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中魔界 進軍


 さて、中魔界攻略第2日目。

 食料や水やお菓子を初日同様に補充したクロとチョコの足取りは軽い。

 一時間少々歩いた頃に1回。そこから1時間弱歩いた頃に2回目。正午前に3回目の戦闘があった。

 順に黒狼、白ゴリラ、黒狼である。


「五目並べか?」


 最後の黒狼を倒したところで、少し早いがお昼ゴハンにした。

 ベーコンとソーセージの炒め物だ。

「チョコちゃんは狐の獣人だから肉食中心で良いのかな?」

「お肉お肉!」

 いまいち、獣人の生態がわからない。今回の攻略が終わったらブラートにでも聞いてみよう。


 順当に進む中魔界攻略であるが、アクシデントが無くもなかった。

 クロが補給を間違えて、いつもより一個少なく受け取ってしまった物がある。

 チョコちゃんのクッキーである。通常10個の所、9個しか受け取らなかった。

「というわけで、チョコちゃん。今日だけ朝のおやつで4個。3時のおやつで5個で良いかな」

「やだー! すくないのやだー!」

「はっはっはっ、仕方ないね。では朝5個で、3時に4個でどうだい?」

「それならいい!」

「はっはっはっ! こうやって諺が作られていくんだねぇ」

 そんな感じでクロとチョコの快進撃は続く。


 4日目の昼過ぎの事である。

 とうとう、魔王の門に到着した。


 漆黒の扉の背は高く、5メートルを超えている。そして、扉に記号のような文字のような文様が刻み込まれていた。

 その門前に、インド象クラスの巨大イノシシっぽい長毛種の魔獣が転がっている。門番だ。

 全長のうち、頭だけで1/3。巨大な頭はクロより大きい。大小5.6本の牙が口から覗く。目は左右に2つずつ、計四つ。

 ライオンの鬣めいた長くて大量の毛が、武器の刃を通さなかった。結局、戦斧を鈍器にし、ボコボコに殴り殺したのだ。

 魔晶石を取り出すのも一苦労だった。


「ふー、終わった終わった。開発中のオルタナティブ魔剣があったら楽なんだろうね。さて、このまま魔王を攻略しても良いが、教授達を待とう。門を開ける際や、討伐直後の変化を観測してもらいたいからね。チョコちゃん、お茶にしよう」

「そうおもって、用意をはじめておきました」

 魔晶石コンロと鍋が用意されていた。後は水を張って沸かして、お茶っ葉を入れるだけ。

「気が利くね!」

 水を張って湯を沸かす。有る程度冷ましてからお茶っ葉を入れておく。

「魔猪の死体を前にして、優雅にお茶かー」

「リュディといっしょに飲みたいね!」

「わたし達は楽しいけど、リュディはどうかな?」

 等と言いながらも時間は経っていく。クロは武器のお手入れに余念がない。チョコは、食べたら寝るの(ことわり)どおり、お昼寝を楽しんだ。

 それぞれ、魔王の門前で天を睨んで死んでる大猪を背景として。

 

 

「なんじゃこりゃーっ!」

「さすがクロさん」

 顎を落とすジェイムスン教授と、ニコニコ顔の助手のニール君。ようやく追いついた2人の一言目である。


「クロ君! 門番である事をさっ引いても、こいつは異質すぎるぞ! 大魔界に出てきてもおかしくない魔獣じゃ!」

「落ち着いてください教授。そうだ、お茶を飲みましょう」

 ニール君は笑顔を絶やさず、てきぱきとお茶の用意をしていく。

「これが落ち着いていられるか! 急所たる頭部の骨が分厚すぎる。もう一つの急所の首に、これだけ毛が生えておれば斧でも通じんはずじゃ!」

 最後は眉間を割られてオダブツとなったが、豆腐がはみ出した傷口から見える骨の厚さは尋常ではない。

 頸動脈や気管を狙おうにも、モフモフの襟巻きが邪魔をする。

「そこはまぁ、所詮は脊椎動物系の魔獣」

 落ち着いてとばかりに、ことさらゆっくりとした口調のクロである。

「背骨は一本しかない」

 腰と背中の接合部に深く裂かれた傷口があった。

「脊椎動物がベースである以上、また弱点もしかり。この部分なら肉も薄い。ここに入れられたらもう後はタコ殴りです。戦闘の専門家ならこれくらい常識なのです」 

「なるほど!」

 小膝を叩いて納得する教授であるが、後ろで控えるニール君は納得していない。狙いは解るが、ではどうやって腰骨を断ったんだ? 技量で済む話ではなかろうと。


 とはいうものの、ニール君も研究バカ。クロの尋常でない強さが有ればこその魔界研究である。瞑れる目が有れば瞑る、秘密は黙ってこそ(ゼニ)になる、というのが彼の信条である。伊達にジェイムスン教授の一番弟子を名乗ってない。

 ワヤワヤやっている内に、後続の補給部隊が到着。早速とばかりに最終ベースキャンプを設営していく。

 ニール君率いる助手チームは、これまでの反省と改良点を話し合っている。クロは教授より調査結果を聞き、討論に花を咲かせている。チョコちゃんはクロのお膝でおやつ代わりのカロリーレーションメイトを囓っている。

 終始和やかな研究室風景が繰り広げられているここは中魔界最奥地。魔獣の死体が転がる魔王の門前でござる。

 今日はこのままメシ食って寝ることとした。

 

 

 翌朝。

 いよいよ、魔王の間に挑む朝である。


 朝食をすまし、準備運動も終え、調査機材の設置も済んで準備も万端。クロが魔王の間の扉に手をかけた。

「もう一度念を押すが、儂も一緒に入るぞ」

 大盾(ラージシールド)を手にしたジェイムスン教授だ。中を観察したいと言って譲らない。たった一度の事だからと駄々をこねる。

 クロが戦っている間、自分が魔王の間の変化を観察する。クロは戦ってるのだから、魔王が攻略される瞬間の変化を観察できないだろうというのが一緒に入る理由だ。

 確かにその通り。ならばお願いします。とあっさり了承。これには教授も「わかっておるではないか」と嬉しそうにしていたのだが、本番前になって怖くなってきたらしい。

 

「思うのだがねクロ君。ホントね、君ね、もうちょっと防御力を上げた方が良いよ。ホントね。儂も一緒に入るんだから。君が倒れたら、矛先は儂に向くんだからね」

 自分の背中を押すための宣言である。もう5度目だが。

「確かに防御力を欲しています。鎧が布のように軽ければ。開けるよ、チョコちゃん!」

「どーぞー!」

 門に手を当てるクロ。

 門の正面で身構えるチョコ。

「なにかな?」

 チョコの立ち位置を不思議がり、後ろで小首を傾げているジェイムスン教授。と、ニールを先頭にした助手達。


 門が開いた。

 中は真っ暗。攻略者が足を踏み入れて初めて明かりが灯るのだ。今はまだ真っ暗。中に何が待っているのか、見当も付かない。

「チョコちゃん!」

 チョコの反応が遅い。

「わかんない! こきゅうの音が3つ。でも、けはいは一つ。匂いはトカゲかヘビみたいに生臭い」

「充分だ!」

 クロが飛び込む。わずかに遅れて明かりが灯る。

 教授も飛び込んだ。そして、――。


 息を飲んだ。



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