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大団円 ?

今回で最終回となります。


 勇者と反乱の中心人物の死亡により、水が引いたように動乱は収まった。


 まあ、……文句の有りそうな騎士の強い人たちが一対一、もしくは多対一でクロに挑んだが、全て返り討ちにあった。全て一撃だった。ちなみにクロは素手だ。

 どさくさに紛れて、アレッジによく似た人も殴っておいた。念のためだ。

 文句ない敗北に騎士達は従った。かなり厳しい処分にも素直に従った。ここらへん、体育会系の良いところである。

 

 

 

 後始末として――、

 魔界騎士団は再編された。アレッジが気がついたとき、彼がトップに立っていた。逃げだそうとしたところを先回りして待ちかまえていたジャンナに捕まっていた。

 王宮もトップが入れ替わった。ヴァーノン王子は失脚のうえ廃嫡、幽閉の後、行方知れず。いろいろマズイことがマズイところからごろごろ出てきたから行方知れずも仕方ないよね。

 情報提供者は匿名であるがクロだ。ソースはマックス。


 で、結局、第3王子のゴーチェ君17歳が戴冠した。

 ちなみに、ゴーチェはクロのパトロンでもある。リュディを通して知り合っていた。

 事前に魔界利用の各種新兵器と、大型蒸気機関を含む開発機器を見せられており、それはもう乗り気だった。そしてクロが睨んだとおり、性格に難(年上趣味)はあるが、優秀な内政家であった。


 して――、聖教会が問題だった。

 聖神力の謎が、とある若い聖騎士の手により解き明かされた。聖なる炎とは、適性さえあればだれでも使える、ただの魔法技術である、といった事である。

 当初こそ秘密が守られていたが、人の口に戸板は立てられない。やがて露見することとなる。


 一時期、リュベンなる若い聖騎士が宗教裁判に掛けられたが、弁護側の者が、とある魔界より切り取ったとある魔王の扉を証拠として提出。

 その証拠は大変な破壊力を持った物だったらしく、正教会の改革まで一気に進んだ。

 何所の馬の骨とも知らぬ若い聖騎士1人をどうこうするどころの話ではなくなったのだ。


 結局のところ、死せる女神様による人類救済策のうんぬんかんぬん。魔力という呼び名がうんぬんかんぬんと言うことで、紆余曲折を極めた末に上層部の首がいくつか飛んで(比喩表現。ギロチンではない)、納まるところに納まった。

 これが後の歴史家が言う、聖典の大解釈事件である。


 とりま、現状、攻略者ギルドとは仲がよろしい。蜜月の期間と言っても良いだろう。新ギルド長の手練手管によるものだ。

 

 

 一番変化したのは攻略者ギルドだろう。

 ギルド長カシムの後釜を狙って長老達が争った。良くも悪くもカシムが1人でまとめ上げた組織だったのだ。(かなめ)が亡くなり、扇はバラバラとなる。

 で、争いに勝ったのは調査部部長をやってたグロック。黒いヤツは強い。

 残り2人、ウェブリーとエンフィルドは失脚。攻略者ギルドを去り、アリバドーラを離れることとなった。ちなみに、2人は即行方不明となる。


 一人勝ちしたようなグロックだが、就任記念パーティーの夜、酒を飲み過ぎて泥酔。睡眠中の嘔吐を気管に詰まらせ窒息死。短い春であった。

 もちろん、調査が入る。だが、特に変わった点はない。事件性も疑われたが証拠は皆無。事故死として片付けられた。

 そう、事故死だったのだよ、ふふふふ。

 

