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魔法タイプの魔界


 クロとチョコは魔界へ潜っていた。

 そこは魔法タイプの魔獣が出現する魔界。ブラックチョコレートの初体験ゾーン。


 やたら緊張している管理役の騎士と書類の確認を交わし、いそいそと魔界の門を潜った。

 期待に肩を怒らせながら歩くこと1時間。そろそろ肩が凝ってきた頃。最初の魔獣と遭遇した。


 いつもの通り、先手をとったのはブラックチョコレート。

「みつけた! かどの先、100メートルに2ほん足のまじゅうが5ひき! ブタさんの匂いがする!」

 今日もチョコの三次元レーダー機能は絶好調だ。


「よしよし、チョコちゃんも後輩ができて張り切ってるね! お姉さんもうかうかしてられないぞ。いっちょ行ってくるわ!」

 腕まくりの真似をして飛び出すクロ。腕まくりはおふざけである。


 いつものパターンなら、魔獣の探査能力の外で感知したのち、クロのスピードで奇襲をかけ反撃される前に全滅させるという手口をとる。いわば、ブラックチョコレートの必勝パターンだ。

 今回、そのパターンは使わない。


 魔法系を選んだ目的は、魔法の研究。

 魔素がどう作用して、現象を具現化させるのか? それが課題だ。


 本来、クロが攻略者になったのは、未知の素粒子・魔素の研究のためである。魔獣を倒すことが目的じゃない。研究のために魔獣を殺しているだけだ。

 結果として魔界を攻略。報酬が手にはいる。これらは研究の副産物なのだ。

 生きていくだけなら、クロの知識を使って商売でもすればいい。たぶん、十分な利益を上げる組織になるだろう。

 しかし、クロは商売人じゃない。研究者を二つ名にしてもいいと考えている。実際、元の世界で博士号をとっていた。武闘派の学者である。

 クロは興味を最優先にして生きている。人の寿命を超えた年月を生きていると、終いにやることが無くなって物事の真理究明に走りがち。長命種あるある。


 前の世界で、だいたいのことは知り得た。調べたり勉強したりする事柄はたくさん残っているが、どれもこれもクロの興味を引く物ではなかった。

 そこへきたのが魔素である。クロの研究者魂がアツク吠えている。悪を倒せとクロを呼ぶ。

 研究してどうこうしたいとは思ってない。ただただ、知りたい。新しい物を知りたい。知りたがりを拗らせたとも言う。

 研究が第一で、実用は二の次。真相が分かればそれでよい。密室トリックの謎を解けば、犯人は誰だって良いと思ってるタイプである。……迷惑なことに。


 さて、魔法系の魔界である。ブタ顔二足歩行タイプ魔獣が5匹現れた。ぶっちゃけ、オークである。

 一糸まとわぬのが4匹。全裸に風呂敷?……ボロマントが1匹。未成年女子と幼女相手に、完全にアウトの出で立ちであるが、クロは気にしない。研究対象だからだ。


 見たところ、魔法を使うのは全裸にマントを羽織ったブタ。前衛が残り4匹の全裸ブタ。であろう。

 クロが求める研究対象は魔法使いのみ。前衛の戦士職は邪魔。

 というわけで、魔法使いブタが魔法を練り上げている間、4匹のブタの相手をし、頃合いを見計らって戦士ブタを瞬殺。超速の技である。


 1匹になった魔法使いブタと間合いを調節し、じっくり観察する。魔素のような視力で捕らえきれない物体は遠隔感知力場を使わなければならない。

 この遠隔感知力場は、何光年も先の岩塊をつぶさに察知できる性能を持つ物だが、魔界のような魔素が充満している閉鎖空間だと、極近距離でしかその効果を発揮できない。

 その距離は、魔素の濃度によるが、平均すると3メートル強である。ここは入り口に近いところなので、魔素の密度は魔王の間ほど濃くない。よって、4メートル弱といったところか。


 間合いも4メートル弱。これ以上近寄れば、魔法使いブタが物理攻撃に転じる可能性がある。

 魔法を恐れ、間合いを計っているフリをしつつ、じっくりと魔素の流れを追いかける。


 周囲の魔素の濃度が低下してきた。遠隔感知力場の有効範囲が徐々に広くなっていくのがその証拠である。

 空間に満ちた魔素が、ブタに吸収されていってるようだ。

 残念なことに、ブタの体内で如何様に魔素が変換されたのか、それが感知できない。遠隔感知能力は優れものだが、脊椎動物の体組織は複雑なので、非接触非破壊で内部を伺うことができないのだ。


 ブタがブィブィと念仏を上げている。向かい合わせた手のひらに赤い光が発生した。ちなみに、ブタの手に蹄はなかった。

 体組織の外部へ出れば力場で捕らえることができる。あの光は熱そのものだ。別に感知力場でなくとも焚き火のような熱を感じる。さぞやブタも熱いことだろう。二足歩行でなければ、食指が動くところだ。


 光が安定した。ブタは決め顔でクロをにらみつける。なにやらブヒヒと決め台詞っぽいのを叫んで、両手を伸ばすと、赤い光がクロに向かって飛んでいく。

 赤い光は熱の塊。減退しながら、まっすぐクロに向かって飛んでくる。速度は弓矢よりチョイ速いか?

