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クロ


「クローッ!」

 泣き声混じりで名を呼ぶのはレニーだ。

「やはり、クロか……」

 ブローマンは、複雑な表情を浮かべた。


 クロが訳知り顔で頷いた。

「ザラス先輩! とうとうやってしまいましたね! でもご安心を。聞いてくれみんな! ザラス先輩はわたしと一緒に魔界へ潜っていた。アリバイは成立する。アレは清きお付き合いの申し込みだ。だから婦女暴行罪は――」

「ちげーよ! 俺を先入観だけで判断するなし!」


 突然始まった寸劇に、魔界騎士団はもとより、勇者も言葉を無くしていた。

 とりあえず喧嘩は収まったようだ。仲裁云々はさておき、さすがのクロも状況が飲み込めないでいた。


「いったい何が起こったんだ? 誰か簡潔に説明してくれたまえ!」

「いいだろう!」

 勇者アロンが不敵な笑みを浮かべた。


「クロ君は王立博物館の先生方と共に魔界の調査を依頼しているからね!」

 言外にクロが協力者であるとほのめかしている。


「まずはクロ君に紹介をしておこう!」

 アロンは腕を広げた。広げた先の一段高くなっている場所。魔宮を構成する丘の下段だ。

 貴族っぽい服装の年寄り達が20人ばかり並んでいる。

 そのなかで一番若い男に見覚えがある。


「貴族議員の方々だ」

 ハドス伯爵だ。ニヤリといやらしい笑いを浮かべている。


「方々は魔界封鎖に賛同されている。議会は多数派。魔界封鎖作戦は国より指示されていると考えておいてほしい。そして、魔界騎士の多くは我らに賛同してもらっている。魔界を全て潰せ! 生まれたらすぐ滅ぼせと! そのための体勢が作られようとしている! 君も知っているだろう? 魔界が増えていることに。やがて世界が魔宮に覆い尽くされることに!」


 勇者が説明しているのをよそに、クロは別の人物から説明を受けていた。


「ふんふん、なるほどなるほど」

 クロに耳打ちしているのは背の高いスマートな男だ。狐の半面を被っている。


「ブレス! お前ブレスじゃないか! 生きていたのかブレス!」

 ブローマンが歓喜の声を上げた。

 ブレスことマックスは、チラリと目の玉だけ動かしてブローマンを見、すぐ視線を戻して、クロへの説明を続けた。ブローマンに興味はないらしい。


「ど、どうしたんだ、ブレス?」

 ブローマンは怪訝な顔をする。ブレスとは仲が良かった。彼の言葉を無視するような男ではないはず。

「ブレス! 生きていてくれて俺も嬉しいよ!」

 アロンも違和感を覚えていた。だから、確かめるような台詞を繋げた。

「早速クロに取り入っていたようだな。さすがは我が仲間!」


「仲間?」

 この言葉に、初めてブレス事、マックスが反応した。


「失礼ですが私の名はマックスです。我が主、クロ様に仕えるブラックチョコレート商会商品調査開発部長が本職です。貴様など知らぬ! ということで主様、報告は以上となります」

「大儀。さがってよし」

 マックスは腕を胸に当て、腰をかがめて後ろへいざり、ものの見事に姿を消した。


「ブレス、どうしたっていうんだ?」

 ブローマンは落胆を隠せない。生きていてくれたのに、共にクロと事を構えるほど大切な友だと思っていたのに!


「話はだいたい解った。勇者アロン! 貴様は我が社の邪魔となる男だ。早々に退場を願おう!」

 クロはビシリと指さした。欲に眩んだ目をしている。

「それと君、情報が古いよ。できるサラリーマンは常にアップデートを心がけないと!」

 

「ブローマン、クロはお前に任せるよ」

 クロを無視したアロンが指示を出すも、ブローマンは動かない。

 動かないどころか、剣を下げ、どっかとあぐらを掻いて座った。目までつむっている。


「ブローマン?」

 ブローマンは片目を開け、アロンを見上げた。

「すまぬ、アロン。俺はクロと事を構えないと約束してしまっている。どうやら俺はここまでのようだ」

 ブローマンは再び目を閉じた。外界とは関わりを持たぬと決めたように。


「フン、好きにしろ」

 アロンはブローマンに見切りを付け、クロと向かい合っ――クロが(まさかり)を投擲していた?!

