母体拒絶二景
1.無題
覚醒すると目の前には鉄の籠があった。大体人間が4、5人分程度頑張れば押し込められるほどの大きさの籠の中に、ひとりだけ残して打ち捨てられているようだった。籠を型作っている何重にも編まれた鉄線を力任せに剥ぎ取る。ようやく人ひとりが這い出せるほどの穴ができたかと思うと、穴の淵がむくむくと盛り上がり組織液のような粘ついた何かが滲み出し、そこから瞬く間に蔦がびっしりと生えて穴を塞いでしまった。同時に、穴をくぐっていた片手が蔦に取り込まれて身動きが取れなくなる。もう片方の手で必死にポケットを探ってオイルライターを掴み出し、着火して蔦の根元を炙る。断末魔のような音をあげて穴の淵から炎が広がり、蔦は全て燃え尽き、そして穴はもはや籠の半分ほどの大きさにまで広がっていた。次こそ、と両手を延ばし、身体も延ばして、穴をくぐろうとする。両側からぴしゃん、と音がして視界から、穴の淵も籠の輪郭も消え、暗闇しかなくなる。加えて、まだくぐりきっていない脚も含めて、身体全体を穴の向こう側へ吸い出そうとする力を感じる。どう足掻いても抗えないほどの。脚が宙に浮き、身体の感覚も、意識ももう一度消し飛ぶ。…
覚醒すると、見知った顔に取り囲まれていた。どれもこれも、安堵の表情だった。うち、わたしの隣に並んだ一つが直接頭の中に喋りかけてくる。
「命懸けだったわね、胎内の忘れ物は回収できた?」
「ええ、もう二度とごめんよ。こんな実験も、貴女をお母様と呼ぶのも、」
2.ブリザードエコー
「寒いね。
「産まれた日もこんなだった?
「もう少し寒くて、もう少し湿ってた。
「そっか、
「お腹に触っても?
「今は何もいないけど。
「頭を預けてたいの。胎内に何もいないからこそ、
「甘えんぼ、
「どっちかの心音がよく響くね、
「どっちもすぐに作れるよ。わたしも、貴女も。今からだって。双子だっていい、
「やだよそんなの。わたしたちであってわたしたちじゃないじゃない、
「そっか、
「寒いね、
「まだ空気が冷たくなっていくね、
「この中もそうなれば、冷たくなってしまえば、って思う?
「知らない。いいことかどうかわからないもの、
「そっか、