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逆襲


「お姉ちゃん!」

 心配そうな顔でクロを見上げるチョコの頭を撫でて落ち着かせる。そして冷静に、現状打破の方法を考える。


「騎士殿、本当に3人の名前が書かれているのかい?」

 この人、魔界へ入る際、書類チェックをしてくれた騎士だ。内容を憶えているはず。その時と今とで書類が書き換えられていることに気づくはずだ。

「騎士を疑うか? ここに書かれている」

 クロの手が届かない所で書類を見せる。

「うーん、書かれているねぇ」

 確かに3人の名が記載されている。ここから見るに、後から付け加えられた痕跡が無い。

 書類は入れ替えられた。係の騎士はストーカーの協力者。そして、今この現場にアレッジがいる。

 この3つのヒントを元に、導き出せる答えは1つ!

「これは用意周到。嵌められたようだね」

「お姉ちゃん!」

「面白くなってきたよ、チョコちゃん」

 クロは、口角が目の方向へ伸びるのを堪えていた。

 

「納得いったか? さあ、温和しくしろ。捕縛する!」

 魔宮騎士が3人ばかり、クロを囲んだ。抜刀して。

「いいよ。捕縛に協力するよ」

 クロは温和しく、お縄についた。武器を取り上げられ、両手を縛られた。

 体の前で縛るのは、女性への配慮に過ぎない。チョコも両手を縛られているが、クロが何か良からぬ事を考えている顔をしているのでそれを信じて、温和しく身を任せている。


「さあ、とっとと歩け!」

 係の騎士を先頭にして、一行は歩き始めて、止まった。


「アレッジ殿?」

 アレッジが一行の進路上に立っていて邪魔だった。明後日の方向を向いているので、こちらに気づいてないのだろう。


 先頭の騎士は、右に逸れた。

 余所見をしているアレッジも右に逸れた。

 しかたなく、騎士は左へ逸れた。アレッジも左へ逸れた。

「アレッジ殿。そこを通して頂けませんか?」


 アレッジは、ふーっと溜息めいた息を一つ吐いてこう言った。

「それは出来ねぇな」

 アレッジは斜め上を見ながら、そう言った。

「私の記憶と違うんだよねぇー、その記載がさー」

 なんだか凄く辛そうな顔をしている。

 

「しかし、アレッジ殿!」

「しかしもクソもねぇよ!」

 アレッジが怒りを露わにした。感情が抑えきれなかったようだ。

「騎士の証言は万人の証言に長じる! 俺が見た書類と、その書類は違う。騎士アレッジの名にかけて証言する!」

 一人称が私から俺に変わっていた。


「性悪女のクロだが、正義を曲げる事ぁー俺ぁできねぇんだよ! 迷宮警備騎士隊長が命じる! クロを……ってちょと待て! あの時、お前も俺と一緒に確認してたよな? どういう事だ、おい!」

 アレッジの手が伸び、係の騎士の胸ぐらを掴んだ。

  

「痴漢君と、その騎士様がグルだったとか?」

 クロがぼそりと呟いた。余所見しながら。

「な!?」

 アレッジは、怒りの矛先がクロに向かいそうになる感情を奥歯を噛みしめることで必死に抑えた。


「再度詳しい精査をギルドの書類偽造専門の部門に要請しなければならんなぁ、おい、お前! 後で詳しく取り調べを行う! おい!」

 顎で騎士達に命じる。このバカを捕まえておけと。

「アレッジ様、これは何かの間違いです! わ、私も誰かの罠に填められているようです!」

「それをこれからチマチマと念入りに、貴様の素行を含めて捜査しようというのだ。貴様も自身の潔白を信じるなら温和しく捜査に協力しろ!」

 係だった騎士はがっくりと肩を落とした。

 ……これは決定したかな?


「へぇー、意外だったね。アレッジ隊長がわたしの味方をしてくれるなんて。わだかまりをお持ちになっているご様子でしたのに、信じてくれるんですね?」

 捕縛を解かれるクロ。その目に宿った星が光る。わざと光らせているのだ。

「対象がクロ、貴様なので忌々しいが、わたしは親である前に騎士なのだ。たとえこの身が滅びようと、魂が引き裂かれようと、騎士の誇りだけは汚せない!」

 アレッジは立派な騎士だった。目が、何とも言えぬ澄み切った綺麗なブラウン色をしている。


「それに!」

 いきなり目が曇った。

「ここで初動ミスをしたが最後、クロ、おまえ騎士団に対し、攻撃を仕掛けるだろう? それも解決方法は金銭ではなく、立場的な示談方向で?」

「わたしのことをよくご存じで」

「おいお前ら! この女はこういう女だ! 手ぇ出すときゃぁ人生を手放すつもりでいけよ!」

 アレッジは周りの若い騎士に注意を促した。


「ひどいな。でも嬉しいな。これからアレッジ様のことを親爺殿と呼んで良いかな? わたし、お父さんがいないの……」

「変な雰囲気出すんじゃねぇ! お断りだ!」

「では、とっつあんで」

 アレッジは目も止まらぬ速さで抜刀した。


 ホールドアップしているクロを剣で牽制しながら部下に命令を出す。

「そのクソ死に損ないを運べ! 手当てしろ! 殺すんじゃねぇぞ! 殺したらクロが有利になると思え! 意識が戻ったらみっちり取り調べしてやる!」

 ギルドへ戻って今回の件を片付けねばならない。騎士が絡んだ事件だ。クロのお陰で余計な仕事が増えた。

「ご苦労様です」

 クロは、アレッジの剣の先っぽを摘んで遠ざけていた。

「クロ、貴様も取り調べだ!」

「あらら、わたし達の魔界挑戦権は?」

「お(めぇ)ら事件当事者だろ? 騎士様の特権で一時中断だ! 付いてこい!」

 こうして、クロとチョコも連行されていった。

 