 直前に風を切る唸りをあげ、高速回転する鉞が迫っている!


「うおっ!」

 だが避けられない事はない。アロンの纏う神鎧は音速の鎧。この程度の投擲武器に取られる事はない。

 事実、アロンは避けた。アロンの目の前を通過し、ブローマンの頭上を飛び越えて明後日の方向へ飛んでいった。

 あの距離だ。正確な投擲は無理だ。……それにしてもよくここまで届いたな。

 アロンは愛剣である竜刺剣ドラグラディウスを構えた。

「構えろ、クロ」


 静かに命じる。――と、視界の端に何か高速で動く物体がチラリと映った。


「ああっ!」


 アロンがそちらに視線を向けるのと、ハドス伯爵の腹に横線が入り、血と内蔵をぶちまけるのが同時だった。


 いかに音速の神鎧を纏っていようと、事後では間に合わない!

「ハドス!」

 叫ぼうが、どうにもならない。横倒しに倒れたハドス。議員達はパニックを起こし逃げまどう。


 クロの手に柄の短い鉞が握られた。さきほど投擲された鉞が戻ってきたのだ!

 あれは魔道具だったのか! 狙いは最初からハドス伯爵だったのだ!


「よくも!」

 つり上がった目でクロを睨む。


 クロはやってくれた。


 アロンが構想した政治体制を鉞の一投げで潰してしまった。政治の要であるハドスが殺されてしまった。

 殺されて気がついた。ハドスが、この革命になくてはならぬ最重要人物だった事に!

 この攻撃は、マックスの上申によるものだ。さぞやマックスは喜んでいることだろう。


 これで、革命後の中心人物が消えた。

 アロンが実権を握るにしろ、政治運営は素人同然。野心家の第2王子ヴァーノンは、後先考えずアロンに抗争を仕掛けてくるだろう。

 抗争に時間と費やしてる暇はない。アロンは即座にヴァーノンの暗殺を決めた。

 だが、そのまえに落とし前を付けねばならない。ブローマンは……目を瞑って座ったまま歯を食いしばっている。だめだ、こいつはもう使えない。


 神鎧の力を使って一気にクロへ駆け寄り、一撃で首をはねてやる。いや、その前にクロが大事にしている獣人の子を殺してやる! 同じ思いをさせてやる!


 アロンが動こうとしたときである。

「あの女はわたしに任せて!」

 すっと前に出てきている女。赤いブレスト業火の鎧を纏った魔法使いマデリーネである。


「見せしめに獣人の子ごと焼いてやるわ!」

 獣人の子ごと焼く。クロは助けることもできず、一緒に火に焼かれる。その一言にアロンの嗜虐心がむくむくとわき上がってきた。


 マデリーネはアロンの返事も待たず、業火の魔法を発動させた。

陽焔勅撃砲(アイザー・アジモス)!』

 炎が渦を巻いてクロに迫る。横になった炎の竜巻である。クロごと獣人の子を包む。


「燃えておしまい!」

 マデリーネが炎に顔を赤く染め、口を笑いの形にする。


 爆炎を割って回転する鉞が飛び出してきた。マデリーネの首に一本の線が走る。


 笑いの口のまま、マデリーネの首が胴を離れ宙で回転している。


「マデリーネッ!」

 アロンの心が悲鳴を上げた! これまでずっとアロンを支えてきてくれたマデリーネが!


