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チョコ


 鉱物系魔界攻略終了!


 ここは後日、ギルドの手の者が入ってくる。攻略者が取りこぼした素材を安全な状況で採掘できるのだ。それがギルドの大きな収入源となっている。

 とすれば、魔王の残骸を見たギルドの職員は、魔晶石を取り出した方法に疑問を抱くだろう。

 なにせ、魔晶石周辺は無傷。石鹸を使ってスポンと魔晶石を抜き取ったような状態だ。これ、どうやってとったと聞かれたりしたら、説明が付かない。


「こうして、ああして……よし完璧!」

 魔晶石が埋まっていた胸部をクロの剣技っぽい技術で切開しておく。いくつか無意味な傷も付け、偽装は完璧となった(クロ談)。

 金属を切り開くなど、クロにとって簡単な作業だった。石亀の時と変わらない。


 ……はっ! 石亀?


「あれ? するってーと、初回の石亀って、あれ馬のつもりだったの? まあいや、チョコ! 終わったよ!」

「お姉ちゃん、怪我はない?」

 魔王の間に、チョコが飛び込んできた。危ないからと言われていたが、こっそり覗いていたのだ。クロを心配していたのだ。

「かすり傷一つ無いよ。さあ、魔晶石だ。収納してくれ」

 鈍色の魔晶石をチョコが差し出す両手に乗っけた。

「また、小さいのからすてる?」

「そうだね。一番小さいのから捨ててくれ。どれを捨てるかはチョコに一任することとする!」

「せきにんじゅうだいだね!」

 チョコはキリリと眉を吊り上げ、収納袋から取りだした魔晶石を並べていく。どれが一番小さいのか、真剣な表情で選んでいく。


 魔晶石のことはチョコにまかせて……、クロは鉞を拾い上げた。

 鉞に刃こぼれはない。

 一方の新調した戦斧(メインウエポン)は、刃こぼれは軽微だが、擦過傷が目立つ。

「当たった場所が柔らかかった? って事はないよね。攻撃の回数か、はたまた……」

 研ぎ直しに出さなきゃならない。3千セスタコースか。やれやれだ。 

 魔王の馬上槍や、体を構成する金属はお高そうだ。ケンタウロスが使う槍も金属製だし、売ればそこそこの値が付くだろう。よし、まとめて持って帰ろう。

 鉱物系魔界は実入りも多いが、損失も多い。

 お持ち帰りした素材は攻略者の物になるが、置き去りにした素材は、ギルドの専門部隊が回収する。良い商売だ。


 余談だが、回収に使う時間が長くとれれば――つまり、早く攻略すれば、ギルドが回収する時間も長くなる。早期に攻略すれば、ささやかなボーナスが出るシステムは、こういった理由による。

 クロのような運搬能力が小さいチームには、労力のわりに実入りが少ない種類の魔界である。


「お姉ちゃん! かいしゅうかんりょうです!」

「よろしい! では撤収!」

 朝のおやつ、お昼ゴハン、3時のおやつを経た夕刻。余裕をブッこいた2人は魔界の出入り口へ到着した。


 枝道が多い分、魔界の門から魔王の門までの距離が短くなっていた。おかげで、猿の魔界よりも早い時間に魔界から帰ってこれた。

 クロは、ケンタウロスの槍2本と、魔王の槍1本、そして、魔王の馬に使われていたレッグガードの一部を持って帰ってきた。かなりの重量になるが、上記理由で道のりが短かったため、チョコが全部の距離を歩いてくれたのが助かった。


 木片による調査結果を記憶層へ保存しておく。

 魔王の間の木片は、奥へ3.5㎝、横へ0.5㎜以下の観測不能。

 中間と入口は0.5ミリ以下で観測不能。


「枝道にエネルギーを使ったせいで全体の成長が遅れていると推測される。すると、少なくとも小魔界が発するエネルギーは一定である事となる。もっとデーターを積み重ねなければ断定はできない。それと、いずれ中魔界を視野に入れなければならないだろうね」

 中魔界になると、さすがに一泊二日では帰ってこれない。小型高カロリーのレーション的な食べ物も用意しなければならない。……市場を覗こう。



 して――

 