 その程度の速度域はクロにとってカタツムリの歩行速度としきい値はいっしょだ。ゆっくりと体を斜めにして、ゆっくりと通り過ぎていくのを観察。ついでに熱を吸収してエネルギーとして蓄えておく。熱量の減退率が激しいなー、とか思いつつ。

 熱の塊は、後ろの壁に当たるか当たらないかの微妙な距離で消滅した。熱の集約が維持できなかったのだ。


「ふーん、熱そのものを集束するのか。魔素は濃度の濃いところだと立方体的に集まる性質を持っているのだが、似た性質だな。エネルギー化しても性質が変わらないのだろうか? どんな原理で? それ以前に、どうやって魔素を熱に変えるのかな? わたしが魔素を普通に燃焼させたら女神様の火になっちゃうんだけどなー。わかんないなー」

 首をひねりつつ、ブタと再対峙する。必殺の一撃だったのか、ブタは慌てていた。

 クロは、どうぞ次の行動を。とばかりに斧を構えたファイテングポーズをとったままにしている。

 魔法に驚いた風の表情を付けるという、ブタに対する気遣いを忘れない。


 ブタはもう一度念仏を唱えた。音調が般若心経に似ている。さっきと同じ魔法だろう。

「それはさっき見たし、こいつ、これしか使えないっぽいなー。もういいや」

 斧を一振り。さくっとブタの頭をかち割って終わりにした。


「チョコちゃん、終わったよー。これから剥くから、警戒よろしくー!」

「あいあいー!」

 警戒態勢はチョコちゃんの独壇場である。真剣な目をしてお耳とお鼻を動かしている。

「げんざい、いじょうなーし!」

「チョコちゃんは頼りになるなー」


 クロは戦士型と魔法使い型の魔晶石を取り出し、比べてみた。

 戦士のは透明に近いピンク色。魔法使いのはもう少し濃かった。やたら綺麗な牡丹色だ。

 それぞれに識別記号を書いたタグを貼り付け、収納袋へしまい込む。


「よーし、次行こうか」

「ちがうタイプの魔獣がでてくればいいのにね」

「チョコちゃんも分かるようになったねぇ。また一つお利口さんになったんじゃないの?」

「チョコ、おりこうさん!」

 お日様のような笑顔のチョコちゃん。クロの湿ったせんべい布団のような心が、日の光に当てられふっくらと膨らんだ。

「ぱぱらぱっぱっぱっぱー! チョコちゃんのお利口さんレベルが1上がった!」

「うわーい! ……レベルが上がるとどうなるの?」

「10上がるたび、串肉が1本もらえるんだ」

「よーし! チョコはがんばってレベルを上げるぞー!」

「はっはっはっ! その意気その意気!」


 チョコちゃんの純粋な願いが届いたか、クロの打算ずくの真っ黒な願いが届いたか、1時間も歩かないうちに、魔獣と出会うこととなった。

 二足歩行のブタが5匹だ。

 今回、見た目にも魔獣のレベルが高そうだ。


 戦士職であろう4匹のブタは腰蓑姿だ。魔法職であろう1匹のブタは、腰蓑にマントだ。マントもぼろ布ではなく、ちゃんとマントに見える布だ。

 いつもの戦闘スタイルで戦いは開始された。

 まず魔法職ブタが呪文を唱える。前回の呪文とはスペルが違う。浄土真宗系に似ている。これは期待できそうだ。

 続いて、襲いかかってくる4匹の戦士ブタの内、3匹を殺害。残り1匹は、重傷を負わせるだけで生かしておく。

 丁度ブタが呪文を唱え終わった。目を尖らせ、口角を上げた(ドヤ顔の)ブタが、発動の言葉を唱える。

 クロは重傷のブタの首を掴み、ヒョイと立ち上がらせた。ケツを蹴ったら、たたらを踏んで前に出た。

 魔法は火炎放射らしい。紅蓮の炎が重傷のブタに直撃。美味しそうな匂いと煙を上げて消し炭になった。


 火炎に魔素は観測できなかった。可燃物が酸素と結びついて発火したようにも観測できなかった。

 ブタの眼前、1メートルの空間に突如指向性の炎が出現した。そのようにしか見えなかった。遠隔感知力場による感触も同様だった。


 副脳に納められたデーターをリプレイしてみよう。

 まずブタが周囲の魔素を吸収した。これは前回のブタと同じだ。ついで、呪文を唱える。体の中で何か変化変動が起こる。そして、決め顔と共に魔法が具現化する。

 魔素が一工程を経ると、熱に変化する。今のところ考え得る有力な行程はこれだろう。


「まだまだ不明な点が多いなー」 

 とりあえず用を終えた魔法使いブタを殺しておく。

「チョコちゃーん! いつもの作業だよー!」

「はーい!」

 にこにこ顔のチョコちゃん。良いお返事だ!


 して、クロのテンプレ作業が始まった。


 手を動かしつつ、魔法っぽい現象の考証にはいる。

 今解っていることは3つ。

 例1.魔素を補填した物質は、魔素を与えた者が意識を向けることによりコントロールできる。

 例2.体内に取り込んだ魔素を燃焼させると、コントロール可能な熱を持たない青い炎の状態で出現する。炎のように見える光は、細胞賦活エネルギーである。

 例3.体に魔素を取り込み、何らかの工程を経ることで多大な熱に転換する事が可能。その熱体も、動作を有る程度コントロールすることが可能。


「魔素は、術者の意志により移動、変質、コントロールできる。これが共通点だ」

 あのブタは直立していた。脳が発達している証拠だ。高度な頭脳活動が可能である。

「つまり――、魔素は世界で初の、人の意志によりコントロール可能な素粒子である。カクジツにノーベル賞をもらえる研究だ! だが、問題も1つある」


 そう。たった一つの問題。それは、異世界にノーベル財団が無いって事だ。


 謎は生命体内でのコントロール方法に絞られた。

「この謎を解くため、我々ブラックチョコレートは、魔界の奥地へと向かった。よーし! チョコ副隊長! どんどん進むぞ!」

「りょうかいです、たいちょー!」


 勇気凛々どどめ色たる若人達は、眉をきりりとつり上げ、勇ましくも肩を怒らし、魔界の奥へすすんでいった。

 


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