第三話 久遠明花のサイボーグプレゼン
あの、そもそも今僕はどういう状態なんですか…?
そんな当たり前かつ素朴な疑問には藤見さんがしれっと答えた。
「脳が培養液に使ってる状態だけど」
そんな、いらすとやの素材とかでしか見たことない図になってんの僕!?
どうやって会話してるんだ!?
「天くんは今私の作った特別な機械の中で、藤見の作った薬の中にぷかぷか浮かんでおる」
「脳みそのシナプスをゴニョゴニョしてイイ感じにして会話してんだよ」
も、もしかして僕の考えていることは筒抜けってことなんですか?
「あぁ。だから我らの愛に戸惑っているのも伝わってきている。無理もないがな」
え!?あぁ、そうなのか!?あの、まずは、ありがとうございます……ただ、何も頭が追い付いておらず、そもそもお二人がなぜそんなに僕の命を大事に思ってくれてるのかがわからっておらず……
「覚えてねぇのかよ。まぁ無理もないよな瀕死だったし」
「でも我たちは確かに貴様の遺言を聞き入れたぞ!」
遺言って……?死ぬ直前に思ったことなんて突き飛ばしてごめんって謝りたかったみたいな他愛のないもののはずだったけど?
二人は顔を合わせてから少しだけ顔を赤らめて、言った。
「付き合って欲しいって言っていた」
言ってないです!!!!え!?すごく聞き間違えてる!?
「私に」
「我に」
再びバチバチっと火花が弾ける音がした。
怖い。何を答えてもこの二人は大喧嘩をはじめてしまうのではないだろうか。
「正直最初は情けねぇ陰キャだと思ってた」
「我もだ……最初はただの軟弱者としか思っていなかった」
「でも、思い返してみると……なかなか骨のあるロックなやつだったなって……」
絶対トラックマジックですって!吊り橋効果の究極版のやつですって!
「ふふ、何を恥ずかしがっているんだ天くん。貴様に付き合ってと言われて了承した。ということはもう我たち付き合っているだろう?」
二人とも、もしかしてもう、僕と付き合っている気でいるのか?今、僕二股かけてるってことですか?
「世間的に言うならそうなるかもしれぬ」
「だからコイツのことはさっさと振れ。んでゾンビとしてさっさと生き返んぞ」
「いや、彼奴を捨てろ。そしてサイボーグとして生まれ変わろう」
それもわかんない。全部が怖い。今すぐこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、どうやら脳みそをシナプスで繋がれているだけの状況では無謀も無謀な望みみたいだ。
◆◆◆
「あやつといるとすぐ喧嘩を初めてしまうのでな。一人一人会話することにした」
妙案だと思います。とっても。
頭部が無事であったら何回も頭を縦に振っていたところだろう。
「すまない。混乱しても無理もないよな。そんな天くんに今後の人生を決める重要な二択を迫るのは酷であった」
まぁ、僕の終わったらしい人生の中でも最も与えられた情報が多い一時間だったなと思います。一般女子高生が人間一人を生き返らせることができる技術力を有しているこの国の未来には希望が持てましたが……
「私も藤見も趣味の延長でな、つい行き過ぎて人間を生き返らせるところまでできてしまった。天才であるが故だな!はっはは!」
趣味の延長で禁忌って触れられるんだ。とんでもない天才がクラスメイトにいたものだ。
藤見さんも久遠さんも、サイエンスなイメージと結びつかない。一体どんな良いご趣味をしていたら、うっかり禁忌に触れてしまうのだろうか。
「学校では少々恥ずかしくて隠していたからな。まさか藤見のやつがマッドサイエンティストだとは思わなかったが……」
藤見さんは、そのサイボーグ派なんでしょうか……ってことは機械が専門?恥ずかしがることじゃないのに。
「いや、女子としては日夜油まみれになっておるのは少々恥じらいが……」
そ、想像がつかない……古風なしゃべり方をしてるから、むしろ機械とかいった文明とは遠い場所にいるイメージがあったな。掃除機を使ってるイメージすらわかない。
「ふふ、小さい頃からロボットが好きでな。この体に纏いたいと思い研究を続けていたのだ。ろ、ろまんだろ?」
照れ臭そうに、目を逸らしながら言った。かわいい。
意外と趣味はそう言った方向だったんだな。それならもっと話してみたかった。
「大好きな天くんに私屈指のデザイン3R-485をつけてもらったら……」
そのまま、久遠さんは自分自身を抱きしめて身もだえをはじめた。
「ぜ、絶対かっこいい……♡想像しただけできゅんきゅんしておる♡」
目が完全にハートだ。僕は本当にトラックから君の命を救っただけで、顔面に関しては一切変わっていない。なんならその顔面すら失っている。
きっと久遠さんの脳内で顔面にフィルターがかかっているのではないだろうか。
「そんなことはない」
そうだ、脳内筒抜けなのか……ちょっとした褒めとか感動が伝わっちゃうのは恥ずかしいな……
「恥ずかしがることはない。我は君の外見などではない。魂の形に惚れたのだ。自分の身を顧みず我らを助けてくれたその勇気に」
久遠さんに撫でられた気がした。そういえば、再開した時も腕に抱きつかれた気がしていたが、あれはどういう仕組みなのだろうか
「我が開発した技術なのだ!反応に応じた微弱な電流を与えることによって触感を再現しておる!」
そのあと、一般男子高校生の僕には到底理解できない次元の話が続いた。本当にこの子は天才で機械が大好きで、それから、僕のことをとても大事にしてくれてることだけは伝わって来た。
「ち、ちなみに人を生き返らせるなんて禁忌に触れて大丈夫なんですか…?」
「……」
あからさまに目を逸らされた。この国の未来は明るいどころか、僕のお先の方が真っ暗だったかもしれない。
「で、でも!見た目がちょっと派手になるだけで、人間と概ね変わらない動きで復活できるぞ!小型化は専門外で……でもファッション的には生かしておるし……」
おそらく、久遠さんの横にある、パワースーツみたいなのが、僕が身にまとう予定のものなのだろうけど、とても生かしたファッションで押し切れるものではなさそうだ。
もしかしたら、数十年後には一蹴回ってそんなブームが原宿で流行る可能性もあるからな。それまで辛抱すればまぁ……
「ふふ、意外とポジティブなのだな。君は」
久遠さんの笑顔は固く結ばれていた縄が一気にほどけるみたいだ。
「ちなみに、ビームもだせるぞ」
とんでもない情報を付け加えてきたけど。なんたるオーバースペック。
「あとは精巧な機械なのでな。毎日メンテナンスがいるんだ」
ま、毎日かぁ……それって、常にメンテナスする人がいないと……
「安心してくれ。我がずっと共にあろう。毎晩メンテナンスをするから」
それは、まぎれもなくプロポーズに近い意味だ。サイボーグになる未来を選んだら、久遠さんと一生共に歩むことになることと同義なのだから。
「どうだ?魅力的だろ」
だが、自信満々な久遠さんは不覚にもかわいらしいと思ってしまった。




