キャッシュフロー創出とエクスクルーシブ契約
辺境領に、最初の収穫の時が来た。
ジャガイモ畑は、予想を遥かに超える豊作となった。
「すごいぞ!」「こんなに芋が獲れたのは初めてだ!」「これで冬を越せる!」
領民たちは、文字通り「飢えからの解放」に歓喜し、エリアナへの信頼は絶対的なものとなっていた。
領民代表(村長)にジャガイモの管理(分配と貯蔵)を任せ、エリアナは、もう一つの「収穫」に向かっていた。
秘密の区画で収穫された「銀霜草」。それは、白銀に輝く、魔力すら感じるような美しさだった。
(原材料のまま売るのは三流のやることだ)
エリアナは、秘密裏に設けた工房で、自ら加工に着手する。
(加工し、『高付加価値商品』にしてこそ、莫大な利益が生まれる)
前世の薬学知識を総動員し、彼女は銀霜草から高純度の「エッセンス」を精製した。
それは、既存のどのポーション原料よりも強力な回復力を秘め、あるいは、既存のどの高級化粧品よりも肌を活性化させる、「魔法」のような液体だった。
精製された「商品」のサンプル(小瓶)を前に、エリアナは次の戦略を思考する。
(リスクアセスメント(危険性の評価)を開始。この品質なら、莫大な利益を生む。だが、王都経由で販売すればどうなる?)
(答え:不当な税(搾取)か、最悪の場合、利権そのもの(プロジェクト)を強奪される)
(リスクヘッジ(危険回避)が必要だ。販路は、王国の影響が及ばない『隣国』の商人ギルド一択)
数日後。エリアナは、領地の境界線で、隣国の「商人ギルド」のトップ、ヴォルグと秘密裏に接触していた。
ヴォルグは、歴戦の商人だ。抜け目なく、利益の匂いに敏感だが、今は目の前の「追放された地味な令嬢」を侮りきっていた。
「追放された令嬢殿が、何の用だ? 冷やかしなら帰ってほしいが」
ヴォルグの侮った態度に、エリアナは一切動じない。
彼女は単刀直入に「取引」を持ちかけ、精製した「銀霜草エッセンス」の小瓶を提示した。
「……なんだ、これは? 香水か?」
ヴォルグが小瓶の蓋を開けた瞬間、その目の色が変わった。
小瓶から放たれる尋常でない品質(あるいは魔力の密度)に、商人としての直感が警鐘を鳴らす。
彼が懐から鑑定道具を取り出し、その一滴を検めた時、驚愕に目を見開いた。
「ば、馬鹿な! この純度は……! 王都の最高級ポーションの原料の、数十倍……いや、百倍近いだと!?」
ヴォルグは興奮し、エリアナに掴みかからんばかりの勢いで叫んだ。
「いくらだ!? いくらでも買う!? 言い値でいい! それを全て寄越せ!」
エリアナは、その手を冷静に制した。
「ヴォルグ氏。私は単なる売買をしに来たのではありません。『独占販売契約』を提案しに来たのです」
「……独占、だと?」
(買い叩き(スポット購入)はさせない。継続的なキャッシュフロー(現金収支)を生む『仕組み(スキーム)』を作る)
エリアナは、冷徹なビジネスマンの顔で告げた。
「この『銀霜草エッセンス』を、隣国内で独占的に販売する権利」
「その代わり、王国への完全な秘匿と、莫大な契約金、および、売上の30%を当方へ」
ヴォルグは、エリアナの提示した「市場の独占」という、商人として最大の利益を生む提案に、即座に飛びついた。
「……悪魔か、あんたは。いや、女神か。よかろう! その契約、飲んだ!」
契約は成立した。
莫大な「現金」の第一弾が、辺境領にもたらされる。
領民たちは、見たこともない大金(金貨の山)に沸き立った。
だが、エリアナはその「軍資金」を、冷徹な目で見つめていた。
(キャッシュフロー(現金収支)は確保した。だが、この事業を守る『力』が、まだない)
彼女は、領民代表(今や彼女の右腕だ)を呼んだ。
「この金で、領地のインフラ整備(第二期投資)と、優秀な『傭兵』の雇用を開始します」
「傭兵、ですか?」
「ええ。名目は『領地警備隊』。ですが、集めるのは他国で『訳アリ』となった、実戦経験豊富な元・騎士団の猛者たちです」
王国の介入(絶望的な状況)という、予測される最大のリスクに向けた、「私設軍隊」設立という次なるプロジェクトが、静かに始動した。




