鑑定士
「いや~~今回は久しぶりに大収穫だったねえ!」
料理を頬張りながら上機嫌に語るハレ。
普段から声が大きいが、今日はさらにデカい。
「な、レイン!!」
そうとう嬉しいんだろうな、とレインと呼ばれる魔法使いは思わず表情が緩む。
「うん。まさかそんな値打ちものだったとは。」
「しっかしあのピアス、そんなすごかったんだな!」
「そうみたいだよ。」
改めて売却額を確認すべく、レインはバッグの中から売却契約書を取り出す。
そこには
「アンデッドカンパニー」
買い取り 金貨100枚
と記載されていた。
~数時間前 鑑定屋スペクタクルズ~
「いらっしゃいませ~ようこそスペクタクルズへ…ってなんだ君たちか」
眼鏡をかけた真面目そうな男がカウンターの奥から出てくる。
しかし、入ってきた冒険者の顔を見て肩を落とす。
「君たちとはずいぶんな挨拶だな~、常連客に向かって」
「ずいぶんなもんか、君たちはいつも品物を見るだけ見てほとんど買わないだろ。
…おや、今日は鑑定かい?」
ハレの手に握られている袋を見て鑑定屋の眼鏡がきらりと光る。
「おうよ~!久しぶりにダンジョンボスでユニークアイテムが出たんだ。」
そう言って嬉しそうに袋をカウンターの上にのせる。
「おおっユニークアイテムか!
最近はつまらない鑑定ばかりで退屈していたところだったんだよ。」
どれどれ、と袋から中のピアスを取り出す鑑定士。
手袋をはめて丁寧に観察し始める。
「ほう、髑髏の意匠のピアスか。察するに、ドロップモンスターはアンデッド系…。
さらにこの込められた魔力量、ダンジョンの規模も7,8階と並大抵の冒険者ではボスの部屋にたどり着くのも難しいだろう…。
…え?それを二人で攻略したのか?」
へへへ…と照れ臭そうに鼻の下をこするハレ。
その隣で少しだけ誇らしげな顔をして目を閉じているレイン。
「さすがはAランクパーティ「通り雨」様ってわけだ。」
鑑定士は若干その事実に引きつつ、ピアスに目を戻す。
「さらに骸骨の目の素材、ただの宝石ではないな…おそらく、魔法によって生成されている…。
よく見ると古代文字が刻まれているぞ…なるほどそれによってスキルの効果を底上げしているのか…。」
ブツブツと独り言を口にしながらピアスを眺める鑑定士。
その目は完全に自分とアイテムだけの世界に入り込んでしまっている。
それをみてレインはため息をつく。
「毎回思うんだけど、鑑定屋…っていうか鑑定スキルを覚えられる人って変な人が多いよね。」
「あははそうかも。そういえばレインのお兄さんも鑑定士なんだっけ?」
「うん。僕よりよっぽど魔法の才能があるのに…
今はユニークアイテムを人工的に作成できないかって研究に夢中だよ。」
「そんなことできんの!?」
「うーん、どうなんだろうね。
前に資料を見せてもらったけど、かなり倫理的に微妙なラインの内容だったから成功したって聞くのが怖い自分もいるかな…」
「ええ…。」
「ふぅ…。なかなかに興味深い逸品だ」
興奮した様子の鑑定士はハンカチで汗を拭きながら言う。
「お、ようやく見終わったか」
「ああ。久しぶりの大物につい熱くなってしまったよ。すまないすまない。」
「いいってことよ。んじゃま~、能力鑑定お願いします!」
ハレは期待のまなざしを向ける。
鑑定士はこくりと頷く。
咳ばらいを一つし、ピアスに手を向ける。
「その身に宿す秘めた力を開放せよ…アナライズ」
髑髏のピアスが白い光に包まれる。
空中に浮かび上がる文字を鑑定士は読み上げる。
「散りゆく魂への干渉、闇魔法による代償の踏み倒し、それによる半永久的な主従契約の強制…」
「なんか物騒な単語が聞こえるなあ…」
ハレが苦笑いをする。
「なるほど…つまり」
「ああ…倒した敵を従わせる能力だ。それもおそらく、無制限に…。」
「まじで~!?無敵じゃん!!」
「だが闇魔法で契約を結ぶ必要がある。」
「闇魔法使い専用か~…」
とほほ、とハレは肩を落とす。
「しかし、これはかなり強力な能力だぞ…闇魔法の適正さえあれば
一人で一国の軍隊並みの戦力を作ることも可能になる…。となると…。」
鑑定士は顎に手を当てて考えている。
「よし、分かった。金貨100枚で買い取ろう。」
「ひゃ、100枚!?」
「ああ。初めてだよ金貨100枚の買い取りなんて…だがそれだけの価値があると私は判断した。」
ふっと鑑定士は笑う。
「だが、この死者と契約を結ぶ闇魔法…おそらく、未発見の魔導書だ。
それと一緒に売ることができたら更に高値で売れるだろうが…。」
「あ、それってもしかして…これだったりしないかな」
レインはバッグから黒い本を取り出す。
「同じダンジョンボスからドロップしたんだけど、まだ解読はしてもらっていない。」
それを見て鑑定士はぽかんと口を開けてる
「…はっ。待ってくれ、魔導書に詳しい知り合いを呼んでくる」
我に返った鑑定士は店の外へ走って行く。
1分もしないうちに、女性の手を引いて走って戻ってきた。
「ちょ、ちょっと何なのよ!とりあえず来てくれって!」
気の強そうな赤い髪の女性は、急に連れてこられて少し怒っている。
「すまない、この魔導書を解読してくれないか?」
鑑定士はカウンターまで引き連れてきて、説明も無しに魔導書を手渡す。
「はあ!?…ったくもう私にだって店があるんだからね!
後で埋め合わせしなさいよ!…なになに…」
怒りつつも女性は本をめくって読み始める。
「ふんふん…うわあ、趣味の悪い魔法ねぇ…」
ペラペラと本を捲っていく。
「趣味の悪い魔法…やっぱり?」
「やっぱりってなによ。未解読の魔法じゃないの?」
女性は眉間にしわを寄せる。
「いや、まあ何というか、そんな予感がしてて、あはは。
で、どんな魔法だった?」
言葉を濁し、話題をそらす鑑定士。
文字に目を通しながら女性は答える。
「そうね…簡単に言うと、死体を一時的に無理やり自分の支配下に置く魔法かしら。
ただ、常に自分の魔力を消費して動かす必要があるからあまり実用的な魔法ではないわね…」
「…もしその魔力の消費を踏み倒せたら?」
「あはは、そんな都合のいい話あるわけないでしょ。
でももしあるならそうね、アンデッドの軍隊でも作って国も滅ぼせるんじゃないかしら?」




