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魔王の門


 クロとチョコは魔王の間の門前に立っていた。

 時刻は夕刻。外だと、夕日が西の稜線にかかる頃であろう。


 ここに来るまで、魔獣の襲撃は一度もなかった。

 はやり、初手の大乱闘で魔界に生息する魔獣のすべてを討伐し尽くしたのだ。小さな魔界なのが幸いした。

 仲間を無限に呼ぶ魔物の欠点である。

 式神鉞と無限体力を持つクロにとって、この手の魔界は相性がよいと言えよう。

「……ってか、2時間やそこいらで片道1日分の魔獣が集結できるって、凄いね、魔界」


 して――、

 魔王の間に続く門は、マットな黒である。聞いた話によると、こういった魔王の門を構成する材料は、貴族達の間で大人気なのだという。

 この奥に、猿の魔界の親玉、魔王がいる。

 はたして、どんな姿をしているのか? そのスペックは?

 どうやって攻略する?


「さてっと、攻略は明日の朝に回して、キャンプしよう。さあ晩ご飯だ! ハムを切るぞ!」

「うわーい!」

「まずは用意だ!」 

 魔王の門から後ろへ100メートルばかり戻った地点で荷物を下ろした。

 チョコのバックパックに括りつけられている10リットルのバケツを取り外す。クロのバックパックから1キログラムの水魔晶石を取り出し、バケツへ放り込む。水魔晶石は水滴型をしている。


 ちなみに、メートルはメートル・ハリケーンフェザー男爵が決めた長さの単位。ちなみに、センチとキロとう名の子供がいる。リットルは、リットル・バックブレィカー伯爵が決めた体積の単位。キログラムは、グラム・バスターターン男爵が、メートル男爵の発明に感銘を受け、新たに設定した重さの単位の一つだ。

 単位に拘る無駄がお解りいただけだろうか?


 バケツに放り込んだ水魔晶石の尻尾部分にキャップが嵌められている。このキャップを抜き取り、尻尾に衝撃を与えると、10リットルの水に変化する。1キログラムの魔晶石で10リットルの水。質量保存の法則無視。ここが魔法の不思議なところ。クロにも原理が分からない。近いうちに時間を空けてその辺を調べようと思っている。 

 ちなみに水魔晶石は、この尻尾部分からでないと砕けない。頭部分をハンマーで叩いても砕けることはない。


 バケツはいっぱいの水でなみなみとしていた。

 ほとんど空になった水筒に水を補給する。おのおののコップに水を汲んでのどを潤す。チョコちゃんはおしっこも済ませておく。

 安物の毛布を広げて腰を下ろす。夕食のメニューは宣言通りハムだ。クロが三徳包丁を使って切り分ける。


「なあ、チョコ?」

「なぁに、お姉ちゃん?」

「ハムの量は同じなんだけど、厚く切る代わりに数が少なくなるのと、薄くなるけど数が多くなるのとどっちがいい?」

「数のおおいほう! チョコね、数がおおいのがいい!」

「よしよし!」

 希望通りに切り分ける。さっそくチョコがかぶりついた。

「おいしー!」

「おいしいね。でもここまでやるなら火が欲しかったな。肉系は火で炙って食べるべきだ」

「クロ姉ちゃん、お肉は冷えててもお肉なんだよ!」

 クロは愕然としてチョコを見た。

「……そうか、火で炙っていてもいなくても肉は肉だ! 肉の上に肉は無し、肉の下に肉は無し! 肉の前に人は平等。名言だ! チョコは偉いね! お利口さんのチョコにはご褒美でお姉さんのハムを半切れあげよう」

「うわーい! お姉ちゃん大好き!」

「そうかそうか、もう半切れ食べる?」

 とことんチョコを甘やかすクロである。


 

 晩ゴハンも済み、水も飲んだ。体も休めた。下も済ませた。懐中時計を見ると、午後9時ちょうど。

 クロは思うところあって、サイコロ状の木片を2個、角に置いた。魔王の門から1センチ離れ、壁からも1センチ離れた床に1個。その木片からきっちり1メートル離してもう一つの木片を置く。