 ごつんと言う音。マデリーネの頭が斜面を転がり落ちていく。

 残された体が、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。


 嘘だと言って欲しい。

 まだクロが姿を見せて5分と経ってない。だのに政治の要であるハドスが死に、魔界攻略の基幹を成すマデリーネまでもがあっさりと死んだなんて! 

 アロンの思考はオーバーフローした。様々な単語や思い出といった記憶、言葉、訓練なんかまでもが脳裏に現れては消え、通り過ぎては繰り返しをしていた。


「しっかりしろアロン!」

 さすがにブローマンの叱責が飛んだ。

「なんだと!」

 アロンの怒りの矛先がブローマンに向かった。

「戦え! ブローマン!」

「断る!」

「マデリーネがあんな事になったのだぞ!」

「だったら、だったらッ! マデリーネの亡骸を抱えてやればどうだ! お前にとってマデリーネはそんな存在か!? あいつはずっと! マーリンが死んでからずっとお前を見てきたのだぞ!」

 アロンは、勢いよくマデリーネの亡骸に顔を向けた。


「そうか、そうだったのか……」

「どこまで鈍……この糞バカヤロウがッ!」

 ブローマンが吠えた。

「後悔しているのは俺の方だ! こうなることが判っていたら、もっと早くお前らをくっつけてやったのに! 俺は何もしなかった! バカヤロウは俺もだッ!」

 ブローマンは歯を食いしばり、涙をこぼさぬよう堅く目を閉じた。クロとの約束を守り、絶対手を出さないと誇りにかけて誓ったのだから。


「そうか……」

 全身から力を抜いたアロン。ゆっくりとクロ向かって歩いていく。

「だけど、マデリーネを抱き上げるのはこの後だ」

「こいつまだ解ってない! それがバカヤロウだってんだ!」

 とうとうブローマンはアロンに怒りの感情を抱いた。見限った。もうだめだと思った。何も出来なかった自分が悔しかった。


 一方、クロは――強制キャンセルさせた炎を割って歩いてくる。

「なんだか、わたしが悪者みたいだね。チョコちゃん、そっちの剣をかして。それとマックス商品調査開発部長! チョコ副店長を守れ! 優先順位はわたしの身体・生命より上だ!」

「了解いたしました」

 ふっと涌き上がる黒い影。マックスだ。

「店長におかれましては勇者殿と心ゆくまで戦ってください」

「頼んだぞ。チョコちゃん、隠れといで!」

「うん! お姉ちゃん、頑張ってね!」

「おう!」


 チョコはクロに剣を渡すと、トットコと走りピョンとマックに抱き付いた。マックスは驚異の後方ジャンプを見せ、3歩で魔界へ身を隠す。

 チョコちゃんがひょこっと顔だけ出してこっちを見ているのはご愛敬。


 クロは剣を自然体に構えた。幅広の長剣。刀身の根元に魔晶石が埋められている。

 剣を使うなんて、クロにとって珍しいことだ。


 ガッシャン!


 クロは柄をスライドさせた。開いたケース状の内部に、魔晶石を3個セットし、柄を元に戻した。

「胸を貸してやろう。さあ、来たまえ! 勇者君!」

 剣を青眼に構える。彫刻になったように微動だにしない、どっしりとした構え。


 サマになった構えを見て、アロンの体に火がついた。

「クロ、貴様は俺から全てを奪った。時間も人も未来もッ!」

「よく聞く話だね。知ってるかい? 失敗した革命は反乱って呼ばれてるらしいよ」

「だまれ! キサマ何をしたか解ってるのか?! もう取り返しがつかないんだぞ!」

「いくらでも取り返してやろう。後は安心してわたしに任せ、どこかの牢屋で座禅でも組んでいるが良いさ」


 アロンは走り出した。

「クロ! アロンの剣は鉄を斬る!」

 ザラスはそれだけを叫んだ。アロンの持つドラグラディウスは竜の棘を切り出して作った剣。鋼鉄竜すら斬った剣。ひとたび振り下ろせば、剣も盾も真っ二つだ! 