 新しい攻略者ギルドは王室と仲がよい。上納金が安定していて、しかも過去より多かったからだろう。

 チーム人数制限の12人制を廃止。会社化して、攻略に望むようになった。


 各魔界を攻略するにあたり、物資運搬人が攻略者ギルドより無料で派遣されるようになる。

 魔物を狩る組と、物資を届け、資材を採掘する組とが協力して攻略に当たることとなった。

 魔界騎士と市井の攻略者は、ある時は棲み分け、ある時は協力し、情報を共有し、連絡を密にしつつ次々と魔界を攻略していった。

 攻略者の装備は質が良くなり、死者数は極端に減る。ますます生産数が上がり、装備が洗練され充実していく。

 簡単といえば簡単な話。当然といえば当然の結果。変な規制を取っ払えば、物が大量に動く。それだけの話だ。


 して――

 蒸気機関が実用化され、各所への運送が飛躍的に強化された。

 魔界から上がるレアメタルや、燃料、魔晶石によりアリバドーラを中心として地上世界は急速に機械化、発展していった。


 攻略者ギルドのコントロール下に置かれた魔界は、総数を減らすも増やすも自由自在。減ってしまうと保護のため物価が上がるが、予定の立つ物価高である。混乱は起こらない。

 ジェイムスン教授は魔界研究の第一人者として名を馳せる。教授の指導並びに提案により、魔界のコントロールが可能となる。

 魔界は、正体不明ながら、人類に繁栄をもたらす鉱山として活用され、魔界本位制の世へ続いていく。



 そんなある日のこと、いつものように初の魔界挑戦に挑む新人攻略者達が、攻略者ギルド株式会社のカウンターに立った。

 つい先だって、採用通知を受け、厳しい研修を終えた将来有望な若者達ばかりだ。攻略者は給料がとても良いので、やんちゃを好む若者に人気なのだ。

 これよりベテラン攻略者の引率で、新人達が実地研修にはいるのである。


「はい、では申込用紙と攻略者章を提示してください」

 カウンターで采配をふるうのは、受付部の責任者である若き女性。可愛らしい見た目に惑わされるが、じつのところ実績が半端なく高く、おまけに有名なので、ちょっかいを掛ける攻略者はいない。


「責任者の方はどちらですか?」

 受付嬢の狐耳が揺れる。

「俺だよ、俺俺! レニーだよチョコちゃん」

「あ、レニー君だ!」


 数多くの受付嬢をまとめ上げ、受付に立つのはチョコ・モフモフ。10代も半ばを過ぎ、それなりに肉感の良き美人さんに育っている。

 で、レニー君の方も出世した。魔界攻略組、第一番隊のトップリーダーとして頑張っている。顔に入った大きな傷が目印だ。……クロと何かあったらしい。

 今では、数え切れないほど魔界へ潜った大ベテランである。

 改良型人造魔剣を腰に帯び、簡略化された、それでいて防御力の高い防具を纏っている。ずいぶんサマになっている。


 この防具もクロが考案したもの……といっても陸上自衛隊のボディーアーマーそっくりだが。

 金属をふんだんに使っているのだが、重量バランスが考えられており、着用してみると軽く感じる。クイックリリース機能や武器取り付け帯、背面に緩衝材を使ったりと生存確率がハンパ無く上がっている割にお値段が手頃。

 いまや、攻略者の全員がこのタイプもしくは改良派生型を使用している。それだけ使い勝手がよいのだろう。


 手続きを終えて、レニー君率いるヒヨコの連隊は、とある小魔界へと潜っていった。時間を空けて運搬隊が後から入っていくだろう。

「では、わたしは上がります。後はよろしくね」

「「「お疲れ様でした!」」」

 受付嬢達は一斉に立ち上がり、チョコちゃんに礼の姿勢を取る。そこには獣人に対して軽蔑の思いはない。実力と経験と人柄に対する尊敬と畏怖の姿勢だけがあった。

 チョコちゃんは優雅に尻尾を振り振り、カウンターを離れるのであった。


 

 そんな賑わいを見せる攻略者ギルドの裏手、物資搬入口で騒動が起きていた。野次馬が集まって黒だかりとなっていた。

「てめー! 早く着いて何が悪い! 先に入れさせろや!」

「指定された時間は1時間後だろが、ボケがーッ!」


 各物資は時間指定されて納入される手はずとなっている。時間の概念がまだ行き届いていないらしく、よくトラブる部門である。要改良であるが、それはお偉方の仕事。受け入れ担当責任者の仕事じゃない。