「準備万端! さて、明日の朝は早いぞ。寝よう寝よう!」

「お姉ちゃんといっしょに寝るー!」

「よしよし、おいでおいで」

 2人は一つの寝具にくるまって寝ることにした。 

 

 して――、翌日早朝。

 早くから起き出したクロは、昨夜設置しておいた木片を調べた。

 門から36㎝。壁から0.15mm。

 隙間が広がっている。

 門は、9時間で36㎝も後退していた。1時間当たり4㎝。24時間だと96㎝となる。

 このペースを維持して成長すると仮定すれば、1年で約350メートルも伸びる。

 1メートル離した木片の間隔に変化はない。1メートルのままだ。壁と門だけが移動している事の証明となる。


 一日だけの計測なので、日によって伸び率が変わっていたり、人間が入るか否か、魔素の湧出量の違い、魔界のタイプによる違い、年単位の伸び率が正比例しているか否か、等々、調べねばならないことがたくさんある。また、現魔界管理システムでは計測できないパートもある。だから一概には言えない。

 壁方向は誤差の可能性があるのでペインティングとするが、年350メートルも成長する可能性がある。

 しかも、魔界は新たに生まれるのだ。


「ふふん! 魔界は成長する。魔宮は子孫を作る。まるで生物だ。このまま増え続けていった暁には……」

 地上が全て魔宮だらけとなり、人の住むスペースが限られる。……かな?

「なんてことも有りうるが、そうとも限らない。生物である場合、死からは逃げられない。魔界もその集合体である魔宮も、寿命による自然死の可能性がありうる」

 自然死。それを考慮に入れないと、整合性がとれないという問題が発生する。

「怖がる必要はない。増殖より進化を心配すべきだ」

 進化とは、自然淘汰により、より長生きでき、より強くなる変化のことだ。魔界が年を追う事に少しずつ強くなっていくとしたら? 手が付けられなくなる。

「しかし、それも生物で有るが故の呪いは解かれない」

 この世界が誕生してより悠久の年月が過ぎていて、地上が魔界だらけになっていないという現実。


 ……現状で与えられたデーターだけから推測できるのはここまでだ。

 より多くの魔界に挑むことで、新しい発見や、間違いが見つかるだろう。

 クロは間違いを素直に認める性格である。研究開発に関しての狭い世界のみであるが。私生活は間違いを認めないタイプだ。


「さて、本題へ戻ろうか」

 朝食をたっぷり取り、腹ごなしを充分にし、身体も暖まった。

「準備万端です」

 クロは戦斧を右手に持ち、左手に鉞ブレードを持つ。

 魔王の門に片足をかけ、いつでも蹴り開ける準備をととのえた。

「さあチョコ、準備はいいかい?」

「いつでもいいよー!」

 チョコの耳がピンと立ち、お鼻を突き出し中腰で構えている。手を前にして拳を握っているが、何の意味もない。

「イチ、ニのサン!」

 勢いよく扉が開かれた!

「おさるさんの大っきいの! 1匹だけ! まん中の後ろ!」

「了解!」

 飛び込むクロ。

 部屋に明かりが灯る。


 部屋の中央やや後方、遠い! 3メートルはあろうかという金毛の猿が、両手をブラリさせて立っていた。シルエットは人の形。腕が長い。こいつが魔王だ!

「ハッ!」

 気合い一閃! 鉞を投げつけ、投げつけた勢いで一回転。両手で斧を構え、高速で突っ込む。

 必勝パターン開闢!

 唸りを上げて回転する鉞が、金毛猿に迫る。紙一重! 金毛猿は半身を反らしてかわす!

 だがそれは、クロの思い通りの展開。直線的な攻撃が魔王に通じるとは思えない。金毛猿を飛び越えた鉞は大きくUターン。ブーメランのごとく、金毛猿の背後を襲う!

 そのタイミングに合わせ、クロが突っ込む。


「VoGoOOOooooooー!」

 金毛猿が吠えた! 

「な!」

 金毛猿の後頭部まであと少しという距離にいた鉞が急角度を描いて床に落ちた。

 クロはまだ知らない。


 これはウォークライ。魔素の働きを一時的に無効とするレアスキルなのだ。

 

 

 

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