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勧誘

 足どり軽く集落を出た僕は、一旦引き返す事にしていた。


 理由は簡単!怖いからである。怖い普通に怖い。


 というわけで同行者——肉壁と言わないのは僕の上品さの表れだ——を探そう。

 壁役を期待してでもあるが、今から教育すればいつかは話し相手なるかな、なんて可愛い打算もあったりする。

 そこ、キモいとか言わない。


 対象は、まだ狩りを済ませていない同年代のゴブリンだ。

 もっと強い方がいいのでは?とか、そんなんじゃ捨て駒も無理だ、などの意見もあるだろう。

 だがそれらを踏まえても僕は敢えて同年代を選んだ。

 なぜか、それはそっちの方がまだ便利だからである。

 囮なんて考えは馬鹿なゴブリンですら思いつく。心は大人体は幼体ゴブリンの僕は控えめに言ってクソ雑魚なのだ。

 ある程度成長したとはいえ生後一ヶ月。未だに経験のあるゴブリンには肉体能力で負けるだろう、そのため狩で危ない場面になれば、確実に囮にされる。


 ゴブリンの中でも幼い僕はゴブリンにすら負けるのだ!


 フッ負けることにかけては我が最強よ。


 ちなみにゴブリンには子供は宝なんて暖かい考え方はない。


 むしろ、ぽこぽこ生まれてはバンバン死ぬのが当たり前のゴブリンの中では、生き残った個体の方が遥かに重要とされる。


 子供が群れの収容能力を超えて生まれるのだ。過剰供給され続けた商品がどうなるかは明白。市場価値が暴落し興味すら払われない。


 種の繁栄のために仕方ないとはいえ、弱者が軽く扱われるのは悲しいことだ。まあ、弱者からすればだが。


 おっと話が脱線してしまった。

 えー同年代を選ぶ理由だったかな。

 その中で最も重要なのは僕の指示に従うことだ。


 僕は自分が特別頭がいいとは思はないが、流石にゴブリンよりは賢いと自認している。


 よって、僕に従うのがシャクだという理由で僕に従わない諸先輩方よりも、接し方次第では僕に忠実になりうる同年代を選ぶ。(q.e.d)

 そんなことを考えている間に、僕ら世代の家が見えてきた。


 自己主張が激しくなさそうな同年代に目星はつかているが、候補の中なら正直、どれでもよかった。

 というより、選ぶのに迷う。

 どれにしようか…よし、ここは伝統的な決め方で行こう。


 どれにしようかな 天の神様《邪神》の言う通り


 よしっ、あれだな。

 声をかける奴を決めた僕は、誘い文句を考えながらゴブリンに近づいづいて行った。 


 僕の目線が自分に向いていることに気づいたゴブリンは怯えたように後ろに下がり慌ててどこかに走り去った。


 なぜだ。僕がお前に何をしたと言うのだ。


 呆気に取られた僕が逃げていくゴブリンを見送っていた間に他のゴブリンたちも一匹を除いて全て逃げていった。


 えぇ。なぜ?


 諦めて残った一匹に近づく。

 

「グギャグギャギーギャギャギャ(なあなあ君、期間限定の特別な割のいいお得な仕事が有るんだけど、興味ない?)」


 現代日本でこんな明からさまな言葉に引っかかる人がいるとは思えないが、相手はゴブリン。それもほとんど子供と変わらない、騙すことは造作もないだろう。


 多少悪いとは思う。具体的に言うと交差点を車でちょっと強引に右折した時ぐらいには。


「ギギャ?(自分か?)」


 柱にもたれかかっていたゴブリンが虚空へと彷徨わせていた視線を僕に合わせる。


 にやりと、歪みそうになる唇を抑えた。


 フハハッ引っ掛かったな!この場面での最適解は無視なんだよ!

