素晴らしい!

「それは良かったです。

 私には『煮炊きの祝福』という、生まれ持った力がありまして。

 どんな料理でも作り方と材料がきちんとしていれば失敗しないんです、こんなのずるいですよね。」

「そうか?いくら失敗しないとは言えご飯を作る、という行為は立派なことだ。

 なにせ君は一応お嬢様だ、誇って良いと思うよ。」

 あ、お吸い物うま……なんか泣いてるし。

 この屋敷の人は皆泣き虫なのか?

「……なんで泣いてんの?」

「……らって、そんなふうに言ってもらったの始めてで……。

 すごいね、とかは言われるけど……。

 誇って良いって……。」

 ……非常にめんどくさい。

 てことで、俺はお椀を置き親指でアリスの涙を拭った。

「泣くな、せっかく完璧な味付けの料理がしょっぱくなるぜ?」

 アリスは間も無く泣き止み笑顔になった。

「はい……!」

 タカマツ爺さんと女中のお二人は相変わらず微笑ましく見つめてくる。

 それにしても美味い……次は山菜と魚の天ぷらを……。

 

「……ふぅ、ご馳走様でした。」

 いやぁ、満足満足おかわりまでしてしまった。

 ピコンッ!

 ん?

 SP(スキルポイント)を獲得しましたスキルポイント数8。

 ……?なんのこっちゃ。レベル上げで集めるんじゃなかったのか……?

 もしかして飯を食うのでも貯まるのか?

 そいつは良いや、楽で。

 現代日本に例えれば、飯食って金がもらえるようなもんだろ?

 すると、どたどたと足音が近づいて来た。

「マコトー!じい達がお風呂を沸かしてくれたみたいなので先にどうぞ。

 服はじいのをお借りください。」

 内風呂があるのか……。流石に裕福だな。

「じゃあ、先にいただくか。」

 脱衣所らしき所で服を脱ぎ畳んでカゴに入れドアを開けると、ヒノキのような香りのする木製の風呂があった。

 どうやって沸かしているんだ?と思ったが。おそらく魔力がどーこうしてるんだろう、知らんけど。

「……ふーっ。」

 あ゛ーっ……熱めの湯が疲れた体に染み渡る……。

 今日は、本当に密度も何もかも濃すぎる。

 異世界らしき場所に転移するし、久しぶりに走ったし、変なスキルは手に入るし。

 ……ま、これも今夜惰眠を貪るためのスパイスと考えよう。

 風呂から出ると白い長襦袢が、畳まれて置いてあった。

 あの爺さん、俺と体格がほぼ一緒だったからな……。ほぼピッタリだ。

 その後、歯磨きは伝わっていたようで快適に歯を磨き、水を貰いトイレを済ませてタカマツ爺さんに挨拶をし、女中の案内で部屋へ入った。

 部屋は客室にしては広く椅子や机、襖に掛け軸もあった。

 そして部屋の真ん中に鎮座するのがそう!

 お布団である。すぐさまダーイブ!

「はーっ……。もう寝よう、さっさと寝よう、面倒なことは全て明日の自分へ丸投げだ。」

 ……あー、意識が遠の……

 トントン

 ……今日僕は何度惰眠を邪魔されるのだろうか。

「……どーぞ。」

 そこで入って来たのは、暗くてあまり見えないが薄い月明かりで照らされた襦袢姿でモジモジしたアリスだった。

「……要件は?」

 俺はとっとと寝たいんだよ……。

「あ、えっと……その…….。

 今日吸血鬼に襲われたでしょう……?それでその……。」

 やっぱりあれ吸血鬼だったのか。

「その……恥ずかしながら……怖いので一緒に寝ても……いい、かな……?」

 ……おそらくそれは建前だ。

 いや、多少本当かもしれないが。

 本当は甘えたいだけなのかもしれない。飯の前話した時タカマツ爺さんは、あまり甘えてくれないとしょぼくれていた。

 勝手な推測ではあるが、幼い頃に親を亡くし甘えることができなかったのは想像に難くない。

 タカマツ爺さんや女中に弱みを見せまいと今まで堪えて来たのだろう。多分。

「……いいよ。」

「……あぇ?良いんですか?」

「良いも何も自分でお願いしたんだろ?早く来い空気が入って寒くなる。」

 人にはたまの甘えも重要だ、甘えられない境遇のやつほど道を踏み外すと俺は思っている。

「で、では失礼します……。」

 アリスはおずおずと布団へ入って来た。

 布団の大きさ故に、どうしても密着せざるを得ない。

「あ、あの……狭くないでしょうか。」

「狭いが問題はない。」

「そ、それなら良かったです……。」

 やはりバケモンに襲われたのは、怖かったのだろう。悟られないように明るく接してはいたが……。

 あ、もう寝てる……もう、しょーがねぇなぁ。

 惰眠は一人で貪るものだと、思っていたが……。

 他者と惰眠を貪るのも、案外悪くないのかもしれない。

作者の中華霧雨です。

酷いできで、これでも長期連載を予定していますので。どうぞよろしくお願いしますorz

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