「加速!」

 アロンが消え、幾条かの筋がクロにぶつかっていく。


 金属同士を打ち付ける澄んだ音が一つ。アロンが静止している。

 クロがアロンの剣を受け止めていた。

 クロの剣は赤光を放っている。あの魔剣をクロの剣が受け止めている!?


「な!?」

 驚くアロン。ザラス達攻略者やアレッジ達魔界騎士達も同様に!


「コイツはグルブラン武器屋謹製の人造魔剣。お値段、10万セスタでまもなく予約販売予定。早い者勝ちだよ。おりゃ!」

 クロがアロンの拳を蹴り上げ離れる両者。あと宣伝も忘れない。


 クロは柄をスライドさせ、魔晶石を装填し直した。柄の一部をスライドさせることで自動的に装填される絡繰りが仕込まれているようだ。


「こいつ!」

 アロンが驚いたのは、クロの剣ではない。加速したアロンを捉えたことの方だ。

 信じられないことが何度も起こる。そうなるとアロンは逆に冷静になってしまう。何度も何度も、何十年と死をかいくぐってきた体がアロンを冷静にさせるのだ。

 剣の性能は互角。だが、クロの持つ魔剣は、その効果に限界があるようだ。どうやら魔晶石が性能を付与させているらしい。それも魔晶石は発動1回に付き1個消費してしまうようだ。

 ならば、魔剣が発動するのはあと2回しかない。


 勝てる。


 アロンは戦いに集中した。全てを振り切るのに丁度良かった。

 周りの騒音が聞こえなくなった。


 勝てる!


 クロは新鋭の攻略者だが、まだ若い。戦いにおける絶対的な経験不足は否めない。対してアロンはベテラン。

 アロンの有利は動かない!


「――などと考えてませんかな、勇者殿?」

 クロが口角を吊り上げた。それこそ目に突き刺さる程に。

 

「ほざけ!」

 アロンは、唾を吐くようにセリフを吐き出し、飛び込んだ。加速はしていない。

 上段からの斬り込みをクロの左肩に放つ。これはフェイント。狙いは右肩。片手に持ち替え剣の軌道を途中で延ばし、ずらし、右肩に振り下ろす。アロンの自信の必殺剣だ!


 クロは、それを半身だけ引いてあっさりと躱す。躱しつつ剣を振り上げ、アロンの横手からヒョイと斬り付けた。 ギギギ!

 アロンの神鎧がクロの剣を弾いた。クロの踏み込みが浅かったことが幸いしたのだ。


「今のを!」

 ザラスが驚いている。クロはまるで未来を見ていたかの様に動いたからだ。

「こんなの基本でしょ? さて、魔晶石ラス1! 乞うご期待!」


 アロンが体勢を立て直している隙に、クロは最後の石を装填する。

 両者共、時間的マージンを消費。共に上段に剣を構えて動きが止まる。

 クロの魔剣発動機会はあと1回。無限に使えるアロンの断然有利。

 間合いはアロンの長剣が届かないギリギリの距離。斬りかかっても一歩後退すれば避けられる。後、半歩詰めたもの勝ち。ここで我慢できず斬りかかってくるのは素人。ここでも長い得物を持つアロンが有利。


 勝つ以外のイメージが湧かない!

 アロンは一歩踏み込もうと――

 クロが斬り降ろしてきた!


「シロウトが!」

 アロンは上段に構えたまま、半歩下がってクロの剣を外し――

 クロの剣筋が変化した!


 臍のあたりで、弾かれたように剣が跳ね上がる。さらに、クロは大きく一歩踏み込んでいた。アロンは、剣を外すため幾分のけぞった姿勢。これを狙われたか!

 クロの下段からの逆袈裟に肋骨と鎖骨を斬られるビジョン!


「加速!」

 ジャッ!


 クロの赤い光を放つ切っ先が、赤い神鎧の表層を撫でる音!