 魔界の門をくぐるとそこは魔宮内部。時間的に、魔界帰りの人たちが目立つ頃だ。ところが――

「騎士様の姿が多くないかい?」


 普段殺伐とした魔宮内部が、殺伐とした上で喧噪に満ちていた。

 出口近くはホール状になっていて広くなっている。そこで完全武装した騎士が、いくつかの集団に分かれて体を休めていた。

 バックパックをパンパンに膨らませた運搬人が何人も歩いている。皆一様に、同じ方向に進んでいる。

「あの方向は、大迷宮がある……あ! そうか! 勇者が町にやってきた、のだった!」

 アレッジと受付が言っていた。今日の朝、大迷宮に勇者が挑むと。騎士団を引き連れての大攻略だ。そりゃお祭りになる。


「すると、あの担当者は『初めて』本当のことを言ったんだ! へー!」

 クロは、そこじゃないところで感心していた。

「勇者さまが魔界をぜんぶこうりゃくしてしまうよ! チョコたちのおしごとがなくなっちゃうよ!」

 チョコも違うところを心配していた。

「安心したまえ。勇者様が攻略する魔界は、ものすごく怖いところだけだ。簡単なところは残しておいてくれるさ。さっさとギルドに報告して、温かい晩ゴハンをたべようじゃないか!」

「やったー!」

 はやくはやくと、チョコはクロの手を引いて走り出した。

「そろそろ、本腰を入れて勇者のことを調べなきゃならないかな? でも、魔王はそこら辺の一般攻略者でも討てるのだから、勇者の存在意意義って何だろう? ま、いいか」

 クロは勇者の件を次の機会に回すことにした。

 


 そして攻略者ギルド。

 疲れが顔に出ている攻略者の中で、ひときわ血色の良い凸凹コンビが、魔界帰り専用の事情調査室にいた。


「え? もう魔王を攻略したの? 前回より早くありません?」

 調査員が驚いていた。前回、猿の魔界の時と同じ調査員だった。どうやら、攻略者にはなるべく同じ調査員が当たるようなシステムになっているらしい。

「だよ!」

 チョコは顔だけテーブルの上に出している。両手をチョコンとテーブルの上にのせている。


「枝道が有るとは思わなかったが、その分、距離が短かったからだと思う」

「……枝道が? ……情報説明が抜けていたのですか?」

 攻略者に事情説明を省くとどうなるか。帰還率が下がる。つまり攻略者の命に関わる重大案件だ。受付の法的責任が問われる。ひいてはギルドの信用に関わる。


「そんなこと言ったっけ? 受付君はちゃんと説明してくれたよ。枝道がある迷宮だって」

「……我々専門家は枝道と呼びません。専門用語で分岐点と申し上げております」

「なあチョコちゃん、枝道と分岐点が違うって知ってた?」

「チョコわかんない!」

「だそうです。さて、こちらの魔晶石、いくらで引き取ってもらえますか? 対魔王戦は大苦戦の後に手に入れた幻の一品です。どうですかこの輝きときたら! 曇り一つ無い。まさに匂い立つ一品! そんじょそこらの小魔界では見かけぬ大きさ、そして品質は折り紙付きです! さらに――」

「もういいです! わかりました! クロ様の努力と苦労と貴重な情報を鑑みまして、全ての魔晶石を1割増しで買い取りましょう!」

 クイッ! と口角を鋭く上げるクロ。


「情報と言えば、魔王が魔界での戦いを何らかの方法で見ている、或いは何らかの方法で情報を得ている可能性があるようですが? ご存じ?」

「それらしい報告が攻略者の中より幾つか上がっております。貴重な情報として記録させていただきます」

「これはみんなに知らせるべき情報に分類されますか? それとも、黙っていましょうか? 未来永劫的に?」

 別の、プンプン臭う意味が大量に含まれている。たとえば、受け付けの係員の事とか。

「……では1割5分増しで」

「毎度ありがとうございます。貴方とは末永いお付き合いが出来そうだ」

 調査員は何か言いたそうだったがぐっと堪え、買い取り金を取りに一旦退出した。



「ねぇねぇ、なんでお値段が上がったの?」

「チョコちゃん。不正は秘密にしてこそ金になるんだ。憶えておきなさい」

「よくわかんないけど、はーい!」

 チョコの教育は順調に進んでいる模様。背中で聞いていた調査員は、こめかみを揉みたい衝動に駆られた。

 所定の金額を受け取り、ギルドを後にした頃、すっかり日が暮れていた。


 チョコの足が遅い。

「疲れた?」

「うううん」

 チョコは首を振ったが、元気が無い。

「屋台がまだでてるから、お肉買って宿で食べようか?」

「うん!」

 チョコは元気に答えた。

 屋台で串肉を4本。器ごとスープを買って帰った。


 宿はいつものお婆の所。やっぱり空いていた。そして、いつもの部屋も空いていた。

「まさか、空けてくれているのでは?」

「ぶち殺すよ!」

 いつものやりとり。



 その夜、チョコが高い熱を出した。

 

 

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