竜殺しの勇者
マデリーネ怒りの攻撃魔法!
「ならば急がねば」
その巨体から信じられないダッシュ力を見せるブローマン。その姿は逃げているのか、獲物を追い求めているのか。
一方、アロンはその場で踏みとどまり、剣を構えて鋼鉄竜を牽制している。
「3.2.1、今だ!」
アロンの姿が消えた。正確には残像を置いて。
残された残像の胸を貫き、白くまばゆい光が鋼鉄竜の顔面に直撃! まばゆい光が竜の顔面に発生した。
光が消えると、鋼鉄竜の溶け崩れた顔面が表れる。そして、その首があらぬ方を向く。
首が半ばまで溶け、自重のため支えきれないでいたのだ。
竜刺剣に「魔力」を「通す」。
「スカーレットバースト!」
竜刺剣が深紅の光を放った!
魔獣の一部である竜刺剣は、魔力をよく通す。
竜刺剣に魔力を大量に流すと、活性化し、深紅の光を放ち、強度と切れ味が増すのだ!
これが剣竜と同じ必殺技! 赤い光を放つ竜の棘に斬れぬ物なしと言われた「スカーレットバースト」。これを再現できるのは勇者アロンだけだ!
「てりゃーッ!」
気合い一閃! アロンが竜刺剣を振り抜いた!
「ぐぉっ」
顔をしかめるアロン。
腕の筋が音を立てた。痛みが走る。
代償として、鋼鉄竜の頭が落ちた。ドオッと音を立て、床をゆらす。
「ギャァー!」
頭を一個落とされた怒りにまかせ、太い尾を振る鋼鉄竜。
「ふんっ!」
尾の半ば当たりで、ブローマン構えた盾にぶつかって止まる。
ギギィィイッ!
金属を擦り上げる竜の首。残された一個だ。三分の一までが切り裂かれた切り口が、ギザギザの断面を覗かせる。
「吠えろドラグラディウス! スカーレット・バースト!」
アロンの声に反応したか、竜刺剣の刀身が赤い光を帯びる!
「食らえ!」
その首に、竜刺剣がたたき付けられた!
「ちっ!」
アロンが舌打ちする。
角度をしくじった! 反動が手に伝わり、手の皮が剥ける。
先の首を切り落とした返しでもう一方を狙ったのだが、不自然な体勢のまま斬り付けたのがいけなかった。
「イケルと思ったんだがな!」
アロンはストンと腰を下ろした。
その頭の上を、マデリーネの第二段が通過する。
ズゥォ!
「あちちち!」
鋼鉄竜の下顎に熱線が直撃。鋼鉄竜の顎の形が熱で変わった。
「はやく始末しなさいよ!」
マデリーネから怒号が飛ぶ。
「はいっ!」
気合いなのか返事なのか、竜が怖いのかマデリーネが怖いのか、アロンは一撃を与え、残りの一部を斬った。
「でぇい!」
怒号が飛ばないうちにもう一撃。腕の魔力を全力で活性化しながら。腕の傷口から血が滴り落ちる。
この二撃で鋼鉄竜の首が落ちた。二つ共、首が落ちた。
尻尾は、ブローマンが抑えている。
ここまでやってしまえば、勇者一行にとって残りは単純作業だ。
ドカドカボンボンザクザクと小気味よい音を立て、鋼鉄竜は解体されていった。
「す、すげぇ」
この戦いを見ていた騎士達は、生唾を飲んでいた。
あれほど苦戦した鋼鉄竜が、槍も剣も鎚も通じなかった鋼鉄竜が、首が二つに増え強化されていた鋼鉄竜が……。
いとも簡単に攻略された。
騎士達がボソボソと喋っている。
「お前、鉄を斬れるか?」
「斬れれば勇者様をここに呼んでない」
「竜刺剣があれば俺でも斬れるかな?」
「お前の腕じゃ無理だ」
騎士達がざわついていた。
歓声は上がらない。あまりにも人外じみた戦いに声が出ないでいるのだ。
「あ、勇者様が魔晶石を確保したぞ!」
ウオォォォー!
やっと騎士の間から歓声が上がる。雄叫びを上げるはしたない騎士まで出る始末。
「お疲れ様」
マデリーネがアロンに水筒を渡す。
「ありがとう」
アロンは喉を鳴らして水を飲む。
その様子を微笑ましく見つめるマデリーネ。
「首が二つだなんて想定外だったな。やはり、魔物は成長する」
アロンは布を取りだして汗を拭いている。全身から噴き出した汗が、アンダーまでぐっしょり濡らしていた。
打ち身や切り傷を負っているが大したことはない。手首の細い筋を何本か切ったようだが、2日もあれば治る軽傷だ。
「やはり魔物は成長するのか?」
ぬぅっと表れたブローマン。額から血を流していた。
「奴らは見ている。そして、体を合わせてくる。飲め」
アロンは持っていた水筒をブローマンに放り投げた。
水筒を受け止めたブローマンの手から血が流れている。
「それは魔宮にも当てはまる現象だ」
事実、毎年少しずつ魔界が増えている。攻略者や騎士が潰す数より新たに発生する数の方が僅かに多い。
「多く潰したらそれだけ多く増える。少なくても少ないなりに増えている。どういう法則か判らないが、一定の数が計上されている。俺たちが世界中を回って得た結論だ」
話はそこまで。魔界へ突入した騎士隊の隊長がこちらに近づいて来たからだ。
「勇者様、ご苦労様でした」
「いやいや、そちらこそご苦労様でした。魔晶石はあちらに転がしております。回収を頼めますか?」
「おやすい御用です。ささ、こちらに休憩の用意ができております。どうぞごゆっくりとお体をお休めください」
これは有り難かった。
一刻も早く防具を脱いで傷の手当てをしたかったからだ。
勇者、鋼鉄竜の魔王を攻略する。
アリバドーラ中に広まるのに半日もかからなかった。




