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勇者を召喚、異世界召喚師  作者: 白山月


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その地の名前は聖教皇国ルミナリス

視界が、爆発的な白に染まった。

鼓膜を突き刺すような高音の読経。肺にまとわりつく、濃すぎる香炉の煙。 神崎蓮は、自分がさっきまでどこで、何をしていたのかを思い出そうとした。……そうだ、雨の中。自分の判断ミスで台無しになったプロジェクトの謝罪に向かう途中、横滑りしたトラックのライトが――。

「……おお、神よ! お応えいただいた!」

老人の震える声で、蓮は意識を現実に引き戻された。

そこは、荘厳という言葉すら生ぬるい大聖堂の中央だった。 足元には、巨大で複雑な魔法陣が鈍い黄金色の光を放っている。周囲には、純白の法衣に身を包んだ数百人もの神官たちが、精根尽き果てた様子で膝をついていた。

「成功だ……『勇者召喚』が、成功したぞ!」

ひときわ豪華な法衣を纏った老人――ルミナリスの教皇が、天を仰いで叫ぶ。 蓮の隣には、自分と同じように呆然と立ち尽くす、見覚えのない四人の男女がいた。


聖教皇国ルミナリス:託宣の間

「……落ち着いて聞いてほしい。君たちは選ばれたのだ。この世界、ルミナリスを魔族の脅威から救う『勇者』としてな」

豪奢な椅子に座る国王の言葉は、蓮の頭を素通りしていった。 混乱する四人の若者――ガッシリした体格の佐藤、気が強そうな美少女の水城、不敵な笑みを浮かべる巨漢の田中、そして祈るように手を組む霧島。

彼らと共に、蓮は「ステータス鑑定」の儀式を受けることになった。 この世界の理を刻んだ水晶板に手をかざすと、その者の宿命である「ジョブ」が浮かび上がるという。

「……佐藤健二殿。ジョブは『聖騎士パラディン』! 素晴らしい、伝説の盾だ!」 「水城あかり殿は『大魔導師ハイ・ウィザード』。これほどまでの魔力値、見たことがない!」 「田中殿は『狂戦士ベルセルク』、霧島殿は『聖女セイント』……おお、なんという奇跡か」

鑑定官の声が弾むたび、謁見の間は歓喜の渦に包まれていく。 そして、最後の一人。 蓮がおずおずと、冷たい水晶に手を触れた。

その瞬間、板から溢れ出したのは、他の四人を凌駕するほどに眩い、透き通るような蒼い光だった。

「これは……まさか、……『召喚師サモナー』!?」

鑑定官の叫びが、広間に響き渡る。 一瞬の静寂。その後、王が立ち上がり、教皇が震える手で十字を切った。

「召喚師だと!? 自ら異界の戦力を呼び出し、戦陣を操るという、あの伝説のジョブか!」 「素晴らしい! 剣も魔法も、そして『数』すらも、我らは手に入れたのだ!」

周囲の期待に満ちた視線、降り注ぐ拍手、鳴り止まないファンファーレ。 しかし、蓮の心はそれとは真逆の方向に冷えていった。

(召喚師……僕が、誰かを呼ぶのか?)

脳裏に、生前の記憶がフラッシュバックする。 自分が決断を下せなかったせいで、崩壊していったチームの光景。 「お前がもっと早く決めていれば」と責めるような仲間の声。

自分の人生すら決めることができず、失敗した自分が。 よりにもよって、他人の運命を強制的に呼び寄せ、使役する立場になるなんて。

「……おい、神崎って言ったか? すげえじゃねえか!」

聖騎士となった佐藤が、蓮の肩を叩く。 「お前がどんどん強い精霊を呼んでくれれば、俺たちは無敵だ。よろしく頼むぜ、司令塔!」

「……ああ、うん。頑張るよ」

蓮は力なく微笑み、腰に下げられた自分の「初期装備」に触れた。 それは、武器と呼ぶにはあまりに殺傷能力の欠けた、古びた軍配ぐんぱいだった。

これから始まる日々が、自分の「決断」の連続になることを。 そして、その決断が再び誰かの人生を狂わせることになるかもしれないという恐怖を。 沸き立つ群衆の中で、蓮だけが一人、重い鎖に繋がれたような気分で感じていた。

これが、後に「最弱の軍師」と呼ばれ、同時に「たった一人で世界を呼び寄せた男」として歴史に刻まれる、神崎蓮の物語の幕開けだった。


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