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幻覚魔界攻略会議


 幻術をレジストするには?

 やはりクロのように曲がった性根が必要なのだろうか?

 話し合いは続いていた。


「精神力は必要なのかな? 強い猜疑心だけで何とかなるんじゃないか?」

 調査員とザラスは顔を見合わせていた。この2人、気が合いそうだ。


「話を戻そう」

 調査員は、調査用紙の新たなページをめくった。

「そういう特殊な能力を持つ魔獣が現れた。われらギルドの情報にも上がってない。初めて見るタイプであるところが重要だ。クロ君の話だと、仲間を呼ぶタイプでもあるそうだね。さらにやっかいな魔獣だ」

「他の魔獣よりきわめて弱い部分もあるよ」

 クロは攻略法を掴んでいるようだ。よく考えれば、クロは戦って生還したのだ。現時点で幻覚魔獣の生態を最も掴んでいる攻略者である。


「やっかいな性質の代わり、防御力がなってなかった。素早くもない、生命力も強くない。そこが救いだね。まるで、幻覚全振りにしたキャラメイキングだ」

 クロは思う。魔王が使役する配下に与えられる力の量は決まっているのでは? と。

 その量をどう配分するかの自由があるようだ。そこに、魔界の、ひいては魔宮の秘密の一端があるように思えた。


 ……別に開示しても良いが、そこはクロの難儀な性格が秘密保持に動いてしまっている。


「これで堅くて速かったりしたら、目も当てられねぇ」

 ザラスは改めて生きていることを神に感謝した。助けてくれたクロにではなく、だ。

「ザラスがここに来るまでの話が途中だったのだが、魔界はどこまで進めたのかね?」

「どこだろうね? わたし達は、あの連中を片付けて、後続がないことを確認して、すぐに撤退したからね」

「俺の勘だが、魔王の部屋の手前まできていたと思う。おそらく、残すは魔王の門番と魔王だけだろう」

 幻覚魔法の魔獣と遭遇するまでは、火だとか爆発する矢だとかが飛んでくる、ごく普通の魔法型魔界だったらしい。


「ザラス君。門番はいたりいなかったりするが、いたとしてだ――」

 調査員は変なところで区切った。芝居がかっている。実を言うと、この場をクロが支配している事に気づき、支配権を取り戻そうとしているのだ。メンツだ。マウント取りだ。めんどくさい男だ。

「なんですか?」

 ザラスは先を促す。

「――君、門番と魔王の能力って想像が付くかね?」


 ザラスは黙り込んだ。

 想像は付く。

 奥へ行けば行くほど強い魔獣が現れる。これは魔界を攻める攻略者の常識だ。通常、魔獣のタイプは継承される。より強化された能力を持つ、強い魔獣が現れるのが常だ。

 だとすると、門番ならびに魔王は、幻覚術の能力を持っていると想定するべき。そして、その能力はより強化されていると思うのが普通の攻略者の考え方だ。


「あの魔界の戦力判断なのだが――」

 調査員は指でトントンと机を突きはじめた。

「魔獣の戦闘力は強くないんだ。小魔界レベルから出てこない。特殊能力を持ってるだけだ。その特殊能力が嵌ると恐ろしい」

 幻覚を使うだけでも手強いのに魔王。勝てる気がしない。

 調査員はクロに視線を合わせた。クロだったら、あるいは……。

 ザラスも同じ考えだった。

 彼は疲れによる気力の減退のためかもしれない。珍しく弱気になっていた。

 魔物自体は弱いが、幻覚術に手も足も出ない。攻略途中で人の手を借りるのはプライドが許さないところだが、今回ばかりはそうも言ってられない。いや、うまいことクロを丸め込んで共同攻略という手もあるじゃないか! どういう風の吹き回しか、彼女は妙に協力的だ。

 奇しくも同じ考えに至った調査員ザラスの目と目があった。

 どちらからともなく口を開いた。

「クロ――」

「じゃぁ、幻術魔界の攻略をがんばってくれたまえ。わたし達は協力できない。なにせ、チョコの体調が万全じゃないんでね。こんな幼子を魔界に連れて行くわけにはいかない。ああ、失敬! いい大人がチョコちゃんみたいな幼子に頼るなんてことはプライドが許さないでしょう。当然のことです! これはわたしが言いすぎた。許してくれ給え!」