 

 事情調査室にて。クロとチョコは並んで聞き取り調査を受けていた。

 クロ専用調査員と他、厳つい顔と厳つい体つきの男が2人と、その2人より強そうな女性1人の計4人が聞き取りに当たっている。


 話す事と言っても、さほどネタはない。


 3日ばかり前からストーキングされていました。どうして気づいた? 女の勘です。お胸とお尻にねちっこい視線を感じてました。

 それはよく有る話です。強そうな女性がクロの味方になってくれた。男共は反論しない。


 予定どおり今日、魔界へ2人で入りました。

 魔獣を倒した後で荷物を広げて解体していたら、後ろから刃物らしき物を持った男に襲われました。胸を揉まれました。剣を持った腕を掴んで必死に抵抗していたら、もつれて転けた弾みにストーカーが怪我をしました。

 逃げていったので、後を追いかけていくと出口付近で倒れていました。

 後は皆さん見ての通りでございます。……と。


 同じ事を何度も聞かれた。

 事件調査の常套手段なのだが、ここ異世界でも同じ技術が存在していることに、クロは密かに感動を覚えていた。

 何回聞かれても正確に同じ言葉を繰り返すクロ。コンピューターが得意なことはクロも得意なのだ。

 チョコも聞かれたが、前もっての打ち合わせ通り「チョコわかんない」の一点張りで貫き通した。もっとも、チョコちゃんはクロのお膝の上でとっくにお昼寝中だ。


 日が暮れるまで続いた。調査員も疲れてきたのか、一息ついた。そこを逃すクロではない。

「ちなみに、痴漢君は死んだのかい? いやね、自爆事故だとは言え、あの出血量だ。怪我の程度は判らないが、死んでしまっては寝覚めが悪くてね。色んな人が絡んでいるようだし、偶然逃がしたりしたら、もとい……逃げられでもしたら再犯が厄介だ。その時は捜査に協力しますよ」

「……手当を受けている。回復し次第、彼も取り調べを受けるだろう」

 生きてれば都合悪くなるんじゃないの? わざと逃がすんじゃない? わたしは被害者で、痴漢が加害者だよね? といた意味が込められている。その口調から、言いたいことが充分読み取れる内容だった。


 調査員が身を乗り出したときだった。部屋の扉が開き、男が一人入ってきた。顔色が悪い。こそこそと厳つい調査員に耳打ちする。

 調査員の顔色がみるみる変わっていく。クロの顔色がみるみる明るくなっていく。


「まさか、まーさーかー! 瀕死のストーカー君が逃げました。などという耳打ちではなかろうね? いやいや、失敬失敬。わたしの失言をどうか許して頂きたい。攻略者ギルドともあろう歴史有る栄光のガッチガチの大組織がそのような手落ちをするわけがない。攻略者の安全と権利を守るために設立されたギルドが。あれ? もしかして? まさかのまさか?」

「……その通りだよ」

 調査員は悔しそうに唇を歪めた。


 クロは考えた。

 クロも、あの怪我で逃げられるとは思ってなかった。だが、さして影響は無い。ストーカー君は弱い。素手でひねれる。町で見かけたら、こちらから刈り取りに行ってやろう。こちらにはそれをする理由がある。

 あとは雨の日を選んで山へ埋めに行くだけだ。


 クロは気持ちを切り替えた。


「では、熱い肉料理と、暖かい部屋とふかふかのベッドを用意してもらおうか。それで手を打とう。わたし達は口が硬いのと賄賂に弱いので有名だ。性犯罪者を野放しにしておいて、女の子を外に放りだそうってんじゃないよね? まだ取り調べする? そんな暇は無いと思うけど? アルバイト料が出るなら囮になってやっても良いよ。さあさあさあ、どうするどうする?」

 攻略者ギルドは、クロに借りを作ることになった。

 大変な事態だ。後日、アレッジはそう叫んだという。

 

 

 お貴族様でも年に数回しか食べられない超高級肉料理を親の敵のように噛みちぎり、これでもかと腹に詰め込み、御影石で出来た湯船で体を磨き、シルクの寝装着に着替え、天蓋が付いたふかふかのベッドに寝転び、毛足の長い毛布に包まれ眠った次の朝は、なんとも心地の良いものだ。朝も、肉を中心とした生野菜付きの朝食を頂いた。

 体力気力とも、完全回復を遂げたクロとチョコは、艶ッ艶の頬で太陽光を反射し、騎士一同に見送られ(アレッジはいなかった)、特別許可が出た魔界攻略に着手した。


「チーム名ブラックチョコレート。人員クロとチョコの2名。書類指さし確認ヨシッ!」

「チーム名ブラックチョコレート。人員クロとチョコの2名。本人指さし確認ヨシッ!」

「安全ヨシッ!」

 魔界入り口では、3人の魔界担当係官が、声かけ指さし3重チェックしてくれた。

「では行ってきます」

「いってきまーす!」

 一日遅れの魔界攻略が始まった。

 

 

 その日の夜。

 首に怪我の跡があり、顔面をグチャグチャに砕かれた死体が、裏町の路地裏で発見された。ドブに顔を突っ込んで息絶えていたのを通報により駆けつけた騎士が発見した。

 服装や持ち物がブレスの物でもあり、また体格や年齢が手配書通りで、首に真新しい傷があるため、この死体はブレス本人であると該当局が発表した。


 ブレスの死体は、全身に打撲痕が残っており、何らかのトラブルに巻き込まれた可能性もあるが、背後の組織に処罰された可能性の方が高いと、当局は分析している。




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