 伝説の神鎧に二本の傷が入った! 同時にクロの剣から赤光が消えた!

 これでクロの魔剣は魔力切れだ!


 だが、クロの攻撃は終わらない。加速中のアロンの喉元へ、切っ先とクロの顔が迫る。

 これはアロンの剣が間に合った。剣の峰で軌道を右に逸らし、左へステップ。クロの顔が消えた!?


 大きく沈み込んだクロ。アロンの剣を巻き込んで下方向から脇に向けて円を描くように刃が迫る!

 うまい! この合わせ面だとクロの剣は折れない。


 だめだ!

「加速中だぞ!」

 アロンは右腕の付け根を斬られた。神鎧に覆われた脇の僅かな隙間を狙われた。クロの、赤い光を失ったただの刀身が突きこまれ、スライドしつつ抜けていく。


 ――魔力が切れた刀に攻められる!? なんだこの女は? 勇者である俺が子供扱いか?――


 アロンは、クロに恐怖を覚えた。目の前にいる美人が、とてつもない巨人に見えた。全身至る所から刃を生やし、攻撃すれば逆に斬られるイメージ。


 なんで俺より強い?

 クロの腕が消えた。消えたように見えたというか、見えなかった。

 アロンの首筋に氷めいた冷たい触感が抜けていく。


 ブツッ!

 アロンの首から血が噴き出した。


 首の皮と肉と頸動脈だけをくり抜いたクロの赤い剣。

 致命傷だ!


 心は信じない。だが冷静な頭は死を信じる。


 せめて一撃を!

 アロンの覚悟はかなえられなかった。

 クロが間合いから飛び退いていた。


 逃がすまいとアロンは一歩踏み込んだ。二歩目が重くて動けなかった。動いたら死ぬ。動かなければ剣が届かない。血は噴水のように噴き出している。体が動くのは今この時だけ。どうする!?


「残念だったね勇者殿。対人剣はわたしの得意とするところ。この大陸じゃ、人同士の戦争って無いでしょう? だから君、対人戦闘技術が未熟なんだよ」

 必殺の気力が抜けていく。クロの話を聞いてしまう。話を聞かねばならない、と、それを動けない理由にしてしまう。


「わたしは、魔獣戦が苦手だったんだ。だから斧を使ってたんだよね。魔獣狩り競争だったら負けていたかもね。そら!」

 クロが踏み込んだ、様に見えた。それはフリだけ。

「はい、剣道の初歩的な駆け引きに引っかかったー」

 つられて動けたのは鍛えた体だったからだ。動いたことで最後の力が抜けてしまった。


「このままじゃ――」

 アロンの体に地面がぶつかってきた。彼自身は、確実に立っているのだが、地面をぶつけられては仕方ない。避けようが無いじゃないか!


「――世界が滅ぶ――」

 アロンは地面に突っ伏した。

 名もない草が見える。土の匂いがする。


「――お前の妹も死ぬんだぞ……」


 クロは構えを解いた。

「たった1人の妹を守るためなら、全世界を相手にでも戦ってやるよ」

 クロのセリフは混濁したアロンの意識に届いた。


 ……妹を守るためなら仕方ないか……


 アロンはゆっくりと瞼を閉じていく。


「悪いね、お兄ちゃん」

 お兄ちゃん……妹の願いなら悪くない。


 アロンの脳裏にマデリーネの顔が浮かぶ。マデリーネの顔はマーリンの顔になり、妹カーリンの顔になり、そこでアロンの視界が闇に覆われた。


「魔界のことはまかせたまえ。悪いようにはしない」

 その言い方が気になるというのだ……。

 アロンの意識はここで途絶えた。永遠に。

 


次回最終回です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも、面白くて楽しくて素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございます。 ブラックチョコレート、いつまでも続いて欲しいなとイチ読者としてのワガママな思いはありますが、完結するから…
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