 僕は下衆な事を考えながら、勧誘を続ける。


「そうそう君だよ君。やっぱり賢そうだと思ったよ流石だね。」


 悪い事にはならないだろうと思い、僕はそのゴブリンを持ち上げておいた。なんで持ち上げるか?高みから一気に叩き落とすためだよ。


「で、仕事の内容は?」


 ゴブリンの冷たい声に変化は見られなかった。あれ、効かない。いい気になると思ったのに。まあいいさ。


「まあまあ、そんなに焦らずに、ゆっくり話し合いましょうよ。取り敢えず、こんな所で話すのもなんだ。ちょっと外に出よう」


 僕の提案をゴブリンは素直に受け入れる。


「分かった、どこだ?」


 体感で一分と言った所か、準備段階から用意してきた人目に付きにくい、静かな木陰に到着した。ポン引きと違い警官を恐れる必要はないが念のためだ。

 適当に座ってくれよ、と僕が言うと、では、と言いながらゴブリンは木の根に腰掛ける。


 曖昧な僕の知識が教えてくれた。場所を変えさせたら勧誘の八割は成功している。


「で、仕事とは?」


 おもむろに話しを始め、会話の主導権を握ったゴブリンに瞠目しつつ返答する。


「簡単だよ僕と一緒に狩に行かないか?」


 出来るだけ間抜けのように、お人好しの馬鹿のように、そういった。


 我ながら惚れ惚れするような醜い真っ直ぐな瞳を浴びせる。


「なぜ一人で行かない?」


 予想通りの質問。答えも決まりきっている。


「闘いに自信がなくてね。ああ勿論道具は僕が作るし解体もする。獲物の分け前は3:7でどうだ?」


 無論そのまま渡すつもりはない。解体中にちょろまかす。


 ハハハッ騙された方が悪いのさと、誰にともなく言い訳をしつつ、僕は慎重に言葉を重ねる。


「ギギャギギャ(どうかな?悪くないと思うんだけど?)」


 クイズ大会レベルで返事は速かった。本当に、ゴブリンなのが勿体ない。


「ギギャ(悪いな、断る)」


 チッ、手間をかけさせる。僕は内心舌打ちしつつも、それを表に出さず、いかにも善良な良き理解者だというふうにもっともらしく頷く。


「ギギャギギャ(わかるよ、いきなりこんなこと言われても信じられないよね)」 


 同意して見せたのだ。人間よくわからないものには警戒感を示す。ゴブリンも同様だろう。


 肝心なのはいかに理解し、制御していると誤解させることだ。相手の不安をあえて口にするもの手の一つだ。


 自分の心配事が解消されると人は弱い。


「ギギャギギャギギャ(信用出来ん」


「ガーギギャギ(でも本当なんだ。現実を考えてみてくれ君ならわかるだろう?一匹で狩りができるゴブリンなんていないんだよ)」


 僕は礼拝堂で説教をする司祭のように真剣な表情で説いた。相手が納得できることを力強く断定的に言うこと。本当かもしれないという意識を抱かせるのだ。


「ガゲギギキャゲキャ(毒蛇を首に巻いて戦う趣味はない)」


 思わず口を開けてしまった。散々な言われようである。それはいい。想定内だ。記憶は定かでないがもっと直接的で下品なことを言われ慣れている。


 僕が驚いたのはゴブリンが比喩を使ったことだ。大袈裟と言うことなかれ。


 低級のゴブリンに例えるなどという知能はない。はっきり言ってこのゴブリンは異常なのだ。


 基本的に下級ゴブリンの話し方は単語主体だが、それに比べこいつはかなり流暢に話したのだ。まるで最初から知恵を持っていたかの様に。


 禁忌である沈黙を続けながらも、僕は彼女にそのことを聞くか逡巡していた。僕が彼女の話し方を指摘すれば僕も同じことを言われると覚悟すべきだ。


 邪神の使徒であることがどのような影響を持つのか把握するまでは迂闊な言動はできない。


「その目、嫌いだな」


 唐突すぎる言葉に僕は素で驚いてしまった。


「え?」


「お前の目だよ。値踏みするよで腹が立つ」


 ……そう言われてましてもねえ。交渉ごとをする時にはついつい出ちゃうものだからな。


 癖になってるんだ音殺して歩くの。


 じゃ、仕方ないプランBだ! 考えてないけど!


  侍にプランBはない。正面突破あるのみだ!


 僕突破される側だけど。


「ギャギーキギギャグギャギーギャギ」


 取り敢えず笑ってみた。

 余裕を見せる事は大切なのだ。魔王っぽい笑い方をしてみたかったからじゃない。ないったらない。


「ギギャギャギギャ(なんだ、いきなり)」


 何気に辛口な言い方である。若干引かれてる気がするが、日本人特有のスルー能力で流す。


「ギャギ(今回は諦めよう。次の機会が、有れば頼む。)」


「グキャ(ああ」


 出来ないことはやらないに限る。逃げちゃいけないなんて傲慢な強者の持論だ。暴論だ。だから気のない返事でも、僕の心は折れない。戦略的撤退をするだけ。


目的に突き進むのは実に簡単だ。目的を探すよりかはな。


 

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