(9)
「ここは」
「文芸部ですけど。入部希望ですか」
って、わたしのこたえを聞く前に、テレビがのってる机の引き出しから、A4の紙をとって、わたしに突きつけました。もらってしまいました。
「見学」
「まあ」
「わたし、副部長の福田です」
福田さんは親切に、週何回とか、作品をまとめた冊子はどれくらいのペースで出すとか、おしえてくれました。細い、ちいさい、みじかい、ええと、つまり、やせてて、身長は高くなくて、ワックスをつけた男子高校生みたいなショートカットの女の人でした。背中にツアーの日程が大阪、名古屋、東京、みたいにずらっと書かれてる黒いTシャツと、ジーンズで、この人こそ軽音っぽいなと思いました。
窓をはさんで、ゲームとテレビの机の正面、壁一面の本棚がありました。日本文学全集とか、カバーのない文庫本とか、まんがとか、ぼろぼろでしたけど、けっこう整理されてました。文芸部の説明を聞き流しながら、まわりをこっそり見てたんです。おかしなものはありませんでした。あ、でも」
「うん」
「ドラムコードっていうんですか、あの、赤い車輪みたいなのに、コードがまかれてる。あれが、福田さんの足もと、机の下につっこんであって、なににつかうんだろうとは思いました。文芸部と関係ないじゃないですか」
「まあね」
「それで、
「考えておきます」
って言って、福田さんの勧誘から逃げました。福田さんは、ゲームのつづきにもどったようです。
次の部室は、映画研究会でした。
のぞいた瞬間、
「こんにちは」
って、じっと目を見られました。
「こんにちは」
「なにか」
「ええと」
さっきと同じことを聞きました。
「聞こえた」
「え」
「悲鳴があって、どん、だか、ぼん、だか分からないけど、爆発みたいだと思った。それに、小走りの足音かな」
「行ってみましたか」
「いや」
「え。無視したんですか」
「無視したらまずかったの」
「いえ。別に」
「演劇部がよくテーブルをかこんで、台本の読みあわせしてるから。お盆休みにやることはないと思ったし、ずいぶん熱が入ってるとも感じたけど、興奮して壁をたたいて、足を踏み鳴らして演技してるんだと」
「ああ」
「なんか、あったの」
「ご迷惑じゃなかったか、ってだけで」
「演劇部」
「あ、はい」
「新館のほうで練習すればいいじゃない。こっちの文サとちがって、立派な部室があるんだから。なんか、待ち合わせ場所にするし。今度から、そうして」
「はあ」
「一年生」
「はい」
「じゃあ、あなたを責めてもしかたないけど」
「やっぱり、同時に練習しようとすると、せまくなっちゃうんじゃないですかね」
「だろうね。まあ、分かるよ。高校のころ、やってたから」
その人は、今村さんって名前で、パソコンにむかって映画の編集をしてたようです。左すみの窓にくっつけた机で作業中で、ちょうどひと息ついて、いすをぐるっとまわして、背もたれにひじをかけて、ペットボトルの麦茶を飲んでたんです。
がっしりした、まあ、ちょっとふとった、まるいメガネの、袖とかがすりきれたパーカーの、カメラマンだそうです。
で、変なものが」
「あったの」