 受け入れ担当責任者の仕事はトラブルを平和に解決することだ。


「だれだーぁ? 文句ぶちかましてるヤツぁー? あ?」

 ぬっと巨大な影が争う2人の頭上から覆い被さってきた。

「ブ、ブローマンさん!」

 搬入部門搬入支援班新人のブローマンだ。ついせんだって、お勤め先から帰ってこられたばかり。


「ブローマンさんのお手を煩わせほどの事じゃなくて、あ、思いだした。僕の時間はまだ先だった。ちょっとそこらで時間潰してきます。ごめんね」

「ご近所迷惑にならねぇように気をつけるんだぜぇ!」

「へい!」


 エプロン姿のブローマンは、顔見知りの納入業者に必殺のメンチを切っていた。ちなみに、エプロンには黄色いヒヨコの柄がアップリケされている。受け入れ部門のトレードマークだから仕方ないよね。


「どいつもこいつも! ごたごたやってると握りつぶすぞ! お前らじっと見てねぇで仕事に戻れ!」

「へい!」

 野次馬達が散っていく。責任者の男も散っていく。

 それを見送ったブローマンは、手元の台帳で入荷資材の突き合わせをしていく。

 ブローマンは、あの一件以来、武器を手にしたことがない。

「世は全て事も無し。平和だね。この仕事、あんがい性に合ってるのかもな。……なぁ、アロン、マデリーネ。ふふん、ふーん!」

 最近のブローマンは、よく鼻歌を歌うようになっていた。

 

 

 商品調査開発部長であったマックスは、攻略者ギルドの調査部部長になっていた。できる彼は、ギルド本店店長の筆頭秘書も兼ねている。

 今日もいつものようにピシッとしたスーツに筋肉質の身を包み、背筋を伸ばして廊下を歩いていた。回りは部下に固められている。

 人当たりが良くて有能で、部下からの信任が厚い。


「それは偽情報ですね。出所は違ってますが、文章の一言一句まで同じです。出所の先を当たってください。いいですか、先をですよ。それと、ロンオールの魔宮の件はどうなっていますか? 必要なら私が飛びます」


 部下に指示を飛ばしながら歩いていると、目的地へ着いた。人を払い、身だしなみを整える。若くして部長の地位につく実力者でありながら、いつもこの方の前では緊張する。それこそ、命を削る思いだ。だが、それが良いッ! このために生きているッ!


「マックス、入ります」

 ノックをしてドアを開ける。ギルドマスターより、入室の際は返事を待たなくて良いと命令されている。信用の証だ。部下として、これほど嬉しいことはない。


「あー、マックスか、待ってたよ!」

 馬鹿でかいマホガニーの執務机に行儀悪く尻を載せているのは、元攻略者のザラス。魔界運営チームの取締役の1人だ。


 理由もなく殺意の籠もった目でギルドマスターを睨んでいる鎧の男はアレッジ。アリバドーラ魔界騎士団団長である。

 横で苦笑いを浮かべ、控えているのは、巡回騎士団団長のジャンナである。

 改革が進み、魔宮、巡回騎士団は攻略者ギルド各支店長、並びに副店長の下に付くこととなった。当然2人とも、店長の管理下にある。いわゆる部下。


 そして、机の前のソファに座る美少女は狐耳の狐尻尾。チョコちゃん16歳だ。

 総合攻略者ギルド副店長兼、アリバドーラ店副店長を兼ねている。


「では、秘密営業会議を始めるとしよう」

 会議の開催を告げるのは、口角を目に突き刺さるまで上げた黒髪の女だった。



クロとチョコちゃんの冒険に付き合って頂いてありがとうございます。

ご愛読ありがとうございました。

(このコンビにまた会えたら良いなと密かに思いつつ)

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― 新着の感想 ―
[良い点] チョコちゃん、大きくなって…… (ノ∀`)ホロリ 完結、おめでとうございます。 そして素敵な物語をありがとうございました。 次回作も楽しみにしております。 [気になる点] 聖騎士のカレ…
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