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先生の授業  作者: 川光俊哉
9/19

(9)

「ここは」

「文芸部ですけど。入部希望ですか」

 って、わたしのこたえを聞く前に、テレビがのってる机の引き出しから、A4の紙をとって、わたしに突きつけました。もらってしまいました。

「見学」

「まあ」

「わたし、副部長の福田です」

 福田さんは親切に、週何回とか、作品をまとめた冊子はどれくらいのペースで出すとか、おしえてくれました。細い、ちいさい、みじかい、ええと、つまり、やせてて、身長は高くなくて、ワックスをつけた男子高校生みたいなショートカットの女の人でした。背中にツアーの日程が大阪、名古屋、東京、みたいにずらっと書かれてる黒いTシャツと、ジーンズで、この人こそ軽音っぽいなと思いました。

 窓をはさんで、ゲームとテレビの机の正面、壁一面の本棚がありました。日本文学全集とか、カバーのない文庫本とか、まんがとか、ぼろぼろでしたけど、けっこう整理されてました。文芸部の説明を聞き流しながら、まわりをこっそり見てたんです。おかしなものはありませんでした。あ、でも」

「うん」

「ドラムコードっていうんですか、あの、赤い車輪みたいなのに、コードがまかれてる。あれが、福田さんの足もと、机の下につっこんであって、なににつかうんだろうとは思いました。文芸部と関係ないじゃないですか」

「まあね」

「それで、

「考えておきます」

 って言って、福田さんの勧誘から逃げました。福田さんは、ゲームのつづきにもどったようです。

 次の部室は、映画研究会でした。

 のぞいた瞬間、

「こんにちは」

 って、じっと目を見られました。

「こんにちは」

「なにか」

「ええと」

 さっきと同じことを聞きました。

「聞こえた」

「え」

「悲鳴があって、どん、だか、ぼん、だか分からないけど、爆発みたいだと思った。それに、小走りの足音かな」

「行ってみましたか」

「いや」

「え。無視したんですか」

「無視したらまずかったの」

「いえ。別に」

「演劇部がよくテーブルをかこんで、台本の読みあわせしてるから。お盆休みにやることはないと思ったし、ずいぶん熱が入ってるとも感じたけど、興奮して壁をたたいて、足を踏み鳴らして演技してるんだと」

「ああ」

「なんか、あったの」

「ご迷惑じゃなかったか、ってだけで」

「演劇部」

「あ、はい」

「新館のほうで練習すればいいじゃない。こっちの文サとちがって、立派な部室があるんだから。なんか、待ち合わせ場所にするし。今度から、そうして」

「はあ」

「一年生」

「はい」

「じゃあ、あなたを責めてもしかたないけど」

「やっぱり、同時に練習しようとすると、せまくなっちゃうんじゃないですかね」

「だろうね。まあ、分かるよ。高校のころ、やってたから」

 その人は、今村さんって名前で、パソコンにむかって映画の編集をしてたようです。左すみの窓にくっつけた机で作業中で、ちょうどひと息ついて、いすをぐるっとまわして、背もたれにひじをかけて、ペットボトルの麦茶を飲んでたんです。

 がっしりした、まあ、ちょっとふとった、まるいメガネの、袖とかがすりきれたパーカーの、カメラマンだそうです。

 で、変なものが」

「あったの」

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