 クロが立ち上がるそぶりを見せた。2人の考えていることなどお見通しなのだ。


「ちょっと、もうちょっとだけ待ってくれ」

「もう少しここにいて話を聞かせてくれ」

 あわてて2人が止める。そんなに慌てるから下心を見透かされるのだ。


「よく考えたまえ、お二方!」

 クロが美人の顔をする。

「仮にわたしが幻覚の魔界攻略をよい感じに考えていたと仮定する」

「ふむふむ」

「続けて」

 クロが前向きに考えてくれていそうだ。条件闘争に入りそうな口調だった。

「ブラックチョコレートが攻略すると仮定して、その絶対的条件は一からの攻略だ」

「一から……」

 ザラスは絶句した。

 それはすなわち、全く白紙の状態から攻略を開始するということ。退治した魔獣が再湧出(ポップ)するまで間をおくと言うこと。1ヶ月の期間をおいて、改めて攻略する、そう言う意味だ。


「なにせわたし達ブラックチョコレートは、攻略者ギルドに登録して一月も経ってない超初心者!」

 あ、ずるい! その台詞をザラスは飲み込んだ。

「魔界の癖とか魔獣の傾向を知らずして、いきなり魔王に挑める自信がない。だから、最初の弱っちい魔獣から経験を積み重ねないと。それに、初心者チームのブラックチョコレートは魔法系の魔界が未経験だ。よって、リセットを待っての攻略が何物にも譲れない第一の条件だ。なにせ、わたし達は超初心者だし、メンバーの1人は4歳児だし。残りはか弱い女の子だしぃー」

 やられた! ザラスと調査員は、己らの甘さを後悔した。クロは話の展開を想定していた。自分たちは出たとこ勝負の行き当たりばったりの対処療法だった。


 調査員は、ブラックチョコレートを使えなくなった。

 結成されて一月にも未たぬ未熟な攻略者チームを指定して魔界攻略に投じる。攻略者潰しとも取れる命令。

 これはギルドが最も避けねばならぬ行為だ。こういった強制から攻略者を守るためにギルドは存在する。これはギルドの存在意義を否定する依頼となるだろう。


 ザラスは、依頼そのものを封じられたのを知った。

 確かに、クロなら攻略できるだろう。それも1両日で。

 見方を変えよう。世間はこれをどう見るだろう?

 アリバドーラで1・2を争う攻略者チーム・暁の星が全戦力を投入した小魔界攻略に失敗した。

 暁の星が全力を挙げて失敗した魔界を素人同然の女子チーム2名が簡単に攻略した。


 冗談じゃない!


 ならばうまく丸め込んで……だめだ。4歳児と若い女の子だ。男ばかりのチームに、女子を引き込んで魔界へ連れて行くってことは、アレをするのと同義語だ。数限りない前例がある。計画的殺人すらあり得るのが魔界であり、全ての人がそういうものだと思っている。

 クロと潜ると、確実にスケベ関係の悪評が立つ。何も無くったって絶対流言が流れる。クロが率先して流す! クロはその方面の手練れだ!

 暁の星の名声、地に落ちる事請け合い! 弱みを握られた暁の星は、骨の髄までクロにしゃぶり尽くされる。

 万事休す!


 批評をおそれずクロに渡すか、悪評を覚悟でクロと共闘するか、2つに1つ。どちらも暗い未来しか待ってない。

 重い空気が調査室を覆う。

 そんな時だ。クロが放つ言葉で空気が入れ替わる。


「魔王は弱いんじゃないかな?」

「なんだって?」

 希望はまだ残っていた。クロに攻略法があるようだ。


「攻略者の弱点を見た魔界は、魔王に幻覚使いを持ってくるはずだ。魔王の能力だけど、十中八九、能力の大半を幻覚に振ってるだろう。その分、身体能力が低くなる。幻覚さえどうにかすれば、さほど苦労しない相手だと思うよ」

「振ってるという言い方がよく分からんが、その幻覚で俺たちは――」

「猿でも出来る幻覚の破り方――」

 ザラスの台詞を遮って、クロが身を乗り出した。


「――を知りたくないかね? ザラス先輩」



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