王都の焦燥とタイトルの伏線
エリアナが辺境領で「事業」を軌道に乗せている頃、王都は、対照的に傾き始めていた。
王宮の執務室。
財務官が、アルフォンス王子を前に頭を抱えていた。
「王子……! 財政が危険水域です! このままでは破綻しますぞ!」
原因は、明確だった。
聖女リリアベルが主導する「聖なる奇跡(と称した浪費)」だ。
「民の心を救うためです!」と、彼女は実利のない公共事業(巨大な聖女像の建立、不要な祝祭の連日開催)を乱発。
民衆の一時的な支持(と王子の寵愛)を得ていたが、その負担が、王家の財政を直撃していた。
(そして、エリアナの実家である伯爵家——王国の経済を裏で支えていた有能な文官一族——が、彼女の追放に抗議し、領地に引きこもったことも、経済的打撃に拍車をかけていた)
「リリアベル様の事業費を削減しなければ……」
財務官が恐る恐る進言すると、リリアベルは「ひどいわ! 民の救いを止めるのですか!?」と涙ぐんだ。
アルフォンスも「そうだ! 聖女の行いを疑うのか!」と、無能な財務官を叱責する。
実務能力がゼロの王子は、悪化する財政から目をそらし、いら立ちを爆発させる。
「……こうなったのも、すべては私を裏切った『あの地味な悪女』のせいだ!」
あの日の婚約破棄に、筋違いな責任転嫁をした、まさにその時だった。
別の側近が、緊迫した様子で駆け込んできた。
「申し上げます! 追放したエリアナに関する、不穏な噂が!」
「なんだと?」
「はっ。例の『最果ての辺境領』が、最近、急速に豊かになっている模様」
「納税もしていない(※辺境領ゆえ免除されていた)のに、どこからか莫大な富を得ている、と」
「……『銀霜草』なる高価値な作物を独占し、隣国の商人ギルドと裏取引をしている、との情報が……!」
「な……!」
アルフォンスの顔色が変わる。
報告は、さらに最悪の内容を続けた。
「さらに! エリアナは王家の許可なく『傭兵団』を多数雇用! 実質的な『私設軍隊』を組織し、反逆の準備を進めている疑いがあります!」
アルフォンスは、自分の無策による「財政難」と、エリアナの「成功」を、その浅い思考で強引に結びつけた。
「やはりそうか! あの悪女、追放された腹いせに、我が国の富(銀霜草)を独占し、反逆を企てていたとは!」
その言葉に、聖女リリアベルが便乗する。
「まぁ、恐ろしい……! 悪女が民を扇動し、富を独占しています! 王子、聖なる力(王国軍)をもって、かの地を『正常化』しなくては!」
アルフォンスにとって、これは天啓だった。
「財政難の解決(銀霜草の強奪)」と、「悪女(反逆者)の討伐」を同時に行える、一石二鳥の「正義の戦い」だ。
彼は、自分が正義の執行者であると信じ込み、高らかに立ち上がった。
「聖女の進言、もっともだ!」
「直ちに『王国騎士団』を辺境領へ派遣せよ! 逆賊エリアナを捕縛し、領地の富(銀霜草の利権)を王国に取り戻すのだ!」
——その頃。辺境領、領主執務室。
商人ギルドから得た資金による、領地の「インフラ整備(第二期投資)」の計画書をレビューしていたエリアナのもとに、偵察に出ていた傭兵(私設軍隊の隊長)が駆け込んだ。
「報告します、ボス。王都から『王国騎士団』が、こちらへ向けて侵攻を開始しました」
エリアナは、計画書から顔を上げた。
その目は、一切動揺していなかった。むしろ、予測通りのタイミングだった、とでも言うように。
(フェーズ2、インフラ整備の完了と同時か。想定通りの最大リスクだ)
彼女は、冷静な声で、次の指示を出す。
(これより、プロジェクトは最終フェーズ——)
「『コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)』に移行します。全領民を『城塞都市』へ避難させてください」
最大の「試練」が、今、始まった。




